チキラボLGBTQなど性的マイノリティのメンタルヘルスについての調査/同性婚の影響に関する先行研究調査日本人の「外国人受け入れ意識」に関する調査報告書「宗教2世」報道量・報道内容調査 『宗教2世』当事者1,131人への実態調査 「女性政治家」「女性候補者」が増えることの社会的影響に関する調査報告「いいね」に関する調査と、伊藤詩織さんの諸アクションに対するリアクションの推移調査PDF魚拓


① メンタルヘルス調査について
・チキラボが行った 2022 年 11 月調査と、2023 年 4 月調査を通じて、性的マイノリティ当
事者を自認する人のメンタルヘルスを計測。その結果、性的マイノリティ当事者は、非当事
者と比べて著しく悪いことがわかった。
・抑うつ・不安が中程度以上の人の割合は、非当事者がそれぞれ、13.8%、17%だったのに
対し、当事者はいずれも 42.9%と、2 倍以上の割合であることがわかった。また、孤独感が
高く、人生満足度が低く、主観的健康が悪かった。
・性的マイノリティ当事者と非当事者とでは、学歴は変わらない一方で、世帯収入などは性
的マイノリティの方が低かった。結婚率は、非当事者が 55.9%であるのに対し、当事者は
19.0%と、3分の1程度であった。
※性的マイノリティ当事者にはバイセクシュアルやトランスジェンダーなどグラデーショ
ンがあり、婚姻制度を利用可能な当事者もいる。
※「世帯収入」は、就労に関する差別による可能性もあるが、結婚制度が利用できないこと
による、世帯当たりの稼得労働者数が少ないことによる可能性もある。
先行研究では、性的マイノリティ当事者のメンタルヘルスが悪いことがたびたび指摘され
てきたが、本調査でも追認される形となった。
②性的マイノリティ支援の政策支持率調査について
・社会調査支援機構チキラボは、2023 年 4 月調査の中で、ウェブモニター企業の登録者を
対象に、同性愛支援策についての世論調査を実施。
・回答者 1000 人中、「性的マイノリティの家族がいる」について「当てはまる」「やや当て
はまる」と回答した人は 18 人(1.8%)、「性的マイノリティの友人がいる」については 39
人(3.9%)、「性的マイノリティの登場するマンガ、ドラマ、映画などを見たことがある」
については 103 人(10.3%)だった。
→多くの人は、当事者との「(自覚的な)直接接触」ではなく、「間接接触」によって性的マ
イノリティイメージを形成しているといえる
・「同性婚」「同性パートナーシップ条例」「性的マイノリティ差別禁止の法律」「性的マイノ
リティへの基礎知識の啓発」「性的マイノリティの暮らしやすい社会づくり」についての賛
否を尋ねた。
・「性的マイノリティの暮らしやすい社会づくり」については、賛成が 46%、反対が 11%
と、賛成が4倍近くの割合となった。
・そのうえで、「同性婚」「同性パートナーシップ条例」「差別禁止の法律」については 40%以上の人が、「基礎知識の啓発」についても約40%が、「賛成」「やや賛成」と答えていた。

・いずれの項目でも「反対」「やや反対」は合わせて20%程度だった。すなわち、「賛成」は

「反対」の2倍程度であった。

・4つの政策のうち、僅差だが、賛成率が最も高かったのは「同性婚」であった。賛成率が

最も低かったのは「基礎知識の啓発」であった。

・性的マイノリティの友人がいる人ほど、各政策への賛成率が高まった。

・性的マイノリティが登場する漫画やドラマを見る人ほど、各政策に対する「賛成」が多く、

「どちらともいえない」「反対」が少なくなった。(メデイア論、社会心理学における「間接

接触効果」の可能性が示唆された)

③先行研究について

・社会調査支援機構チキラボは、同性婚の導入によってもたらされた社会的影響について書

かれた学術論文を収集。そのレビュー(総説)を行った。

・同性婚の導入は、当事者のメンタルヘルスを大きく改善し、医療へのアクセスを高めつつ、

精神科受診費を下げていた。他方で同性婚を禁止することは、当事者の医療回避を助長する

ことが指摘されていた。

・同性婚の導入は、自殺リスクの減少をもたらしていた。同性婚を導入した州や地域では、

当事者の自殺率が14%減少し、非当事者が7%減少した。その間、同性婚が反対されている

州では、自殺率の変化が起きなかった。

・同性婚を認めることは、同性愛者などの婚姻を増加させた。その一方で、異性愛者の婚姻

率に影響を与えなかった。すなわち、結婚の平等は、異性間の結婚に特段の抑止をもたらさ

なかった。

・同性婚の法律化は、同性婚に対するバイアスが減少したが、(他の州などで進んでいるの

に)法制化されなかった場合は、むしろ同性婚へのバイアスが増加していた。

・同性婚は、同性者間の関係の安定性を高めつつ、身体的な健康の増進につながった。

・同性カップルと同居する子供は、生物学的関係や親の性別に関わらず、子どもの健康やウ

ェルビーイング(幸福度)と有意な関連がなかった。すなわち、異性カップルの親と同居し

ようが、同性カップルの親と同居しようが、健康やウェルビーイングに差がなかった。

・一方で、親の収入、地域、安定した親との関係は、子どもの健康とウェルビーイングと関

連している。性的マイノリティへの就職差別などが存在すれば、労働市場からの排除を経由

して、不安定化することはありうる。

・同性カップルの親と同居する子どもの学業成績は、異性カップルの親と同居するカップル

と同程度であった。【まとめ】

現代の日本において、「性的マイノリティ」当事者は、さまざまな健康不安を余儀なくされ

ています。他方で同性婚をはじめとした各種政策は、当事者・非当事者のメンタルヘルスを

改善する効果が確認されてきました。逆に、当事者支援が議題にあがっているにもかかわら

ず、それを拒むという態度は、偏見や「分断」を強調することになっていました。

医療、福祉、健康、人権、労働、さまざまな観点から見ても、早急な法整備が求められる

と言えるでしょう。

※本調査の限界としては、当事者サンプルの少なさにより、性的指向やジェンダーアイデ

ンティティなどによる当事者間比較が行えないことでした。チキラボでは今後、スクリーニ

ング調査を含めた、さらなる調査を検討していきます。

チキラボ性的マイノリティ調査概要.pdf


Dinno, A., & Whitney, C. (2013). Same sex marriage and the perceived assault on opposite

sex marriage.

PLoS One,

8(6), e65730. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0065730

(2)同性婚に対する偏見の減少

(Ofosu et al., 2019)

目的:同性婚の法律化が、反同性婚の偏見の減少に関連するかどうかを検証した。

結論:反同性婚のバイアスは、合法化後により急激に減少した。この減少率は、州が地元で

法案を可決したかどうかに影響した。つまり、法制化された州では、法制化後のバイアスの

減少が大きかったが、法制化されなかった州では、連邦法制化後に反同性婚のバイアスの増

加が見られた。

引用文献:

Ofosu, E. K., Chambers, M. K., Chen, J. M., & Hehman, E. (2019). Same-sex marriage

legalization associated with reduced implicit and explicit antigay bias.

Proceedings of the

National Academy of Sciences of the United States of America,

116(18), 8846-8851.

https://doi.org/10.1073/pnas.1806000116

(3)(同性婚を認められない場合の)メンタルヘルス

(Manning et al., 2016)

目的:同性カップルと異性カップルの安定性について、「不完全な制度化、マイノリティス

トレス、カップルホモガミー(同性カップルは安定性が低いという予測)、経済的資源(同

性カップルはより安定的という予測)」の観点から導かれる仮説を検証した。

結論:同性婚を憲法で禁止している州に住んでいる場合、同性・異性の同棲カップルの不安

定度がより高いことと有意に関連することがわかった。

引用文献:

Manning, W. D., Brown, S. L., & Stykes, J. B. (2016). Same-Sex and Different-SexCohabiting

Couple Relationship Stability.

Demography,

53(4), 937-953.

https://doi.org/10.1007/s13524-016-0490-x

3.同性愛者への影響-------------------------------------------------------------------------

(1)メンタルヘルス

(2)健康について(1)メンタルへルス

◆概要-----------------------------------------------------------------------------------------------

Teo(2022)は英国において、Chen(2022)はオランダにおいて、同性婚の導入が性的少数

者のメンタルヘルスの改善につながる可能性が高いことを述べた。Drabble(2022)は、特に

女性の性的少数者のメンタルヘルスについて述べ、同性婚に肯定的な地域や家族がいる場

合はうつ病との関連性が低くなったと述べた。さらに、LeBlanc(2018)は、同性婚の法的婚

姻関係がある場合はない場合に比べて、メンタルヘルスが良好であることを述べた。

—----------------------------------------------------------------------------------------------------

(Teo et al., 2022a)

目的:英国における同性婚の導入(2013-14 年)が性的少数者のメンタルヘルス機能に及ぼ

す影響を調査し、家族のサポートの低さが LGB 個人の同性婚のポジティブな効果を阻害す

る可能性があるかどうかを検討する。

結論:同性婚が LGB のメンタルヘルス機能を改善する可能性が高いという証拠を提供した。

家族のサポートが低い男性の性的マイノリティは最も恩恵を受けなかったため、メンタル

ヘルス格差の是正のためには、このグループに対する家族のサポートと受容を改善するこ

とを目的とした追加介入が必要である。

引用文献:

Teo, C., Metheny, N., & Chum, A. (2022). Family support modifies the effect of changes to

same-sex marriage legislation on LGB mental health: evidence from a UK cohort study.

European journal of public health,

32(1), 35-40. https://doi.org/10.1093/eurpub/ckab139

(Chen & van Ours, 2022)

目的:オランダにおける同性婚合法化が性的少数者の精神衛生にどのような影響を与えた

かを検証する。

方法:異性愛者を参照群とした差分分析

結論:同性婚の合法化は性的少数者のメンタルヘルスを有意に改善し、メンタルヘルスの性

的指向ギャップを大幅に減少させることがわかった。この有益な効果は、既婚・非既婚の性

的少数者の双方に存在した。

引用文献:

Chen, S., & van Ours, J. C. (2022). Mental health effects of same-sex marriage legalization.

