離婚後共同親権を含む民法改正法に反対し、再度の改正または施行延期を求める決議(北海道弁護士連合会)ありしん@共同親権反対ですありしん@共同親権反対です2024年8月3日 13:04PDF魚拓


7月26日、北海道弁護士連合会が「離婚後共同親権を含む民法改正法に反対し、再度の改正または施行延期を求める決議」を道弁連大会で決議しました。

”民法改正法は、家族制度の重大な変更であるにも関わらず、十分な議論及び審議に基づくことなく、離婚後の児童虐待・DV被害の継続やひとり親家庭に対する支援の後退等の深刻な弊害が懸念される離婚後共同親権制度を導入した点等において、極めて重大な問題を含むものである。”(提案理由より)

なお、共同親権について声明等を出した弁護士会は以下の通りです(8月3日現在)。
日本弁護士連合会、北海道弁護士連合会、札幌市弁護士会、函館弁護士会、岩手弁護士会、仙台弁護士会、群馬弁護士会、埼玉弁護士会、千葉県弁護士会、愛知県弁護士会、岐阜県弁護士会、金沢弁護士会、福井弁護士会、滋賀弁護士会、京都弁護士会、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会、島根県弁護士会、広島弁護士会、福岡県弁護士会、鹿児島県弁護士会
離婚後共同親権を含む民法改正法に反対し、再度の改正または施行延期を求める決議 - 北海道弁護士会連合会 (dobenren.org)
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離婚後共同親権を含む民法改正法に反対し、
再度の改正または施行延期を求める決議

 本年5月17日、国会で離婚後の父母双方に親権を認める民法等の一部を改正する法律(以下「民法改正法」という。)が成立した。民法改正法は、2年後の2026(令和8)年から施行される予定である。
 民法改正法は、十分な議論及び審議に基づくことなく、離婚後の虐待・DV被害の継続やひとり親家庭に対する支援の後退等の深刻な弊害が懸念される離婚後共同親権を導入したこと、監護者の指定を必須としていないこと、子に対する父母以外の面会交流の権利を認めていること等において、きわめて重大な問題を含むものであるから、直ちに改正前の制度に戻す形で再改正されるべきである。もし速やかな再改正がされないのであれば、児童虐待・DV被害者支援やひとり親家庭の支援が後退しないよう、適切な制度構築や環境整備、予算確保も含めた家庭裁判所の人的物的体制の整備等がなされるまでの間、民法改正法の施行は延期されるべきである。
 以上、決議する。

2024(令和6)年7月26日
北海道弁護士会連合会

提案理由

1 民法改正法が重大な問題を含み、再度の改正がなされるべきこと

(1)離婚後共同親権制度が導入された場合の弊害は計り知れないこと
ア 子の重要事項に関する決定が停滞し子の利益が損なわれる
 離婚後共同親権制度は、離婚後も継続して父母が養育に関わることが子の利益に適うという理念が根拠となっているが、そのような理念は具体性がなく、むしろ現実から乖離している。
 DV(身体的暴力だけではなく、精神的、経済的、性的暴力も含む、以下同じ。)や児童虐待がなくとも、夫婦間の信頼関係が損なわれたために離婚に至る場合が大多数であることからすると、離婚後に父母間で親権の行使について円滑な協議を行うことは、一般に困難である。民法改正法においては、父母が合意しない場合でも家庭裁判所が共同親権を命じることができるとされているが、父母が合意できない場合には特に親権の行使について円滑な協議を行うことは困難である。
 離婚後も父母の双方が親権者と定められた場合には、子に関する重要な事項の決定(転居、進路決定、医療行為など)について、離婚後の父母間で協議することが必要となるところ、別居親がいわば「拒否権」を行使するなどしてその協議が円滑になされなければ、子に関する重要な事項の決定が適時適切にできず、子の利益が損なわれることになる。
 民法改正法によれば、子に関する重要な事項の決定について父母間で決められない場合は、家庭裁判所が父母どちらが決定するかを判断することになるところ、2022(令和4)年の子の監護調停事件(養育費調停は含まない)の平均審理期間は、全国平均で10.6か月であることに鑑みれば、家庭裁判所においてこのような判断を適時に行うことは困難である。
 この点、裁判所も、2023(令和5)年2月のパブリックコメントにおいて「親権の行使が必要となる時期までに適切な審理を尽くすことができる制度となるかについては慎重な検討を要する」と懸念を表明している。

