「日本版DBS」に代わる名案があった園田寿甲南大学名誉教授、弁護士3/25(月) 21:44.前科はリセットされる園田寿甲南大学名誉教授、弁護士2016/5/24(火) 12:22.日本版DBSの議論で持つべき冷静な視点 専門家が指摘するブラックリスト化の危険性.「日本版DBS」の実施は虎を野に放つようなもの #専門家のまとめ園田寿甲南大学名誉教授、弁護士2023/10/7(土) 11:14等PDF魚拓





実は日本では犯罪歴に関するブラックリストというものはすでにあります。各市町村におかれている犯罪人名簿です。検察庁からの通知に基づき、有罪判決や科刑の記録が記載されています。

つまり「前科」がある人のリストであり、前科があれば弁護士や医師などの職業に就くことを一定期間制限されます。ただ、前科は10年で消滅し、職業制限もそれで解除されます。

これは過ちを犯した人を許し、更生を促すという思想が近代以降の刑法にはあるからです。それ以前、例えば江戸時代では、罪を犯すごとに「犬」などの文字が額に入れ墨され、犯罪歴は文字どおり、消えない「烙印」として残されました。そこには更生という思想は全くなく、単に犯罪歴のある人にマーキングし、社会から排除するという考えでした。

検討中の日本版DBSでは、職業を制限する時限について議論されていません。憲法で定められた「職業選択の自由」を刑法より厳しい形で制限するのは法的な整合性という問題が出てくるでしょうし、近代以降、続いてきた刑罰の更生という考えとも矛盾します。入れ墨刑があった江戸時代のように、社会から排除することにつながっていかないか、心配です。

例えばアメリカでは、州によっては性犯罪を犯した人の情報がインターネットで公開されています。情報が公開された人たちの中にはもう、町では暮らせないようになったケースもあります。部屋も借りられないし、仕事も見つからない。宗教団体がサポートする性犯罪者だけのコミュニティーが山奥にできて、そこで暮らすのだと。まさに社会から排除されているわけです。議論にあたってはこういった事例も考えるべきです。
日本版DGSの議論とは

子どもに対する性犯罪が後を絶たないことから、抑止を目的とした制度がこども家庭庁を中心に議論されている。検討中の制度は「日本版DBS」と呼ばれ、イギリスがすでに導入している制度「DBS(=Disclosure and Barring Service)」を手本にしている。子どもと接する職業に就く人に対し、性犯罪歴がないことを確認する仕組みで、対象職業や、閲覧権限の範囲など様々な論点がある。こども家庭庁での有識者会議はすでに始まり、早ければ今秋に想定される臨時国会に関連法案が提出される見通し。
――ほかに課題と考えることは何でしょう。

そもそも日本版DBS議論の前提となっているのは、「性犯罪者は再犯率が高い」という見解です。再犯率とは、一度罪を犯した人が再び罪を犯す割合のことですが、実は法務省はこれに完全に合致するデータは持っていません。

というのも、この数字を出そうとすると、個別の追跡調査が必要であり、追跡の期間や同種の犯罪に限るのかなど、いくつかの問題点が出るからです。何よりも服役後、個別に追跡調査することは人権上問題となる可能性もあります。

法務省が出しているデータに、再犯者率というものがありますが、これは再犯率とは全く別の数字です。にもかかわらず、メディアでも時々、再犯率と混同しているケースがあります。

再犯者率というのは、検挙された人に占める再犯者の割合のことです。初犯者の割合次第で増えたり減ったりしますし、再犯率とは違う数字です。

一方、発表されているデータの一つに「再入率」というものがあります。これは刑事施設を出所した人が2年以内に再入所した割合で、いわゆる再犯率に比較的近い数字と言えます。そこで性犯罪の再入率を調べますと、出所者全体と比べて低く、再犯率が高いとは言えないのが実態です。正しいデータに基づいた冷静な議論が求められます。


