<緊急声明>手術なしでの法的性別取扱いの変更を認めた広島高裁の決定に断固抗議します 2024年7月10日 日本の動き GID特例法, セルフID, 司法.立憲民主党の性同一性障害特例法改正案に反対し、強く抗議します 2024年6月19日 日本の動き GID特例法, セルフID, 性自認


 ついに私たちが恐れていた決定が下されました。2024年7月10日、広島の高等裁判所は、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)の第3条の5号要件(「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」)について、それが性別適合手術を不可欠とするという従来の解釈を、「違憲の疑いがあると言わざるをえない」とし、異性ホルモン摂取などで外観が相似してさえいれば、手術なしでも男性が法的性別の取り使いを「女性」に変えることを認めたのです。外観要件そのものを違憲としなかったとはいえ、その解釈を変えることによって、手術なしでの性別変更を可能としたことに、私たちは強いショックと深い憤りを感じています。

 昨年10月25日に、最高裁判所大法廷において、特例法第3条の4号要件(「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」)を違憲だとする決定が全員一致で下されましたが、5号要件に関しては、広島高等裁判所に審理を差し戻すこととなりました。私たちの会をはじめとする多くの女性と男性たちは、広島高裁が女性と子供の人権と安全を守るための最低限の良識を発揮してくれるよう強く訴えてきましたが、私たちの思いはあっさりと踏みにじられ、ついにこの日本でも、ペニスを保持したままの法的「女性」が生まれることになったのです。

 私たちが以前から主張してきたように、特例法は、単に法的に「女性」として認められたい男性のための法律ではなく、男性器ないし女性器を含む自己の身体に強い違和感を持ち、「自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する」性同一性障害者のための法律です。自己を身体的に他の性別に適合させようとする意思を持たない者は、そもそもこの法律の対象ではないのです。広島高裁の決定は、国会の全員一致の賛成で可決された特例法の趣旨に完全に反するものであり、それを完全に変質させるものです。

 これによって、ペニスを持ったままの「女性」が多数生まれ、女性用のトイレや更衣室、公衆浴場などの女性専用スペースに入ってくる事態が十分に予想されます。たしかに厚生労働省は昨年2023年6月23日に、公衆浴場などの利用に関しては「身体的な特徴をもって判断する」との通知を生活衛生課長名で出していますが、このような通知がいつまでも維持できると考えるのはあまりに楽観的にすぎる甘い見方であると思います。特例法というれっきとした国法があるにもかかわらず、司法に訴えるという手段を通じて、その核心的内容が事実上無効にされたわけですから、厚労省の通知が無効化される可能性もきわめて大きいと言わざるをえません。

 ペニスを持ったままの「女性」が女性専用スペースに入ること自体が、その人が何らかの性犯罪を犯すかどうかに関わりなく、女性と女児の安全と尊厳を根本から脅かします。女性専用スペースは、この性暴力・性差別社会において、女性に残されたほとんど唯一の安全スペースなのです。それが司法の一方的な決定によって奪われようとしているのです。私たちはこのことに心からの怒りと恐怖を感じざるをえません。

 この決定は、女性と女児の人権をないがしろにするものであるだけでなく、生物学上の初歩的事実とそれに基づいた社会秩序の基本原則に根本から反するものでもあります。私たちは、この決定に最大限の怒りをもって抗議します。私たち女性は、一部の男性の自己実現のために巻き添えにされる都合の良い存在でもなければ、司法の気まぐれによってどのようにも捻じ曲げられる単なる概念でもありません。私たちは生きた現実の人間なのです。厳然と存在する生物学的現実に基づき、人としての奪われない尊厳を持ち、絶えず性差別と性暴力にさらされながらもそれでもそれに抗して生きている人間なのです。そのことをほんのわずかでも理解していたならば、このような決定を下すことはなかったでしょう。この決定によって、日本に住むすべての女性の尊厳と人間性とが否定されたのです。それは歴史上最悪の司法判断の一つであり、日本の戦後史において最大級の歴史的汚点として記録されることでしょう。

 私たちはこの許しがたい決定にもかかわらず、女性と女児の安全と人権を守るために今後とも全力を尽くします。生物学にも人権原理にも反するこのような決定に私たちは絶対に屈しません。ペニスを保持した「女性」という法的存在を私たちは絶対に認めません。司法がどれほど事実に反する決定を下そうと、事実は事実です。ペニスを持った「女性」など存在しません。それは男性です。男性には女性スペースに入る権利はありません。そう発言することによってどのような攻撃を受けようとも、女性の尊厳と安全のために、私たちはそう言い続けるし、そのことを求め続けるでしょう。

2024年7月10日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃

<緊急声明>手術なしでの法的性別取扱いの変更を認めた広島高裁の決定に断固抗議します2024年7月10日
日本の動き
GID特例法, セルフID, 司法


当会はこの抗議文を、立憲民主党、法案提出議員、他党党本部、報道機関に宛てて送信しました。


 立憲民主党は、2024年6月11日、「性同一性障害特例法改正法案」を議員立法として衆議院に提出しました

 これは、性同一性障害特例法(以下、特例法)における性別取扱いの変更に関わる主要な条件をすべて削除し、性同一性障害の定義さえ変更するものであり、事実上、性同一性障害特例法を無効化するものです。同党の改正案によると、その第一として、「未成年の子なし要件」が削除されることが明記され、第二の1として「生殖不能要件」と「外観要件」の両方を削除することが明示されています。さらに第二の2として、性同一性障害者の定義から、「身体的に他の性別に適合させようとする意志」に係る部分を削除し、さらに医師の診断書の記載事項の例示から「治療の経過及び結果」を削除するとしています。

