重要土地等調査規制法案に反対及び重要土地等調査規制法案廃止求めるの声明等PDF魚拓2024年6月8日時点

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法律専門家、不透明さ指摘

 自衛隊基地など日本の安全保障上、重要な土地や施設周辺での民有地利用を調査・規制を可能とする重要土地等調査法(土地規制法)は8月15日、2回目の指定で八重山地域も区域に加えた。注視区域7カ所に特別注視区域3カ所。今後、どのような影響が出てくるのか。法律の専門家は法制度の不透明さを指摘、「日本国憲法を侵害し、土地の所有者や住民に萎縮効果が出てしまう」と懸念する。

 竹富町は、鳩間島のほぼ全域と波照間島の南側など町の外縁部分が注視区域に組み入れられた。八重山の注視区域のほとんどが「国境離島」の位置づけ。排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、接続水域の範囲を測定する際の基となる「領海基線」が基準となっている。

 これにより注視区域では国の権限で土地利用者の氏名、住所、本籍、国籍、生年月日、連絡先、性別などの調査が可能となる。

 さらに石垣市は自衛隊駐屯地の周囲1㌔に面している開南集落、与那国島は久部良集落の全域と比川集落の一部がそれぞれ特別注視区域になった。

 面積200平方㍍以上の土地や建物(延べ床面積)の所有権を移転する際、当事者の氏名や名称、住所、利用目的、利用の現状などを届け出なければならない。

曖昧な要件

 日本弁護士連合会は2021年6月、会長声明で同法案への反対を発表した。同法に詳しい弁護士の福田護氏は「駐屯地や施設に対し機能阻害行為をした人が勧告や命令を受け、それに従わなければ刑罰が科せられる仕組み。政府が土地利用者や関係者まで調べて規制するという構造が大変危ない」と説明する。

 米軍・自衛隊の動向を監視し、施設前で平和運動をする住民たちの活動が「萎縮しかねない」と指摘。22年9月に閣議決定された同法の基本方針にある「機能阻害行為の例示」について「航空機の離着陸の妨げとなる工作物があげられているが、それに何が該当するか分からない。全ては政府の裁量によって決まるのでは」と疑問を呈す。

 日弁連も、これまでに自衛隊など重要施設の機能が阻害された事実がないことを政府が認めていることから「立法事実の存在」そのものに懐疑的だ。

自治侵害のおそれ

 福田氏は、日本国憲法で規定される個人の尊厳、思想・良心の自由、表現の自由、財産権が「侵害」される危険性を訴える。内閣府の重要土地担当者は取材に「思想や信条に係る情報を含め、土地や建物の利用状況に関連しない情報収集はしない」と否定した。

 さらに福田氏は、地方自治の保障を定める憲法92条を侵害する可能性にも言及。土地規制法第7条が、市町村は国から土地利用の情報提供を求められた場合に提供するものと規定しているからだ。「地方公共団体が疑義も言えないまま、義務として情報提供をすることになる」と危惧、「今後、国が市町村の意見をどこまで聞き入れるか、その事実をしっかり見ていく必要がある」と強調した。

土地規制法、「住民に萎縮」懸念2023年09月07日


自衛隊・米軍の基地周辺や国境離島の土地利用を規制する法案が成立した。新たな法制は、対象区域や土地所有者に対する調査項目など、地域住民にとって影響の大きい内容を条文に何も記していない。政府は重要な土地を外国資本などに押さえられ、日本の防衛に支障が出る事態を防ぐ必要があると強調するが、曖昧な制度の乱用により、私権が過度に制限される懸念は国会審議でも解消されなかった。(新開浩)





◆対象施設は不明

 新法制は防衛施設などの周囲約1キロを「注視区域」に指定し、区域内で政府が土地の利用状況を調べられるようにする。司令部や防空施設などの特定重要施設の周辺は「特別注視区域」に指定でき、200平方メートル以上の土地売買に事前届け出を義務付ける。

 しかし、政府は具体的な対象施設を一切明らかにせず、東京・市谷の防衛省本省が該当するかどうかすら明確にしていない。

 岸信夫防衛相は今月の参院での審議で、防衛省について「国家防衛の中枢だ。特定重要施設に該当しうる」と語った。一方、内閣官房の担当者は、同省周辺に広がる市街地に配慮し「注視区域に指定されないことも論理的にはありうる」と説明した。

 整合性の取れない答弁に共産党の田村智子政策委員長は「(区域指定は)首相のさじ加減と言わんばかりだ」と反発した。

◆自衛隊が調査する可能性も?


 区域内で政府が行う調査の対象者や、調べる項目も不透明だ。内閣官房の担当者は対象を「区域内の土地所有者ら」とし、基地反対運動の参加者らは対象にならないと説明。個人の思想・信条などの調査は想定していないと語った。

 ただ、こうした内容は条文に明記されていない。そのことを野党議員に指摘された内閣官房の担当者は、思想・信条などの個人情報の調査について「条文の規定で排除されてはいない」と認めた。

 実際の調査を、防衛省や警察、公安調査庁などが担う場合があることも審議を通じて明らかになった。立憲民主党の小西洋之参院議員は「国防の組織である自衛隊が、この法律によって、国民生活を調査し監視する組織に変わってしまう」と危惧。過去に自衛隊の情報保全隊がイラク派遣反対運動に参加した市民を監視した問題が発覚し、国への賠償命令が確定した経緯を指摘した野党議員もいて、自衛隊が住民の調査に関与することの是非も論点となった。

 法案は、土地所有者らが基地の機能を阻害する行為を行う恐れがある場合、国が中止を勧告・命令できるようにするが、この「阻害行為」も具体例は示されていない。行為の内容や対象施設、調査項目などの詳細は、法成立後に閣議決定する基本方針で定める。

 立民の杉尾秀哉参院議員は「あまりにも中身がすかすか。すべて基本方針に丸投げされている。このまま法案を通していいのか」と疑問を投げかけた。

【関連記事】基地周辺の土地規制の論点は? 与野党が阻害行為の例示求めるも政府は明確に答えず...法案審議入り

防衛名目の土地規制法が成立「あまりに内容すかすか」 私権制限の懸念ぬぐえず

2021年6月16日 06時00分



自衛隊・米軍の基地周辺や国境離島の土地利用を規制する法案が11日、衆院本会議で審議入りした。目的は、安全保障上の重要な土地を外国資本などに押さえられ、基地の機能を阻害される事態を防ぐためとしている。対象区域などの具体的な内容は法案に盛り込まず、成立後に政府が決める。野党は制度の乱用による不当な私権制限を防ぐため、阻害行為の例示を求めたが、政府は明確に答えなかった。

 法案は、基地や海上保安庁の施設、原発などの周囲約1キロや国境離島を「注視区域」に指定し、国が土地の利用目的などを調査できるようにする。不適切な利用の可能性が高い場合は、中止の勧告や命令を出し、応じなければ罰金などを科す。自衛隊の司令部など特に重要な施設周辺は「特別注視区域」に指定。200平方メートル以上の土地売買に事前届け出を義務付ける。

 対象の施設や阻害行為の具体例、調査項目の詳細などは法成立後に閣議決定する基本方針で定める。

 定義が不明確な基地機能の阻害行為を巡っては、自民、立憲民主など与野党の議員が具体例を示すよう求めたが、小此木八郎領土問題担当相は「網羅的に示すのは困難」として応じなかった。

 共産党の赤嶺政賢氏は、沖縄などでの基地に対する抗議行動が、阻害行為とみなされる可能性に懸念を示した。小此木氏は「一概に答えることは困難だが、注視区域で座り込むだけなら対象にはならない」との見解を示した。

 土地所有者への調査項目が不明な点については、立民の篠原豪氏が「調査が際限なく広がる恐れがある」と指摘。小此木氏は、個人の思想信条などの情報収集は想定していないと説明した。(新開浩)