イ 離婚後も児童虐待やDVの影響を受け続けるリスクがより高まる
 民法改正法においては、父母が合意しない場合でも家庭裁判所が共同親権を命じることができるとされ、また、児童虐待やDVがあるような、共同親権が不適切な事案で共同親権が定められることにならないよう、裁判所における判断基準を定めてはいる。
 しかし、児童虐待やDVは密室で行われる傾向にある上、特に精神的DV等においては客観的証拠を取得しづらいことから、その認定は容易ではない。その結果、裁判所が児童虐待やDVを看過して共同親権を命じてしまうおそれがある。
 また、協議離婚であっても、早期の離婚を望むDV被害者は、離婚を急ぐあまり加害者の求めに応じて共同親権を選択せざるを得ない状況に追い込まれてしまうリスクもある。その場合、加害者が子に関する重要事項の決定をするという名目で、被害者や子に関与し続けることが可能になり、被害者や子の心身が危険にさらされ続ける可能性が高い。別居親は、子に関する重要事項についていわば「拒否権」を行使できることを取引材料として、同居親や子に広汎な要求をすることが可能になる。子の居所指定に別居親の同意が必要であると解される場合には、別居親が転居を拒否することによって、同居親と子は別居親の支配圏から逃れることができなくなり、児童虐待やDVの被害者らの安全がいつまでも脅かされることになる。

ウ 単独親権を行使できる場合が不明確
 民法改正法は、親権の行使に関する父母間の意見対立の問題に対処するため、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や「監護及び教育に関する日常の行為」については、一方の親による単独での親権行使を認める例外規定を設けている。
 しかし、「急迫の事情」や「日常の行為」の範囲が不明確であるため、現実に子を監護している親は、事後的には裁判所により適法と判断される親権行使についても、他方の親の同意を得ない違法なものであるとして、他方の親から裁判を起こされ、応訴負担を強いられるなどの危険にさらされることになる。これでは、ただでさえ経済的・精神的負担の大きいひとり親が更に追い詰められることとなり、子の生活の安定が損なわれる結果につながりかねない。
 また、上記の例外規定は、離婚前の父母にも適用されるものであるため、主に子の世話をしていた一方の親が子の利益のために必要である場合に子連れで別居することも、親権や監護権の侵害として論難され、上記の応訴負担を強いられるおそれがある。本来であれば支援の対象となるべき児童虐待やDV事案においても、子連れ別居が「急迫の事情」のない違法な親権行使であるとして裁判を起こされるなどの事案が多発することが予想され、その結果、同居親が避難することを躊躇する、同居親や子を支援すべき団体や公的機関が法的責任の追及を恐れて支援に消極的になるなど、萎縮効果から児童虐待やDV事案の保護が後退しかねない。

エ ひとり親家庭の経済的支援が後退するおそれがある
 日本では、子育てと生計の維持を一人親が担うひとり親家庭の貧困率が高く、大きな問題となっている。
 ひとり親家庭に対しては、その抱える困難を緩和するために、公的支援が行われているが、高等学校の授業料無償化など「親権者」の収入状況で支援の可否が判断される制度について、離婚後共同親権導入により「ひとり親」と判断される場面が狭められ、ひとり親家庭の支援が後退する可能性は、国会における答弁を通して現実の問題となってきている。
 なお、離婚後共同親権と定めることにより、別居親に自覚が生まれ、養育費の支払いが促進されるという意見も見られるが、そのような効果が生じることを裏付ける実証的根拠は全くない。むしろ、現在でも面会交流により子の監護を分担しているとして養育費の減額が主張されるケースも珍しくなく、離婚後共同親権を選択した場合には、十分な養育費の支払いを受けられないケースが増加することが懸念される。養育費の支払いの確保は、行政による養育費立替制度等、より実効的な方法により推し進めるべき問題である。

オ 小括
 以上に述べたとおり、離婚後共同親権制度を導入することにより児童虐待・DV被害者を含むひとり親家庭、子らに生ずる不利益は具体的かつ重大なものであり、そのような深刻な弊害が懸念される離婚後共同親権制度を導入する民法改正法を是認することはできない。
 なお、離婚後共同親権制度を導入することで、離婚後も父母が子の教育に共同していく意識が醸成されることとなり、子の利益の実現に資するとする意見も見られるが、そのような効果が生ずるかは定かではないし、離婚後の共同教育は離婚後単独親権制度の下でも可能であるから、そのような漠然とした利益をもって、上記のような深刻な弊害の懸念される離婚後共同親権制度の導入を正当化することは到底できない。