性犯罪の2年以内再入率は2020年(令和2年)出所者で5.0%となっており、出所者全体(15.1%)と比べると低く、再犯率が高いとまでは言えない。

再犯防止推進白書(法務省)
もう一つの課題は、情報漏洩の危険性です。今の議論では、制限する職業は公立の学校だけでなく、私立の学校や民間の塾なども対象にしようという意見が出ています。公立の学校であれば、リストにアクセスする人は教職員イコール公務員であり、地方公務員法によって行動が縛られます。しかし、民間の塾の先生などに対しては今のところ、こうした法的拘束力がありません。誰からか頼まれて閲覧し、情報を漏らしてしまうリスクもあります。ですので、こういう点に関しても法整備が必要になってくるでしょう。

リストに載せる基準についてもまだはっきりしません。性犯罪歴と言っても、有罪判決が確定した人に限るのか、あるいは刑事事件にはなっていないけど、組織で懲罰された人も含むのか。

有罪判決を受けていないのに、職業選択の自由を制限してもいいのかという法的、人権的なバランスも考えなければいけません。

――お話しいただいたような課題がクリアできる仕組みは、どんなものでしょうか。

一つ私が提案したいのは、ブラックリスト方式ではなく、ホワイトリスト方式です。ブラックリストが問題のある人をデータベース化する仕組みなのに対し、ホワイトリストはその逆で、問題のない人のリストを作るのです。

制限する職業に就こうとする人が出てきた場合、ホワイトリストを閲覧し、ここに名前があれば制限する必要はありません。逆に名前がなければ、「何か問題があった人」ということで、実際に面接などをして状況を聞き取とるなど、見極めます。

この方式のメリットはまず、排除の論理が進むことを防ぎ、更生という刑法の理念とも矛盾しないという点です。情報漏洩の点からもブラックリストよりリスクは低いと思います。

ホワイトリストには犯罪歴が記載されているわけではないので、たとえ漏れたとしても、ブラックリストの漏洩よりも被害はましなはずです。
こども家庭庁内に作られたイベントスペースの入り口=2023年4月、東京都千代田区、藤崎麻里撮影

――ホワイトリストだと、ブラックリストよりも搭載情報が膨大になり、管理などが大変ではないでしょうか。

行政はすでに日本国民全員をデータベース化しています。住民基本台帳で、それを国と地方自治体の間でネットワーク化もしています。それを考えれば、ホワイトリストの作成は十分可能です。

改めて言いますが、昨今の子どもの性被害の状況を考えると、何らかの対策が必要だというのは賛成です。

ただ、その方法については、人権保護や更生の考えとの整合性を取りつつ、社会にとってよりリスクが少なく、かつ狙い通りの効果が期待できる仕組みにするべきだと思います。

https://globe.asahi.com/article/14993254
日本版DBSの議論で持つべき冷静な視点 専門家が指摘するブラックリスト化の危険性



https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saihanbousi/240613pub/kekka.pdf


意見募集結果概要
1 募集期間
6月 13 日(水)~6月 27 日(水)(15 日間)
2 応募件数
33 件
3 主な意見
(1) 対象者の特性に応じた指導及び支援の強化に関する意見
・ 刑事施設での再犯防止カリキュラムの拡充を図るべきである。
・ 個々の特性に応じた教育を行うための体制整備を図るべきである。
・ 地域における薬物依存症に対する医療体制の構築が必要である。
(2) 社会における「居場所」と「出番」の創出に関する意見
・ 刑務所内での就職活動及び就労支援・指導等の改善を図るべきである。
・ 就労先としてソーシャルファームの創設が必要である。
・ 満期釈放者に対する社会復帰支援を強化すべきである。
・ 被害者側に心を寄せた施策も行うべきである。
・ 政府が率先して刑務所出所者等の雇用に努めるべきである。
(3) 再犯の実態や対策の効果等を調査・分析し、更に効果的な対策の検討・実施に関する意見
・ 現在の刑務所における処遇についての分析と必要な見直しを優先して行うべきであり、
その中で特に被害者の視点を取り入れた教育をより重視すべきである。
(4) 広く国民に理解され、支えられた社会復帰に関する意見
・ 保護司等の増員や処遇改善を行うべきである。
・ ボランティアやNPO法人等民間の協力者への支援を強化すべきである。
・ 再犯防止施策の立案・実施については日本弁護士連合会や弁護士の参画も求めるべき
である。
(5) その他の意見
・ 厳罰化や出所後の監視による抑止力の強化が必要である。
・ GPS 機能を利用した監視体制の構築が必要である。
・ 薬物事犯や性犯罪について刑罰を重くし、刑務所における更生教育の期間を確保する
ことが必要である。
・ 初等教育の段階から「礼や道徳を重んじる教育」を充実させるほか、犯罪抑止等に関
するカリキュラムを学校教育に取り入れるべきである。
・ 犯罪や非行を産み出す社会的問題を取り除く必要がある。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saihanbousi/240613pub/kekka.pdf


はじめに

 犯罪や非行をした者は,服役するなどした後,再び社会の一員となる。



 犯罪や非行が繰り返されないようにするためには,犯罪や非行をした本人が,過ちを悔い改め,自らの問題を解消する等,その立ち直りに向けた努力をたゆまず行うとともに,国がそのための指導監督を徹底して行うべきことは言うまでもない。


 それと同時に,社会においても,立ち直ろうとする者を受け入れ,その立ち直りに手を差し伸べなければ,彼らは孤立し,犯罪や非行を繰り返すという悪循環に陥る。地域で就労の機会を得ることができれば,自分を信じることができる。住居があれば明日を信じることができる。彼らの更生への意志は確かなものとなり,二度と犯罪に手を染めない道へとつながっていく。



 犯罪が繰り返されない,何よりも新たな被害者を生まない,国民が安全で安心して暮らせる「世界一安全な国,日本」を実現するためには,ひとたび犯罪や非行をした者を社会から排除し,孤立させるのではなく,責任ある社会の一員として再び受け入れること(RE-ENTRY)が自然にできる社会環境を構築することが不可欠である。


 ここに,全ての国民と共に「犯罪に戻らない・戻さない」立ち直りをみんなで支える明るい社会を創り上げることを宣言する。


1 再犯の現状等

1 再犯の現状



 2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を控え,世界一安全な日本を創ることは,国を挙げて成し遂げるべき使命である。



 しかし,約3割の再犯者によって,約6割の犯罪が行われているという調査結果もある中,一般刑法犯の認知件数は減少傾向にあるものの,検挙人員(犯罪少年を含む)に占める再犯者の割合(再犯者率)は,平成9年以降一貫して上昇し続けており,平成25年には約5割を占めるまでに至っている。また,平成25年に新たに受刑した者の約6割は,過去に受刑歴がある再入者によって占められている。



 すなわち,今日の我が国においては,犯罪・非行の繰り返しをいかに食い止めるか(=再犯防止)が,犯罪を減らし,安全・安心に暮らせる社会を構築する上での大きな課題となっている。



2 犯罪・非行が繰り返される背景



犯罪や非行の原因については,心理面や社会面等における様々な要因が複雑に関連し合っていると考えられるが,家族や地域社会とのつながりが希薄であり,孤立しているといった問題を抱えている者も少なくない。



こうした問題から,自立した社会の一員として暮らしていくために必要な仕事や,安心して暮らせる居場所を得ることができない者も少なくなく,例えば,再犯により刑務所に収容される受刑者の約7割が無職であり,また,仕事に就いていない者は,仕事に就いている者と比べて再犯率が4倍と高いことが明らかになっている。また,毎年約6,400人の受刑者が帰るべき場所がないまま刑務所を出所し,そのうち3人に1人は2年以内に刑務所に戻っている。



このような犯罪・非行の繰り返しを食い止めるためには,犯罪や非行をした者を社会で孤立させないことが肝要であり,自立のために必要な「仕事」や「居場所」の確保といった社会での受け入れをいかに進めていくことができるかが大きな鍵となっている。



3 再犯防止を支える社会の変化



我が国において,犯罪や非行をした者の立ち直りを社会で支えようとする取組は,明治中期に静岡県において生まれた。



それから現在に至るまで,我が国の再犯防止は,地域において犯罪や非行をした者の指導・支援に当たる保護司,刑務所や少年院等の矯正施設を訪問して受刑者や非行少年の悩みや問題について助言・指導する篤志面接委員を始め,犯罪や非行をした者の事情を理解した上で雇用する企業である協力雇用主,帰るべき場所のない刑務所出所者等を受け入れて「居場所」を提供する更生保護法人,犯罪や非行をした者の改善更生を支援する幅広い活動を行っている更生保護女性会,BBS会(BBSとは,Big Brothers and Sistersの略であり,非行少年の自立を支援するとともに,非行防止活動を行う青年ボランティア団体である。)など,多くの民間の篤志家と国が手を取り合って進められてきた。また,少年の居場所づくりを通じた立ち直り支援に取り組んでいる少年警察ボランティアは,都道府県警察の少年サポートセンターの少年補導職員と連携した活動を進めている。このような民間篤志家の存在,そしてその活動を直接,間接に支える日本国民の和の精神は,世界に誇るべき我が国の宝である。