【関連記事】基地周辺の土地規制法案が近く審議入り 対象区域は成立後 私権制限の懸念も

基地周辺の土地規制の論点は? 与野党が阻害行為の例示求めるも政府は明確に答えず...法案審議入り

2021年5月11日 21時16分

https://www.toben.or.jp/message/pdf/211025ikensho.pdf


1
「重要土地等調査規制法」の速やかな廃止を求める意見書
2021年10月25日
東京弁護士会
会長 矢 吹 公 敏
第1 意見の趣旨
本年6月16日に成立した「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用
状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(いわゆる重要土地等調査規制法。以
下「本法」という。)は、立法目的の合理性を支える立法事実が示されないまま国
民・市民の権利を制約し義務を課すものである上、白紙委任の禁止や罪刑法定主義
に違反し、プライバシー権、思想・良心の自由等の侵害や、表現の自由や集会の自
由等に対する萎縮効果が強く憂慮され、自己負罪拒否特権や財産権を侵害する疑い
がある等、様々な問題を孕むものである。
そして、本法は、国会で全ての参考人が本法の不明確性について指摘したにも拘
わらず、法案の修正が一切なされないまま、数多くの重要事項が附帯決議に付され
て採決に至ったのであり、審議(委員会の審査を含む。以下同じ。)の不十分さは
明らかである。
当会は、本法が深刻な憲法上の問題点を抱えているにも拘わらず、不十分な審議
により成立させられたことに抗議し、かかる問題点を基本方針や政令等で治癒でき
ないため、本法を施行することなく速やかに廃止することを求めるとともに、本法
の問題性についての認識を国民・市民と共有する活動を行い、仮に本法が施行され
た場合には、恣意的な運用により国民・市民の権利に不当な制約が生じることを阻
止するため監視等の活動を引き続き行っていく決意である。
第2 意見の理由
1 はじめに──本法の概要
本法は、自衛隊や米軍の基地などの防衛関係施設、海上保安庁施設などの「重
要施設」の周囲約1000メートルや国境離島を「注視区域」に指定し、内閣総
理大臣が土地や建物の利用者その他の関係者を調査し、必要があれば本人からの
報告等を求め、当該土地等を施設等の機能を阻害する行為の用に供し又はそのお
それがあると認めたときは行為の中止を勧告・命令することができるとするとと
もに、特に重要性の高い地域は「特別注視区域」に指定し、一定面積以上の土地
や建物の売買の際、契約当事者の氏名や利用目的の届出を義務づけるものであ
る。利用者その他の関係者が報告等の義務に違反した場合、中止命令に違反した
場合や届出義務に違反した場合は、刑事罰が科される。
このように、国民・市民の権利を制約し、義務を課し、さらに違反行為に制裁
を科すものであるにも拘わらず、本法は、立法目的の合理性を支える立法事実が
示されず、規制手段についても、憲法第41条及び第31条に明白に違反し、第
38条第1項、第29条第1項・第3項等との関係でも憲法上の問題を孕むもの
である。
2
2 立法目的に関する立法事実が示されていないこと
(本法は、立法目的の合理性を支える立法事実がないのに国民・市民の権利を
制約し義務を課すものであり、違憲というほかないこと)
(1)政府が掲げる立法目的
本法第1条は「重要施設の周辺の区域内及び国境離島等の区域内にある土
地等が重要施設又は国境離島等の機能を阻害する行為の用に供されることを
防止するため、基本方針の策定、注視区域及び特別注視区域の指定、注視区域
内にある土地等の利用状況の調査、当該土地等の利用の規制、特別注視区域内
にある土地等に係る契約の届出等の措置について定め、もって国民生活の基盤
の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与すること」を目的とし
て掲げ、本法案の国会提出で付された理由1) もほぼ同様であった。
また、小此木八郎・領土問題担当大臣(当時。以下「小此木大臣」という。)
は、本法案の必要性について、防衛関係施設等の周辺や国境離島等での外国資
本による土地の買収があるとし、北海道千歳市の航空自衛隊千歳基地、長崎県
対馬市の海上自衛隊対馬防備隊の周辺で地域住民の不安が広がっているほか、
全国各地の地方公共団体から安全保障の観点から土地の管理を求める意見書
も提出されている旨答弁するとともに、外国人又は外国法人と日本人又は日本
法人との間での取扱いの差異については、安全保障の観点からリスクのある重
要施設や国境離島等の機能を阻害する行為については、その主体が外国人、外
国法人であるか又は日本人、日本法人であるかにかかわらず、適切に対処する
ことが必要である旨答弁した2)。
従って、政府が示す本法の立法目的は、我が国を取り巻く安全保障環境の変
化を踏まえ、自衛隊や米軍基地などの防衛関係施設等の周辺の土地につき(外
国資本が取得するなどして)当該施設等の機能を阻害する行為(以下「機能阻
害行為」という。)の用に供されることを防止することにあるといえる。
(2)国会答弁の経緯
(1)で触れた小此木大臣の答弁に対し、野党議員から、全国で1800近
くある自治体のうち意見書を提出したのはわずか16であり、しかも、千歳基
地がある千歳市、同基地から3キロメートルほど離れたところで外国資本によ
る土地の購入があったとされる苫小牧市、対馬防備隊に隣接する土地の購入が
あったとされる対馬市はいずれも意見書を提出していないこと、また提出され
た意見書も、リゾート地への外国資本進出に対する不安を述べるものであり、
安全保障に対する不安を述べるものでは必ずしもないことについての指摘がな
された3)
。政府はこれに対し事実をもって論駁できず、安全保障について地域
1) 「我が国を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえ、重要施設の周辺の区域内及び国境離島等の区域内にある土
地等が重要施設又は国境離島等の機能を阻害する行為の用に供されることを防止するため、基本方針の策定、注
視区域及び特別注視区域の指定、注視区域内にある土地等の利用状況の調査、当該土地等の利用の規制、特別注
視区域内にある土地等に係る契約の届出等の措置について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理
由である。」とされていた。
2) 2021年5月11日衆院本会議。
3) 2021年5月21日衆院内閣委。
3
住民の不安が広がっているという根拠が不確かなものであることが明らかと
なった。
さらに、千歳基地周辺の買収事案は、当該土地が基地の敷地の周囲1000
メートルの範囲内になく、本法では規制できないことも判明した4) 。
また、2013年以来、自衛隊や米軍関係の650の施設についていわゆる
隣接地調査を行い、その対象となったのは概ね6万筆、8万人の所有者であっ
たが、住所、名前から想定して外国人と思われる人が所有する土地はわずか7
筆であった旨、施設等の機能を阻害する行為ないしそのように疑われる行為が
あったという事実は確認されていない旨の答弁もなされた5)6) 。
国会の終盤では、政府は、「不安というのが、これは、どこをつかむような、
雲をつかむような話でもあった」「まず、1キロという定めたところの中で何
があるのかということをまずは調査しようというのがこの法案の目的でござい
ます」と答弁せざるを得ない事態となった7) 。
(3)国会答弁で立法目的に関する立法事実の存在を政府が示せなかったこと
(2)で述べたように、政府は、安全保障上の不安やリスクを明らかにでき
ず、最終的に「雲をつかむような話」であることを自認する事態となった。
我が国が国家として存立するために安全保障に係る一定の立法を行う必要
性は認められる。しかし、安全保障を大義名分として掲げればいかなる立法で
も必要性が認められるわけではない。法律を制定する場合の基礎を形成しかつ
その合理性を支える社会的・経済的・政治的・科学的事実(立法事実)による
裏付けがなければならない。
当然ながら、機能阻害行為が現実化し安全保障上の問題が実際に起きること
がなければ、そのような事態を防止する立法の必要性や合理性が認められな
いというものではない。しかし、わずかでもリスクを想定できれば直ちに立
法の必要性や合理性を認めることができるわけでもない。客観的にみて危険
や危害の生じるおそれのないことを意味する「安全」と、主観的な心のあり様
として不安のないことを意味する「安心」とは明確に異なる。安全保障上のリ
スクは前者の問題であり、そのリスクは「ハザード(危険要素)の重大さ×ハ
ザードに出会う確率」(これはリスクの専門家が考えるリスクの定式であり、
リスクを法理論的見地から検討する場合にも前提とされるべきものである。)
である。「安心」と異なり、ハザードに対する感情的反発等が入り込む余地は
ない。本件で想定されるハザードは、防衛関係施設等の機能が阻害され我が国
の防衛に支障が出ること、その結果として我が国が武力攻撃を受けることと、
国境離島等の離島機能が阻害され領海等の範囲に変更が生じることであるが、
これらを安全保障上のリスクとして捉えるのであれば、そのようなハザードが
4) 2021年5月26日衆院内閣委。
5) 2021年6月3日参院外交防衛委、防衛省大臣官房政策立案総括審議官答弁。
6) 2020年2月25日にも、「これまでの調査の結果、住所が外国に所在している、あるいは氏名から外国人
と推察される方の土地が都内二十三区内において五筆確認をされています。ですが、現時点で、防衛施設周辺の
土地の所有によって自衛隊の運用等に支障が起きているということは確認をされておりません。」との答弁がな
されている(衆院予算委第8分科会、山本ともひろ防衛副大臣答弁)。
7) 2021年6月15日参院内閣委、小此木大臣答弁。
4
現実に発生する確率ないし蓋然性がどの程度かについて客観的に検証されな
ければならない。
しかし、政府は、国会答弁において、そのようなハザードが現実に発生する
確率ないし蓋然性がどの程度かを述べることは一切なく、そのような確率ない
し蓋然性の存在を裏付ける客観的根拠も何ら示さなかった。
数量化可能な実体を持たない「安心」を国家によって実現されるべき規制目
的とすることは、比例原則による人権制約の合理性コントロールを無に帰しか
ねないものであり8)
、また、安心をめぐる悪循環9)
の結果、権力的手段の投入
を無限に拡大させかねないことについて、十分警戒する必要がある。
(4)小括
結局、政府は、立法目的に関する立法事実の存在を明確に示すことができな
かったのであり、本法は、立法目的の合理性を支える立法事実がないのに国
民・市民の権利を制約し義務を課すものであり、違憲というほかない。
本法のような法律を制定するのであれば、法案提出者である政府が、最低
限、立法事実として規制を必要とする危険性が具体的現実的に存在すること、
すなわち、現状では規制がないために、重要施設の周辺の区域内及び国境離島
等の区域内にある土地等が機能阻害行為の用に供されるという弊害・危険が具
体的現実的なものとして存在していること、あるいは、規制をしないで放置す
るとこのような弊害・危険が生じるであろうという予測の確実性を支える具体
的現実的な事情が存在していること、を調査等の上明示すべきである。
3 本法が定める規制手段の違憲性
(1)小序
本法は、規制対象となる区域、調査の範囲、勧告・命令の対象となる行為、
届出の対象となる事項につき、刑事罰の対象になるにも拘わらず条文上の文言
が不明確で、一部は基本方針、政令、内閣府令に白紙委任されるなど、憲法第
41条及び第31条に明白に違反するほか、第38条第1項に違反する疑いが
あり、第29条第1項・第3項との関係でも問題を孕み、目的達成のための規
制手段としての合理性を欠くものである。
(2)本法が憲法第41条及び第31条に明白に違反すること
(本法は建付があまりに不確定・不明確であり、憲法第41条(国会中心立
法の原則)及び第31条(罪刑法定主義)に明白に違反すること)
ア 総論
(ア)法律に不確定・不明確な概念を用いることで行政に決定を丸投げす
8) 具体的な危険に対応する安全が規制目的であるならば、規制によって制約される基本権と比較衡量されるのは、
規制によって得られる安全性すなわち被害に遭う確率の低下度合いという数値化可能な実体であり、その安全性
を上昇させる手段を比例原則によって一定の合理的基盤の上に展開できる。これに対して、「安心」は、いかな
る実体をも手掛かりとして踏まえていないため、比例原則による審査が空転することになる。
9) 安心に対する脅威が宣伝されると、安全を脅かす実体が何ら存在しなくても、安心感の低下が知覚され、そこ
で安心感を向上させるための手段を講じても、そもそも安全が低下していないため、効果がなく、効果がない事
実がさらに安心感の低下を招き、次の措置を要求する根拠とされ、かくして、安心を実現するための権力的手段
の投入は、その合理性を担保するための手掛かりとしての実体を欠き、無限拡大していく危険を秘めている。
5
ることや白紙委任が憲法上許されないこと
憲法第41条は、実質的意味の法律(国民の権利義務に関係する法規
範)は、必ず国会制定法によって定められるか、国会制定法に根拠を有す
べきことを意味する。行政権による恣意的な立法から国民の自由と財産を
守ること(法治主義)、国政上重要な事項は国民を代表する国会による審
議と決定に従うべきこと(民主主義)が理由である。従って、委任命令に
関する法律の委任は、具体的・個別的委任でなければならない(本法では
政令のみでなく基本方針と内閣府令も問題となるが、基本方針は政令と同
じく閣議決定によって定められ(第4条第3項)、内閣府令は内閣総理大
臣が内閣府の命令として発するもので(内閣府設置法第7条第3項)、政
令と同列のものとして論じる。)。
憲法は委任命令の可能性を否定してはいないが(第73条第6号但書)、
委任命令は国会による法律の制定手続を経ずに行われる立法であり、無限
定に認めることはできない。委任命令が許容されるには、法律が委任する
所管事項と規範形式(委任の目的と受任者が立法する際に拠るべき基準)
が具体的に指定され、指定事項の範囲も明確であることが必要である。法
律に不確定・不明確な概念を用いることで行政に決定を丸投げすること、
包括的で不明確な委任(白紙委任)は憲法上許されない。過度の委任が国
会中心立法の原則を空洞化し、国会の立法権の放棄に至ることは、193
3年、「民族および国家の危難を除去するための法律」を制定してヒト
ラー内閣に立法権を全面的に委任してしまった(いわゆる授権法)という
ワイマール憲法下のドイツ議会の事例が示すとおりである。
(イ)罪刑法定主義
憲法第31条は、いわゆる適正手続(デュー・プロセス)条項として一
般に理解されており、同条に続く刑事手続上の権利(人身の自由)規定の
総則的規定として、罪刑法定主義をも宣言するものである。
罪刑法定主義とは、一定の行為を犯罪として処罰するには、いかなる行
為が犯罪とされ、いかなる刑罰が科されるかが、あらかじめ国民の代表者
である議会の制定した法律において明確に定められていなければならない
とする考え方をいう。自由を確保するために犯罪と刑罰の内容があらかじ
め告知されていなければならないとする自由主義の原理と、国民を処罰す
る刑罰法規は主権者たる国民の代表である国会を通じてのみ決定されな
ければならないという民主主義の原理から成り立っている。
罪刑法定主義からは、狭義の法律主義と明確性の原則が導かれる。
狭義の法律主義は、刑罰法規は狭義の法律によってしか規定することが
できないという原則である。狭義の法律とは、国権の最高機関であって、
国の唯一の立法機関である(憲法第41条)国会の制定した法規のみをい
う。国民を処罰する法規は、国民の代表者である国会が制定したものに限
定されるべきであるという民主主義の原理にもとづくものである。それゆ
え、法律よりも下位の法規である行政府の命令(政令・省令・規則等)等
においては、原則として刑罰法規を規定することはできない。この狭義の
6
法律主義には、憲法第73条第6号但書の例外が認められているが、同但
書が「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設け
ることができない」と規定しており、「特に」という文言が用いられてい
ることから、一般的・包括的委任は許されず、特定委任(個別具体的な委
任)でなければならない。罰則の委任が個別・具体的であるといえるため
には、委任を行う法律において、当該委任立法の目的、命令の制定に際し
て考慮すべき事項その他受任者が依拠すべき基準など、委任内容について
具体的な指示を行うことが求められる。犯罪構成要件については、予見可
能な程度に、立法目的と概括的構成要件が示されなければならない。
明確性の原則は、刑罰法規はその内容が明確なものでなければならない
という原則である。何が禁止行為であるかを国民が容易に判断できないよ
うな刑罰法規は、国民の行動の予測可能性を奪い、国民の行動を萎縮させ
ることになる(萎縮効果)ほか、立法者が想定していない行為にまで適用
が拡大されたり、差別的恣意的な適用が行われるおそれがある。明確性は、
通常の判断能力を有する一般人の理解を基準とし、社会通念に照らして、
条文の文言並びに法律の趣旨、目的及び構造から、当該刑罰法規の保護法
益及びその侵害行為の典型例を認識することができ、禁止される行為に該
当するか否かを判断するために考慮すべき主たる要素を理解することが可
能となる程度のものが求められる。
イ 各論
(ア)基本方針について
本法は、①重要施設の施設機能及び国境離島等の離島機能を阻害する
土地等の利用の防止に関する基本的な方向、②注視区域及び特別注視区
域の指定に関する基本的な事項、③注視区域内にある土地等の利用の状
況等についての調査に関する基本的な事項、④注視区域内にある土地等の
利用者に対する勧告及び命令に関する基本的な事項(機能阻害行為の具
体的内容に関する事項を含む。)、⑤その他、重要施設の施設機能及び国
境離島等の離島機能を阻害する土地等の利用の防止に関し必要な事項と
いう重要部分を基本方針で定めるとしている(第4条第2項)。
これらは、法律に不確定・不明確な概念を用いることで、基本方針に白
紙委任するものであって、憲法第41条に反する。
そして、当該委任の目的、命令の制定に際して考慮すべき事項その他受
任者が依拠すべき基準など、委任内容について具体的な指示がなされてお
らず、犯罪構成要件について予見可能な程度に立法目的と概括的構成要
件が示されていないこと、条文の文言並びに法律の趣旨、目的及び構造か
ら、当該刑罰法規の保護法益及びその侵害行為の典型例を認識することが
でき、禁止される行為に該当するか否かを判断するために考慮すべき主た
る要素を理解することが可能となる程度の明確性を備えていないことか
ら、憲法第31条にも違反するものである。
(イ)注視区域について
注視区域は、土地等利用状況調査(第6条)、利用者等関係情報の提供
7
(第7条)、報告の徴収等(第8条)、注視区域内にある土地等の利用者
に対する勧告及び命令(第9条)、損失の補償(第10条)、土地等に関
する権利の買入れ(第11条)の対象となりうる土地の範囲を特定する概
念であり、第25条及び第27条の罰則の構成要件でもあるが、その外延
が不明確で、概念の一部については基本方針や政令に委ねられている。
本法第5条第1項を整理すると、注視区域に指定されるのは、①重要施
設の敷地の周囲概ね1000メートルの区域内の区域で、その区域内にあ
る土地等が当該重要施設の施設機能を阻害する行為の用に供されること
を特に防止する必要があるもの、②国境離島等の区域内の区域で、その区
域内にある土地等が当該国境離島等の離島機能を阻害する行為の用に供
されることを特に防止する必要があるものということになる。
しかし、①については、重要施設のうち生活関連施設が「国民生活に関
連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民
の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるも
ので政令で定めるもの」(第2条第2項第3号)という定めになっており、
その外延が極めて不明確であり、政令に白紙委任するものといわざるを得
ない。生活関連施設の施設機能が「生活関連施設の国民生活の基盤として
の機能」と定義されていること(同条第4項第3号)からすれば、生活関
連施設はインフラ機能を持つものということになるだろうが、そうだとし
ても、その範囲は、道路、鉄道、港湾、ダム、学校、病院、公園、社会福
祉施設等まで広がりかねない。政府答弁からも、本法は、生活関連施設該
当性について何らの限定も付さず、政令に白紙委任するものであることが
明らかとなっている10) 。
また、①については、「当該重要施設の施設機能を阻害する行為の用に
供されることを特に防止する必要がある」か否かをどのように判断するの
かという問題もある。注視区域の指定に関する基本的な事項は基本方針で
定めることとされており(第4条第2項第2号)、この判断方法は基本方
針で定められることになろうが(その問題性は(ア)で指摘した。)、(オ)
で述べるように機能阻害行為の具体的内容が全く明確でなく、注視区域に
指定されると注視区域内にある土地等の利用者に対する勧告及び命令(第
9条)、当該命令に対する違反に係る罰則(第25条)の対象となりうる
ので、罪刑法定主義の観点からも問題を孕む。
10) 「第2条第2項第3号に規定する生活関連施設については、具体的な施設の類型を政令で定めることとしてお
ります。現時点においては、原子力関係施設及び自衛隊が共用する空港を政令で指定することを想定しており、
御指摘のあった鉄道施設、ダムなどの水源地、原子力発電所以外の発電所、通信施設、水道施設、ガス施設を指
定することは想定しておりません。政令で指定する施設の類型については、安全保障をめぐる内外情勢等に応じ、
引き続き検討してまいります。」との答弁(2021年6月4日参院本会議、小此木大臣答弁)がある一方、「御
指摘ございましたように、現時点では、鉄道施設でございますとかあるいは放送局などのインフラ施設につきま
しては、生活関連施設として政令で定めることは想定してございません。ただし、どのような施設を生活関連施
設として本案の対象とするかにつきましては、この先の国際情勢の変化あるいは技術の進歩等に応じ、柔軟かつ
迅速に検討を続けていく必要があるものと考えてございます。その結果として、将来的にそれらの施設を生活関
連施設として政令で定めることはあり得るものと考えているところでございます。」との答弁(同年5月26日
衆院内閣委、内閣官房内閣審議官答弁)がなされている。
8
②については、国境離島等及び離島機能の定義(第2条第3項・第5項)
からは領海基線近傍の範囲が注視区域に指定される可能性が高いと思わ
れるが、それ以外の部分が注視区域に指定される可能性も否定されておら
ず、離島全体が注視区域に指定される可能性も決して低いとはいえない。
また、ここでも「その区域内にある土地等が当該国境離島等の離島機能を
阻害する行為の用に供されることを特に防止する必要がある」か否かをど
のように判断するのかという問題があり、①について述べたのと同様の問
題状況がある。
しかも、政府は、規制対象区域と想定する国境離島が484か所、防衛
関係施設が500か所以上としているが、検討している対象地域の具体的
なリストの開示を拒んだ。これは、立法段階で規制対象に関する政府の説
明責任が果たされなかったということであり、委任立法の点でも明確性の
点でも深刻な問題が生じているというほかない。
(ウ)特別注視区域について
特別注視区域は、特別注視区域内における土地等に関する所有権等の
移転等の届出(第13条)の対象となりうる土地の範囲を特定する概念で
あり、第26条及び第27条の罰則の構成要件でもあるが、その外延が不
明確で、概念の一部については基本方針や政令に委ねられている。
本法第12条第1項によると、特別注視区域に指定されるのは、注視区
域のうち、①注視区域に係る重要施設が特定重要施設11)である場合、②
注視区域に係る国境離島等が特定国境離島等12)である場合である。
しかし、①については、特定重要施設の外延が不明確である。法文上の
定義(注11)はあるものの、法文から読み取れるのはせいぜい、その重
要性が「国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保
障」(第1条)の観点からのものであるという点にとどまり、それ以上の
手掛かりは法文中にない。政府答弁によれば、防衛関係施設については指
揮中枢機能及び司令部機能を有する施設、警戒監視、情報機能を有する施
設、防空機能を有する施設、離島に所在する施設が想定されるとのことで
あるが13)、それならばこうした類型を本法の中に例示すべきであろう。
さらに、重要施設のうち海上保安庁の施設及び生活関連施設については、
どのようなものが特定重要施設に当たるのかは政府答弁でも明らかにされ
なかった。
②についても、特定国境離島等の外延が不明確であり、①と同様の問題
がある。少なくとも「その離島機能が特に重要なもの」の判断基準は、本
法において示す必要があろう。
また、特別注視区域の指定に関する基本的な事項は基本方針で定めるこ
ととされているが(第4条第2項第2号)、その問題性は(ア)で述べた
11) 「重要施設のうち、その施設機能が特に重要なもの又はその施設機能を阻害することが容易であるものであっ
て、他の重要施設によるその施設機能の代替が困難であるもの」と定義されている。
12)
「国境離島等のうち、その離島機能が特に重要なもの又はその離島機能を阻害することが容易であるものであっ
て、他の国境離島等によるその離島機能の代替が困難であるもの」と定義されている。
13) 2021年5月21日衆院内閣委、小此木大臣答弁。
9
とおりであり、特別注視区域に指定されると特別注視区域内における土地
等に関する所有権等の移転等の届出(第13条)、届出義務違反等に係る
罰則(第26条、第27条)の対象となるので、罪刑法定主義の観点から
も問題を孕む。
(エ)土地等利用状況調査について
注視区域内にある土地等は、土地等利用状況調査(第6条)の対象とさ
れ、土地等利用状況調査のため、利用者等関係情報の提供(第7条)、報
告の徴収等(第8条)の対象となり、報告の徴収等において求められる報
告若しくは資料の提出についての違反行為は刑事罰の対象となる(第27
条)。
まず、本法では、土地等利用状況調査(第6条)における調査の範囲が
全く明確にされておらず、条文上は何らの制限もない。
また、土地等利用状況調査のために、内閣総理大臣は、関係行政機関の
長及び関係地方公共団体の長等に対して、当該土地等利用状況調査に係
る注視区域内にある土地等の利用者等関係情報のうちその者の氏名又は
名称、住所その他政令で定めるものの提供を求めることができ(第7条第
1項)、情報の提供を求めた結果、土地等利用状況調査のためなお必要が
あると認めるときは、注視区域内にある土地等の利用者等に対し、当該土
地等の利用に関し報告の徴収等ができる(第8条)とされているが、利用
者等に利用者(所有者又は所有権以外の権原に基づき使用若しくは収益
をする者(第4条第2項第4号))のほかどのような者が含まれるのか、
関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長等が提供することとなる情
報が、当該利用者等の氏名又は名称、住所のほかどのような事項に亘るの
か、土地等利用者等が報告又は資料の提出を求められる事項はどのような
ものなのかが明らかでない。
利用者等の範囲について、政府は、個々のケースによって様々であると
して具体的な例示を拒んだが14)、これは、土地等の利用状況を知り得る
者であれば無限定に利用者等に含まれうること、調査の人的範囲が全く明
確でなく限定性に乏しいことを意味するものである。
本法で明示されている氏名又は名称、住所のほかに、内閣総理大臣が関
係行政機関の長及び関係地方公共団体の長等に対して提供を求める土地
等の利用者等関係情報の範囲についても、政府は、利用者等の本籍、国籍、
生年月日等を検討していると述べる一方15)、「土地等の利用者や利用目
的等を特定するために必要な情報」を入手すると答弁し16)、これらの答
14) 小此木大臣は、「第8条の報告徴収等は、土地等の利用状況を把握するために行うものであり、その対象者と
しては、土地等の利用状況を知り得る者が該当します。」「対象となる土地等の利用状況を知り得る者は、個々
のケースによって様々であると考えられ、その他の関係者について具体的に例示することは必ずしも適当ではな
いと考えています。」と答弁している(2021年6月4日参院本会議)。
15) 2021年6月8日参院内閣委、内閣官房内閣審議官答弁。
16) 2021年6月15日参院内閣委、内閣官房内閣審議官答弁。この答弁は、例えば公立図書館で借りた本の履
歴情報、自治体が持っている所得、生活保護の有無といった個人情報が第7条で提供を求められることになるの
ではないかとの野党議員の質問に対してなされたものであるが、続けて「御指摘ございました様々な情報でござ
いますが、これは土地の利用に関係するというものでなければ、こういったものを収集するということは考えて
10
弁自体、提供を求めることができる情報の範囲が政令の定め次第でいかよ
うにでも広がることを示すものである。その情報が利用者等の思想信条や
プライバシー等にまで及ばないという保証はどこにもない。
利用者等が報告又は資料の提出を求められる事項の範囲について、政府
は、土地等の利用者の氏名、住所等、土地等の利用の具体的状況などを想
定しており、機能阻害行為を行っているか否かや土地等利用者の氏名、住
所といった個人情報について報告を求めることもありうる旨答弁している
が17)、(オ)で述べるように、何が機能阻害行為に当たるかが全く不明
確であるから、利用者等が報告又は資料の提出を求められる事項の範囲も
明確性・限定性に欠けることになる。また、利用者等関係情報についても
報告又は資料の提出を求められることになろうが、その範囲が第7条第1
項の政令に委ねられるため、前段落で述べたのと同様の懸念が生じる。特
に報告の徴収等(第8条)においては、報告又は資料の提出に係る義務違
反が刑事罰の対象とされているため(第27条)、この懸念はそれだけ大
きいものとならざるを得ない。
(オ)注視区域内にある土地等の利用者に対する勧告及び命令について
本法は、注視区域内にある土地等の利用者が当該土地等を機能阻害行
為の用に供し、又は供する明らかなおそれがあると認めるときに、中止等
を勧告し、勧告に従わなかった場合は命令を発し、命令に違反したときは
刑事罰の対象とするが(第9条、第25条)、この一連のプロセスの最初
に位置づけられる機能阻害行為又はその明らかなおそれの概念が全く不
明確である。
政府は、機能阻害行為の具体例として想定している類型を挙げつつも18)