(2)監護者の指定を必須としていないこと
 民法改正法は、離婚後の父母の双方を親権者と定めるに当たって、父母の一方を子の監護者に指定することを必須とはしないこととしている。しかし、監護者の指定がなされないと、養育費の請求権者や児童手当等の受給者が不明確になり、現実に子を監護している親が経済的に困窮し、子の生活基盤が脅かされることが懸念される。また、上記のとおり、離婚後の関係が良好でない多くの父母は、緊密に連携を保ち、子の利益にかなう形で共同監護を実施することが困難であるから、監護者の指定がなされなければ、父母間の意見対立を招来し、その解消のための家庭裁判所の判断にも時間を要するなどの理由で、監護権行使に停滞が生ずることが予想され、子の利益の観点から有害である。

(3)父母以外の親族が面会交流の主体と規定されたこと
 民法改正法は、「子と別居する父又は母その他の親族と当該子との交流について必要な事項は、父母の協議で定める」と規定する一方で、父母以外の子の親族(主に祖父母)が子との面会交流について家庭裁判所に対し審判を申し立てることも認めている。
 子の親族が面会交流審判を申し立てる場面としては、同居親と別居親との間に葛藤があり、父母の面会交流の協議が調わず、あるいは別居親が面会交流の内容に納得せず、その別居親の親族らも審判を申し立てるという場合が想定される。このような場合、同居親と子は、複数回の申立てに対応をしなければならず、仮に父母以外の子の親族との面会交流が認められることになれば面会交流の回数も増えることになるから、子の負担が増大し、子の生活の安定が害されることが懸念される。

(4)国民の意見を踏まえた十分な議論が尽くされなかったこと
ア 法制審議会での議論が不十分であったこと
 民法改正法は、「家族法制の見直しに関する要綱」の素案を審議してきた法制審議会家族法制部会内の採決において、委員21名中、3名が反対、部会長を含む2名が棄権し、多数決で承認された。法制審議会は、通常、全会一致での答申を慣例としていることから、当該部会では異例の経過を経て答申されたものである。
 また、パブリックコメントには8000通を超える一般個人の意見が寄せられ、法務省は、その意見の3分の2が共同親権に反対・慎重意見だったという割合を示したが、各意見を全て開示するよう委員から要求があったにもかかわらず、意見の具体的な内容について明らかにされないままであり、それらの意見が要綱案にどのように反映されたかも不明である。

イ 国会での審議が不十分であったこと
 2024(令和6)年4月16日、衆議院で民法改正法が修正の上可決されたが、新たな紛争の多発やDV被害者の安全確保が後退しないかなどの強い懸念に対する具体的な対策について議論されることもなく、また、後述のとおり、民法改正法下では、共同親権の場合に子を監護する一方の親権者がどのようなときに単独で親権を行使できるのかが重要な問題となるが、この点についても十分な議論はなされなかった。
 参議院においても、民法改正法に対して憲法学者、DV被害者支援団体、弁護士等から多数の問題点が指摘されたが、それらの懸念に対して何らの修正がされることもなく、懸念をそのまま抱える形で成立に至った。参議院法務委員会では、法律の施行に当たり格段の配慮をすべき事項に関し、詳細な附帯決議がなされたが、懸念が大きいことの裏返しである。
 離婚後共同親権の導入にあたり指摘されている懸念につき十分に審議を尽くさず、民法改正法が今国会において拙速に審議、可決されたことに鑑みても、直ちに改正前の制度に戻す形で再度の改正がなされるべきである。

2 速やかな再改正がなされない場合には、児童虐待・DVの被害者やひとり親への支援を後退させることのないよう、適切な制度構築や環境整備、家庭裁判所の人的・物的体制の整備等がなされるまで施行を延期すべきこと