しかし,人口減少時代を迎える中,都市化,高度情報化といった社会環境の変化も相まって,地域社会における人と人のつながりも弱まりつつある。こうした中で,民間の篤志家による活動は難しさを増しており,保護司のなり手も近年,減少傾向にあるなど,再犯防止を支える社会的土壌は危機に瀕していると言っても過言ではない。



再犯防止を支える我が国の良き社会的土壌を将来にわたって持続可能なものとするためには,こうした活動の輪を更に広げ,社会全体から理解され,国民一人一人の立場に応じた協力を得るための取組を進める必要がある。

2 立ち直りをみんなで支える社会に向けた取組の方向性

 立ち直りを支える明るい社会の構築に向けた取組を進めるために必要なことは,国としてまず何を行い,その上で地域の関係機関や企業等の団体,ひいては広く国民に何をお願いしていくのか,その方針を明確に打ち出した上で,相互にその取組を積極化していくことである。



ここでは,自立のために必要な「仕事」と「居場所」の確保に向けた国の取組の方向性を示した上で,次項から,それぞれ取組について,具体的な数値目標と取組の内容を明らかにし,国民に一層の理解と協力を求めることとした。



【取組の方向性】



1 犯罪や非行をした者がより円滑に社会復帰することができるよう,矯正施設入所中から出所後に至るまで,これまで以上に社会とのつながりを持ちながら指導や支援を行える体制づくりを,地域社会の理解や協力も得ながら進めていく。



2 立ち直りに関わる国や地方の関係機関が連携を密にし,犯罪や非行をした者が健全な社会の一員として定着するまで,シームレスな指導・支援を行っていく。



3 犯罪や非行をした者の立ち直りを支える民間ボランティアや企業等が地域社会で活動しやすい環境をつくり,犯罪や非行をした者を受け入れることが自然にできる社会の実現に向けた活動の輪を広げていく。



3 再犯防止につながる仕事の確保

【数値目標】



2020年までに,犯罪や非行をした者の事情を理解した上で雇用している企業の数を現在の3倍にする。



【取組の概要】



犯罪や非行をした者の多くは,基礎的な学力や仕事上求められる技能を身に付けておらず,粘り強さや対人関係能力等が不足しているほか,前歴そのものによる就労上の制約があるなど,様々な課題を抱えている。そのため,矯正施設収容中から,就労に必要な技能を身に付けさせるための指導・訓練を推進するとともに,これらを活かして出所後直ちに就労できるよう,矯正施設,保護観察所,ハローワーク等が連携し,具体的な就労先の確保に向けた調整を一層進めることが肝要である。



また,社会における就労先の開拓のため,協力雇用主による雇用及びその継続が円滑に行われるよう,物心両面の支援を推進するとともに,広く企業への情報発信に努める。



このような取組を総合的に推進することにより,犯罪や非行をした者を実際に雇用している協力雇用主の数を現在の約500社から3倍の約1,500社にまで増加させ,犯罪や非行をした者の自立に向けた就労の機会を大幅に増加させることを通じて,犯罪や非行の繰り返しを防ぐ。



【具体的な取組】



1 社会のニーズに合った矯正施設における職業訓練・指導の実施


受刑者や少年院在院者の中には,社会人として求められる意識や態度に欠ける者も少なくないことから,就労支援が必要な者を早期に把握した上で,就労意欲の喚起,働く上で求められる基本的なコミュニケーションスキルやビジネスマナーの体得等を目的とした指導を行うとともに,ハローワーク等の関係機関や民間協力者,企業等と連携した就労支援を実施する。