それらを本法中に例示列挙することを徹底的に拒み、本法施行後に基本方
針において例示するという態度を崩さなかった19)。
しかし、最も重要な構成要件である機能阻害行為又はその明らかなおそ
れについて、本法中にその内容が一切書き込まれていないことは、委任立
法の観点からも罪刑法定主義の見地からも大いに問題がある。基本方針で
定めればよいという問題では全くない。
(カ)特別注視区域内における土地等に関する所有権等の移転等の届出に
ついて
本法は、特別注視区域内にある一定面積(建物にあっては床面積)以上
の土地等に関する所有権等の移転又は設定をする契約(土地等売買等契
ございません。」と答弁している。
17) 2021年5月21日衆院内閣委、小此木大臣答弁。
18) 小此木大臣は、「例えば、重要施設に関しては重要施設の機能に支障を来す構造物の設置など、国境離島等に
関しては領海基線の根拠となる低潮線に影響を及ぼすおそれがあるその近傍の土地の形質変更などが、それぞれ、
御指摘のあった機能阻害行為に該当し得るものと考えています」と答弁し(2021年5月11日衆院本会議)、
内閣官房領土・主権対策企画調整室土地調査検討室長は、機能阻害行為として具体的に想定している行為につい
て、「より具体的には、自衛隊のレーダーなどといった防衛関係施設に対する電波妨害、原子力関係施設に対す
る電波妨害、離島に関しまして港湾の施設の利用を阻害し得る土砂の集積等」と答弁している(2021年5月
26日衆院内閣委)。
19) 2021年5月11日衆院本会議、小此木大臣答弁など。
11
約)を締結する場合に、当事者に、当事者の氏名又は名称及び住所並びに
法人にあってはその代表者の氏名、当該土地等の利用目的等のほか内閣府
令で定める事項を届け出ることを義務づけるとともに(第13条第1項な
いし第3項)、これらの届出があったときは、内閣総理大臣が調査を行い
(同条第4項)、この調査については利用者等関係情報の提供、報告の徴
収等の規定(第7条、第8条)が準用され(第13条第5項)、また、こ
れらの届出義務に対する違反、報告の徴収等における報告若しくは資料の
提出義務に対する違反を刑事罰の対象とする(第26条、第27条)もの
である。
特別注視区域の不明確性については(ウ)で述べたとおりであり、届出
事項の一部につき内閣府令で定めるとされているが、具体的にどのような
ものが定められることになるのかが本法の条文から全く読み取れず、委任
立法の点でも罪刑法定主義の点でも問題である20)。
なお、本法は国籍による取扱いの区別を設けておらず、国会でもそれに
沿う答弁がされているにも拘わらず21)、なぜ内閣府令で「新たに所有者
となる者の国籍」を届出事項とするのかという問題も存在する。本法の建
付や上記答弁で示された本法の基本的な考え方と整合せず、委任の限界を
超えたものと評価せざるを得なくなるし、法律が認めていない国籍による
差別的取扱いを内閣府令で可能とする点でも大いに問題がある。外国人に
対する差別意識の助長も強く懸念される。
ウ まとめ
以上より、本法は憲法第41条及び第31条に明白に違反する。
(3)(2)から生じる人権侵害に対する懸念
(本法の不明確性から、プライバシー権や思想・良心の自由等の侵害、表現
の自由や集会の自由等への萎縮効果が強く懸念されること)
ア プライバシー権や思想・良心の自由等の侵害の懸念
(2)・イ・(エ)で述べたとおり、内閣総理大臣が関係行政機関の長及
び関係地方公共団体の長等に対して提供を求める土地等の利用者等関係情
報(第7条)の範囲は、政令の定め次第でいかようにでも広がりうる。「土
地等の利用者や利用目的等を特定するために必要な情報」が利用者等の思想
信条やプライバシー等にまで及ばないという保証はどこにもない。
20) 小此木大臣は、「内閣府令で定める届出事項としては、現時点では、土地等の買主の国籍、土地等の地目及び
利用の現況等を想定しています」(2021年5月11日衆院本会議)、「御指摘第13条第1項第5号の内閣
府令で定める事項としては、御指摘のあった、新たに所有者となる者の国籍、土地の地目や建物の種類、土地等
の利用の現況に加え、例えば、建物の構造、契約予定年月日、売買や贈与といった契約の種別等を想定しており
ます。」(同月21日衆院内閣委)と答弁しているが、これらの事項については第13項第1項第1号ないし第
4号のように具体的に条文に書くことが可能であるし、仮に法文上は一定程度概括的に示す必要があるとしても、
届出事項が土地等売買等契約の内容に関するものに限定されることくらいは法文に書き込めるはずである。そう
した最小限の限定を付さないと、届出義務違反があった場合に刑事罰の対象となるにも拘わらず、届出事項が法
律上不明確で、行政権による恣意的な立法がされることになりかねない。
21) 小此木大臣は、「安全保障の観点からリスクのある、防衛関係施設等の重要施設や国境離島等の機能を阻害す
る行為については、その主体が外国人、外国法人であるか又は日本人、日本法人であるかにかかわらず、適切に
対処することが必要であり、本法案は、内外無差別の枠組みとしています。」(2021年5月11日衆院本会
議)と答弁し(第2・2・⑴、注2参照)、以降も同様の答弁を繰り返している。
12
同じく(2)・イ・(エ)で述べたとおり、報告の徴収等(第8条)の関
係においては、土地等利用者等は、利用者等関係情報についても報告又は資
料の提出を求められることになると考えられ、その範囲が第7条第1項の政
令に委ねられるため、プライバシー権や思想・良心の自由等の侵害が懸念さ
れる。特に、報告の徴収等(第8条)においては、報告又は資料の提出に係
る義務違反が刑事罰の対象とされているため(第27条)、これらの人権侵
害についての懸念はそれだけ大きいものとならざるを得ない。
政府は、当該土地等の利用に関連しない思想、信条等に係る情報を収集す
ることは想定していない旨答弁しているが22) 、当該土地等の利用に関連す
る場合には思想、信条等に係る情報を収集することがありうるとも受け取れ
る上、仮に現在の政府は思想、信条等に係る情報の収集を想定していないと
しても、法律の条文には何らの制約もないから、現在の政府の想定とは異な
る新たな解釈がなされる可能性は否定できない。
自衛隊情報保全隊が、2004年頃、自衛隊のイラク派遣に反対する活動
等を行っていた一般市民の公表していない本名や職業、さらに当該活動等
(自衛隊と無関係のものを含む。)の時間、場所、内容等の情報を収集、保
有していた事実23) は、公権力が明確な法的根拠がなくても国民・市民の情
報収集を行い、かつその程度も過度に亘り、プライバシー等を侵害する事態
があることを示すものである。公権力によるこのようなプライバシー等の侵
害に対する懸念には、十分な理由がある。ましてや、本法のように限界が不
明確な調査権限を行政権に与えれば、かかる懸念は一層増大する。
イ 表現の自由や集会の自由等に対する萎縮効果の懸念
アで述べたプライバシー等への侵害の懸念は、利用者等の人的範囲が不明
確であることとも相俟って、特に自衛隊や米軍の基地等の周辺で自衛隊や米
軍の活動を観察する活動やそれらについて一定の政治的立場を表明する活
動を行う者について顕著に生じ、これらの者の表現の自由や集会の自由等に
対する萎縮効果が強く憂慮される。
特に、報告の徴収等(第8条)においては、報告又は資料の提出に係る義
務違反が刑事罰の対象とされているため(第27条)、これらの萎縮効果に
ついての憂慮はそれだけ大きいものとならざるを得ない。
さらに、(2)・イ・(オ)で述べたとおり、機能阻害行為又はその明ら
かなおそれの概念が全く不明確であり、どのような行為が処罰対象とされる
のかが不明確であるため、国民・市民の行動の予測可能性が奪われ行動が萎
縮してしまい、特に上記の表現の自由や集会の自由等に対する萎縮効果が強
く憂慮されるところである。
表現の自由は、民主的政治過程の維持並びに個人の自律及びそれに基づく
人格的発展のために不可欠である。また、現代民主主義社会においては、集
22) 内閣官房内閣審議官は、「本法案に基づきます調査は、注視区域内にあります土地等の利用者等につきまして、
その土地等の利用に関連しない、例えば、特定の政治思想を持っているか否かを調査するものではなく、御指摘
のございました思想、信条等に係る情報を収集することは想定していない」と答弁している(2021年5月2
6日衆院内閣委)。
23) 仙台高判平成28年2月2日判時2293号18頁参照。
13
会は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形
成、発展させ、また、相互に意見や情報等を伝達、交流する場として必要で
あり、さらに、対外的に意見を表明するための有効な手段であるから、集会
の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重さ
れなければならない24) 。
これらの民主主義社会の根幹をなす自由を、提供を求める情報の範囲を政
令に白紙委任し機能阻害行為の内容を具体的には何も定めないという拙劣
な立法によって萎縮させることは、断じて許されるものではない。
ウ 留意事項も何ら歯止めとならないこと
本法第3条は、この法律の規定による措置の実施に当たっての留意事項と
して、「内閣総理大臣は、この法律の規定による措置を実施するに当たって
は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、注視区域内にある土地等が重要施設
の施設機能又は国境離島等の離島機能を阻害する行為の用に供されること
を防止するために必要な最小限度のものとなるようにしなければならない。」
と定めるが、この文言は規制手段に対する歯止めとして機能しない。
すなわち、「個人情報の保護に十分配慮しつつ」という文言については、
仮にこの文言が、本法による利用者等関係情報の提供(第7条)や報告の徴
収等(第8条)において、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律
を遵守すべきこと、具体的には、法令の定める所掌事務を遂行するため必要
な場合に限り、個別的具体的に特定された利用目的の達成に必要な範囲にお
いてのみ、個人情報の収集が許されること(同法第3条第1項・第2項)を
意味すると解しても、(2)・イ・(エ)で述べたとおり、本法は、内閣総
理大臣が収集できる個人情報の範囲について何らの制約も置くことなく政
令に委任しており、収集できる情報の範囲が政令の定め次第でいかようにで
も広がりうる建付になっているため、同法第3条第1項・第2項の拘束が実
質的な歯止めとして機能しうるものではない。
「注視区域内にある土地等が重要施設の施設機能又は国境離島等の離島
機能を阻害する行為の用に供されることを防止するために必要な最小限度の
ものとなるようにしなければならない」という文言についても、国民・市民
の権利を制約し義務を課すにあたっては、その手段が必要最小限度にとどま
らなければならないという当然のことを確認するものに過ぎない。必要最小
限度を超える規制がなされれば、つまり国民・市民のプライバシー権、思想・
良心の自由、表現の自由、集会の自由等を不当に侵害したり萎縮させたりす
るような運用がなされた場合には、当然それは違憲となるが、上記文言は、
政府が実際にそのような運用をすることはないということを保証するもので
はない。
結局、これらの文言が国民・市民の権利・自由の侵害や萎縮効果に対する
歯止めとなることは期待できない。
(4)本法が憲法第38条第1項に違反する疑いがあること
(本法は、機能阻害行為につき刑事罰をもって報告等を強制する点で憲法第
24) 最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁。
14
38条第1項(自己負罪拒否特権)に違反する疑いがあること)
注視区域内にある土地等については、土地等利用状況調査(第6条)の対象
とされ、土地等利用状況調査のため、利用者等関係情報の提供(第7条)、報
告の徴収等(第8条)の対象となり、報告の徴収等において求められる報告若
しくは資料の提出に係る違反行為は刑事罰の対象となる(第27条)。
そこで、(第9条の勧告・命令の対象となり命令に従わない場合は第25条
の刑事罰の対象となる)機能阻害行為について、第27条の刑事罰をもって第
8条の報告又は資料の提出を強制することが、自己負罪拒否特権を侵害するも
のではないかが問題となる。
憲法第38条第1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と
定める(自己負罪拒否特権)。判例によれば、同項の意味は「何人も自己が刑
事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されない」ことにある25)

自白の強要には、自分自身を裏切ることの強要という非人間性が内在し、獲得
のための手段が肉体的精神的苦痛をもたらすおそれがあることから、かかる権
利が保障されている。
他方で、国民の生命・自由・安全を確保するという行政目的のために一定の
申告・報告義務を課すことが直ちに憲法違反となるわけではなく、申告・報告
義務及びそれに違反した場合の制裁を正当化できるだけの必要性と合理性が
認められれば、憲法上正当化される。
しかし、2で述べたとおり、本法が立法目的の合理性を支える立法事実を欠
くものであることからすると、申告・報告義務及びそれに違反した場合の制裁
を正当化できるだけの必要性と合理性が認められる余地はない。
従って、本法は、必要性と合理性が認められないにも拘わらず、機能阻害行
為について、第27条の刑事罰をもって、第8条の報告又は資料の提出を強制
するものとして、憲法第38条第1項に違反する疑いがある。
(5)本法が憲法第29条第1項・第3項との関係で問題を孕むこと
((特別)注視区域の指定により土地等の価値が減じた場合の補償を定めな
い本法は、憲法第29条第1項・第3項の関係で問題を孕むこと)
本法は、①注視区域内にある土地等の利用者に対する勧告及び命令(勧告
等)を受けた者が当該勧告等に係る措置をとったことによりその者が損失を受
け、又は他人に損失を与えた場合においては、その損失を受けた者に対して、
通常生ずべき損失を補償すること(第10条)、②注視区域内にある土地等に
ついて、その所有者から勧告等に係る措置によって当該土地等の利用に著しい
支障を来すこととなることにより当該土地等に関する権利を買い入れるべき旨
の申出があった場合においては、特別の事情がない限り、これを買い入れるも
のとし、価額は時価によること(第11条)を定めている。
しかし、本法は、注視区域内の土地等が土地等利用状況調査(第6条)、利
用者等関係情報の提供(第7条)、報告の徴収等(第8条)、土地等の利用者
に対する勧告及び命令(第9条)の対象となること、特別注視区域内の土地等
が所有権等の移転等の届出(第13条)の対象となること、これらの違反が刑
25) 最大判昭和32年2月20日刑集11巻2号802頁。
15
事罰の対象となること(第25条ないし第27条)から、当該土地等の取引が
敬遠される可能性があることを十分に配慮していない。
当該土地等の取引が敬遠されるような場合、(特別)注視区域内の物件の所
有者は、(特別)注視区域の指定がなされなかった場合と比較してより低い価
格でしか当該物件を売却できなくなることも考えられる。そこで、(特別)注
視区域の指定自体が、憲法上保障された財産権を侵害しないか、その損失の補
償の要否が問題となる。
そもそも、財産権の制約は「公共のために」(憲法第29条第3項)なされ
ること、つまり社会全体の利益に役立つことが必要である。本法は、立法目的
の合理性を支える立法事実を欠くから、この要件を充足していない。
仮にこの要件が充足されたとしても、①特定の個人や企業のみが損失を被る
場合であって(特別犠牲)、②財産権への侵害が内在的制約として受忍すべき
限度にとどまらない場合には損失補償が必要である。②については、Ⓐ財産の
剥奪ないし当該財産権の本来の効用の発揮を妨げることとなるような侵害に
ついては、当然補償を要し、Ⓑその程度に至らない制約については、ⓐ財産権
の制約が社会的共同生活との調和を保っていくために必要とされるものである
場合には、財産権の社会的拘束の表れとして補償は不要であるが、ⓑ他の特定
の公益目的のため当該財産権の本来の社会的効用とは無関係に偶然に課され
る制約については補償を要すると解されている。
ここで問題となる財産権の制約は、①については、(特別)注視区域内の土
地等の所有者等のみが制約を課せられる以上、この要件は充足される。②につ
いては、(特別)注視区域内の土地等の価値の下落であり、価値の全部が滅失
するわけではないから、Ⓐにはあたらないとしても、安全保障という社会的共
同生活との調和とは別の公益を目的とし、土地等の所有権等の本来の社会的
効用とは無関係に、たまたま所有等している土地等が(特定)重要施設の約1
000メートル内にあるかといった基準で偶然に課される制約であるから、Ⓑ
ⓐにはあたらず、Ⓑⓑにあたる。よって、憲法上、損失補償が必要となる。
補償の請求は、法令に基づいて行われるのが通例であるが、判例は、法令が
憲法上保障が必要であるにも拘わらず正当な補償を定めていない場合には、憲
法第29条第3項を根拠に直接補償を請求することができると解している26)

この立場に立てば、補償の規定を備えていない法令も、そのために直ちに違憲
無効とはならず、本法についても、上記の財産権の制約について正当な補償を
定めていないことを理由としては直ちに違憲無効となることはない。しかし、
本来は本法で上記の財産権の制約に係る正当な補償について定めておくべき
であったことは何ら否定されず、この場面での補償が不要であるとの憲法不適
合的判断27) を前提とする本法の建付には問題がある。
従って、本法は、憲法第29条第1項・第3項との関係でも問題を孕むもの
26) 最大判昭和43年11月27日刑集22巻12号1402頁。
27) 内閣官房領土・主権対策企画調整室土地調査検討室次長は、「注視区域、特別注視区域の指定、及びこれらに
伴う措置につきましては、法の目的を実現するための必要最小限度のものと考えておりまして、政府として補償
するという予定はございません。」と答弁している(2021年5月26日衆院内閣委)。
16
といわざるを得ない。
(6)小括
本法は、憲法第41条及び第31条に明白に違反し、その結果、プライバ
シー権や思想・良心の自由等への侵害、表現の自由や集会の自由等に対する萎
縮効果が強く憂慮されること、また、第38条第1項に違反する疑いがあり、
第29条第1項・第3項との関係で問題を孕むものであることから、目的達成
のための規制手段としての合理性を欠くものであるといわざるを得ない。
4 実質審議の不十分さ
(本法は、検討すべき点についての検討が十分になされず、法文の不明確さを
問 題視する参考人の意見を全く踏まえないまま採決されたこと)
(1)短時間の審議時間と不十分な答弁
本法については、その成立過程で、十分な議論が尽くされたかについても強
い疑念がある。
3で述べたような様々な人権侵害や萎縮効果が懸念される以上、慎重な審議
が求められたところ、十分な審議時間が費やされたとは到底言えない。衆議院
では2021年5月11日に審議入りしたが、内閣委員会での質疑はわずか1
2時間30分に過ぎなかったのに、同年6月1日には本会議で採決された。参
議院でも、同月4日の審議入りからわずか14時間の審議で同月16日未明に
採決された。
審議の内容についても、この間の審議における政府答弁は、質疑に対して具
体的な説明がなされていないものが多く、特に機能阻害行為についての具体的
な例示はほとんど示されることがないままであった。
さらに、基本方針や政令等に白紙委任されていることや、判断にあたっての
審議会への諮問などの定めがあるにとどまり国会への報告や承認などの手続が
ないことは国会軽視ではないかという質問には、実質的な答弁がされなかった。
国民主権・代表民主制という憲法の基本原理が蔑ろにされたといわざるを得な
い。
(2)参考人も問題視していたこと
本法が審議された参議院内閣委員会では、2021年6月15日、3人の参
考人が招致され、与党招致の参考人も含めいずれの参考人も、法文の明確性に
問題があるためより明確な法文とする必要があると発言している。
しかしながら、この点について十分に審議することなく、また、より明確性
を高めたり、具体的な例示によって限定するなどの修正はなされることなく、
参考人質疑の直後に採決がなされた。
同月16日未明の参議院本会議では、与党から一人も賛成討論に立つことな
く採決が行われた。
(3)附帯決議が意味するところ
本法には、実に、衆議院では16、参議院では17の附帯決議が付されてい
る。参議院で追加された1項目を除いてほぼ共通の内容であり、その趣旨は3
で指摘した問題点と重なる部分が少なくない。
17
結局両院で本法案が可決されて成立したとはいえ、これほど多くの附帯決議
が付されたこと自体が、両院がともに本法の問題性や不十分さを認識している
ことの表れである。採決するに機が熟したと言えるほどに審議が尽くされてい
たとは到底言えない。
すなわち、本来は国会がそのような問題点に関して審議において深く検討し
適切な修正等を図るという役割を果たすべきであったが、そうすることなく、
審議を尽くさないまま本法を成立させてしまったのである。
5 結論
以上述べてきたとおり、本法は、立法目的の合理性を支える立法事実が示され
ないまま国民・市民の権利を制約し国民・市民に義務を課すものであり、規制手
段を見ても、憲法第41条及び第31条に明白に違反し、その結果、プライバ
シー権や思想・良心の自由等の侵害が懸念され、表現の自由や集会の自由等に対
する萎縮効果が強く憂慮されるものである上、第38条第1項に違反する疑いが
あり、第29条第1項・第3項との関係で問題を孕むものである。
そして、本法は、国会において全ての参考人が本法の不明確性について指摘し
たにも拘わらず、法案の修正が一切なされないまま、重要事項を附帯決議で指摘
するという審議の不十分さを自認するような形で採決されたものである。
当会は、本法が上記のような深刻な憲法上の問題点を抱えるものであるにも拘
わらず、不十分な審議で成立させられたことに抗議するとともに、本法の憲法上
の問題点は基本方針や政令等をいかに定めようと解決されるものではないから、
本法を施行することなく、速やかに廃止することを求めるとともに、本法の問題
性についての認識を国民・市民と共有する活動を行い、仮に本法が施行された場
合には、恣意的な運用により国民・市民の権利に不当な制約が生じることを阻止
するため監視等の活動を引き続き行っていく決意である。
以上

https://www.toben.or.jp/message/pdf/211025ikensho.pdf
重要土地等調査規制法」の速やかな廃止を求める意見書
2021年10月25日
東京弁護士会
会長 矢 吹 公 敏


参院内閣委員会で15日夜、重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案(重要土地利用規制法案)の審議がおこなわれ、会派を代表して木戸口英二議員が反対討論をおこないました。

 木戸口議員は、わが国の安全保障等に寄与することを目的として、防衛関係施設等の周辺や国境離島等の区域内にある土地・建物の不適切な利用を防止するための法制度を設ける必要性は理解するとしたうえで、審議を重ねるごとに、問題が明らかになっていったと振り返りました。

 まず、注視区域及び特別注視区域の指定対象となり得る重要施設及び国境離島等の範囲が広く、あいまいであることを問題視しました。特に、「生活関連施設」の範囲はどこまで広がるか定かではなく、「現時点で政令指定が想定されるのは原子力発電所と自衛隊が共用する民間空港とされたが、鉄道施設など現時点で想定していないとされるものも、あいまいな条文からは排除されていない」と指摘しました。一方、市ヶ谷の防衛省本省周辺などの市街地の特別注視区域への指定は、経済的社会的観点に留意して見送ることで与党内で合意しているという報道があること、在日米軍施設をどこまで指定するかも、今後の米国側との協議次第であることを挙げ、対象区域の指定の仕方が不明瞭であることを批判しました。

 また、2年以下の懲役と200万円以下の罰金という罰則規定のある命令の対象となり得る、重要施設や国境離島の「機能を阻害する行為」が法案に例示されていないことを問題視し、「恣意的な運用のおそれが排除できず、罪刑法定主義の点で大きな欠陥」と批判し、「あまりに白紙委任的で、とても賛成できない」と表明しました。

 法案第6条の注視区域内にある土地等の利用の状況についての調査の規定では、調査対象者も手法も調査事項も限定されていないことも問題視しました。公簿収集や報告徴収以外にも、重要施設を所管又は運営する関係省庁、事業者や地域住民から機能阻害行為に関する情報を提供してもらう仕組みが検討されており、「法の目的の範囲内で必要最小限度の措置をおこなうとの規定も、歯止めになる保証はない」と主張し、そのような情報を内閣府に新設する部局で一元的に収集・管理することも含め、プライバシー侵害の懸念が拭えないと批判しました。

 木戸口議員は、これらのような理由から法案を成立させることには反対であると述べ、討論を終わりました。

 討論の後、採決がおこなわれ、与党等の賛成多数で法案は可決されました。

重要土地利用規制法案反対討論(予定稿).pdf

【参院内閣委員会】重要土地利用規制法案に反対討論、木戸口英二議員



2024年4月3日(水)

主張

土地規制区域指定

住民の権利侵す法律は廃止を

 「在日米軍施設が集中し、環境問題や米軍関係の事件・事故が後を絶たず、土地の有効利用の阻害要因になっている。防衛関係施設の周辺を指定することは、さらなる負担を強いるものであるとして極めて強い反対意見がある」。沖縄県が政府に提出した意見書です。

 岸田文雄政権は3月29日、土地利用規制法に基づき、安全保障上重要とする米軍・自衛隊基地の周辺と国境にある離島などの土地利用を規制する区域として28都道府県184カ所を指定しました。

 同法に基づく土地規制は経済活動やまちづくりに影響を与え、基地の負担に苦しむ住民にさらなる負担を強います。基地や原発などの周辺住民を政府が監視し、憲法が保障するプライバシー権や財産権、思想・良心の自由を侵害します。指定は白紙に戻すべきです。

■域内全住民を監視

 土地利用規制法は2021年6月に成立が強行されました。政府が、米軍や自衛隊の基地、海上保安庁の施設、原子力関係施設など「重要施設」の周囲約1キロ以内と国境にある離島を「注視区域」に指定し、区域内の土地・建物の所有者や賃借人などの個人情報や利用実態を調査するというものです。調査の結果、「重要施設」や国境離島の「機能を阻害する行為」やその「明らかなおそれ」があると判断すれば、利用中止の勧告・命令を行います。従わない場合は刑事罰が科されます。

 「注視区域」のうち、司令部機能を持つなど特に重要とみなすものは「特別注視区域」に指定し、200平方メートル以上の土地・建物の売買に事前の届け出を罰則付きで義務付けています。

 今回の指定は4回目で、これで一通りの作業が終わり、これまでと合わせ全都道府県583カ所の指定が決まりました。

 今回、沖縄県の嘉手納基地や普天間基地をはじめ、三沢基地(青森県)、横田基地(東京都)、横須賀基地(神奈川県)、岩国基地(山口県)、佐世保基地(長崎県)など、全国の主要米軍基地の周辺が「特別注視区域」に指定されました。

■新たな基地負担に

 今回の指定について、とりわけ沖縄県では「新たな基地負担」だと批判が上がっています。

 嘉手納基地など米軍基地が町面積の82%を占める嘉手納町では、町の全域が「特別注視区域」に指定されました。同じく嘉手納基地などを抱え、町面積の51%が米軍基地の北谷町も、ほぼ全域が「特別注視区域」となりました。

 両町とも、広大な米軍基地に圧迫され、狭隘(きょうあい)な土地でまちづくりを強いられてきました。その上、一定面積以上の土地・建物の取引に事前の届け出が必要になれば、経済活動やまちづくりのさらなる支障になる恐れがあります。「極めて強い反対意見」が出るのは当然です。

 基地に起因する事件・事故や航空機騒音、有害なPFAS(有機フッ素化合物)の流出による環境汚染などにより、住民の生活は脅かされており、調査活動や反対運動が取り組まれています。そうした住民の行動を監視や規制の対象とすることは許されません。

 憲法違反の土地利用規制法は廃止すべきです。

主張

土地規制区域指定

住民の権利侵す法律は廃止を


重要土地等調査規制法の施行の延期等を求める会長声明



 政府は、2021(令和3)年6月に公布した「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び規制等に関する法律」(重要土地等規制調査法。以下「本法」という。)について、本年9月の施行に向けて、本法に基づく基本方針案、政令案及び内閣府令案(以下「基本方針案等」という。)を公表している。

 当会は、2021(令和3)年5月21日付の「重要土地等調査規制法案に反対する会長声明」(以下「前回声明」という。)において、本法による「注視区域」等での土地等の利用に関連してその利用者や関係者のプライバシー権や思想・良心の自由、財産権等が侵害されるおそれが大きいことなどから、法案の成立に反対していたところである。

 前回声明では、本法において調査規制の対象となる「区域」や行われる調査内容、その対象者などの限定がなされておらず、防止しようとする重要施設や国境離島等の「機能を阻害する」行為も不明であること等を指摘していたところ、本法を施行するのであれば、少なくとも、本法に基づく基本方針や政令等によってこれらの内容を明確にし、市民の権利自由が不当に侵害されないような措置を講ずる必要がある。

 ところが、公表された基本方針案等をみても、当会のかかる懸念は払拭されていないというほかなく、かかる状況下で本法を施行すべきではない。

 すなわち、注視区域及び特別注視区域の指定範囲については、防衛関係施設では「部隊等の活動拠点となる施設」等4類型が示されたが、これでも沖縄の米軍基地や自衛隊施設をほぼ網羅するものであり、また国境離島等についても領海基線の「周辺」等と相変わらず沖縄県内の広汎な地域が対象となる余地を残している。

 次に、調査にあたっての報告徴収の対象者の範囲については、「関係者」として、法人である利用者の役員や土地等の工事に従事している請負業者等が例示されるとともに、利用者の家族等についても、利用者と共同して機能阻害行為を行っていると推認される場合には関係者になり得るとするなど、調査者の判断で無限定に対象が広がりうる。

