世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金の問題で、多額の献金をした信者の老後破綻への懸念が強まっている。被害者救済法案を巡る与野党の協議が難航する中、高齢の両親が借金を抱えながら献金を続けている関東地方の「宗教2世」の30代女性は、「両親は客観的に状況を判断できず、このままでは支えきれない。早急に対策を講じ、家族が献金を取り戻す権利も認めてほしい」と訴える。(太田理英子)
◆毎月、収入の10分の1・・・遺産1億5000万円も
女性は合同結婚式で結ばれた両親の元に生まれた。教団関連企業で働く父親の収入でなんとか家計が成り立つ状況だったが、両親は日常的に献金を重ねた。月ごとに収入の10分の1を教団に納める「十一条献金」をすれば地元教会の会報に名前が載り、女性は「献金しないといけない」と思いやすかったと振り返る。
子ども時代は最低限のものしか与えられず、大学の学費などは奨学金やアルバイト代でまかなった。だが大学を卒業するころ、両親が親族の遺産約1億5000万円を献金していたと知った。「子どもより教団が大事なのかと思い知った」。教団に不信を募らせ、女性は約7年前、一人で脱会した。
高額献金への疑念が深まったのは今夏、信者2世が起こした安倍晋三元首相の銃撃事件だった。「家庭を破綻させる献金はおかしい」と思い、教団に返金を求めるよう70代の両親に説得を始めた。
◆借金をしても、献金をやめなかった両親
その過程で、消費者金融や親族に約250万円の借金をしていることが判明。両親はアルバイト代と年金で暮らすのがやっとだが、教団が来年に向けて信者家庭に求めている183万円の献金をさらに納めようとしているという。
女性は計約2億円の献金の返還を求めて自ら交渉を試みたが、教団側が「老後の資金に」と提示したのは3000万円。10月末、知らない間に両親は合意書にサインしていた。女性は「高額献金は信者の家族の人生を壊してきたのに、教団は理解していない」と憤る。
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◆「老後の問題を2世に背負わせないで」
旧統一教会の被害者救済に向けた与野党4党の協議で、野党側は信者に代わって家族が献金の返還請求をできる権利も認めるよう主張するが、与党側は後ろ向き。マインドコントロール下での高額寄付要求などの規制を柱とする新法の今国会での成立を、与党は先送りする考えを示している。
教団での活動を優先して年金を十分に納めていない信者もいるといい、女性が交流する宗教2世の間でも親の老後破綻を懸念する声が聞かれる。女性は「家族や社会保障を犠牲にして献金してきた信者は多いのに、扶養義務は被害を受けた子どもに生じる。老後の問題を2世に背負わせないように対策と支援をしてほしい」と話している。