Health economics,

31(1), 42-56. https://doi.org/10.1002/hec.4441

(Drabble et al., 2022)

目的:性的マイノリティーの女性の同性婚合法化に対する認識が、1)人口統計学的特徴によって異なること、2)アルコール依存症、うつ病、自己認識健康になる可能性を検討した。

結論:1)合法化に対する認識について、交際状況や性的アイデンティティによって異なり、

家族支援のみや人種/民族によって差があった。2)同性婚を支持する家族の数が多い、地

域の社会風土がよりポジティブであると報告した性的マイノリティーの女性の参加者では、

うつ病のオッズが低かった。

引用文献:

Drabble, L. A., Mericle, A. A., Munroe, C., Wootton, A. R., Trocki, K. F., & Hughes, T.

L.(2022). Examining perceived effects of same-sex marriage legalization among sexual

minority women: Identifying demographic differences and factors related to alcohol use

disorder, depression, and self-perceived health.

Sexuality research & social policy : journal of

NSRC : SR & SP,

19(3), 1285-1299. https://doi.org/10.1007/s13178-021-00639-x

(LeBlanc et al., 2018)

目的:不公正な関係の認知が同性カップルのメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすか

検証する。

結論:法的婚姻関係にあることは、不平等な関係の認知が低く、メンタルヘルスが良好であ

ることと関連し、法的婚姻関係にないドメスティックパートナーシップなどに登録されて

いることは、不平等な関係の認知が高く、メンタルヘルスが悪いことと関連した。

引用文献:

LeBlanc, A. J., Frost, D. M., & Bowen, K. (2018). Legal Marriage, Unequal Recognition, and

Mental Health among Same-Sex Couples.

Journal of marriage and the family,

80(2), 397-408.

https://doi.org/10.1111/jomf.12460

(2)健康について

◆概要-----------------------------------------------------------------------------------------------

King(2006)は、同性間の関係を法的・社会的に承認することで、性的マイノリティーの

人々の身体的・精神的健康の増進につながる可能性を述べた。Kail(2015)も、法的に結婚が

認められている州に住む同性カップルは、認められていないカップルと比較し、より高いレ

ベルの自己評価による健康状態を報告した。Kealy(2015)は、LGBT は一般集団と比較して

健康上の負のストレス要因や出来事に直面している。そのため、結婚の平等が健康上の改善

に関係するという証拠を示した。

—----------------------------------------------------------------------------------------------------

(King, 2006)

結論:同性間の関係を法的・社会的に承認することで、差別を減らし、同性間の関係の安定性を高め、ゲイやレズビアンの人々の身体的・精神的健康の増進につながる可能性があると

主張している。

引用文献:

M, K., & A, B. (2006). What same sex civil partnerships may mean for health.

Journal of

epidemiology

and

community

health,

60(3), 188-191.

https://doi.org/doi:10.1136/jech.2005.040410

(Kail et al., 2015)

目的:反同性婚の憲法改正がある州と比較して、法的に結婚が認められている州に住む同性

カップルは、より高いレベルの自己評価による健康状態を報告することを示した。

結論:結婚による同性関係の完全な法的承認が、同性カップルの健康を改善するための重要

な法的・政策的戦略である可能性を示唆するものである。

引用文献:

Kail, B. L., Acosta, K. L., & Wright, E. R. (2015). State-level marriage equality and the health

of same-sex couples.

Am J Public Health,

105(6), 1101-1105.

https://doi.org/10.2105/ajph.2015.302589

(Kealy, 2015)

目的:ニュージーランドとオーストラリアにおける結婚の平等について検討し、このような

法改正が健康に与える影響を評価すること

結論:LGBT は一般集団と比較して健康上のストレス要因や出来事に直面している。 一方、

結婚の平等が健康上の改善に関係するという命題を強く支持する証拠がある。多様な専門

家は、結婚の平等への法制化を提唱している。また、結婚の平等が異性間の結婚に害を及ぼ

すという証拠も発見しなかった。

引用文献:

W, K.-B., & L, P. (2015). Marriage equality is a mental health issue.

Australasian psychiatry :

bulletin of Royal Australian and New Zealand College of Psychiatrists,

23(5), 540-543.

https://doi.org/doi:10.1177/1039856215592318

4.周囲への影響-----------------------------------------------------------------------------

(1)社会全体

(2)家族

(3)子供

(1)社会全体◆概要---------------------------------------------------------------------------------------------

Drabble(2021)は、 同性婚が当事者を含め、当事者の家族や友人を含めた対人関係や性的

少数者のコミュ二ティに心理的・社会的にポジティブな影響を与えることを述べた。

Borelli(2022)は米国において、同性婚の合法化が認められてから、過去 20 年間で、同性結

婚に対する一般の支持は劇的に増加してることを述べた。ただ、同性婚が社会に与える影響

についての意見は、年齢、教育、さらには政党や宗教によって大きく異なることをまとめて

いる。

—----------------------------------------------------------------------------------------------------

(Drabble, 2021)

目的:1)性的マイノリティの成人やその周囲の人々において平等な結婚の権利の心理社会

的影響を特定すること、2)性的マイノリティの女性の平等な結婚の権利に対する認識と心

理社会的影響が性別によって異なるかどうかを探る

方法:2000 年から 2019 年までの査読付き英文出版物をレビュー。6 つのデータベース

(PubMed、PsycINFO、CINAHL、Web of Science、JSTOR、Sociological Abstracts)を検

索した。

結論:1)当事者、対人関係(家族など)、コミュニティ(性的少数者)、より広い社会の各

レベルにおいて、同性婚が心理社会的にポジティブな影響を与えることが分かった。さら

に、社会的受容の増加、スティグマの減少も確認された。 2)同性婚の影響は性的マイノリ

ティの女性と男性で違いがあることが指摘されるが、これについてはさらなる研究が必要

である。

引用文献:

Drabble , L. a. (2021). Perceived Psychosocial Impacts of Legalized Same-Sex Marriage: A

Scoping Review of Sexual Minority Adults ’ Experiences.

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0249125

(Borelli, 2022)

アメリカにおいて、同性婚の合法化が認められてから、過去 20 年間で、同性結婚に対する

一般の支持は劇的に増加してることを述べた。同性婚が社会に与える影響についての意見

は、年齢、教育、さらには政党や宗教によって大きく異なることをまとめている。 18 歳〜

29 歳の若者や学士号以上の学歴を持つ人が支持が高い傾向がある。

引用文献:

Borelli, gabriel. (2022). About Six-in-Ten Americans Say Legalization of Same-Sex Marriage

Is Good for Society. https://www.pewresearch.org/short-reads/2022/11/15/about-six-in-

ten-americans-say-legalization-of-same-sex-marriage-is-good-for-society/(2)家族

◆概要---------------------------------------------------------------------------------------------

Teo(2022)は英国において、同性婚の導入と家族支援が当事者にどのような影響を与えて

いるかを調査した。同性婚の法律変更に伴い、家族からの支援があった場合にのみメンタル

ヘルスが改善した。家族支援がなかった場合はその改善が見られなかった。

Chang(2022)らも台湾において、同性婚に対する家族の態度が性的マイノリティの男性の

メンタルに対してどのような影響を与えているかを調査した。家族が否定的な態度をもつ

場合、より高いストレスを抱える一方、肯定的な態度を持つ場合はストレスは軽減する傾向

があった。

同性婚に対する家族の支援や理解は、LGBT のメンタルヘルスに対して影響力がある。

—----------------------------------------------------------------------------------------------------

(Teo et al., 2022b)

目的:英国における同性婚の導入(2013-14 年)とそれに対する家族支援が性的マイノリテ

ィのメンタルヘルス機能に及ぼす影響を調査する。

方法:同性婚の導入前と導入後の LGB 参加者を対象とした。

結論:同性婚の法律変更に伴い、LGB の自己報告されたメンタルヘルスに改善が見られた。

しかし、この効果は家族からの支援があった場合に限定され、家族からの支援がなかった場

合には、メンタルヘルスに改善が見られなかった。つまり、家族からの支援が LGB のメン

タルヘルスに与える影響が非常に重要であることを示す。

引用文献:

Teo, C., Metheny, N., & Chum, A. (2022b). Family support modifies the effect of changes to

same-sex marriage legislation on LGB mental health: evidence from a UK cohort study.

Eur J

Public Health,

32(1), 35-40. https://doi.org/10.1093/eurpub/ckab139

(Chang, 2022)

目的:家族や周囲の人々が同性婚に対して持つ態度が、台湾の性的マイノリティの男性のス

トレス要因となる可能性があるかどうかを検討すること

結論:家族や周囲の人々が同性婚に対して否定的な態度を持っている場合、性的マイノリテ

ィの男性はより高いストレスレベルを経験した。一方、同性婚に対して肯定的な態度を持っ

ている家族や周囲の人々がいる場合、ストレスレベルは低くなる傾向があった。同性婚に対

して肯定的な態度を持つ人々が周囲に存在することは、ストレスの軽減に役立つことが示

唆された。

引用文献:

Chang, C. (2022). Perceived Attitudes of Family and Peers toward Same-Sex Marriage as a

Distal Sexual Minority Stressor for Gay and Bisexual Men in Taiwan.