 続いて、調査項目についてみると、調査項目が客観的な土地利用状況に限定されていない問題がある。例えば、基本方針案では、「土地等の利用状況を把握する」とする一方で、「思想・信条等に係る情報を含め、その土地等の利用には関連しない情報を収集することはない」とするが、これでは、「その土地等の利用に関連する場合には思想・信条等に係る情報も収集することができる」との解釈が成り立ち、その利用目的に関わるとして利用者の思想等に調査が及ぶおそれを否定できない。

 さらに、機能阻害行為についても、該当しうる行為と該当するとは考えられない行為の例示が若干なされているものの、あくまでも例示に過ぎず、具体的な危険に照らした機能阻害行為の限定明示がなされておらず、市民の表現活動が機能阻害行為と認定されるのではないかとの懸念も払拭し得ない。

 本法には依然として本声明及び前回声明で指摘した重大な問題がある。

そこで当会は、政府及び国会に対し本法の施行の延期を求めるとともに、本法及び基本方針案等に関し上記問題点についてさらなる検討、議論をするよう求める。



                                    2022(令和4)年8月16日

                                        沖縄弁護士会

                                         会 長  田 島 啓 己

重要土地等調査規制法の施行の延期等を求める会長声明




「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(重要土地等調査規制法案。以下「本法案」という。)は、本年6月1日の衆議院本会議で可決され、今後、参議院で審議される。




本法案では、内閣総理大臣は、閣議決定した基本方針に基づき、重要施設の敷地の周囲おおむね1000メートルや国境離島等の区域内に「注視区域」や「特別注視区域」を指定することができ、そして、その区域内にある土地及び建物(以下「土地等」という。)の利用に関し、調査や規制をすることができることとなっている。




しかしながら、本法案には、次のとおり重大な問題がある。




第一に、本法案における「重要施設」の中には、自衛隊等の施設以外に生活関連施設が含まれているが、その指定は政令に委ねられている。しかも、生活関連施設として指定されるためには、当該施設の「機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められる」ことが必要とされているが、この要件自体が曖昧であり、恣意的な解釈による広範な指定がなされるおそれがある。




第二に、本法案では、地方公共団体の長等に対し、注視区域内の土地等の利用者等に関する情報の提供を求めることができるとされているが、その範囲も政令に委ねられている。そのため、政府は、注視区域内の土地等の利用者等の思想・良心や表現行為に関わる情報も含めて、広範な個人情報を、本人の知らないうちに取得することが可能となり、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権などを侵害する危険性がある。




第三に、本法案では、注視区域内の土地等の利用者等に対して、当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができ、それを拒否した場合には、罰金を科すことができるとされている。そこでは、求められる報告又は資料に関して何の制限もないことから、思想・良心を探知されるおそれのある事項も含まれ得る。このような事項に関して、刑罰の威嚇の下に、注視区域内の土地等の利用者等に対して、報告又は資料提出義務を課すことは、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権などを侵害する危険性がある。




第四に、本法案では、内閣総理大臣が、注視区域内の土地等の利用者が自らの土地等を、重要施設等の「機能を阻害する行為」に供し又は供する明らかなおそれがあると認めるときに、刑罰の威嚇の下、勧告及び命令により当該土地等の利用を制限することができるとされている。しかし、「機能を阻害する行為」や「供する明らかなおそれ」というような曖昧な要件の下で利用を制限することは、注視区域内の土地等の利用者の財産権を侵害する危険性がある。




第五に、本法案では、特別注視区域内の一定面積以上の土地等の売買等契約について、内閣総理大臣への届出を義務付け、違反には刑罰を科すものとされているが、これも過度の規制による財産権の侵害につながるおそれがある。




このように、本法案は、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権、財産権などの人権を侵害し、個人の尊厳を脅かす危険性を有するとともに、曖昧な要件の下で刑罰を科すことから罪刑法定主義に反するおそれがあるものである。




なお、本法案は、自衛隊や米軍基地等の周辺の土地を外国資本が取得してその機能を阻害すること等の防止を目的とするとされているが、これまで、そのような土地取得等により重要施設の機能が阻害された事実がないことは政府も認めており、そもそも立法事実の存在について疑問がある。




よって、当連合会は、法の支配の徹底と基本的人権の尊重を求める立場から、不明確な文言や政令への広範な委任により基本的人権を侵害するおそれが極めて大きい本法案について、反対する。







 2021年(令和3年)6月2 日

日本弁護士連合会
会長 荒   中

HOME>公表資料>会長声明・日弁連コメント>year>2021年>重要土地等調査規制法案に反対する会長声明


更新日:2021年07月27日



2021年(令和3年)7月27日
第二東京弁護士会
会長 神田 安積

第1 意見の趣旨

 本年6月16日に成立した「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び規制等に関する法律」(以下「本法」という。)は、国民の基本的人権を侵害し、不当に制約するものであり、その成立に抗議するとともに、本法を適用することなく、直ちに廃止することを求める。

第2 意見の理由

1 本法の概要

 本法は、第204回通常国会において、本年6月16日に参議院本会議で可決・成立した。その概要は以下のとおりである。

(1)本法の目的
 本法は、①「防衛関係施設」(米軍基地や自衛隊基地など)、②海上保安庁の施設、③「生活関連施設」(政令で定める)を「重要施設」としたうえで、その敷地の周囲おおむね千メートルの区域内や領海基線を有する国境離島及び日本国民が居住している有人国境離島地域(以下「国境離島等」という。)の区域内の区域で、これらの「施設機能」1 や「離島機能」2 を阻害する行為に土地等が用いられることを特に防止する必要があるものについて、内閣総理大臣が「注視区域」に指定でき(第5条)、注視区域のうち、特に重要な施設や特に重要な国境離島に関する区域を「特別注視区域」と指定できるものとする(第12条)。
 そして同法は、「注視区域」内や「特別注視区域」内の土地及び建物が、施設機能や離島機能を阻害する行為(以下「機能阻害行為」と略することがある。)に使われることを防止し、もって、「国民生活の基盤の維持」並びに「我が国の領海等の保全及び安全保障」に寄与することを目的としている(第1条)。

(2)「注視区域」の指定とこれに伴う罰則を含む効果
 内閣総理大臣は、機能阻害行為の防止に関する「基本方針」を策定して閣議で決定し、「注視区域」を指定する(第5条)。
 そのうえで、内閣総理大臣は、①注視区域内における土地等の利用状況を調査し(第6条)、②調査のため必要がある場合は関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に、注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に関する氏名又は名称、住所その他政令で定めるものの提供を求めることができ(第7条)、③必要があるときは、土地等の利用者その他の関係者に対し、土地等利用に関する報告又は資料提出を求めることができ(第8条)、④報告又は資料提出を拒否したり、虚偽報告又は虚偽資料提出をした者に対して、30万円以下の罰金に処すことができる(第27条)。
そして、⑤当該土地等が機能阻害行為に利用され又は利用される明らかなおそれがあるときは、利用者に対し、利用の禁止その他必要な措置を勧告でき(第9条第1項)、勧告に従わないときは命令でき(同第2項)、⑥命令に違反したときは2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又は併科に処せられる。

(3)特別注視区域の指定とこれに伴う罰則を含む効果
 内閣総理大臣は、注視区域のうち、特に重要な施設や特に重要な国境離島に関する区域を「特別注視区域」に指定することができる(第12条)。
 そのうえで、①特別注視区域内の一定規模以上の土地等の所有権の移転等を行う場合は、あらかじめ内閣総理大臣に対し、当事者の氏名及び住所、利用目的その他政令で定める事項の届け出が義務づけられる(第13条)。②届け出をしなかったり、虚偽の届け出をした場合は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金となる。
 そして、内閣総理大臣は、③届け出られた事項の調査を行い、その際に、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に、特別注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に関する氏名又は名称、住所その他政令で定めるものの提供を求めることができ(第13条第5項、第7条)、④必要があるときは、土地等の利用者その他の関係者に対し、土地等利用に関する報告又は資料提出を求めることができ(第13条第5項、第8条)、⑤報告又は資料提出を拒否したり、虚偽の報告又は虚偽資料を提出したときは、30万円以下の罰金に処せられる。

1.我が国を防衛するための基盤としての機能、領海、排他的経済水域及び大陸棚の保全に関する活動の基盤としての機能並びに生活関連施設の国民生活の基盤としての機能をいう。
2.領海、排他的経済水域及び大陸棚の限界を画する基礎としての機能、有人国境離島地域離島の領海等の保全に関する活動の拠点としての機能をいう。

2 本法の問題点

(1)罰則を伴う規制立法であるにもかかわらず、要件が不明確かつ無限定であること
 以上のとおり、本法では、内閣総理大臣は、土地等の利用者が土地等を機能阻害行為に利用したり、又は利用する明らかなおそれがあるときは、利用者に対し利用しないことその他必要な措置を勧告し、勧告に応じないときは命令を出せるとし(第9条第1項及び第2項)、命令に応じないときは、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はその両方に処せられる。
およそ、どのような行為が罪になり刑罰を科せられるかということは、法律で明確に定められる必要があることはいうまでもない(罪刑法定主義)。
 しかしながら、本法は、以下のとおり、不明確かつ無限定な要件により刑罰を科すことになる点で、上記罪刑法定主義に反しており、また、基本的人権やプライバシーを侵害するおそれがあるといわざるを得ない。

ア 機能阻害行為が不明確であること
 まず、注視区域については、土地等の利用状況の調査が行われるが(第6条)、調査に関する基本的事項は、政府の定める「重要施設の施設機能及び国境離島等の離島機能を阻害する土地等の利用の防止に関する基本方針」において定められる。しかし、「重要施設の施設機能及び国境離島等の離島機能を阻害する」行為が何を差すのかは、条文からは全く不明確である。
 国会審議では、重要施設の機能に支障を来す構造物の設置、トンネルを掘削して侵入を図る行為、電波障害準備行為、施設侵入準備行為、国境離島等に関しては、領海基線の根拠となる低潮線に影響を及ぼすおそれがある近傍の土地の形質変更などが例として挙げられた。しかし、それ以外に具体的に想定している行為については、「安全保障をめぐる内外情勢や施設の特性等に応じて様々な態様が想定されると思います。このため、特定の行為を普遍的、代表的な機能阻害行為として法案に例示することは必ずしも適当ではないと考えています。いずれにいたしましても、閣議決定される基本方針において、可能な限り具体的に機能阻害行為の例示をお示ししたいと考えております。」(領土問題担当大臣)などとして、法案審議の段階では明らかにされなかった。

イ 「生活関連施設」が政令に委ねられ不明確かつ無限定であること
 「生活関連施設」とは、「その機能を阻害する行為が行われた場合に国民 の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるもの」とされている(第2条第2項第3号)。
 国会審議では、例として原子力発電所、核燃料サイクル関係施設などの原子力関連施設、自衛隊と民間との軍民両用空港などがあげられたが、何がこれに当たるかは法律ではなく、内閣が制定する「政令」で定めるとしている。
 この点に関し、政府参考人は「本法案の対象区域は現時点においては決定していない」とし、「政令制定に当たりましては、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるものにつきまして、土地等利用状況審議会の意見を伺った上で判断をさせていただく。」と答弁しており、この点からしても、本来法律で定めるべき内容をいわば政令に白紙委任しているに等しい。

ウ 思想・良心の自由、表現の自由、個人情報及びプライバシーに関する情報にわたるおそれがあること
 本法は、調査のため必要があるときは、関係行政機関や関係地方公共団体の長などに対し、注視区域内の土地等の利用者その他の関係者に関する情報提供を求めることができるとしている(第7条)。どのような情報の提供を求めるのかについては、例として氏名又は名称、住所を挙げるほかは、これも政令で定めるとされている。
 国会審議においては、「氏名、住所、国籍を把握して個人が特定できたとして、どうやって重要施設等の機能阻害行為を行うかどうか判断するのでしょうか。判断のためには、内閣府自ら思想信条を調査しなくても、国内情報機関に情報を照会する必要があるのではないでしょうか。調査や事前届出によって収集された個人情報について、内閣府内だけでなく他の省庁、内閣情報調査室や防衛省情報本部、公安調査庁、警察庁外事情報部など、国内情報機関に照会したり情報提供することがありますか。」との質問に対し、内閣府大臣政務官は、一般論としてではあるものの、「内閣総理大臣は、本法律の目的を達成するために必要があると判断した場合には、本法案に基づき収集した土地等の利用者等に関する情報について、関係行政機関等の協力を得つつ所要の分析を行うこともあり得ます。もっとも、情報の分析に際しては、いかなる機関にいかなる協力を求めるかは個別具体の事情により異なると考えられることから、お尋ねの各機関に対して協力を求めることがあるかどうかを一概にお答えすることは困難でございます。」と答弁している。このように、思想・良心の自由、表現の自由、個人情報やプライバシーに関する情報が、「関係行政機関等の協力」により収集され、「所要の分析」が行われる可能性が否定できない。
 また、「その他の関係者」という文言も無限定であり、対象者がどこまで含まれるのかも不明確である。
 これに特定秘密保護法が関わると、調査対象者、調査対象項目などの一切が秘密のままにされ、個人のプライバシーの保障が図れないこととなりかねない。