 これらの改正は、特例法の根幹を否定し、女性と子供の権利を著しく侵害するものであり、私たちはその改正案に断固反対するとともに、そのような改正案を出した立憲民主党に強く抗議するものです。以下、簡単に説明します。

改正案は特例法の根幹を否定する

 特例法は、単に自分の性別を法的に変えたい人のための法律ではなく、著しい身体違和を持ち、それゆえに自己の身体を他の性別に類似したものへと不可逆的な形で変えた人が社会生活をスムーズに送れるよう、当時の国会において満場一致で制定されたものです。にもかかわらず、「身体的に他の性別に適合させようとする意志」を持つという性同一性障害者の定義の中心をなす規定を削除してしまい、昨年10月に最高裁で違憲判定が下された「生殖不能要件」のみならず、特例法の核心でもある「外観要件」をも削除することになれば、同法は、制定時における立法趣旨とまったく異なったものに変質してしまうことを意味します。それは、特例法の根幹を否定するものです。また、「未成年の子なし」要件も、未成年の親の「性別」の法的取り扱いが変わることによる社会的混乱や子供の不利益の発生を避けるためのものです。

 これらが削除されれば、性別取扱いの変更を家庭裁判所に申し立てる上での条件としては、医師の診断だけが残ることになります。しかし、現在、たった1回の診察や数十分の診察で安易に「性同一性障害」の診断書を出す医者やクリニックは後を絶たず、それは何ら歯止めの役割を果たしていません。さらに、その医師の診断に関しても、立憲民主党の改正案は、それを厳格化するのではなく、逆に、医師の診断書の記載事項の例示から「治療の経過及び結果」を削除するとして、いっそうの緩和をめざしています。

 このような全面的な規制緩和は、それまで特例法の種々の条件をクリアすることで一定の社会的信頼を得ていた性同一性障害の人々にとっても大きな不利益になるでしょう。

改正案は女性と少女の人権と尊厳を侵害する

 「生殖不能要件」のみならず、「外観要件」も削除されれば、ペニスを持った「法的女性」が大量に発生することが予想されます。そうなれば、これらの人々が社会的にも「女性」として扱われ、女性トイレのみならず、女性用の更衣室、浴室、病室、シェルター、刑務所などの女性専用スペースにも当然入ってくることが十分に予想されます。なぜなら、現行の特例法に基づいて法的性別の取扱いの変更を終えた人たちは、すでにそれらのスペースに入っているからです。

 立憲民主党の改正案には、これらの女性専用スペースの運用に関する新たな規定は何もなく、また別途、女性専用スペースに係る独自の法案を作成しているわけでもないので、同党の改正案が成立すれば、すべての女性専用スペースにペニスを備えた「女性」が入れるようになるでしょう。たとえ、個々に浴場やプールの管理者が、厚労省の通知に基づいて「身体的特徴」で分けたとしても、そのような区別が「差別」だとして訴えられるリスクは常に存在するし、司法がそのような区別を妥当だと判断する保証もありません。

 そのような事態になれば、女性と少女の人権と尊厳が著しく侵害されるのは明らかです。諸外国ではすでに、「外観要件」をなくして(さらに一部では医師の診断書という手続きさえなくして)、その人の自己申告に基づいて性別を変えられるようになったことで、男性器を備えた「女性」が大量に生まれ、それらの人々が女子刑務所や女性用更衣室などの女性専用スペースに入ってくる事態になっており、レイプなどの深刻な性暴力がすでに多発しています。またたとえレイプなどの性犯罪にまで至らなくても、ペニスを備えた人物と同じ空間で着替えやシャワーの利用を強要されることは、著しい人権侵害であり、女性の尊厳を否定することです。それは性暴力を誘発し、すべての女性と少女を危険にさらすものです。

 以上の点からして、立憲民主党の改正案は絶対に許容できないものであり、私たちはそれに断固反対し、強く抗議するとともに、その速やかな撤回を要求します。

 諸外国において性別取扱いの要件を安易に緩和したことで多くの問題や事件が発生している事実については、すでに有権者や市民から多数、立憲民主党にも寄せられているはずなのに、そのことから何も学ばず、知ろうともせず、あるいは、まったく無視する態度をとっていることに、私たちは強い憤りを感じています。このような政党が与党になれば、他のすべての問題に関しても、市民を無視し、女性をないがしろにし、子供を危険にさらす政策を実行することは明らかです。私たちはそのことに深い憂慮と懸念を表明するものです。

2024年6月17日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃

立憲民主党の性同一性障害特例法改正案に反対し、強く抗議します2024年6月19日
日本の動き
GID特例法, セルフID, 性自認