親権は、子の利益のために行使しなければならない―。親権の実質は子どもの権利にあることが、より明確に条文に定められた。何よりもそのことを根幹に置いて、制度のあり方に目を向けていく必要がある。
離婚後も父母が共同で親権を持つことを可能にする民法の改定が国会で成立した。父母が協議し、どちらか一方が持つか、共同とするかを選べるほか、折り合わない場合、家庭裁判所の判断で共同親権とする場合がある。
双方の合意がないのに共同親権を強制されかねないことに、強い懸念の声が上がっている。虐待やDV(家庭内暴力)の恐れがあると家裁が判断すれば単独親権となるが、虐待やDVの被害は証明するのが難しい場合が多い。
親権を持つことで加害者が立場を強め、暴力から逃れられなくなる恐れがある。また、協力関係を築けない父母に裁判所が共同親権を強いるような形で、家族のあり方に介入すべきではない。
双方が合意した場合も、家庭内のいびつな力関係を背景に、本意に反して同意を強いられていることがあり得る。国会で法案が修正され、父母の真意を確認する措置を検討することが付則に定められた。政府は具体化に向けた議論を先送りしてはならない。
共同親権の導入をめぐっては、法制審議会の部会で3年近く議論を重ねながら、一致して結論を出すに至らない異例の経過をたどった。最終的に法改定の要綱案を多数決で取りまとめている。
そのことを踏まえても、国会が成立を急いだのは納得しがたい。導入ありきで、丁寧な議論の積み重ねを欠いた。既に多くの案件を抱える家裁の態勢を大幅に拡充する必要があることも、積み残された大きな課題だ。
親権は、家父長制の下で親の権限を定めた戦前の条文が戦後も残され、ことさらに強い親の権利であるかのように捉えられてきた。子どもに対する「懲戒権」が削除されたのは、2022年になってようやくである。
今回の改定まで、親権に関する筆頭の条文は「子は父母の親権に服する」と定めていた。その文言を削り、子の利益のために行使することが明記された意義を再確認し、共有する必要がある。
離婚後の親権を誰が持つかを決めるにあたって、肝心の子どもが意見を述べる機会を確保する規定は置かれていない。国会は、子どもの権利を保障する制度のあり方をさらに議論すべきだ。