(1)一方の親が共同親権に反対した場合には単独親権と定めるべきこと
 民法改正法では、裁判所により共同親権を命じることができる規定が設けられた。裁判所が子の利益を害すると認められる一定のときには単独親権と定めなければならない旨規定しているものの、一方が共同親権に反対した場合に単独親権と定めなければならない旨の規定はない。
 しかし、親権争いをしている父母は、しばしば裁判の過程で相互に他方の親権者としての不適格性を主張し関係が悪化するし、共同親権という選択肢があっても共同親権を選択すべきかどうかをめぐってやはり親権者としての適格性を争わなければならないのであるから、そのような裁判の結論として合意なしに共同親権とする旨が定められたとしても、離婚後の父母間で親権の行使について円滑な協議が行われることは到底期待できず、意見対立や協議が調わないことにより紛争が長期化すると子の利益も損なわれることとなる。
 裁判所が共同親権を定めるために父母の合意を不要とすると、父母の合意がないにもかかわらず父母の一方が共同親権を求める場合に、共同親権にすべきか単独親権にすべきかという審理と、単独親権にする場合にどちらを親権者とするかという審理の2段階の審理が必要となる。2022(令和4)年の夫婦関係調整調停事件における調停成立までの平均審理期間は、全国平均で7.4か月であり、子の監護調停事件(養育費調停は含まない)の平均審理期間は、全国平均で10.6か月であるところ、2段階の審理を要するとなると、さらなる審理の長期化が懸念される。
 この点、裁判所も、2023(令和5)年2月のパブリックコメントにおいて「父母の双方を親権者とするか一方を親権者とするかについて、要件該当性を判断し、次に、父母の一方を親権者とする場合には、父母のいずれかを親権者と定めるかを判断するという2段階の審理を要する上に、前者の争点を審理する段階では後者の争点について調査官調査を実施することができずに紛争が長期化するおそれがあ」る、として審理の長期化に懸念を表明している。
 こうした事態を避けるために、裁判手続上、一方の親が共同親権に反対した場合には、必ず単独親権とすべきであり、その旨法文に明記すべきである。また、そうすることで、DVや児童虐待などがある離婚後共同親権が不適切なケースを排除することも可能となる。

(2)協議により離婚後共同親権を定める場合に真意を確認する手続が必要であること
 我が国において、離婚の約90パーセントを協議離婚が占めている。その中でも対等な関係になく支配・被支配の関係にあった夫婦間では、支配されていた配偶者が、真意に基づいて共同親権か単独親権かを選択することは不可能である。民法改正法が施行された後、支配されていた配偶者は早急に支配から逃れるために真意に基づかず共同親権を選択することも予想され、その結果上記のとおり離婚後もDVや児童虐待の被害が続くことになる。
こうした事態を回避するために、民法改正法の附則では、施行日までに、協議離婚の場合に「親権者の定めが父母の双方の真意に出たものであることを確認するための措置について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。」と定められた。しかし、現状ではこの「措置」は何ら具体化されていない。
 この点につき、現行法下においても親権者の変更は、子の利益のために家庭裁判所の手続によって行われており、当事者間の協議のみをもって変更することはできないことが参考になる。「真意に出たものであることを確認するための措置」としては、家庭裁判所の関与を必須とし、離婚後共同親権を定めることを希望する父母に対して、家庭裁判所から離婚後共同親権が定められた場合の効果等を当事者に丁寧に説明し、父母双方がそれを理解した上で同意したことを確認し、さらに客観的にも離婚後共同親権とすることが子の利益に資するかどうかを裁判所が判断するといった慎重な手続が設けられるべきである。

(3)家庭裁判所の人的・物的体制の強化とそのための財源確保が必要であること
 民法改正法は、同法施行前に離婚し単独親権と定めた場合でも、親権者変更の申立てにより共同親権を求めることも可能となっていることから、同法施行前に離婚をした夫婦を含め、共同親権を求める紛争が多く家庭裁判所に持ち込まれることが予想される。その他にも、共同親権下で子に関する事項を決定できず家庭裁判所の判断を求める事案も多数発生することが予想される。さらに、上記のとおり、従来の訴訟類型においても、離婚後共同親権の導入により審理期間が長期化するおそれが強い。
 上記のとおり、離婚、親権者及び子の監護に関する事件の審理にはこれまでも相当長期間を要していたところ、上記のような事件が増加した場合、現在の家庭裁判所の人的・物的体制では到底対応が困難であることが明らかである。また、北海道内には、常勤の裁判官のいない家庭裁判所支部や出張所も少なからずあり、月に一度しか裁判官がいない家庭裁判所も少なくない。加えて、親権者及び子の監護に関する事件の審理には、家庭裁判所調査官の関与が必要であるが、北海道内の家庭裁判所出張所及び多くの支部において調査官が常駐しない。そのような地域では、事件数の多寡にかかわらず子どものための適時の決定が困難となることが容易に想像される。
 したがって、離婚後共同親権を導入するのであれば、家庭裁判所の人的・物的体制の強化とそのための財源確保は必要不可欠である。
 しかし、2023(令和5)年4月には、近年の事件動向等を理由に判事補の員数及び裁判官以外の裁判所の職員の員数が削減されている。また、裁判所予算の約8割は人件費であるところ、裁判所予算における家庭事件関係経費が年々減少しており、令和6年度は前年比でさらに3.6%減少している。これは、以上のような要請に逆行するものであり、現状では将来にわたって家庭裁判所が十分に機能しないおそれが強い。