BMC Public Health.https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-022-14604-9

(3)子どもへの影響

◆概要-----------------------------------------------------------------------------------------------

Manning(2015)は、同性親家庭で育った子どもの幸福に関する文献のレビュー論文を発

表した。子どもの幸福度や子どもの成績に悪影響を及ぼすという研究の科学的根拠を否定

したうえで、「学力、認知発達、社会的発達、心理的健康、早期の性的活動、薬物乱用」な

ど、子どもの幸福に関する幅広い指標において、同性の親家庭で育った子どもは、異性の親

家庭で育った子どもと同じようにうまくいくことを明らかにした。

Mazrekaj(2020)は、オランダにおいて、同性の親に生まれたときから育てられた子ども

は、異性の親に育てられた子どもよりも、初等教育、中等教育ともに良い成績を収めること

示した。Watkins(2018)も、異性婚カップルと同性カップルの子どもの成績留年率を比較し、

差がないことを示した。

Perrin(2013)は、子どもの幸福は、両親の性別や性的指向よりも、両親との関係や安心感、

家族への社会的・経済的支援の有無に大きく影響される、ということを示されている。同性

カップルが結婚する機会の欠如は、世帯員全員の健康と福祉にストレスなどの影響を与え

ることを指摘する。Crouch(2016)も、同性親家庭の生物学的関係、親の性別、親の学歴は、

その子どもの健康やウェルビーイングと有意な関連はなかったことを示した。

—----------------------------------------------------------------------------------------------------

(Watkins,2018)

目的:同性カップルと同居する子ども 4,430 人の大規模サンプルについて、学校進度の全国

代表分析を実施し、異性婚カップルと同性カップルの子どもを比較した。

結論:家族構成が似ている子どもを異性婚夫婦と同性婚夫婦で比較した回帰分析の限界効

果は、同性婚夫婦の子どもの方が成績留年率が有意に高いことを予測できなかった。

引用文献:

Watkins, C. s. (2018).

School Progress Among Children of Same-Sex Couples.

https://doi.org/10.1007/s13524-018-0678-3

(Crouch et al., 2016)

目的:オーストラリアの同性親家庭において、家族構成と社会人口統計学的特性が子どもの

健康とウェルビーイングに与える影響を明らかにすることである。

方法:2012 年 5 月から 12 月にかけて、オーストラリア全土において、同性愛者の親を対

象とした横断的な調査により、子どもの健康とウェルビーイングに関する情報を収集した。

結論:同性親家庭では、生物学的関係、親の性別、親の学歴は、子どもの健康やウェルビーイングと有意な関連はなかった。一方で、親の収入、地域、安定した親との関係は子どもの

健康とウェルビーイングと関連していた。同性親家庭の子どもにとって、安定した二重親家

庭は良い結果をもたらし、家族のプロセスが最も重要であることを主張する。

引用文献:

Crouch, S. R., McNair, R., & Waters, E. (2016). Impact of family structure and socio-

demographic characteristics on child health and wellbeing in same-sex parent families: A

cross-sectional survey.

Journal of paediatrics and child health,

52(5), 499-505.

https://doi.org/10.1111/jpc.13171

(Manning, 2015)

目的:同性親家庭で育った子どもの幸福に関する文献のレビュー論文

方法:過去 10 年以内に出版された研究、レビュー、書籍に焦点を当て、文献の評価を行う

結論:同性の親世帯で暮らすアメリカの子どもたちは、学業成績、認知発達、社会的発達、

心理的健康、早期性行動、薬物乱用といったさまざまな幸福指標において、異性の親世帯で

暮らす子どもたちと同様に良好であるという明確な合意が存在することを結論付ける。子

どもの幸福に存在する差は、社会経済的環境と家族の安定性によるところが大きい。

引用文献:

Manning, W. d. (2014).

Child Well-Being in Same-Sex Parent Families: Review of Research

Prepared for American Sociological Association Amicus Brief.

https://doi.org/10.1007/s11113-014-9329-6

(Perrin, 2013)

結論:30 年以上にわたる膨大な研究データから、ゲイやレズビアンの親に育てられた子ど

もたちは、経済的・法的格差や社会的スティグマにもかかわらず、社会的・心理的・性的健

康に関して回復力を発揮していることが明らかになっている。そして、多くの研究が、子ど

もの幸福は、両親の性別や性的指向よりも、両親との関係や安心感、家族への社会的・経済

的支援の有無に大きく影響される、ということを示されている。一方、同性カップルが結婚

する機会の欠如により、家族のストレスに拍車をかけ、世帯員全員の健康と福祉に影響す

る。

引用文献:

Perrin, E. c. (2013). Promoting the Well-Being of Children Whose Parents Are Gay or

Lesbian. https://doi.org/10.1542/peds.2013-0377

(Mazrekaj, 2020)

目的:同性の親に育てられた場合の子どもについて大規模なサンプルを用いて追跡する。方法:オランダの行政縦断データを用いる。これらのデータには、同性の親を持つ子ども

2,971 人(レズビアンカップル 2,786 人、ゲイ男性カップル 185 人)と、生まれたときから

追跡調査した異性の親を持つ 100 万人以上の子どもたちを含む。

結果:同性の親に生まれたときから育てられた子どもは、異性の親に育てられた子どもより

も、初等教育、中等教育ともに良い成績を収めることが判明した。

引用文献:

Mazrekaj, D. (2020).

School Outcomes of Children Raised by Same-Sex Parents: Evidence

from Administrative Panel Data. https://doi.org/10.1177/0003122420957249

5.その他----------------------------------------------------------------------------------------

(1)家族規範の影響

(2)性行動リスク

(1)家族規範の影響

(Trandafir, 2015)

目的:同性婚や代替制度の法的承認が異性婚、離婚、婚外子出生に及ぼす影響を検証する。

方法:OECD 加盟国に限定し、1980 年から 2009 年までの期間のデータを使用。

結論:同性婚や同性パートナーシップの法的認知が、結婚制度や家族形成に大きな負の影響

を与えるものではなく、むしろ家族形成を促進する可能性があることを示した。

引用文献:

Trandafir, M. (2015).

Legal Recognition of Same-Sex Couples and Family Formation.

https://doi.org/10.1007/s13524-014-0361-2

(2)性行動リスク(性的健康、性的問題など)

同性婚の合法化が性的健康や性的問題に対して明確に負の影響を与えるという研究は現時

点では見つからなかった。むしろ、実際に、同性愛者が法的に結婚できるようになった国々

では、性感染症の発生率が減少したというデータもある。

「医療機関における影響」の項目でも述べているが、Hatzenbuehler(2012)は、同性婚の法

制化により、健康保険の適用範囲が拡大され、性的マイノリティーの男性が医療機関にアク

セスしやすくなったことを述べている。さらに、性感染症だけでなく精神疾患(抑うつ、不

安障害など)の受診も減少したことを示した。

重要なのは、この結果は、パートナー関係にある性的マイノリティの男性に限定されていな

いことである。同性婚の合法化は幅広い公衆衛生にも影響を与える可能性があることを示

している。

引用文献:Hatzenbuehler , M. l. (2012).

Effect of Same-Sex Marriage Laws on Health Care Use and

Expenditures in Sexual Minority Men: A Quasi-Natural Experiment.

https://ajph.aphapublications.org/doi/full/10.2105/AJPH.2011.300382

(社会調査支援機構チキラボ)

同性婚をめぐる海外研究.pdf
2023 年 5 月 23 日
「同性婚」の導入をめぐる、海外先行研究のまとめ
社会調査支援機構チキラボ



【別紙 3-5、3-6自由記述意見の抜粋】
3-5 柳瀬氏説明から導かれる年間1000件の処理について:
【答】・書面審理のみ、あるいは入管当局からの口頭説明のみで、不認定の決定をしたのだ
と思われる。
・殆ど記録を読んでいない。もしくは調査官が作成した「事案概要」に記載されてい
る事実及び意見に従って判断しているのではないかと思われる。通常ではあり得な

・通常の審査業務であればないと思う。
・信じられない。通常の事件ならあり得ない件数と思う。
・記録を精査しているのかはなはだ疑問である。
・書面審理班があるので、そこに入ればありうるかと思う。
・絶対にありえない件数です。口頭意見陳述及び評議は、1期日13時30分から1
5時30分から16時くらいまでかかっています。評議を含めれば1期日1件の処
理しかできません。・・(中略)・・意見書自体にも時間をかけています。
・口頭意見陳述を実施していれば、月2期日×2件=4年(年間48件)が限度だと
思います。「・・(中略)・・実質的主張のないケースで書面審理ばかりとしても、年間
1000件を処理できるというのは想像がつきません。仮に、そのような割り当て
をされてそのような処理をしているとしたら、かなり偏った参与員だと思いますの
で、そういう方の意見を参与員の意見として採り上げるのはいかがなものかと思い
ます。
・審査の開催日数が同程度とすれば、全件書面審理だったとしても考えられない件数。
・適正手続きを果たすとの観点からすれば、明らかに不可能な件数です。仮に、口頭
意見陳述が不開催であった場合でも、記録検討や評議・意見書検討の時間を考える
と、十分な職責を果たしていたとは思われず非常に驚いています。
・明白に難民該当性がない事案で口頭意見陳述が放棄されている事案だけを担当して
いれば可能性は0ではないとは思いますが、私には年間1000件の処理はできな
いと考えます。
・年間を通してフルタイムで稼働し、個別の事情を考慮せずに、思考停止して作業に
当たれば、物理的には可能かもしれません。しかし、物理的に可能であったとして
も、適切な審査ができるとは到底考えられず、制度としても、特定の参与員に集中
して事件を割り振ることが不当であることは言うまでもないと思います。
7
3-6 その他の意見について:
【答】・審査請求しながら口頭意見陳述放棄する人の件数が多いのに意外な感を持っている。「
強制とか偽計にわたることで放棄させているのならよくないと思う。
・現行の処分庁招集制度は、殆ど意味がない。どんな質問をしても、紋切り型で、再
質問しても、「さっきの通り」の繰り返し。他の行政事件のように、対立型にして、
処分庁からは処分理由についての意見を提出させるべきである。
・処分庁招集は実効性がない。イエスかノーかの質問にすら処分庁は回答しない。
・処分庁招集の際、質問に対し予め用意した原稿をそのまま読んで答えるのみで誠に
非生産的である。
・「(前略)・・口頭意見陳述は、事案がどうあれ、印象・インパクトが違いますので、
実施を拒否することはありません・・(中略)・・処分庁招集は、機能していないこ
とは間違いなく、そもそも招集に出頭する入管職員は判断をした者ではなく、来庁
しても「原処分の記載のとおり」「○○を述べるのは、今後の難民審査に影響を及ぼ
す」というシナリオしかいえないものであり「・・(中略)・・参与員の立場としては、
原決定に引きずられず、事実認定、難民該当性は、独自の立場で行っていますので、
むしろ、質問をしたいところです。
・事件配点については他の班のことがわからないためコメント不可。口頭意見陳述は、
私の班は全件リアルで行うことにしている。書面審査のみオンライン。
・原処分庁招集は、回答があまりにも不誠実で意味をなさない。改善を求めていかな
いと画餅になってしまうおそれがあると感じている。
・審査請求案件の全体状況や各班での状況などについては、参与員にも明らかにされ
ていません。参与員制度を更に実質化させるためには、少なくとも参与員には、そ
うした状況について明らかにし、審査請求手続きが適正になされるよう努めるべき
です。
以上

1. 全難連_調査報告書_230515.pdf


これらをカウントしたのが、図の通りである。なお、⼀つの番組内でも、複数のコーナー

に登場していた場合は、その都度のカウントとなる。

<図3>旧統⼀教会関連報道の登場⼈物ランキング

※対象期間中に、テレビに登場した⼈物など(単位:コーナー数)

図3を⾒ればわかるように、この時期の報道は、主に「政治家」と「宗教関係者」につい

てフォーカスした VTR やパネルが⾼頻度で紹介されている。それに対し、レギュラーコメ

ンテーターや専⾨家がコメントするというかっこうになっている。

特に⾼い頻度で出演していた専⾨家は、紀藤正樹⽒、鈴⽊エイト⽒、多⽥⽂明⽒、有⽥芳

⽣⽒、櫻井義秀⽒、⼭⼝広⽒らであった。そのほかは、それぞれの番組のレギュラーコメン

テーターなどとして出演し続けてきた⼈物の登場回数が多かった。

出演などとは異なるが、「資料提供」に着⽬をしてデータ集計も⾏ってみた。すると、鈴

⽊エイト⽒が提供した資料が紹介されたコーナーが 146、全国霊感商法対策弁護⼠連絡会が

提供した資料を紹介したコーナーが 45 あることがわかった。資料は、議題設定のための重

要な役割を担う。⻑年、この問題に取り組んできた弁護⼠やジャーナリストが、メディアの

議題設定を⼤きくリードしてきたことが読み取れる。

最も⾔及されたのは、安倍晋三⽒であった。これは、メディアイベントの発起点となった

ことを考えれば、当然と⾔えるだろう。また、⼭上容疑者、そして教団リーダーも、被⾔及回数が多かった。

そのほかは、旧統⼀教会との関係が問われたり、説明責任を求められた政治家が、VTR や

パネルなどに使⽤される頻度が⾼かった。追求に対して政治家が説明を避けたり、説明が⼆

転三転すると、さらに報道頻度は増えていったように思える。

テレビ全体として⾒れば、「政治と旧統⼀教会との関係」への追求に、多くの時間が⽤い

られていた。その報道は、量の⾯でみれば、ワイドショーが圧倒していた。ただし、霊感商

法問題に取り組む弁護⼠らが、コメントや資料提供で⽬⽴っていたように、この度のメディ

アイベント全体を、「政治スキャンダル」の消費であったというまとめはできない。そこで

は、事件や政治家の振る舞いをきっかけとしつつも、過剰な献⾦やカルト対策といった、法

律の改善や社会的な救済といった、「出⼝」を模索するという議論が⾏われていたと⾒てい

いだろう。

統⼀協会テレビ報道、各社の違い

さて、ワイドショーをはじめ多くの報道番組では、VTR や専⾨家コメントで前提を共有

しつつ、コメンテーターたちが「スタジオで受ける」、すなわちコメンテーターそれぞれの

解釈を述べるという形式が主である。そのため、コメンテーターのスタンスなどによっても、

議論の「⽅向づけ」が異なりうる。

では、各局ごとに、報道スタンスの違いはあったのだろうか。報道量の⽐較はすでに⾏っ

た通りだが、ここでは、「旧統⼀教会」関連のコーナーで発⾔してきた、コメンテーターの

⽐較を⾏ってみたい。

NHK はそもそもストレートニュースが多い上に、時事問題を解説する際には、⾃社の解

説委員に語らせるという形式が多い。なおかつ、このテーマでコメンテーターを呼ぶ形式の

番組を放送すること⾃体が少なかった。その上で、カルト問題を追い続けたジャーナリスト

の江川紹⼦⽒、宗教研究者の塚⽥穂⾼⽒らにコメントを求めていた。フジテレビの場合もま

た、報道量が他の主要⺠放よりも少なかったが、取り上げる際には、レギュラーコメンテー

ターが主として発⾔する番組が多かった。例えば他の⺠放テレビでは⼆桁の出演回数を維

持していた紀藤正樹⽒も、フジテレビのみ、3コーナーでの出演に留まっていた。

⽬⽴った特徴があったのは、やはり「ミヤネ屋」を放送していた⽇本テレビであった。複

数の番組に、連⽇、主要な専⾨家を招き続けていた。そのため、レギュラーコメンテーター

よりも専⾨家ゲストの⽅が、登場頻度が多くなるという状態になっていた。

別の⽅向で⽬⽴ったのは、フジテレビである。先に述べたように、NHK やテレビ東京な

どを除いた主要⺠放で⽐べると、フジテレビは圧倒的に、放送時間が少なかった。また、宗

教関連のテーマに詳しいゲストをコメンテーターで招くのではなく、レギュラーコメンテ

ーターのみで議論を展開させることが多かった。もちろん、これらのデータ⽐較だけで、「番組の質」を⽐較することはできないことは念

押ししておく。

<図4>「旧統⼀教会」関連コーナーに出演した解説・コメンテーターの各局⽐較

(単位:コーナー数)

新聞と「2世問題」

では、7 ⽉ 8 ⽇から 9 ⽉ 8 ⽇までの2ヶ⽉間、メディアは「宗教2世問題」について、ど

の程度、どのように取り上げたのか。

まずは新聞をみてみよう。「宗教 2 世」(信仰 2 世、2 世信者との表記含む)というキーワ

ードが出てきた記事は、読売3本、朝⽇ 6 本、毎⽇6本、⽇経が 4 本、産経が5本となって

いる。記事数こそ少ないものの、基本的には各紙ともに、対策を打つべき重要な問題として

位置付けている点で共通している。

読売新聞は、事件の背景を特集した「凶弾 浮かんだ背景」という記事の中で、宗教⼆世

問題について触れ、横道誠⽒へのインタビューも紹介している(8/10)。朝⽇新聞は、ジャー

ナリスト江川紹⼦⽒へのインタビュー(7/21)や、⻄⽥公昭⽒、横道誠⽒へのインタビュー

(8/3)を扱っている。

毎⽇新聞は、記者によるルポの中で、横道⽒主催の⾃助グループの活動を紹介(9/6)。⽇

経新聞は、政府⽅針を伝える記事の中で、短く2世問題に触れるにとどまった。

産経新聞は、書籍紹介のコーナーで、親⼦問題を論じた書籍を「2世問題」と絡めて紹介。

NHK 回数 ⽇本テレビ 回数 TBS 回数 フジテレビ 回数 テレビ朝⽇ 回数

1 伏⾒周祐 2 紀藤正樹 77 ⽯塚元章 39 柳澤秀夫 12 ⽟川徹 59

2 江川紹⼦ 1 鈴⽊エイト 56 ⽥崎史郎 27 住⽥裕⼦ 8 多⽥⽂明 35

3 塚⽥穂⾼ 1 有⽥芳⽣ 36 櫻井義秀 25 橋下徹 7 杉村太蔵 22

4 曽我秀弘 1 野村修也 27 紀藤正樹 22 古市憲寿 6 萩⾕⿇⾐⼦ 21

5 ⼩嶋章史 1 橋本五郎 27 伊藤惇夫 21 ⽴岩陽⼀郎 6 柳澤秀夫 21

6 秋⼭度 1 ⼩⻄美穂 25 東国原英夫 19 若狭勝 6 伊藤惇夫 20

7 藤井孝充 1 ⾼岡達之 24 鈴⽊エイト 16 ⽝塚浩 5 ⽯原良純 18

8 清⽔聡 1 ガダルカナルタカ 16 ⼤⾕昭宏 15 ⾦⼦恵美 4 ⽥崎史郎 15

9 清⽔⼤志 1 解本村健太郎 11 星浩 13 三浦瑠麗 4 ⼭⼝真由 14

10 以下、なし 0 ⽥崎史郎 11 バービー 13 河野太郎 3 紀藤正樹 14

11 デーブスペクター 11 三雲孝江 12 ⽥村淳 3 渡辺宜嗣 11

12 ⼿嶋⿓⼀ 11 鎌⽥靖 11 宮家邦彦 3 ⽯⼭アンジュ 11

13 杉⼭愛 11 古舘伊知郎 11 紀藤正樹 3 浜⽥敬⼦ 10

14 橋下徹 10 ⾦⼦恵美 11 ⼋代英輝 3 ⼭本志⾨ 9

15 阿部克⾂ 9 ⿓崎孝 10 鈴⽊エイト 3 末延吉正 9

16 ⼭⽥敏弘 9 ⽔⾕隼 10 松⼭俊⾏ 3 菊間千乃 9

17 清原博 9 ⼭⼝真由 10 ⼤空幸星 3 徐東輝 9

18 仲正昌樹 9 ⻄⽥公昭 9 ⽮沢⼼ 2 安部敏樹 7

19 梅沢富美男 8 鈴⽊紗理奈 9 パトリックハーラン 2 有⽥芳⽣ 6

20 吉川美代⼦ 8 ⾼橋みなみ 9 トラウデン直美 2 中野信⼦ 6

21 多⽥⽂明 8 ふかわりょう 9 武井壮 2 廣津留すみれ 6

22 櫻井義秀 8 若狭勝 9 尾⽊直樹 2 デーブスペクター 6

23 萱野稔⼈ 7 副島淳 8 ⽊村太郎 2 若新雄純 5

24 岸博幸 7 松本明⼦ 8 鈴⽊⼤地 2 同率多数 4

25 おおたわ史絵 7 菊地幸夫 8 同率多数 1 同率多数 3また、他の記事でも、複数の「宗教2世」の声を紹介している。たとえば産経新聞の「残響

元⾸相銃撃⼀ヶ⽉」(8/6-8/9)という連載ルポでは、「絶対にあってはならない⾏為だが、2

世のだれがそうなってもおかしくない」といった具合に、⼭上容疑者に共感を⽰す声を複数

紹介。「旧統⼀教会と関係が深い⾃⺠党を攻撃する道具として、⾃分たち被害者が利⽤され

ているのでは」といった声も紹介しつつ、「政治家は、きっと票欲しさで関わっていたと思

うが、私たち被害者にとっては、置き去りにされたような気持ちにもなる」といった声も紹

介している。

それではテレビは、「2 世問題」をどの程度報じたのか。

上記期間中に番組として特集された時間は、約 6 時間(366 分)。旧統⼀教会問題の報道時

間と⽐べると、約 3%程度ということになるが、それでも特定のテーマについて各局が特集

を相応に取るというのは、これまでになかったことだ。

特集を組んだ番組は限られているので、表にまとめておく。表では、取り上げた番組、特

注タイトル、放送⽇、特集の⻑さを掲載している。なお、例えば旧統⼀教会問題を取り上げ

た番組で、コメンテーターなどが特集趣旨から拡張して、2世問題に触れて発⾔するような

ことも実際には存在する。そのため、「2世問題を特集した番組」ではなく「2世問題に触

れた番組」となれば、放送時間はもっと増えることになるだろう。

事件当初は、容疑者が「2世」であることそのものに着⽬する報道であったが、その後は、

事件をきっかけとして知られることとなった、「2世問題」をクローズアップする番組が増

えていった。

<図5>「宗教2世」報道⼀覧(2022 年 7 ⽉ 8 ⽇から 9 ⽉ 8 ⽇まで)

NHK

【クローズアップ現代】「旧統⼀教会と政治・⾒過ごされてきた関係」(8/29、28.3

分)、「旧統⼀教会”宗教2世”の現実 」(9/5、25.2 分)、「オープニング」(9/5、1.7

分)/ニュースウオッチ9「旧統⼀教会・宗教2世が証⾔・国会議員との関わり明

らかに」(8/8、9.7 分)/【NHKニュースおはよう⽇本】「安倍晋三元⾸相銃撃事

件の波紋・”宗教2世”知られざる苦悩」(7/27、9.5 分)/時論公論「旧統⼀教会と「宗

教2世」問題(8/22、9.5 分)/【時論公論(再)】「旧統⼀教会と「宗教2世」問題」

(8/23、9.55 分)/ニュース7「旧統⼀教会めぐり相次ぐ相談」(8/27、2.5 分)

⽇ 本

テ レ



【スッキリ】「安倍晋三元⾸相銃撃事件・男逮捕」(7/14、11 分)、「安倍晋三元⾸相

銃撃事件・容疑者”事件⽰唆”⼿紙」(7/18、10.5 分)、「安倍晋三元⾸相銃撃事件・”統

⼀教会”の被害者弁護⼠・⽣出演」(7/15、9.6 分)、「世界平和統⼀家庭連合・⽥中富

広会⻑・会⾒」(8/11、28.6 分)/【情報ライブミヤネ屋】「旧統⼀教会・宗教2世の

抱える問題と苦悩」(8/31、41.3 分)/【ズームイン!!サタデー】「安倍晋三元⾸相銃撃事件・容疑者の伯⽗語る”犯⾏の経緯”」(7/16、12.3 分)、【newszero】

「⾃⺠党議員連盟アンケート・独⾃⼊⼿・教団の選挙応援を希望する項⽬」(8/16、

4.4 分)/【シューイチ】「安倍晋三元⾸相銃撃事件・銃撃男が恨み”統⼀教会”とは?」

(7/17、2.7 分)

TBS

【ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜】「旧統⼀教会と政界とのつながり・安倍晋

三元⾸相の票振り分けに影響か」(8/4、32.8 分)/【サンデーモーニング】「旧統⼀

教会と⾃⺠党」(9/4、9.7 分)/【news23】「⽴憲⺠主党会合・旧統⼀教会の元

⼆世信者が実態語る(8/23、4.9 分)/【TBSNEWS】「⽴憲⺠主党会合・旧統⼀

教会の元⼆世信者が実態語る(8/24、4.8 分」/【Nスタ】「旧統⼀教会・元信者が⽴

憲⺠主党会合に出席」(8/23、4 分)/【THETIME】「旧統⼀教会・元信者が⽴

憲⺠主党会合に出席(8/24、2.4 分)/【THETIMEʼ】「⽴憲⺠主党会合・旧統⼀

教会の元⼆世信者が実態語る」(8/24、1.7 分)

フ ジ

テ レ



【Mr.サンデー】「旧統⼀教会”宗教2世”オフ会・どう⽀援?⽇本の課題」(8/14、

14 分)

テ レ

ビ 朝



【⽻⿃慎⼀モーニングショー】「⾃⺠党・旧統⼀教会との関係点検・結果発表を延期

(9/6、23.6 分)、「旧統⼀教会”宗教2世”語る苦悩」(9/6、19.7 分)、「ラインナップ

紹介」(9/6、3.4 分)/【スーパーJチャンネル】「安倍晋三元⾸相銃撃事件・男逮捕」

(7/13、10.2 分)、「⼭際⼤志郎経済再⽣担当⼤⾂・旧統⼀教会関連団体のイベントに

参加」(8/23、12.9 分)/【報道ステーション】「⼭際⼤志郎経済再⽣担当⼤⾂・旧統

⼀教会関連団体のイベントに参加(8/23、5.3 分)

なお、データ収集期間には含まれなかったものの、E テレは 2021 年 2 ⽉ 9 ⽇の段階で、

「ハートネット TV “神様の⼦”と呼ばれて〜宗教2世 迷いながら⽣きる〜」を放送して

いる。このように、特定期間の⽐較データだけでは⾒えてこない、各局・各番組の試みが存

在しているため、その質的な評価や先駆性などもまた、冷静に吟味される必要があることは

付け加えておきたい。

「宗教報道の失われた時代」とは何か?

これまで、安倍⽒殺害事件以降の報道動向について⾒てきたが、それ以前はどうだったの

か。

かねてから、旧統⼀教会の問題に取り組んできた識者らは、この間の宗教報道について、「失われた 30 年」「空⽩の 30 年」といった表現を⽤いて振り返っている。では、実際には

どれくらいの、何についての「空⽩」がそこにあったのか。過去の報道を調べてみよう。

宗教問題、新聞報道の 30 年

まずは朝⽇新聞を新聞報道のサンプルと位置付けた上で、「統⼀教会」関連のワード(統

⼀教会、統⼀協会、家庭連合、⼥性連合、UPF)を調べてみよう。図 F は、朝刊・⼣刊合わ

せた記事数である。おおまかな経年変化を把握するため、5年ごとにまとめてみよう。

<図6>統⼀教会関連の報道量(朝⽇新聞)

85-89 年 62

90-94 年 97

95-99 年 59

00-04 年 34

05-09 年 41

10-14 年 18

15 年-19 年 8

20-22 年 253

※2020 年、2021 年は 0 件、2022 年 7 ⽉ 12 ⽇までは 0 件。2022 年は、9 ⽉ 8 ⽇ま

での分。

旧統⼀教会は、80 年代、90 年代に⼤きく取り上げられている。2000 年代にも何度か取り

上げられたが、10 年代にはその数が減少していることがわかる。これは、「家庭連合」とい

ったワードを含めても、である。

ただし、その間もさまざまな宗教団体についての報道が⾏われてきた。旧統⼀教会関連の

報道は減少していたものの、時代ごとに「宗教問題」は存在してきた。では、それらはどの

ように推移してきたのか。

「宗教+問題」というワードで朝⽇新聞データベースを検索すると、2022 年 9 ⽉末時点で

9603 件。「宗教団体+問題」という検索ワードで検索すると、993 件の記事がヒットする。

今回は後者のみを⽬視で分類し、おおまかな年表にした。それが図7のとおりである。

<図7>「宗教団体+問題」報道年表

年 件

数 主なトピックス

1985- 117 靖国、藤沢「悪魔払い」バラバラ殺⼈、韓国集団死、霊感商法、霊⽯愛好会、1989 霊感商法、坂本弁護⼠⼀家失踪、愛媛⽟串料訴訟、エホバ輸⾎問題

1990-

1994 96 靖国、オウム、岩⼿靖国判決、暴対法、公明党連⽴と創価学会、幸福の科学×

フライデー、パワフルコスモメイト

1995-

1999 423 オウム、創価学会と選挙特集、破防法、愛媛⽟串料訴訟、法の華、⾃⺠党総裁



2000-

2004 130 森「神の国」発⾔、クローン⼈間、ブッシュ政権、イラク国⺠会議

2005-

2009 61 アレフ、摂理、⼩泉靖国参拝、靖国宗教票、政教分離議論、⾼島易断、臓器移

植、村上春樹『1Q84』

2010-

2014 44 砂川政教分離訴訟、サリン 15 年、靖国参拝、秘密保護法審議

2015-

2019 45 サリン 20 年、憲法改正議論

2020-

2021 25 トランプ、コロナと宗教団体、映画「星の⼦」、シリーズ特集記事「宗教の⾒

分け⽅」、政教分離(護国神社への参列)

2022 33 統⼀協会

靖国問題、霊感商法、エホバ輸⾎問題、オウム事件、⽣命倫理や政教分離。メディアはさ

まざまな論点で、「宗教問題」「宗教団体問題」を取り上げている。ただ、公明党との連⽴問

題を⼤きく報じた時期以外は、とりわけ「宗教と政治」に関連するところでは、靖国問題が

もっとも注⽬された論点であり続けたようだ。

多くの場合、「国家からの宗教の⾃由」は注⽬されてきたが、より社会権的な、「国家によ

る宗教の⾃由」はあまり議論されてこなかった。つまり、宗教の名のもとに不幸が再⽣産さ

れる状況に対し、国家的な⽀援や救済がどう⾏われるべきかという論点は、社会の課題とし

て残ったままであった。

また、報道件数を⾒ると、「宗教団体」が問題として取り上げられること事態、00 年代に

⼊って減少していた。2022 年のメディアイベントが起こるまで、多くの⼈にとっては潜在

的に、「宗教団体の問題は過去のもの」といった意識が共有されていた可能性がある。だか

らこそ多くの⼈は、「まだ宗教問題があったのか」といった驚きを持って、ニュースに齧り

付いていたのではないだろうか。

宗教問題、テレビ報道の 20 年では、テレビ報道についてはどうか。

テレビデータについては、そのメディアの特性上、調査・分析リソースには限界がある。

そのため今回は、エム・データが保有しているデータのうち、本調査要件に適したデータの

期間である 2007 年以降のものを調査対象とした。その上で、2022 年を基準に 5 年区切り

で遡ることとし、2007 年、2012 年、2017 年の同時期(2022 年 7 ⽉ 8 ⽇〜2022 年 9 ⽉ 7 ⽇)

のデータを抽出した。

対象期間内に「旧統⼀教会」について取り上げたのは、2022 年の同時期で、述べ 1,122 番

組である。2017 年は 0 番組、2012 年は 17 番組、2007 年は1番組のみであった。

その間、テレビは新興宗教についてどの程度取り扱ってきたのか。「オウム真理教系ワー

ド」(オウム真理教、ひかりの輪、地下鉄サリン事件、⿇原彰晃、松本智津夫)、「幸福の科

学系ワード」(幸福の科学、⼤川隆法)、創価学会系ワード(創価学会、池⽥⼤作)、そして

「エホバの証⼈」とを抽出し、年次推移を⽐較してみよう。

<図8>新興宗教関連ワードのテレビ登場推移

オウム 旧統⼀系 幸福/⼤川 創価/池⽥ エホバ 総計

2007 30 1 1 5 0 37

2012 121 21 0 8 0 150

2017 34 0 7 9 0 50

2022 21 3185 0 18 0 3224

総計 206 3207 8 40 0 3461

(単位:コーナー数)

2012 年までは、⽇本の新興宗教報道はオウム真理教を中⼼に⾏われていたこと。しかし

2017 年段階では、新興宗教報道の全体が、⼤きく減少していることがわかる。

では、伝統宗教問題についてはどうなのか。そのことを把握するため、伝統宗教系ワード

として、「仏教」「キリスト教」「イスラム教」「神道」といった伝統宗教関連ワード、そして

「パワースポット」を取り扱った放送データを振り返ってみた。

<図9>伝統宗教関連ワードのテレビ登場コーナー数

キリスト教 神道 仏教 イスラム教 パワースポ

ット 総計

2007 81 0 36 59 8 184

2012 34 1 22 33 26 1162017 24 0 39 112 27 202

2022 31 6 31 59 48 175

総計 170 7 128 263 109 677

単位:コーナー数

伝統宗教関連ワードを含む番組は、全体としてコンスタントに放送されていることがわ

かる。つまり、伝統宗教関係のワードが減少していないなかで、新興宗教ワードだけが減少

していたのが、2017 年頃の状況だったといえる。

なお、「パワースポット」というワードが、年々増加していることは興味深い。「御朱印集

め」「パワースポットめぐり」などの、カジュアル化された呪術的なツーリズムは、宗教⾊

を抜いたかたちで浸透している。これは、⽂化的宗教としての世俗化とも⾒えるが、他⽅で

宗教教育なきまま、呪術的な観念を浸透させることでもあり、ある意味での「宗教的無防備

さ」として、「カルトの付け⼊る隙」を与える可能性も気になる。その辺りは、広くスピリ

チュアリズムについての研究を待ちたい。

いずれにしても新興宗教に関する報道は、少なくともこの 10 年、量的には「空⽩の時代」

であったと⾔えそうだ。また、集中的な報道が⾏われず、社会の注⽬が集まりきらなかった

という意味では、「失われた 30 年」という表現もまた、質的には誇張とも⾔えないだろう。

2世報道のこれまで、新聞編

では、2世問題についてはどうだろうか。こちらも、朝⽇新聞のデータベースをサンプル

に⾒てみたが、結果としては、ほとんど取り上げられてこなかったと⾔えるだろう。それは、

「宗教2世」という⾔葉だけではなく、「信者+⼦ども」「宗教団体+⼦ども」といったワー

ドで検索しても同様である。

1988 年 3 ⽉ 20 ⽇、「商売上⼿はどの神様? 宗教ビジネス最前線」という記事で、「親

の信仰を継ぐ」という意味で「⼆世」という⾔葉が⽤いられている。ただしこの記事では、

いわゆる「2 世」たちの抑圧に焦点を当てているわけではない。

「⼆世」という⾔葉を社会問題として報じた記事で古いものとしては、2003 年 3 ⽉ 10 ⽇

の記事、「悩み深い『信者2世』英国⼈⼥性が脱会体験を語る」がある。それまでは「⼆世」

という⾔葉を使わず、しかしいくつかの教団に絡めるしかたで、「信者の⼦ども」について

の議論が⾏われていた。

80 年代には特に、エホバの証⼈の「輸⾎拒否事件」が、90 年代には特に、オウム真理教

の⼦どもたちの問題が報じられてきている。しかしその後、「⼆世問題」そのものにフォー

カスした記事は少ない。オウム関連の裁判の際に取り上げられたほか、書評コーナーや⼈⽣

相談コーナーなどには、数回登場している。ただし、2021 年には、「にじいろの議」という

有識者の寄稿欄にて、上越教育⼤学⼤学院の塚⽥穂⾼准教授が、「『宗教2世』問題 信者だ

けの話ではない」というコラムを執筆している。2世報道のこれまで、テレビ編

テレビはどうか。少なくとも調査対象の期間中において、2世系のワード(⼆世信者、宗

教⼆世、宗教三世、宗教 2 世、宗教 3 世)を含んだ放送は⼀件もなかった。もちろんそれ以

外の期間に、⼆世報道がテレビで⾏われているのは確認できるため、皆無であったというわ

けではない。しかしながら、さまざまな宗教問題の中で、⼦どもの権利の問題が、あまり注

⽬されてこなかったことは推測される。

こうした経緯を考えると、2022 年の調査期間中に、「宗教2世」の問題が総計 366 分放送

されたというのは、⼤きな特徴である。その内容もまた、かつてのエホバの輸⾎問題やオウ

ム事件のように、個別の団体のみの問題が注⽬されるのではない。旧統⼀教会への注⽬をき

っかけに、献⾦やステルス布教(宗教を伏せた上での勧誘活動など)、そして宗教的虐待な

どの問題にまで、メディアは議題設定の範囲を広げているのである。

まとめ

調査期間である 9 ⽉以降、国会が開かれてからは、「宗教2世」の取り上げられ⽅も⼤き

く変化したように思える。当事者有志らが何度も記者会⾒を開き、顔出し可能な2世らがメ

ディア上で直接発信する機会も増えた。被害者救済法の審議が⾏われる⼀⽅で、宗教的虐待

についての対応などが「宿題」として残っている点なども度々指摘されている。

社会調査⽀援機構チキラボでも、調査と広報を通じて、「宗教2世」というワードは「旧

統⼀協会」をめぐる議論のみに限定されるものではないことを明らかにし、発信活動をおこ

なってきた。そのためラボ⾃⾝が、メディア上で取り上げられる機会も相応にあった。

メディアでの報道状況を把握することは、「これからの報道」を吟味する上でも重要な営

みである。宗教報道を、センセーショナルなものとして消費しないこと。2世問題などへの

対処を、⼀時期のムーブメントとして終わらせるのではなく、社会システムとして対応すべ

き重要議題として刻み続けること。本調査からは、そのような課題を再認識させられる。

(了)