 また,矯正施設における職業訓練・指導については,社会における担い手が不足していることから,雇用ニーズが高まっている業種を積極的に実施するなど,就職につながる職業訓練等の取組を推進する。



2 求人と求職のマッチングの強化


 矯正施設,保護観察所,ハローワーク等が連携して就職先の確保から就職後の職場定着支援までを一貫して行う就職支援の強化,民間のノウハウを活かした更生保護就労支援事業の推進等の求人と求職のマッチングに向けた取組を一層強力に推進する。



3 犯罪や非行をした者を雇用しやすい環境づくり


(1)国等の公的機関における雇用の促進

国(法務省,厚生労働省)における保護観察対象少年の雇用事例を参考に,国及び地方公共団体等において,犯罪や非行をした者の雇用を積極的に検討する。



(2)犯罪や非行をした者を雇用した企業に対する支援の充実

 犯罪や非行をした者を雇用して指導等に当たる協力雇用主に対する経済的支援策等を拡充する。また,競争入札(総合評価落札方式)において,犯罪や非行をした者を雇用している協力雇用主に対しポイントを加算する取組等,犯罪や非行をした者が雇用されやすくするための取組の推進に向けて,このような取組を進めている省庁及び地方公共団体における取組内容について,情報の共有を図る。

 犯罪や非行をした者を雇用しようとする企業の不安を軽減させるため,雇用上のノウハウや成功事例,雇用主に対する支援メニュー等の情報を広く事業主等に提供する。



(3)安心して雇用し続けるためのサポート体制づくり

企業が安心して継続的に犯罪や非行をした者を雇用できるよう,雇用する中で生じる様々な問題等を相談し,支援を受けられる体制を構築する。

4 再犯防止につながる社会での居場所づくり

【数値目標】

2020年までに帰るべき場所がないまま刑務所から社会に戻る者の数を3割以上減少させる。



【取組の概要】



 犯罪を繰り返すにつれて,親族等との関係が疎遠になり,社会で支える人がいないために社会で孤立しやすくなることが知られている。



受刑者に頼ることができる親族等が存在している場合には,刑務所から出所した後,当面の生活を支援してもらえるよう,個々の問題や関係性を踏まえながら,粘り強く調整を行う必要がある。



また,刑務所から出所した後に帰るべき場所がない者に対し,更生保護施設を始めとする一時的な居場所等につなぐ取組についても,一層の推進を図る必要がある。



他方,社会の高齢化等に伴い,高齢者・障害者といった自立が困難な受刑者の割合が増えている。近年,刑務所や保護観察所,地方公共団体が連携して,刑務所収容中から出所後速やかに適切な福祉サービスを受けることができるようにする仕組みが整備され,年間約1,000人の帰住先の調整が行われるなど,相応の実績を挙げつつある。しかし,福祉的な支援を必要とする潜在的な対象者は年間約2,000人に上るという調査結果もある中,こうした者に対する関係機関がシームレスに連携した医療・福祉的支援を更に強化することが必要となっている。



このような取組を総合的に推進することにより,帰るべき場所がないまま刑務所から社会に戻る者の数を現在の約6,400人から3割以上減少させること,将来的にはこのような状況が解消されることを通じて,犯罪や非行の繰り返しを防ぐ。



【具体的な取組】



1 出所後のスムーズな社会適応に向けた指導の充実


高齢又は障害のため,自立した生活を送ることが困難な者に対しては,刑務所において,福祉や年金に関する基礎的知識の付与,対人スキルの向上等,出所後の生活へのスムーズな適応を目指した指導の充実を図る。



また,疾病等の健康上の問題を抱える者に対しては,矯正施設において必要な治療等を実施できるよう,矯正施設で勤務する医師の確保を含む医療体制の充実に向けた取組を推進する。



2 自立が難しい者の帰住先の確保に向けたシームレスな支援


高齢又は障害のため,自立した生活を送ることが困難な者に対しては,刑務所,保護観察所,地域生活定着支援センター,更生保護施設,福祉関係機関等の連携の下,地域生活定着促進事業対象者の早期把握及び迅速な調整により,出所後直ちに福祉サービスにつなげる体制の充実を図るとともに,帰住先確保に向けた調整を強化する。



また,地域生活定着促進事業の対象とならない者に対しても,個々の必要性に応じた指導・支援,医療・福祉のサポート等を,刑務所に収容中から出所後に至るまでシームレスに実施できるよう,支援体制を強化する。



3 社会における様々な居場所の確保



(1)一時的な居場所の確保

 矯正施設から出所したものの,帰るべき場所がない者の一時的な居場所を確保するため,国が運営する自立更生促進センターにおける確実な受入れの推進,更生保護施設の受入れ機能の強化・施設整備の促進,自立準備ホーム等の多様な一時的帰住先の確保等の取組を推進する。



(2)犯罪や非行をした者の相談体制の充実

 犯罪や非行をした者やその家族等が,生活上の悩み等の相談・助言,公的支援に関する情報提供を受けることができる体制の充実を図る。



(3)ソーシャルビジネスとの連携

 犯罪や非行をした者の新たな居場所の確保に向けて,高齢者・障害者の介護・福祉やホームレス支援,ニート等の若者支援といった社会的・地域的課題の解消に取り組む企業・団体等との連携やこうした団体等の普及方策等について検討を進める。

5 再犯防止を支える社会の強化

再犯防止は,広く国民に理解され,支えられて初めて成り立つものである。



しかし,犯罪や非行をした者が,刑事裁判や少年保護手続を経て刑務所や少年院・保護観察所等によりどのような処遇を受けているのかについては,これまで注目されることも少なく,また,政府全体として広く国民に伝えるといった努力も十分効果的ではなかった。

犯罪や非行をした者の立ち直りを社会で支えてきた民間協力者が活動しやすい環境づくりを進めるとともに,「犯罪や非行をした者を社会から排除・孤立させるのではなく,再び受け入れること(RE-ENTRY)が自然にできる社会」の構築に向けたメッセージを政府一丸となって国民に発信することにより,国民の関心を高め,直接・間接に再犯防止に協力してもらえる社会的土壌の一層の醸成に努めることが必要である。



1 社会を明るくする運動の強化



 全ての国民が,犯罪や非行の防止と罪を犯した者たちの更生について理解を深め,それぞれの立場において力を合わせ,犯罪のない地域社会を築こうとする全国的な運動である“社会を明るくする運動”の一層の推進を図る。



そのため,従来,法務大臣を委員長,関係省庁及び関係団体を構成員としている中央の推進体制について,全ての省庁を構成員とするとともに,一層多くの関係団体の参加を得ること等により,地方公共団体,民間と一丸となった広報啓発活動を積極的に推進する。



 また,活動を進めるに当たっては,再犯防止活動に取り組む保護司や協力雇用主といった地域の民間協力者とも有機的に連携を取りつつ,刑事司法に限らない幅広い分野における関係者が相互に情報を交換し,交流すること等を通じて,再犯防止に関するネットワークが広がるような取組を推進する。



 併せて,国民各層に関心を持ってもらう一つのきっかけとするため,様々な分野において再犯防止活動に取り組む人やその活動内容を分かりやすく発信する取組を推進する。



2 立ち直りを支える民間協力者が活動しやすい環境づくり



 社会を明るくする運動など再犯防止に関する広報・啓発活動や犯罪や非行をした者の立ち直りを社会で支えている保護司,更生保護女性会,BBS会を始め,居場所づくりを通じた少年の立ち直り支援活動に取り組んでいる少年警察ボランティアなどの民間協力団体がより効果的な活動が行えるよう支援を強化する。



 特に,犯罪や非行をした者の立ち直りを中心的に担っている保護司が,活動しやすい環境をつくるため,保護司候補者に関する情報提供,活動の拠点となる更生保護サポートセンターの円滑な設置運営,保護観察対象者等の社会復帰支援の連携等に向けた取組を,地方公共団体,経済界と手を携えて推進する。

また,更生保護女性会やBBS会,少年警察ボランティアといった民間協力団体がより有機的に連携し,効果的に活動が行えるよう支援する。

6 再犯防止のため,国民にお願いすること

政府における上記の取組に加えて,社会における様々な分野において再犯防止に向けた取組を進めるよう,政府一丸となった働き掛けを行う。



1 経済界



我が国の企業の中には,社会貢献の一環として,受刑者に対する職業訓練から刑務所内の作業の提供,出所後の雇用まで一貫したプログラムを提供している例も一部ではあるが存在する。こうした取組は諸外国に多くの例があり,特に英国では,企業による受刑者等への就労支援が社会貢献活動として評価され,積極的に行われている。



経済界に対し,犯罪や非行をした者の立ち直りを支える雇用先の拡大に向けて,政府と緊密に連携を図りながら,経済界を挙げて,犯罪や非行をした者を雇用することの社会的意義や支援策等について周知を図るとともに,積極的な雇用の推進に取り組んでもらえるよう働き掛ける。



2 地方公共団体



地方公共団体に対し,団体における独自の活動として進められている犯罪や非行をした者に対する就労・住居支援を始めとする再犯防止に向けた取組や,一部の都道府県警察において進められている非行少年の居場所づくりを通じた立ち直り支援,少年補導等非行少年を生まない社会づくりに向けた新たな取組を参考に,各地方において,犯罪や非行をした者の雇用,支援体制の構築,国の活動と連携した広報・啓発体制の強化に取り組むとともに,再犯防止のために地域で活動する民間協力者に対する支援を充実してもらえるよう働き掛ける。



3 国民



あまねく国民に犯罪や非行をした者を社会で受け入れる必要性等について理解を求め,一人一人の立場に応じて,再犯防止に向けた活動に直接・間接的に参加・協力してもらえるよう働き掛ける。

7 おわりに 

再犯防止は簡単ではない。しかし,絶対にあきらめてはいけない。

「犯罪に戻らない・戻さない」という決意の下,「世界一安全な国,日本」の実現に向けて,犯罪や非行をした者を社会から排除・孤立させるのではなく,再び受け入れること(RE-ENTRY)が自然にできる社会を目指し,国民各位の御理解と御協力を切にお願いする。「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」 印刷用全文[PDF:230KB]
「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」 イメージ図[PDF:303KB]

宣言 : 犯罪に戻らない・戻さない  ~立ち直りをみんなで支える明るい社会へ~


https://www.moj.go.jp/content/001129894.pdf

https://www.moj.go.jp/content/001129893.pdf



再犯防止対策への御理解と御協力をお願いします。


 今般,再犯の防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)が成立し,平成28年12月14日に公布,施行されました。

 我が国においては,検挙人員に占める再犯者の割合である「再犯者率」が上昇しており,安全で安心して暮らせる社会を構築する上で,犯罪や非行の繰り返しを防ぐ「再犯防止」が大きな課題となっています。

 本法律は,このような現状を踏まえ,国民の理解と協力を得つつ,犯罪をした者等の円滑な社会復帰を促進すること等による再犯の防止等が犯罪対策において重要であることに鑑み,再犯の防止等に関する施策に関し,基本理念を定め,国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに,再犯の防止等に関する施策の基本となる事項を定めることにより,再犯の防止等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって国民が犯罪による被害を受けることを防止し,安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与することを目的とするものです。
 また,本法第5条において,国及び地方公共団体は,再犯の防止等に関する施策が円滑に実施されるよう,相互に連携を図らなければならないこと,本法第7条第1項において,政府は,再犯の防止等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,再犯の防止等に関する施策の推進に関する計画(以下「再犯防止推進計画」という。)を定めなければならないこと,本法第8条第1項において,都道府県及び市町村は,再犯防止推進計画を勘案して,当該都道府県又は市町村における再犯の防止等に関する施策の推進に関する計画を定めるよう努めなければならないことなどが規定されているほか,本法第22条第1項において,国は,再犯の防止等に関する施策の重要性について,国民の理解を深め,その協力を得られるよう必要な施策を講ずるものとすると規定されています。

 皆様には,本法律の趣旨を御理解いただき,立ち直りを支え,誰もが安心して暮らせる社会を実現するため,再犯防止対策に更なる御理解と御協力をお願いします。

再犯の防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)概要[PDF:370KB]
条文[PDF:192KB]
附帯決議(参議院法務委員会)[PDF:104KB]

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https://www.moj.go.jp/content/001212699.pdf

https://www.moj.go.jp/content/001212698.pdf

https://www.moj.go.jp/content/001212700.pdf