ついに私たちが恐れていた決定が下されました。2024年7月10日、広島の高等裁判所は、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)の第3条の5号要件(「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」)について、それが性別適合手術を不可欠とするという従来の解釈を、「違憲の疑いがあると言わざるをえない」とし、異性ホルモン摂取などで外観が相似してさえいれば、手術なしでも男性が法的性別の取り使いを「女性」に変えることを認めたのです。外観要件そのものを違憲としなかったとはいえ、その解釈を変えることによって、手術なしでの性別変更を可能としたことに、私たちは強いショックと深い憤りを感じています。
昨年10月25日に、最高裁判所大法廷において、特例法第3条の4号要件(「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」)を違憲だとする決定が全員一致で下されましたが、5号要件に関しては、広島高等裁判所に審理を差し戻すこととなりました。私たちの会をはじめとする多くの女性と男性たちは、広島高裁が女性と子供の人権と安全を守るための最低限の良識を発揮してくれるよう強く訴えてきましたが、私たちの思いはあっさりと踏みにじられ、ついにこの日本でも、ペニスを保持したままの法的「女性」が生まれることになったのです。
私たちが以前から主張してきたように、特例法は、単に法的に「女性」として認められたい男性のための法律ではなく、男性器ないし女性器を含む自己の身体に強い違和感を持ち、「自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する」性同一性障害者のための法律です。自己を身体的に他の性別に適合させようとする意思を持たない者は、そもそもこの法律の対象ではないのです。広島高裁の決定は、国会の全員一致の賛成で可決された特例法の趣旨に完全に反するものであり、それを完全に変質させるものです。
これによって、ペニスを持ったままの「女性」が多数生まれ、女性用のトイレや更衣室、公衆浴場などの女性専用スペースに入ってくる事態が十分に予想されます。たしかに厚生労働省は昨年2023年6月23日に、公衆浴場などの利用に関しては「身体的な特徴をもって判断する」との通知を生活衛生課長名で出していますが、このような通知がいつまでも維持できると考えるのはあまりに楽観的にすぎる甘い見方であると思います。特例法というれっきとした国法があるにもかかわらず、司法に訴えるという手段を通じて、その核心的内容が事実上無効にされたわけですから、厚労省の通知が無効化される可能性もきわめて大きいと言わざるをえません。
ペニスを持ったままの「女性」が女性専用スペースに入ること自体が、その人が何らかの性犯罪を犯すかどうかに関わりなく、女性と女児の安全と尊厳を根本から脅かします。女性専用スペースは、この性暴力・性差別社会において、女性に残されたほとんど唯一の安全スペースなのです。それが司法の一方的な決定によって奪われようとしているのです。私たちはこのことに心からの怒りと恐怖を感じざるをえません。
この決定は、女性と女児の人権をないがしろにするものであるだけでなく、生物学上の初歩的事実とそれに基づいた社会秩序の基本原則に根本から反するものでもあります。私たちは、この決定に最大限の怒りをもって抗議します。私たち女性は、一部の男性の自己実現のために巻き添えにされる都合の良い存在でもなければ、司法の気まぐれによってどのようにも捻じ曲げられる単なる概念でもありません。私たちは生きた現実の人間なのです。厳然と存在する生物学的現実に基づき、人としての奪われない尊厳を持ち、絶えず性差別と性暴力にさらされながらもそれでもそれに抗して生きている人間なのです。そのことをほんのわずかでも理解していたならば、このような決定を下すことはなかったでしょう。この決定によって、日本に住むすべての女性の尊厳と人間性とが否定されたのです。それは歴史上最悪の司法判断の一つであり、日本の戦後史において最大級の歴史的汚点として記録されることでしょう。
私たちはこの許しがたい決定にもかかわらず、女性と女児の安全と人権を守るために今後とも全力を尽くします。生物学にも人権原理にも反するこのような決定に私たちは絶対に屈しません。ペニスを保持した「女性」という法的存在を私たちは絶対に認めません。司法がどれほど事実に反する決定を下そうと、事実は事実です。ペニスを持った「女性」など存在しません。それは男性です。男性には女性スペースに入る権利はありません。そう発言することによってどのような攻撃を受けようとも、女性の尊厳と安全のために、私たちはそう言い続けるし、そのことを求め続けるでしょう。
2024年7月10日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