エ 利用者その他の関係者に対する報告又は資料提出も無限定であること
 以上の情報提供では不十分なときは、土地等の利用者その他の関係者に対し、利用に関する報告又は資料の提出を求めることができるとされているが、求められる報告や資料の範囲に制限はない。そして、これに応じないときや、虚偽があった場合は、刑事罰である30万円以下の罰金に処せられる(第8条、第27条)。
 国会審議では、「本法案に基づく報告徴収等においていかなる者を対象とするかについては、個別具体のケースに応じて、その土地等の利用状況を知り得る立場にいる者に対して行う必要があり、法律上、特定の者に限定することとすれば調査の目的を達成し得なくなることから、適当ではないものと考えております。」との答弁がなされており、「その他の関係者」に限定はない。

オ また、情報提供や報告を求められる対象となる「利用者その他の関係者」(第8条)という概念も曖昧で幅広く、自己がその対象になるかどうか不明確であり、現に、国会審議では、特定の者に限定することは適当でないとされている。
 利用に関する報告や資料の提出も、機能を阻害する利用行為の防止のために行われるものであるが、「機能阻害行為」自体が、前述のとおり不明確である。報告や資料の範囲も限定されていない。

カ 機能阻害行為に利用される「明らかなおそれ」(第9条第1項)の有無も、誰がどのような基準で判断するのかも不明確である。
 勧告や命令がなされる「その他必要な措置」(同)も無限定である。これでは、誰がどんな行為でなぜ罪に問われるかということが、法律で明らかにされているとはいえない。

キ およそ罰則を伴う規制立法をする場合、刑罰法規の謙抑性の観点から、規制の趣旨及び目的は明確でなければならない。ところが、本法は、大部分が民間企業によるものと考えられる生活関連施設を、防衛関連施設とともに重要施設としていながら、これらの施設の機能阻害行為を防止する必要性及び正当性について、何ら統一的な理念を示していない。第1条は、「もって国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする」としているが、ほとんど全ての法制度に当てはまるような内容でしかなく、前述の「生活関連施設」の外延も、「機能阻害行為」の内容も、政令や閣議決定(による例示)に全面的に白紙委任するに等しいこととあいまって、規制立法として余りにも広範に過ぎるものといわざるを得ない。

(2)特別注視区域の届出義務、調査、報告又は資料提出要求と罰則
 さらに同法では、注視区域内のうち、特に重要な施設や重要な離島に関する区域を「特別注視区域」と指定し、一定の規模以上の土地や建物の売買契約等について、住所、氏名、契約に関する事項その他政令で定める事項を届け出る義務を課している。届出をしないとき、虚偽の届出があったときは、6か月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる(第13条第1項及び第3項、第26条)。
 届け出られた事項については調査を行い、注視区域における利用状況調査と同様に、調査のために必要があるときは、氏名等の情報提供、報告又は資料の提出要求ができる。これに従わないときや虚偽があったときは、30万円以下の罰金に処せられる(第13条5項、第8条、第27条)。
 前述のとおり、「注視区域」の範囲については、「機能阻害行為」に利用されることを特に防止する必要がある地域であるとされているところ、「機能阻害行為」の概念が曖昧であること及び「生活関連施設」の指定が政令に委ねられていることから、「注視区域」の一部である「特別注視区域」も広範かつ無限定になりうるため、本来自由であるべき土地等の取引について過度の制約を課すことになって、財産権や移転の自由などを侵害するおそれがある。

(3)立法事実の存在についても重大な疑問があること
 本法を制定する必要性や正当性を根拠づける立法事実の存在についても強い懸念が指摘されている。

ア この点について、「国土利用の実態把握等に関する有識者会議」が2020年(令和2年)12月24日に公表した「国土利用の実態把握等のための新たな法制度の在り方について提言」では、「国境離島や防衛施設周辺等における土地の所有・利用を巡っては、かねてから、安全保障上の懸念が示されてきた。経済合理性を見出し難い、外国資本による広大な土地の取得が発生する中、地域住民を始め、国民の間に不安や懸念が広がっている。例えば、長崎県対馬市では海上自衛隊対馬防備隊の周辺土地が、また、北海道千歳市では航空自衛隊千歳基地の周辺土地が、それぞれ外国資本に取得され、地域住民の不安や懸念を背景に、市議会において、様々な議論が行われている。」と指摘されており、これらの事実が立法事実として説明されていた。
 内閣府副大臣も、国会答弁において、「北海道の千歳基地に近接する地域や、長崎県の対馬市の海上自衛隊対馬防衛隊の隣接地を外国資本が取得したというふうなことが現に起きていて、地域住民の間で不安が広がり、地方議会で議論が行われた事例も出てきていると承知をしておりますし、北海道東北地方知事会など複数の地方公共団体から、安全保障の観点から必要な法整備を求める意見書が提出されているところでもありますので、ここはやはり、立法府として一定の、国民の不安に応える措置が必要ではないかなというふうに考えております。」などと説明した。

イ ところが、全国の1800近くある自治体の中で、「意見書」が提出されているのは16件にすぎず、しかも、政府が法案提出の根拠に挙げる、千歳基地がある千歳市、同基地から三キロほど離れたところで外国資本による土地の購入があったとされる苫小牧市、対馬防備隊に隣接する土地の購入があったとされる対馬市のいずれも含まれていないことが、審議において判明した。
 実際に防衛省が行った調査においても、約650の自衛隊施設及び米軍施設に隣接する土地について、法務局で土地登記簿謄本等の交付を受けて、登記名義人の氏名、住所等を確認するなどの調査を2017年(平成29年)度までに1巡目、2020年(令和2年)度までに2巡目まで行った結果、約六万筆のうち、住所が外国に所在し、氏名から外国人と類推された土地は七筆のみであり、これまで防衛施設周辺における土地の所有等により自衛隊や米軍の運用等に具体的に支障が生じるような事態は確認されていないとの答弁がなされた。さらに、北海道千歳市の森林買収は、投資目的で買い取られた森林から三キロ離れた場所に空港があったという事例、長崎県対馬市の事案も、韓国資本が観光開発目的でホテルを購入したというものに過ぎないことが判明した。

ウ 立法事実に関連して、領土問題担当大臣は、安全保障上のリスクを把握しているのかという質問に対し、「我が国の安全保障をめぐる内外情勢が近年厳しさを増しているということは申し上げてまいりました。機能阻害行為が明らかになってから初めて対策を講ずるという事後的な対応では安全保障上取り返しがつかない事態となるおそれがあるということでございます。」と答弁し、それが安全保障上のリスクになるのかという問いに対しても、「それをしっかりと調査をするということでございます。」との答えを繰り返すのみであった。

エ 結局、本法は、内閣審議官が「これまで防衛関係施設等の重要施設に対しまして、その周辺の土地等を利用する形で施設の機能を阻害する、阻害した行為が行われたという実例につきましては、内閣官房としては把握しておらないところでございます。その一方で、我が国の安全保障をめぐる内外情勢は近年厳しさを増しておりますので、安全保障上のリスクが現実となってからでは取り返しが付かない事態になるおそれがあると、このようにも考えているところでございます。」と述べるとおり、重要施設等の周辺の土地を外国資本が取得してその機能を阻害した行為の実例はないが、安全保障上のリスクがあるかないか自体を調査するためのものであるということになり、立法事実の存在自体に重大な疑問があるといわざるを得ない。

3 審議不十分の多数の問題点が附帯決議で指摘されたこと

(1)本法については、別紙一覧記載のとおり、衆議院で16項目の附帯決議がなされ、参議院では更に1項目が追加されて17項目の附帯決議がなされている。

(2)これらの各決議事項は、いずれも、同法案の不明確な点についての懸念や問題性を指摘したものである。
 衆議院内閣委員会では、専門家の参考人質疑なども行われず、わずか12時間の審議しかなされず、参議院でも、参考人3名の質疑を含めても14時間の審議しかなされなかった。上記のような多数の項目の附帯決議が付いたのも、国会審議で解明できていない事項や懸念されるべき問題点が積み残されたままであったことの裏付けであり、本来、これらの問題点が曖昧なまま同法を成立させるべきではなかったというべきである。

4 法案の欠陥は修正不可能であり適用せず廃止されるべきであること

(1)以上のとおり、本法は、不明確な要件で人権を制限し、刑罰を科すなど、国民の基本的人権を侵害し、不当に制約することになりかねない点で重大な欠陥がある。
 特に、同法は、米軍及び自衛隊関連施設を重要施設と位置づけ、その機能を阻害する行為を禁止するという点で、安全保障目的、すなわち軍事的な目的での人権制限を定めるものである。このような目的の法律が、刑罰の制裁のもとで人権を制限する要件を不明確かつ無限定にしたまま、閣議決定や政令に委ねることは、日本国憲法の平和主義や平和的生存権の観点からも許されないというべきである。
 したがって、以上のような問題点が解消されないままの本法の成立に抗議するとともに、本法を適用せず、直ちに廃止することを求める。

(2)本法の附則第2条は、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」としているが、さらに上記附帯決議では、「本法に係る規制対象等の予見可能性や運用の透明性を求める意見が多くあることから、附則第二条の規定における施行後五年の経過を待たずに施行状況を把握し、必要に応じ制度の見直しを検討すること。」としている。
 当会は、これまで述べてきたとおり、本法が、『機能阻害行為』を明確かつ具体的に定めておらず、『生活関連施設』も限定がなく、罪刑法定主義に反する立法として直ちに廃止するべきであると考えるものであるが、少なくとも上記の施行後5年の見直しのときまでに、本法の規定による措置が、各附帯決議にも明記されているとおり、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに団結権及び団体行動権その他の基本的人権を不当に制限していないか、目的外の情報収集が行われていないか、報告又は資料の提出や、求められる対象者が無限定になっていないか、などの諸点を厳しく監視し、本法が廃止されるべき立法事実となる運用事例を収集していくことを併せて表明する。

以上

(衆議院)

重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たっては、次の事項に留意し、その運用等について遺漏なきを期すべきである。

一 注視区域及び特別注視区域の指定に当たっては、あらかじめ当該区域に属する地方公共団体の意見を聴取する旨を基本方針において定めること。

二 基本方針の決定並びに注視区域及び特別注視区域の指定に当たっては、当該決定及びそれらの指定の後、速やかに国会に報告すること。

三 本法における「機能を阻害する行為」については、基本方針においてその類型を例示しつつ、明確かつ具体的に定めること。その際、本法の目的と無関係な行為を対象としないこと。

四 本法第二条に基づき「生活関連施設」を政令で定めるに当たっては、本法の目的を逸脱しないようにするとともにその対象を限定的に列挙すること。

五 本法の規定による措置を実施するに当たっては、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限することのないよう留意すること。

六 本法第四条第二項第二号の「経済的社会的観点から留意すべき事項」を具体的に明示すること。その際、本条における市街地の位置付けを明確にすること。

七 本法第四条第二項第三号の「注視区域内にある土地等の利用の状況等についての調査に関する基本的な事項」を定めるに当たっては、調査対象となる者、調査方法、調査項目等を具体的に明示すること。

八 本法第六条に基づく土地等利用状況調査を行うに当たっては、本法の目的外の情報収集は行わないこと。また、収集した個人情報について、目的外利用となる他の行政機関への提供は慎むとともに、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に則った情報管理を徹底し、情報漏洩防止等のセキュリティ対策に万全を期すこと。

九 本法第八条に基づく報告又は資料の提出の求めについては、基本方針において運用の考え方を具体的に明示すること。また、同条の対象となる「利用者その他の関係者」についても、基本方針において具体的に例示すること。

十 本法第九条に基づく勧告及び命令については、基本方針において、その対象となり得る行為を例示するとともに、運用基準を具体的に明示すること。また、勧告及び命令の実施状況を毎年度、国会を含め国民に公表すること。

十一 土地等利用状況審議会の委員及び専門委員の任命に当たっては、重要施設及び国境離島等が全国各地に所在していることに鑑み、多様な主体の参画を図ること。

十二 本法第二十一条第一項に基づく情報の提供については、その要件を基本方針において具体的に明示すること。その際、本法の目的の範囲を逸脱しないよう留意すること。

十三 本法第二十六条に基づく罰則の適用については、限定的なものとすること。また、本法第二十七条に基づく罰則の適用に当たっては、思想信条の自由、表現の自由、プライバシーの権利等を侵害することのないよう、十分配慮すること。

十四 本法第九条の勧告及び命令に従わない場合には、重要施設等の機能を阻害する行為を中止させることが困難であることに鑑み、本法の実効性を担保する観点から、収用を含め、更なる措置の在り方について、附則第二条の規定に基づき検討すること。

十五 我が国の安全保障の観点から、水源地や農地等資源や国土の保全にとって重要な区域に関する調査及び規制の在り方について、本法や関係法令の執行状況、安全保障を巡る内外の情勢などを見極めた上で、附則第二条の規定に基づき検討すること。

十六 注視区域及び特別注視区域の対象に、重要施設の敷地内の民有地を加えることについて、附則第二条の規定に基づき検討すること。

 

(参議院)

重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

一 注視区域及び特別注視区域の指定に当たっては、あらかじめ当該区域に属する住民の実情に知悉する地方公共団体の意見を聴取する旨を基本方針において定めること。

二 基本方針の決定並びに注視区域及び特別注視区域の指定に当たっては、当該決定及びそれらの指定の後、速やかに国会に報告すること。

三 本法における「機能を阻害する行為」については、基本方針においてその類型を例示しつつ、明確かつ具体的に定めること。その際、本法の目的と無関係な行為を対象としないこと。

四 本法第二条に基づき「生活関連施設」を政令で定めるに当たっては、本法の目的を逸脱しないようにするとともに、その対象を限定的に列挙すること。

五 本法の規定による措置を実施するに当たっては、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限することのないよう留意すること。

六 本法第四条第二項第二号の「経済的社会的観点から留意すべき事項」を具体的に明示すること。その際、本条における市街地の位置付けを明確にすること。

七 本法第四条第二項第三号の「注視区域内にある土地等の利用の状況等についての調査に関する基本的な事項」を定めるに当たっては、調査対象となる者、調査方法、調査項目等を具体的に明示すること。

八 本法第六条に基づく土地等利用状況調査を行うに当たっては、本法の目的外の情報収集は行わないこと。また、収集した個人情報について、目的外利用となる他の行政機関への提供は制限するとともに、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に則った情報管理を徹底し、情報漏洩防止等のセキュリティ対策に万全を期すこと。

九 本法第八条に基づく報告又は資料の提出の求めについては、基本方針において運用の考え方を具体的に明示すること。また、同条の対象となる「利用者その他の関係者」についても、基本方針において具体的に例示すること。

十 本法第九条に基づく勧告及び命令については、基本方針において、その対象となり得る行為を例示するとともに、運用基準を具体的に明示すること。また、勧告及び命令の実施状況を毎年度、国会を含め、国民に公表すること。

十一 土地等利用状況審議会の委員及び専門委員の任命に当たっては、重要施設及び国境離島等が全国各地に所在していることに鑑み、多様な主体の参画を図ること。

十二 本法第二十一条第一項に基づく情報の提供については、その要件を基本方針において具体的に明示すること。その際、本法の目的の範囲を逸脱しないよう留意すること。

十三 本法第二十六条に基づく罰則の適用については、限定的なものとすること。また、本法第二十七条に基づく罰則の適用に当たっては、思想信条の自由、表現の自由、プライバシーの権利等を侵害することのないよう、十分配慮すること。

十四 本法第九条の勧告及び命令に従わない場合には、重要施設等の機能を阻害する行為を中止させることが困難であることに鑑み、本法の実効性を担保する観点から、収用を含め、更なる措置の在り方について、附則第二条の規定に基づき検討すること。

十五 我が国の安全保障の観点から、有人国境離島の過疎化を食い止めるための振興策を拡充するとともに、水源地や農地等、資源や国土の保全にとって重要な区域に関する調査及び規制の在り方について、本法や関係法令の執行状況、安全保障を巡る内外の情勢などを見極めた上で、附則第二条の規定に基づき検討すること。

十六 注視区域及び特別注視区域の対象に、重要施設の敷地内の民有地を加えることについて、附則第二条の規定に基づき検討すること。

十七 本法に係る規制対象等の予見可能性や運用の透明性を求める意見が多くあることから、附則第二条の規定における施行後五年の経過を待たずに施行状況を把握し、必要に応じ制度の見直しを検討すること。

いわゆる重要土地利用規制法の成立に抗議するとともに、その適用に反対し、廃止を求める意見書(PDF)

いわゆる重要土地利用規制法の成立に抗議するとともに、その適用に反対し、廃止を求める意見書




カテゴリ:声明,憲法・平和,米軍・自衛隊

「土地規制法案」に反対し、廃案を求める声明



2021年4月20日

自  由  法  曹  団
団長 吉  田  健  一



1 政府は、本年3月26日、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用等の規制等に関する法律案」(以下「土地規制法案」という。)を閣議決定し、国会へ提出した。
 この土地規制法案は、内閣総理大臣が、自衛隊や米軍の基地などの「重要施設」の敷地周囲おおむね1km内や国境離島等内にある区域を「注視区域」に指定し、①区域内にある土地及び建物(以下「土地等」)の利用状況を調査する、②「施設機能」や「離島機能」を阻害する行為の用に供したり、供する明らかなおそれがあると認められるときは、利用中止などの勧告を行ったり、罰則付きの命令(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金)を発することをできるようにする、③「注視区域」のうち「特別注視区域」とされた区域においては、土地等の売買などについて、当事者に事前の届け出を罰則付き(6月以下の懲役又は100万円以下の罰金)で義務付けること等が柱となっている。
 政府は、今国会での成立を目指しているが、土地規制法案は日本国憲法の平和主義に反するほか、多くの問題点を有しており、直ちに廃案にすべきものである。

2 日本国憲法は、侵略戦争に対する痛烈な反省もふまえ、前文や9条に具体化された平和主義を掲げ、軍事に関するものに公共性を認めていない。戦前は、国防を理由に、要塞地帯法によって「要塞地帯」と指定された区域への立入り、撮影、模写などが禁止、処罰され、これが国民監視や統制に用いられた。この要塞地帯法は日本国憲法の下では当然に廃止され、軍事・国防のための土地の収用を認めていた戦前の旧土地収用法に対し、戦後、新たに制定された土地収用法は、軍事・国防のための土地収用を削除し、「土地を収用し、又は使用することができる公共の利益となる事業」(第3条)に防衛にかかわるものを含めていない。
 しかし、今回の土地規制法案は、その目的に「安全保障に寄与すること」を掲げ、基地の周辺区域や国境離島等を対象としていることに示されているように、軍事的安全保障の観点から再び国民の私権を制限しようとするものである。
 これは、憲法の平和主義に明確に反するものであって、断じて容認できない。

3 加えて,今回の土地規制法案は、内容それ自体にも数々の問題点や欠陥がある。

 (1) まず、内閣総理大臣は、調査のために必要がある場合、関係行政機関の長等に対し、「注視区域」とされた土地等の利用者らの氏名や住所などの情報提供を求めることができるとされているが、提供の対象となる情報は政令で追加でき、調査項目が歯止めなく拡大する懸念がある。調査が思想・信条に立ち入る恐れもある。しかも、調査のためなお必要があると認めるときは、土地等の利用者その他関係者に対し、報告や資料の提出を求めることができ、提出をしなかったり、虚偽の報告をしたときは処罰するとしており,調査に服することを強制するものとなっている。
 個人の思想・信条が脅かされるおそれに対して、「個人情報の保護に十分配慮しつつ」、「必要な最小限度のものとなるようにしなければならない」(第3条)と規定してはいるが、歯止めとなる担保は何もない。むしろ、自衛隊の情報保全隊が、自衛隊のイラク派兵に反対する市民活動を監視し、個人の氏名や職業、支持政党まで情報を収集・保有していたことについて、裁判所から違法だと断罪され、賠償を命じられたことは記憶に新しいが、今回の土地規制法案は、こうした国家権力による違法な情報収集にお墨付きを与えることにもなりかねない。

 (2) また、土地規制法案では、「施設機能」や「離島機能」を「阻害する行為」を規制対象とし、中止等の命令違反につき懲役もしくは罰金刑の対象としているが、「防衛関係施設の我が国を防衛するための基盤としての機能」、「有人国境離島地域離島の領海等の保全に関する活動の拠点としての機能」など、「機能」の内容は曖昧であり、抽象的にすぎる。同様に、「阻害する行為」という文言も広範にすぎ、定義の体をなしていない。そのため、時の権力による解釈次第で、自衛隊基地の建設に反対する市民運動や基地監視活動などの市民運動が含まれる危険が存し、こうした運動の萎縮や弾圧に利用されるおそれがある。

  (3) さらに、土地規制法案は、自衛隊や米軍の基地であれば一律に「重要施設」としているが、これらの施設も多種多様である。しかも、その敷地周囲おおむね1kmが「注視区域」の対象となりうるのであり、きわめて広範な私権制限をもたらす危険がある。たとえば、沖縄県や神奈川県では米軍基地の多くは市街地にあり、多くの民有地が制限を受けることになりかねず、軍事目的のための権利制限の強化を生むものである。そもそも自衛隊や米軍の施設を一様に「重要」とする発想そのものに、軍事的な必要性が一般国民の権利に優位するという価値観が表れている
 (4) 加えて、そもそも今回の土地規制法案には立法事実もない。政府は北海道苫小牧市や長崎県対馬市の自衛隊基地周辺の土地を外国資本が買収したことを問題視しているが、防衛省は全国約650の「防衛施設」に隣接する土地を調査した結果、「現時点で、防衛施設周辺の土地の所有によって自衛隊の運用等に支障が起きているということは確認をされていない」(2020年2月25日、衆院予算委員会第8分科会)としており、立法の必要性を裏づける根拠すらない。

 そうであるにもかかわらず、土地規制法案の成立を急ぐのは、まさに戦争準備目的というべきもので、有事法制の一環に位置づけられるものである。しかも、それは、いわば「平時」であっても、軍事を優先させて人権制限を容認するものである。そのこと自体が憲法の平和主義に反するものであると共に、現実問題としても外国資本による土地の購入を直ちに安全保障上のリスクとする発想は、属性に着目するものであり、かえって近隣諸国との間で対立を煽ることになりかねず、平和の維持に逆行するものである。

4 以上のように、今回の土地規制法案は、日本国憲法の平和主義に反するものであり、法案の内容としても根本的な問題を抱えている。

 自由法曹団は、この土地規制法案に断固反対し、廃案を求めると同時に、日本国憲法の平和主義に基づく外交を追求し、近隣諸国との関係改善を図ることを強く求める。

以 上

2021年4月20日付、『「土地規制法案」に反対し、廃案を求める声明』を発表しました



掲載日:2021.05.14

2021年5月11日、「重要土地調査規制法案」が衆院本会議で審議入りとなりました。
この法案は、原子力発電所や基地などの「重要施設」の周辺区域の土地が「機能を阻害する行為の用に供される」ことを防止するために制定する、とされています。

要は、原発や基地の”機能を阻害する行為に利用される恐れがある”と政府が判断した時には、
政府によって原発や基地の周辺地域の土地の利用の中止勧告・命令ができる、またこれに加え、一定面積以上の土地売買には利用目的の事前届け出が義務付けられる、とするなど、政府による恣意的運用が可能な内容となっています。

このことは、平和運動への実質的規制につながりかねず、憲法で保障された財産権や基本的人権そのものを侵害しかねない内容となっており、人権保障の観点からも決して容認できません。

国会では今後、衆議院内閣委員会で法案の審議が行われることになっており、6月16日の会期末までの取り組みで、この法案を「審議未了」として廃案にしていく必要があることから、北海道平和運動フォーラムは、「重要土地調査規制法案」に対し見解を発出しましたのでお知らせします。



「重要土地調査規制法案」に反対する北海道平和運動フォーラム見解

 5月11日、「重要土地調査規制法案 (重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案)」が衆院本会議で審議入りとなった。この法案は、原子力発電所や基地などの「重要施設」の周辺区域の土地が「機能を阻害する行為の用に供される」ことを防止するために制定するとされており、適用区域として「注視区域」と「特別注視区域」が設定される。
「注視区域」と「特別注視区域」については、政府に利用実態の調査権限が付与され、調査結果をふまえて、対象施設の機能を阻害する行為に利用される恐れがあると判断された時には、政府は中止勧告・命令ができる。またこれに加え、「特別注視区域」では、一定面積以上の土地売買に、利用目的の事前届け出が義務付けられる。従わない場合は2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科され、また虚偽申請にも罰則が設けられる。
「利用実態の調査権限」付与とは、基地や原発周辺1㎞の規制範囲に居住する市民や平和団体事務所等の所有者について、政府が職歴や戸籍、利用の実態などの情報を調査・収集できることを意味する。言い換えると、個人情報の収集作業を通して、個人や平和団体などの動向を監視することを可能とするものである。この法律によって、例えば、自衛隊関連施設や原発の近くで反対運動をしている人たちの思想・信条に、政府が勝手に立ち入るおそれがあり、平和運動への実質的規制につながりかねない。とりわけ、道内には市街地に自衛隊関連施設が隣接されている地域も多く存在することから、多数の民有地が調査・規制の対象となり、広範な私権制限がなされる危険がある。さらに、法案では、具体的な規制区域や必要とされる個人情報の提供などについて、政令や告示で個別指定されることとなっているため、政府による恣意的運用が可能である。特に、「特別注視区域」に指定された区域では、「事前届け出」の際に、政令で調査項目が歯止めなく拡大することが懸念される。
以上の通り、本法案は、安全保障の名を借りた軍事主義の拡大・推進のために日本国憲法第29条で保障された財産権を侵害しかねないだけでなく、個人情報の過度な調査によって、プライバシーの権利(憲法第13条)などの基本的人権そのものを侵害しかねない内容となっている。安全保障と言えば私権の制限をいかようにも正当化できると言わんばかりの内容は、人権保障の観点からけっして容認できないものである。
国会では今後、衆議院内閣委員会で法案の審議が行われることになっている。6月16日の会期末までのとりくみで、この法案を「審議未了」として、廃案にしていく必要がある。このためには、いま、反対の声を大きく上げていかねばならない。
北海道平和運動フォーラムは、本法案に反対するすべての市民団体や労働組合、各級議員などと連携し、廃案のとりくみに全力を挙げることを表明する。

以 上

2021年5月13日 北海道平和運動フォーラム

【道民運動】平和運動への実質的規制させない!「重要土地調査規制法案」に反対!=北海道平和運動フォーラムが見解を発出