宗教2世報道調査.pdf


【チキラボセミナー】
伊藤詩織さんへの誹謗中傷件数推移に
ついてと「いいね」裁判の意味
⽂字起こし 2022年3⽉25⽇オンラインにて開催
⼀般社団法⼈社会調査⽀援機構チキラボ
皆さん、こんばんは。「社会調査⽀援機構チキラボ」代表の荻上チキです。今⽇はお忙しい中お
集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
ニュースで既にご存じの⽅も多いかと思いますが、ジャーナリストの伊藤詩織さんが起こした訴
訟のうち、国会議員の杉⽥⽔脈⽒に対して起こした「いいね」を巡る訴訟について、判決が出ま
した。この判決の意味については、さまざまな弁護⼠の⽅が解説されています。
ただ、さまざまなリアクションなどを⾒ると、今回の係争の勘所というものが、なかなか共有さ
れていないと感じています。この際の「勘所」というのは、法的な⾯とはまた別に、社会通念を
めぐる麺というのがあります。法的な部分は弁護⼠の⽅にお任せするとして、私の⽅からは、調
査で⾒えてきた、社会通念をめぐるポイントについて説明していきたいと思います。
チキラボでは、伊藤さんからの依頼を受け、伊藤さんに対するウェブ上の誹謗中傷について調査
してきました。その上で、そもそも「いいね」というのが⼀体どのようなリアクションに当たる
のかというようなこと、それについて社会通念上、多くの⼈たちはどのように考えているのかと
いうようなことを調べました。
これからお話しをさせていただく中⾝は、⼤きく分けて2つあります。最初に、「いいね」に関
する調査のパート。それからもう⼀つは、伊藤さんが起こしたさまざまなアクションが、⼀体ど
のような社会的インパクトを持つような出来事だったのかということを分析するパートです。
【いいね裁判とは何か】
では早速、今回の「いいね」訴訟について。既に皆さんご承知のとおり、今回の訴訟対象となっ
ていたのは、国会議員の杉⽥⽔脈議員です。
これまでも例えば伊藤さんに対する誹謗(ひぼう)中傷のイラストを投稿するような⽅、流⾔を
含む誹謗中傷のツイートを投稿するような⽅、そして問題あるツイートを拡散(リツイート)を
する⽅に対する訴訟提起というのが⾏われてきたわけです。それらの⾏為などについては、名誉
毀損(きそん)というものが認定されました。
⼀⽅で今回の「いいね訴訟」というのは、杉⽥⽔脈議員が100件以上⾏ってきた「いいね」のう
ち、幾つかをピックアップをしたうえで、その⾏為の妥当性を問うものです。法的には「名誉感
情の侵害」という論点で提起されていました。
「名誉毀損」であれば、社会的な地位を貶めるような発⾔などに対して、違法性が問われること
になります。「名誉感情侵害」の場合ですと、社会通念上、許される限度を超えた侮辱か否かが
問われることになります。単純化すると、「それは許されない範囲の⾔動だよね、そんなことさ
れたら被害者の⼈格が傷付くよね」と、社会⼀般的に思われるような範囲かどうかが重要となり
ます。
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【チキラボセミナー】伊藤詩織さんへの誹謗中傷件数推移についてと「いいね」裁判の意味
今回は、ただ「いいねを押されて傷ついた」ということだけを論点にしているわけではありませ
ん。杉⽥⽔脈議員という、公的な⽴場にある国会議員が、⾃⾝が10万⼈以上のフォロワー数を持
つTwitter上で、個⼈に対する誹謗中傷ツイートを複数「いいね」をし、閲覧可能な状態にしてい
た。そうした⾏為が社会通念上許されるのか。通常は、受忍限度を超えて他者を深く傷つけるよ
うな⾏為ではないか。その部分を議論しましょうというものです。繰り返しになりますが、ただ
「いいねをしただけ」の裁判ではない、というのは、重要な点です。
では、そもそも「いいね」とは何か。このことを確定していかなくてはなりません。
Twitterの公式的な定義によると、「いいね」というのは「⼩さなハートマークが表⽰され、ツ
イートに対する好意的な気持ちを⽰すため」のサービスとなっています。つまり、サービスの提
供者側としては、「いいね」というのは単なるブックマークではなくて、共感性や好意を⽰すも
のなのだというような位置付けだということですね。実際、杉⽥議員が「いいね」をしたタイミ
ングでは、Twitterにはブックマーク機能が、「いいね」とは別に存在していました。
ただ当然ながら、「いいね」の使い⽅というのは⼈それぞれになるわけです。また「いいね」の
受け⽌め⽅というのも⼈それぞれになるわけです。さらには今のTwitterの仕様上「いいね」とい
うのは「弱めのリツイート」のような効果も持つわけですが、他⼈の「いいね」がどの程度⾒ら
れるものなのかも重要です。
そこで、⼈々が「いいね」をどのようなものだと理解しているのか。他⼈の「いいね」というも
のをどれぐらいの頻度で⾒るのか。あるいはその他⼈の「いいね」というものに対してどういう
信頼性を持つのか。その辺りを明らかにする調査を⾏いました。
【社会通念上、「いいね」とは何か】
そこでラボのほうではオンラインの量的調査を⾏い、Twitter利⽤者をスクリーニングした上
で、普段「いいね」というものがどのような意味付けをされているのか、調べました。⼈⼝割り
付けなどを⾏いながら、なるべく「⼀般のユーザーは、Twitterの<いいね>を、こう考えてい
る」と⾔えるように⼯夫をしました。その結果、幾つかのポイントというのが分かりました。
まずは、フォローしてるアカウントの「いいね」の、「受動的閲覧頻度」についてです。どう
いうことかといいますと、Twitterで誰かのアカウントをフォローしている。そのアカウントが何
かに対して「いいね」を押した。その「いいね」が⾃分のタイムラインに流れてくる。その頻度
がどれくらいか、ということです。
つまり相⼿のアカウントの「いいね」欄を⾒にいくのではなくて、⾃分のタイムラインだけを⾒
ていて誰かの「いいね」を⾒るタイミングっていうのはどれくらいの頻度ですかということを尋
ねたものです。図を⾒ればわかるように、多くの⼈がそれなりの頻度で、⾃分のTL上で他⼈の
「いいね」を⾒るようです。
続いて、「能動的閲覧度」も⾒てみました。これは、他の⼈のアカウントのプロフィール画⾯
に⾏って、「いいね」⼀覧を確認していくことを指しています。やはり、これもそれなりの程度
で、⼈々は他⼈の「いいね」を⾒ていくんだということが分かるわけです。
ここで次のようなことが確定できます。例えば杉⽥議員のように、10万を超える数多くのフォロ
ワーを抱えているような⽅であれば、その⼈の「いいね」⾏為もまた、相当の⼈にみられるとい
うことです。
ではそもそも⼈々はどういったときに「いいね」をするのでしょう。⼀般的なユーザーについ
て、⾃分が「いいね」をするときはどういう時なのか、また、他⼈の「いいね」をどう理解する
のか、それぞれを聞きました。
⾃分が「いいね」をするときというのは⾯⽩いと思ったときが62.7%、共感をしたときが55.9
2
【チキラボセミナー】伊藤詩織さんへの誹謗中傷件数推移についてと「いいね」裁判の意味
%、情報の重要性を感じたときが43.3%などでした。他⽅で、その投稿を後から読み返したいと
きにブックマーク的に使う⽅というのは22.6%。つまり、最もメジャーな使われ⽅は、やはり
「好意を⽰す」使い⽅であるということが分かりました。
では、他⼈が押す「いいね」について、⼈々はどう解釈をするのか。これもやはり、好意を表
すアクションなのだということがわかりました。多くの⼈たちは、「なるほどこの⼈は、ブック
マークしたいと思っていいねしたんだな」とは、あまり解釈しないというような傾向が分かった
わけです。
こうしてみると、すなわち「いいね」というのは、私はこのツイートに好意を⽰しているとい
う、社会的なメッセージとして機能しているということになります。
さらに、他⼈が「いいね」したツイートに対して、⼈々がどの程度、信頼性を持つのかという
ことについても調べました。⼀番信頼される「いいね」とは、「信頼しているアカウントによる
いいね」であるということです。では、そのアカウントの信頼性とは何でしょうかとなります
ね。それも調べています。
「認証バッジが付いている」「実名である」「公的な⽴場や職業の⼈物である」「著名である」
「プロフィール欄に所属が書かれている」。こうした要素は、そのアカウントの信頼性を⾼める
ことがわかりました。それは、この条件を満たすアカウントのいいねほど、信頼されやすいとい
うことでもあります。
【杉⽥⽔脈議員の「いいね」は、⼆次加害ではないか】
ここまで駆け⾜で説明してきましたけれども、簡単に振り返りましょう。
● 「いいね」とは、他⼈のツイートに対して、好意を表明する社会的な表現である
● Twitterユーザーの多くは、他のユーザーが「いいね」した投稿をしばしば閲覧する
● 「信頼されるアカウント」の「いいね」は、強い訴求⼒を持つ
その上で、今回の場合はどうだったか。杉⽥⽔脈さんの場合、⾮常に多くのフォロワー数を
持っています。そして杉⽥⽒は、同じ趣旨のような内容のツイートにいいねをしています。この
場合の「同じ趣旨」というのは、伊藤さんを批判する内容のツイートを連続的に「いいね」をし
ており、伊藤さんを擁護するようなツイートに対しては、決して連続的に「いいね」をしないと
いうことです。
つまり特定⽅向の⾔論群に対して、「いいね」を押し続けたというのが、杉⽥さんのアクション
でした。具体的には、伊藤⽒に対して、「ハニートラップ」「嘘つき」「売名」「枕営業」「慰
安婦」といった⾔葉を使って攻撃するツイート群に対して、公に好意の表明を⾏ったわけです。
杉⽥さん⾃⾝、ブログやBBCのインタビューなどで、伊藤さんの事件に⾔及していますが、その
⾔及の⽅向性、つまりは伊藤さんに否定的な意⾒にマッチするような投稿に対して、意図的・連
続的に「いいね」をしてるということになるわけです。
杉⽥⽒の場合は認証バッジが付いており、実名を使ってツイートをしています。所属先がプロ
フィールに書かれており、公的⽴場にいる著名⼈でもあります。すなわち、そのツイート主の信
頼性を⾼めるとされる条件を、杉⽥さんはことごとく満たしているというようなことになりま
す。
つまり杉⽥⽒の「いいね」というのは、ただ杉⽥⽒個⼈が「いいね」を⾏ったっていうような、
プライベートなアクションだと解されるものではありません。信頼性の⾼いアカウントとされる
公的な⽴場の⼈が、パブリックな場所で、特定のツイート群に対して「いいね」をした。そのよ
うに読まれるというのが⼀般的だということになるわけです。
ここで、仮想の論点をあらかじめ吟味していくことが必要なので、その辺りについてもまとめ
ておきます。例えば、間違えて「いいね」を押すこともあるのだからそんなことまで問うのは問
題だ、というような指摘があります。それはそのとおりだと思います。「いいね」を、間違えて
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【チキラボセミナー】伊藤詩織さんへの誹謗中傷件数推移についてと「いいね」裁判の意味
押すということは、実際にあり得るでしょう。
ただし杉⽥⽒の場合、同じような趣旨の、伊藤さん個⼈をバッシングするような投稿を、100件
を超える量を「いいね」をし続けており、今回は「誤タップ」ではなかろうということが強く推
認できます。ですから本⼈も、「誤操作である」とは⾔っていません。
読み返すために保存をしたのだ、というふうに主張する可能性もありました。実際、杉⽥⽒はそ
のような主張もしています。しかしながら、後から読み返すという⼿段は、「いいね」である必
要性がありません。
杉⽥⽒が「いいね」を押したタイミングでは、既にTwitterにはブックマーク機能というものが存
在していました。また特定の⾔説を保存するのであれば、キャプチャーで⾃分のローカルフォル
ダーに保存することもできますし、URLを私的なメモに保存することも、クローズドなアカウン
トで保管するということも、ローカルブックマーク機能などで保存することもできます。保存す
る⽅法というのはたくさんある中で、あえて「いいね」というようなボタンを押すことには、社
会的な意味が付随することになります。
また、賛同の意図はなかったというようなことが主張される可能性もあります。「いいねやリツ
イートは賛同を意味しません」といったエクスキューズをつけている⼈も多数いますね。しかし
今回の調査では、そもそも多くのユーザーは、「当⼈の意図にかかわらず、これは好意を表明す
るためのアクションなんだな」というふうに受け取ることになります。
ここまで説明してきて、「勘所」が伝わったと思います。⼀般的な「いいね」全部に法的責任が
問われるべきであるとか、⼀回の「いいね」ですら賠償すべきだとか、そうしたことはこの裁判
では提起されていません。
国会議員がパブリックな場所で、「枕営業」「ハニートラップ」などといった個⼈への誹謗中傷
を含むツイート群に対して多数の「いいね」を送り、それを閲覧可能な状態にしておくというの
は、さすがに社会通念上許される⾏為ではないのではないか。そのことを問うているわけです。
「いいねは全て無罪であるべきだ」というのでないならば、やはり限度を超えた範囲がある。今
回のようなケースは、その限度を超えているのではないか、という点が問われたわけです。
今回の判決については、「いいね」そのものが⼀般的には賛同を意味するものだっていうような
ところまでは認定はされています。ただ、その「いいね」の濃度というか、どういう意味合いの
⾏為なのかまではわからないのだ、という理屈で、伊藤さんの主張は却られました。「いいね」
というのは、それを押すか押さないかの2択なので、押したからといってそれがどの程度の賛同
を意味するのか分からない。そうした判決内容でした。私はあくまで、データ⾯での解説しかで
きません。法的な部分のアクションが今後どうなるのかについては専⾨家、弁護⼠の⽅々に聞い
ていただければと思います。
ただここで広く知られるべきなのは、パブリックな場所で何かに「いいね」をすることは、他
⼈を傷付ける可能性もある社会的な⾏為であるということです。考えてみればわかるのですが、
性暴⼒被害を受けたと社会に告発をした⼈に対し、国会議員がウェブ上で、罵倒的なツイートに
「いいね」をしまくれば、それは当然ながら、⼆次加害として機能するでしょう。
今回の「いいね」の訴訟というのは、「いいね」そのものの拡散性、つまり「いいね」がどれ
ぐらい広がって、どれぐらい影響⼒を持つのかという点については、そこまで論点にはなってい
ません。ただ私⾒を述べれば、これまでもリツイート⾏為が、ひとつの「表現⾏為」と認定され
たように、「いいね」もまた、新たな読者に誰かの罵倒を広げ、そこに好意的評価を付与すると
いう、パワーを持つ⾏為になるわけです。今回の判決は、リツイートはアウトでいいねはセー
フ、といったようなことを意味するものではありません。そしてその判断もまた、社会通念の変
化とともに、変わっていくのだと思います。
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【チキラボセミナー】伊藤詩織さんへの誹謗中傷件数推移についてと「いいね」裁判の意味
【伊藤さんに対するソーシャルリアクションの推移】
さて「いいね」を巡る論点についてはここまでいろいろと整理をしてきました。ここからは、
伊藤さんのアクションに対するリアクションがどう変化をしていったのかをお話します。今回
は、調査期間の問題から、Twitterに限定してお話しします。
伊藤さんに関連するツイートというのは2020年の2⽉時点で20万件を超えていました。現在は
さらにそれから増えているでしょう。そうしたそのツイート群を収集し、リアクションを類型
化、その推移を追いました。
もちろん、5年分のデータを、全て確認するのは困難です。そこで、「記者会⾒」「判決」「記
事化」など、具体的なイベントがあったタイミングをピックアップし、分析データを絞りまし
た。対象期間となるデータは12万ツイート。そのうち、9,000件をランダムで抽出をし、それら
を全て⽬視で確認のうえ、分析をしました。
なぜ辞書分類ではなくて⽬視分類なのか。それには理由があります。今回よく使われた、「枕営
業」「ハニートラップ」という罵倒語があります。これらが登場すれば誹謗中傷である、あるい
はネガティブな投稿だと定義して⾃動分類するという、「辞書分類」も確かに可能です。
しかし、伊藤さんの裁判が進んでいく過程の中で、「あの時の⾔論はひどかったよね、枕営業な
んて⾔葉を使う⼈もたくさんいて、信じられなかった」というような投稿も増えてきます。これ
を⾃動分類すると、ネガティブな投稿に位置付けられてしまいそうですが、⽂脈的にはむしろ、
伊藤さんへの擁護ということになるでしょう。そうした可能性も含めたコーディングをするのは
また⼿間なので、今回は「サンプル⽬視分類」という格好で調査をしました。
で、そのサンプルの⽬視調査をした際の分類、「擁護応援」「ネガティブな記事の添付」「ポジ
ティブな記事の添付」「フラットな記事の添付」「誹謗中傷」「ネガティブな評価」などです。
「ネガティブ」は、伊藤さんに批判的なスタンスで投稿されたものですが、「誹謗中傷」という
のはそこに「ハニートラップ」「枕営業」などの罵倒語や攻撃的な強い⽂⾔を含んだものです。
このうち、「ネガティブ」「擁護」「誹謗中傷」を時系列でプロットしてみると、時期ごとの変
化が⾒えてきます。まずインパクトがあったのは、初期データです。最初、伊藤さんがこの問題
提起をした時というのは、ネガティブな投稿が8割を占めていました。そのような社会状況の中
から出発した問題であったということになります。
それが、出版活動や記者会⾒などを重ねるにつれて、⾔論のバランスの変化がみられます。「擁
護応援」が、2割から3割の、⼀定の範囲内で推移するような状況になりました。他⽅でネガティ
ブな反応というものは1割から2割程度の推移です。また、誹謗中傷というのは、常に数%の範囲
内で推移をするというような格好になっています。
ただしこの誹謗中傷の範囲は、それなりの変化もみられます。伊藤さんのアクションを、3つの
時期に区分をしてみます。①最初の問題提起から⼭⼝⽒との裁判の判決が出る前の時期。②⼭⼝
⽒との⼀審判決が出てから、ウェブ上の名誉毀損裁判をはじめた時期。そして③さまざまな裁判
の判決が出て以降の時期です。
①の時期の名誉毀損的な書き込みの出現頻度というのは0.8%から9.1%。その出現率の平均を取
ると4%程度で推移となります。②の時期では、名誉毀損的な書き込みの頻度は1.1%から5.8%。
出現率平均2.6%程度ということで、若⼲の減少が⾒られます。そして③の時期では、ウェブ上
の名誉毀損の違法性が確定していった時期ですが、このタイミング以降は名誉毀損的な書き込み
の出現頻度が0.3%から2.2%で、出現率平均を⾒ると1.2%程度となっていました。
①の時期のデータは、これでも過少になっている可能性もあります。というのも、伊藤さんの裁
判の第⼀審で勝訴ということが報じられたタイミングの前後から、それまで積極的に伊藤さんを
攻撃するようなTwitterのアカウントなどが凍結されていったり、投稿を削除したりしていたため
です。それが明らかに変わって⾏った。
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【チキラボセミナー】伊藤詩織さんへの誹謗中傷件数推移についてと「いいね」裁判の意味
とはいえ、1.2%という数字は、それでも少なくはないでしょう。数百件の誹謗中傷が相変わら
ず存在するということは、個⼈にとって⼤きな脅威です。
ここからは私⾒ですが、ネットなども含めて、この社会にはいろいろな集団規範というものがあ
ります。その規範の中には、「攻撃抑制規範」すなわち、他⼈に対する攻撃は控えるべきだ、と
いうものがあります。⼀⽅で、こうした攻撃が緩んでしまう場⾯がいくつかあります。
匿名で報復可能性がないというのも、そのうちの⼀つですが、他にも条件があります。例えば、
誰かをすでに攻撃していて、それが咎められていない時などです。攻撃放置が続いているような
状況だと、攻撃抑制規範は弱まってしまう。
ネット空間の中で、あるプラットフォームは治安が悪いが、あるプラットフォームでは平穏であ
る、ということはあります。⼈は、どこのサイトに書き込むかで、投稿内容を変化させたりもし
ます。みんなが悪⼝を書くような場所だと、⾃分も⼝が悪くなるというような経験は、多くの⼈
にあるでしょう。
そんな中でも、攻撃抑制規範を回復する⼿段というものがあります。その⼿段の⼀つに、「第三
者の介⼊」と呼ばれるものです。いじめやハラスメントなど、さまざまな攻撃においても、「第
三者の介⼊」は効果を持つとされています。そして「第三者の介⼊」には、上司や教員といった
存在だけでなく、司法やプラットフォーマーの介⼊も重要です。
残念ながら、⽇本のTwitterですと、さまざまな通報への対応に消極的です。なおかつ問題なの
は、「他⼈のツイートのどういった⽂⾔が実際にアウトだったのか」ということを、社会的に学
習する機会がないことです。
私も普段から、いろんなツイートを通報してきました。それが数カ⽉後に、「問題でしたので対
応しました」という返答が来るんですけど、その時点では、通報した⾃分ですら、どの書き込み
に通報して、何が問題だと判断されたのかがわからなくなっている。
個別のツイートを晒せとは⾔いません。ただ、せめて各プラットフォーマーが、年次報告のよう
な形で、「今年はこれだけの件数を削除しました」「こういうサンプルの投稿は、こういう対応
がなされます」という線引きを⽰してくれれば、また状況も変わりうるでしょう。
今回は伊藤さんの発信のみならず、司法による「第三者の介⼊」もまた、攻撃抑制を⾼めたと考
えられます。今後はプラットフォーマーが、どのような場所作りを⾏うのかも、社会的に吟味さ
れる必要があるでしょう。
最後に、今回の伊藤詩織さんの抱える訴訟は、皆さんからのご⽀援によって成り⽴っています。
ウェブサイトからドネーションを⾏うこと、寄付を⾏うことも、そしてメッセージを送るという
こともできます。伊藤さんの⽀援の仕⽅については伊藤詩織さんの⺠事裁判を⽀える会のウェブ
サイトをご覧ください。
チキラボもまた、さまざまな調査と発信を通じて、社会問題に応答し続けています。チキラボも
さまざまな皆さんの⽀えによって成り⽴っているので、もしこういったような活動を頑張って欲
しいと思っていただけたら、ラボへのご寄付もお願いしたいと思います。
(質疑応答は割愛)

伊藤詩織さんへの誹謗中傷件数推移についてと「いいね」裁判の意味_文字起こし.pdf