(4)児童虐待・DV被害者の支援を後退させない運用や制度が必要であること
 これまでも、主に子どもの世話をしていた親が他方親の児童虐待やDVから逃れるために子連れで別居したことについて、違法な親権行使であるとして他方親から損害賠償請求や未成年者略取誘拐罪にあたるとして刑事告訴されることは珍しくなく、別居を支援した行政や民間のDV被害者支援団体、弁護士等がその対象とされることもあった。それに加え、先に述べたとおり、民法改正法下では、単独での親権行使が認められる「急迫の事情」の要件が不明確であることもあり、その種の紛争が増加することが懸念され、その萎縮効果により、DVや児童虐待のあるケースでも、子連れで別居することを主に子どもの世話をしていた親本人が控えたり、支援機関が支援を控えたりする危険があり、被害者が児童虐待やDVから逃れることが困難となり、被害拡大につながる一方、その保護が後退しかねない。この点、DVや児童虐待の事案に限らず、主に子どもの世話をしていた親が子連れで別居することは違法ではないという運用が確立しているのであるから、民法改正法下でもその点を明確に示す必要がある。そうすることで、他方親による児童虐待やDVから逃れるためなど必要かつ相当な場合においても現実に子を監護している親が子連れでの別居を控えることなく、それを支援する関係機関が萎縮することなく、親や子の安全が確保・実現されることになる。
 また、現在でも、上記のとおり、別居親が同居親に対し、裁判等の法的手続を頻繁に起こし続けるリーガル・ハラスメントと言われるような事態も発生しており、民法改正法が施行されれば、共同親権への親権者変更の申立てや親権侵害を理由とする裁判等がさらに増加するおそれがある。このような事態は、経済的にも、精神的にも、労力や時間の面でも、同居親にとって多大な負担になっていることから、遅くとも民法改正法施行日までに濫訴を防止するための具体的な措置が講じられなければならない。

(5)安全な面会交流の実施のための環境整備が必要であること
 離婚後も子育てに双方の親が関わった方が子の福祉に適うとの意見があるが、これは共同親権を導入しなくとも合意があれば実現できることであり、現行の制度でも面会交流として認められている。ただ、DVや高葛藤の事案では、当事者だけで面会交流を実施するのは困難であり、危険も伴う。現在は、民間団体が中心となって面会交流を支援しているが、支援機関の地域的偏在があり、支援機関があるとしても利用できる案件が限られるなど体制が不十分であり、安全な面会交流の実施のために行政を含めた予算措置を伴う環境整備が必要である。
 なお、交流実施の可否、方法等については、子の年齢や成育歴、環境等に応じ、子の意思や心情を尊重すべきことはいうまでもなく、この点は民法改正法下でも変わるものではない。もっとも、子の意見表明権が明記されていない点は、民法改正法の問題の一つである。

3 結語

 以上に述べたとおり、民法改正法は、家族制度の重大な変更であるにも関わらず、十分な議論及び審議に基づくことなく、離婚後の児童虐待・DV被害の継続やひとり親家庭に対する支援の後退等の深刻な弊害が懸念される離婚後共同親権制度を導入した点等において、極めて重大な問題を含むものである。
 したがって、民法改正法は、そのまま施行されるべきではないから、当連合会は、国に対し、離婚後共同親権制度の施行前の廃止も含めて、再度の改正を求め、もし速やかな再改正がされないのであれば、児童虐待・DV被害者やひとり親家庭に対する支援等を後退させることのないよう、適切な制度構築や環境整備、家庭裁判所の人的・物的体制の整備等がなされるまでの間、民法改正法の施行を延期することを求め、標記のとおり決議する。

離婚後共同親権を含む民法改正法に反対し、再度の改正または施行延期を求める決議(北海道弁護士連合会)





ありしん@共同親権反対です

2024年8月3日 13: