法が守ってくれない「家事労働者」、77年ぶり差別解消か 労働基準法「除外」から「適用」へ厚労省が大転換2024年6月28日 06時00分.守られぬ家事労働者 東京地裁が過労死認めず 立ちはだかる労働基準法の例外規定2022年9月30日 06時00分. 家事労働者に労基法・労災保険の適用を! 1週間・24時間拘束労働で亡くなった高齢女性の過労死を認定してください!等PDF魚拓


厚生労働省は27日、家事代行などを担う労働者を保護するため「労働基準法を適用する方向で具体的施策を検討すべきだ」との考え方を示した。少子高齢化により家事代行で働く人が増加する中、過酷な業務の末に亡くなった家事労働者の女性が労災認定されないなどの問題も発生しており、同省は保護策が必要と判断したとみられる。家事労働者は戦後間もない1947年に労基法が施行された時から同法の対象から除外されることが明記されており、それ以来の方針転換となる。(池尾伸一)

◆雇用主の「家庭」、義務はどこまで

 厚労省は、27日開かれた同省の労基法関係の研究会に方針転換を記すペーパーを提出した。労基法の適用を検討すべきだとの方向性を示した上で、雇用主に当たる家庭にどこまで使用者としての義務を負わせられるかの検討も必要と記載。研究会は近く最終的な考え方を報告書などでまとめ、厚労相の諮問機関である労働政策審議会の議論を経て、具体的な法制度が決まる。

最終弁論後の支援集会で発言する女性の夫(左)と次男=27日、東京都港区で

 労基法は、1日原則8時間の労働時間上限や、残業代の支給、けがや死亡時は雇用主が補償しなければならないことを明記している。だが、当初から「家事労働者」は対象外。人材会社などに雇われている家事労働者は労基法の対象になるとの通達を厚労省は出していたが、各家庭と直接契約する労働者は法律の保護からの除外が続いている。

◆女性死亡で「除外」規定が問題化

 しかし、寝たきり高齢者のいる家庭で24時間拘束で1週間働いて急死した女性が労災と認められず遺族が2020年に裁判を起こしたことをきっかけに、「除外」規定が問題化。高齢化の加速や働く女性の増加で、家事代行で働く人が増える中、労働組合や専門家からは「労基法で守られない状態が続けば、被害者が増える」との声が高まっていた。

  ◇  ◇

◆夫「国は固定観念で労災認定を却下」

 家事労働者として過酷な働き方をした後に急死した女性=当時(68)=の夫(77)が、過労死認定しない国を訴えた裁判の控訴審の最終弁論が27日、東京高裁で開かれ結審した。原告の夫は最後の意見陳述で「妻は社会に貢献する信念と使命感を持って仕事を続けていた。それなのに国は実態調査を省略し固定概念で(不認定の)判断を下した」として改めて労災認定を主張した。判決は9月19日。

 夫は「多くの家事労働者、女性を差別してきた労働基準法が改正されるまで闘う」とも強調。裁判後の支援者集会で、介護福祉士をしている次男(43)も「母の労災認定をきっかけに、介護や家事の労働者の働く環境がよくなることを願っている」と話した。

 都内に住んでいた女性は2015年5月、寝たきり高齢者のいる家庭に1週間泊まり込み、24時間拘束で家事や介護に従事した後、急死。しかし、労働基準監督署は労基法が家事労働者を除外していることを根拠に過労死として認めなかった。東京地裁での一審判決は労基署の判断を大筋で支持し、夫は敗訴した。

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法が守ってくれない「家事労働者」、77年ぶり差別解消か 労働基準法「除外」から「適用」へ厚労省が大転換

2024年6月28日 06時00分


 長時間の家事労働の末に亡くなった高齢女性について、東京地裁は労災認定をしなかった国の決定を容認し、女性は過労死と認められなかった。全ての労働者を保護するはずの労働基準法の例外規定が、厚い壁となって立ちはだかる。国は問題の放置を続け、現場の働き手から改善を求めて切実な声が高まっている。(池尾伸一)

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 「拘束時間0時間、残業0時間」。女性の急死前1週間の状況を調査した労働基準監督署の内部報告書。連日「0時間」が並び、「労働者として特段の負荷要因はない」と結論付けていた。

亡くなった女性の遺影。60歳を過ぎて高齢者のためにと介護福祉士の免許(左)を取得した努力家だった(支援団体提供)

 同僚らの証言などによると、訪問介護・家事代行サービスから派遣された女性=当時68=は24時間拘束で午前5時前に起床。2時間おきのおむつ替えや家事をこなす生活を1週間続けていた。それでも労基署が過労死を否定したのは、労基法の「家事使用人の除外規定」があるためだ。

 地裁判決も、女性が待機時間を含めて1日19時間の業務をしていたと認定しながら、家事は労働時間から除く「無理な判断」(原告側)を行い、労基署の決定を大筋で容認した。

 国は長年、同じ労働者なのに家事労働者は労基法から除くという不条理な規定を放置してきた。1993年には労働相(現・厚生労働相)の諮問機関「労働基準法研究会」が撤廃を提言したが、改正は見送られた。加藤勝信厚労相は今月の記者会見で、現行法を堅持する姿勢を示し、今回の判決でも規定に問題があるかの判断をしなかった。

◆過労死認定求めるオンライン署名に2万人超

 高齢化の進展や働く女性の増加で家事や介護を支援するサービスへの需要は急増中。最近では、ネットの仲介サービスなどで家庭と直接契約する働き手も増えている。

 個人で家事代行に従事する土屋華奈子さんは「昼休みもとらせてもらえなかったりトイレが使わせてもらえなかったり、過酷な環境でも私たちは守られない」と訴える。労働問題にくわしい和光大学の竹信三恵子名誉教授は「過重労働やハラスメントにさらされても保護や補償を受けられない状況が放置される」と批判する。

 原告を支援するNPO法人「POSSE」は、女性の過労死認定を求めるオンライン署名活動を始め、既に2万2800人が署名した。

 「家事労働の軽視が残るこの社会はおかしい」「家事労働を甘く見ないで」。家事の担い手や、恩恵を受ける依頼者らが家事労働に冷たい国に、切実に事態改善を求めている。署名は、近く厚労省に提出される。

守られぬ家事労働者 東京地裁が過労死認めず 立ちはだかる労働基準法の例外規定

2022年9月30日 06時00分




開始日

2022年9月5日

署名の宛先

東京高等裁判所1人の別の宛先

この署名で変えたいこと



署名の発信者 NPO法人 POSSE

中文

NPO法人POSSE労災ユニオン(総合サポートユニオン労災支部)が支援している過労死遺族が、国に対して労災認定を求める裁判を起こしています。

 2015年春に、家事労働者として1週間・24時間拘束労働で働いていた高齢女性が亡くなりました。しかし、国は家事労働者には労働基準法や労災保険は適用されないとして、彼女の死を過労死と認めていません。現行の労働基準法や労災保険は、家事労働者を適用除外としているからです。

 現在、共働き世帯の増加や少子高齢化の影響で、家事代行サービスは拡大を続けています。市場規模は、約698億円(2017年)と推計され、 将来の市場規模は、少なくても2,000億円程度、最大で8,000億円程度にまで拡大する可能性があると言われています(2018年に出された野村総合研究所「家事支援サービス業の推計市場規模」)。

 しかし、働く現場では、今回亡くなったAさんのように、基本的な労働者としての権利が認められず「無権利状態」で働かされている家事労働者が多くいるのです。

 国の労災不支給の判断に納得できない遺族は、2020年3月に国に対して裁判を提訴し闘ってきました。そして、2022年9月29日に東京地裁で判決が言い渡されます。

 裁判については、2022年9月6日に大きく報道もされました(「家事代行者の「労災認めて」 妻急死の夫が国に労基法の「例外」撤回求め7年 近く地裁判決」)。

 この裁判は、女性や高齢者の労働環境改善に大きな影響を与えるものです。ぜひ、多くの方にこの事件について知っていただくとともに、今後社会的に過労死を無くしていくため、署名へご協力をお願い致します。署名は、裁判所はもちろん、厚労省など国へも提出を予定しています。


◆事件概要

 2015年5月27日夜、家事代行及び訪問介護ヘルパーとして働いていた女性のAさん(当時68歳)は、私的に訪れた入浴施設で倒れているところを救急搬送され、翌日、急性心筋梗塞で亡くなりました。

 Aさんは株式会社Y社の紹介で、認知症を患う寝たきりの高齢者(要介護度は一番重い「5」)の個人宅にて住み込みで働いていました。常時対応が必要なため、2015年20日~26日までの1週間、ほぼ24時間休みなしで、清掃や洗濯、食事の用意、介護など家事業務と介護業務が渾然一体となった状態で働いていました。

 多種多様で専門性も高く責任重大な「ケア労働」を、たった1人で担っていたのです。

 「求人票兼労働条件通知書」には休憩時間が深夜0時~5時と記載されており、そもそも24時間中5時間しか休むことが想定されていない契約書となっていました。さらに、Aさんの同僚は「派遣された家政婦は、ろくに睡眠時間も取れない上に、2時間おきのおむつ替え、定期的な失禁にも対応しなければならなかった。事実上24時間労働であり、労働から解放されることがない」旨の証言をしています。そこからも、Aさんがほぼ24時間の過酷な労働を強いられていたことがわかります。

 Aさんの死は仕事が原因だと思った遺族は、2017年5月に渋谷労働基準監督署に労災申請をしましたが、2018年1月に不支給決定となりました。その後の異議申し立ての手続きである審査請求、再審査請求も国から退けられました。

 その理由は、Aさんが労働基準法116条2項の「家事使用人」に該当し、同法及び労働者災害補償保険法の適用除外となるため、というものでした。遺族は、過重労働が原因で死亡したのに、家事労働者に労災が認められないのは不当だとして、2020年3月に国を相手に東京地裁へ提訴しました。遺族は会見で「家事労働者が労働者として守られないのは重大な人権侵害で納得できない」と訴えました。


【経過】

2013年8月 Aさんは要介護高齢者向けの居宅介護支援サービスや家事代行サービスを展開する都内の株式会社Y社に入社。

2015年5月20~26日 6日間、24時間ほぼ休みなく個人宅で住み込み勤務

2015年5月27日 入浴施設で倒れ、救急搬送。

2015年5月28日 急性心筋梗塞のため亡くなる。

2017年5月 遺族が渋谷労働基準監督署に労災を申請。

2018年1月 労災の不支給決定が下る。その後の審求請求、再審査請求も退けられた。

2020年3月 遺族が国を相手に労災認定を求めて東京地裁に提訴

2022年9月29日 東京地裁判決


◆労働基準法上の「家事使用人」の定義

労基法116条第2項(1947年成立)では、「この法律は、同居の親族のみを使用する事業を及び家事使用人については、適用しない。」と定めています。個人家庭と直接契約を交わし、指揮命令を受け対価を得ている場合は「家事使用人」となり、労働基準法や労災保険が適用されません。

・一方で、厚労省通達の基礎第150号には「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は家事使用人に該当しない。」とあり、全ての家事労働者が「家事使用人」になる訳ではなく、仲介会社と契約を交わし、指揮命令を受け対価を得ている場合は「家事使用人」とはならず、労働基準法や労災保険の適用対象の労働者となります。

→AさんはY社から詳細な「業務指示書」を渡され指揮命令を受け、報酬もY社からAさんへ直接支払われ、毎月手数料も徴収されており、実態としてはY社に雇用されている状況でした。私たちは、このような実態から判断し、Aさんは「家事使用人」には該当せず、「労働者」として労基法や労災保険が適用されるべきだと主張しています。


◆実態と解離した現行の労働基準法と問題の拡大

 さらに、私たちは、そもそも労基法第116条2項によって「家事使用人」へ労基法や労災保険が適用されない現状自体がおかしいと考えています。かつては労基法が想定しているような長期で個人宅へ住み込みで働く「家事使用人」もいましたが、現在は、紹介所等を通じ「労働者」として各家庭に働きにいっているのが実態です。 

 現在のように「家事使用人」について労基法や労災保険の適用を除外してしまった場合、「賃金、就業時間、休息その他の労働条件に関する基準」が何も定まっていない状態で働き、労災などが起こっても救済されないことになります。

 Aさんは利用者に対する24時間対応を余儀なくされ、それが原因で亡くなっていますが、この法律をこのまま放置してしまえば、Aさんと同じように24時間業務を強いられて過労死し、救済もされない家事労働者が今後も発生していく可能性があります。


◆家事労働者として働く多くの女性労働者の環境改善へ

 Aさんもそうであるように、家事労働者の多くは女性です。国はこれまで、家事労働者の実態把握等を十分にしておらず、調査等もほとんどありませんが、2015年の国勢調査では、日本国内に約1万1千人の家事労働者(統計上は「家政婦(夫)」)がいるとされ、97%が女性となっています(個人契約の全てを把握できないため、この数字も氷山の一角と予想されます)。家事労働者として働く多くの女性が無権利状態で働いているのです。

 一方で、日本とは異なり、国際的には家事労働者の権利は拡大を続けています。2000年代中頃から女性団体や労働組合、NGOなどが連携し家事労働者の国際的な待遇改善を進め、2011年6月、ILO第100回総会で「家事労働者の適切な仕事に関する条約(第189号条約)」が採択されています。この条約では、家事労働者は他の労働者と同じ基本的な労働者の権利を有するべきとして、「安全で健康的な労働環境の権利」、「一般の労働者と等しい労働時間」などが規定されています。

 しかし、日本は同条約を未だ批准しておらず、国連女子差別撤廃委員会から勧告も受けていますが、改善の動きは未だありません。


◆増え続ける高齢者の労災問題

 今回の裁判のもう一つの論点は、高齢者の労災問題です。亡くなったAさんは68歳という年齢でほぼ24時間休みなしという過酷な労働環境で働かされていました。2021年、労働災害で亡くなった60歳以上の高齢者が360人に達し、労災死亡者全体の43.3%を占めました(令和3年 高年齢労働者の労働災害発生状況)。社会保障が削減され、医療費や生活費のために働かざるを得ない高齢者が増え続け、その中で命を落とす高齢者も増加傾向にあります。この裁判を契機として、年齢に関わらず誰もが安心して働ける社会に変えていく必要があります。


◆原告コメント

 私は、懸命に家事労働をしていた妻が、労働基準法や労災保険が適用されるべき「労働者」であったことを認めて欲しいだけです。家事労働者として働いているのは大部分が女性であり、法律の保護の枠外に置かれた状態で、社会的に必要不可欠な「ケア労働」を担っています。妻同様に、現在も制度的に差別されている女性の労働環境の改善に寄与したい、妻に起きたようなことが今後起こって欲しくない、その一心で私は裁判を続けてきました。

 良い判決を期待することはもちろん、そもそも家事労働者へ労基法や労災保険が適用されないという現状の法制度上の不備についても、変えていきたいと考えています。

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◆過労死関連の相談や支援ボランティアへの参加は以下の連絡先まで

日本では国が認めるだけでも毎年200人近い方が、過労死や過労自死、ハラスメント自死など、職場の労働環境が原因で命を落としています。しかし、その背後には、過労死だと思ってもどうすればいいかわからずにアクションを取れないご遺族や、労災申請したくても会社から申請を妨害されたり、証拠を集められずに困っている労災被害当事者の方が何千人、何万人もいると言われています。

過労死や職場での怪我や精神疾患をはじめとする病気になった場合、ご遺族やご本人が国に対して労働災害を申請してはじめて国が調査を行い、病気などが労災に当たるのかを判断します。

そのためには証拠集めなどが必要になりますが、お一人やご家族だけで行うのは時間的にも精神的にも負担が大きいかと思います。裁判や労災申請と聞いてもあまりイメージができなかったり、そこまでやりたくないとお考えかもしれませんが、「過労死かもしれない」、「これは労災なのでは?」と思った際には、どういった解決策がありうるのかを確かめるだけでも結構ですので、POSSEの無料相談窓口にご連絡ください。相談料はかかりません。秘密厳守でご相談に対応いたします。

 また、今回の過労死裁判支援をはじめとした過労死問題への取り組みは、POSSEの学生や若手社会人が中心を担っています。毎回の裁判期日での傍聴支援、問題の情報発信、記者会見の準備、オンライン署名の作成等を、皆で企画・検討し進めています。

 「過労死を無くしたい、仕事が原因で命が失われる社会を変えたい」という学生や若手社会人の方は、ぜひボランティアを募集していますので、私たちまでご連絡ください。一緒に今の社会を変えていきましょう。

NPO法人POSSE

過労死相談ページ:https://www.npoposse.jp/karoshi-workplaceinjuries

ボランティア募集ページ:https://www.npoposse.jp/volunteer

相談電話:

03-6699-9359(相談は、平日17:00-21:00 / 日祝13:00-17:00 水曜・土曜定休)

03-6699-9375(取材等はこちらまで)

相談メール:info@npoposse.jp

ボランティア希望メール:volunteer@npoposse.jp

住所:〒155-0031 東京都世田谷区北沢4-17-15 ローゼンハイム下北沢201



◆あなたの経験を聞かせてください!

#家事労働者へ労基法・労災保険の適用を」のハッシュタグを付けて、この問題についてのコメントや、自分自身が仕事や家庭で家事労働をしていて大変な思いをしたエピソードなどがあれば、ぜひTwitterなどのSNSでシェアして下さい!

社会的に軽視されている「家事労働」の過酷な実態を可視化させていきましょう。ご協力お願いいたします!

家事労働者に労基法・労災保険の適用を! 1週間・24時間拘束労働で亡くなった高齢女性の過労死を認定してください!


家事代行の長時間労働の末に亡くなった女性=当時(68)=が過労死だったとして、労災を認めなかった国の処分取り消しを女性の夫(75)が求めていた訴訟の判決で、東京地裁(片野正樹裁判長)は29日、請求を棄却した。労働基準法は家事労働者に適用しないと同法が規定しており、女性が家事をしていた時間は、過重労働かを判断する上での労働時間の算定から省いた。家事サービスのニーズが増える中、多くの担い手が法で守られない状況が放置される。(池尾伸一)

◆寝たきり高齢者宅で24時間拘束、1週間も…

 労基法は家事労働者には「適用しない」と明記。労働時間の上限規制や死亡時補償などの対象外になっている。ただ、厚生労働省は業者に雇われて家庭に派遣されている場合は対象になるとの通達を出している。

 女性は2015年5月、訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋(あっせん)で、寝たきり高齢者のいる家庭で24時間拘束され、1週間働いた後に急死した。地裁は女性が働いた時間のうち、介護業務は同社に雇われ派遣されて担ったが、家事については家庭との直接契約になっていたと判断。待機時間などを含む1日19時間の業務中、労働時間は家事の時間を算入せず介護業務の4時間30分のみとして、「過重業務していたとは認められない」と結論付けた。

家政婦の過労死認定を求める訴訟の判決後、記者会見する原告で、亡くなった家政婦の夫(左) =東京・霞が関で

 原告側は裁判で「家事労働者が労基法で守られないのは憲法の『法の下の平等』に反する」として、労基法の規定自体が憲法違反に当たるとも主張したが、地裁は判断を示さなかった。

 原告の夫の代理人の明石順平弁護士は「長時間働いた実態を見ず形式的に介護の時間だけを労災対象と判断した」と批判。夫は「高齢者のため献身的に働いた妻を労働者と認めてほしかった。これからも闘う」として控訴の考えを示した。

 厚労省は「国の主張が認められたと考える」とのコメントを出した。

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家事代行女性の労災認めず 女性急死 労働時間に算入せず 東京地裁が請求棄却

2022年9月29日 21時39分


長時間の家事代行労働の末に亡くなった女性=当時(68)=の過労死が認められない問題で、遺族の夫(75)と支援者らは9日、女性の労災認定と労働基準法の改正を求め、約3万5000人から集めた署名と要望書を厚生労働省の担当者に提出した。この問題では、家事労働者に労働基準法が適用されない規定があることが労災認定を阻み続けている。



厚生労働省の担当者(右)に3万5350人の署名を提出する支援者ら=衆議院第2議員会館で

 要望書では、労基法の改正のほか、2011年に国際労働機関(ILO)で採択された家事労働者の権利保護条約の批准を求めた。

 女性は15年5月、訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋で1週間泊まり込みで寝たきり高齢者のいる家庭で働いた後、急死。しかし、労働基準監督署は労災を認めず、東京地裁も9月末の判決で夫の訴えを棄却。原告は控訴している。

 署名活動は夫を支援するNPO法人「POSSE」が9月初めからオンライン上で展開してきた。

 署名に際してのコメントでは「(家事や介護は)これからますます重要になる仕事なのに働き手を人間扱いしないでどうするつもりなのか」など、国に対する怒りの声が多く寄せられた。厚労省が家事労働者を労基法の適用対象にしない規定を1947年の同法制定以来変えていないことについても驚きの声が上がっている。

 この問題では、厚労省は当初は追加的対応に否定的だったが先月中旬、加藤勝信厚労相が年内にも家事労働者の実態調査を始める方針を明らかにしている。ただ署名提出後の厚労省担当部局との意見交換では労基法を改正するのかについては担当者は「慎重に検討する」と述べるにとどまった。

思いを話す遺族の男性

 その後に開かれた国会議員も交えた学習会で原告の夫は「妻のような問題が今後起こることをなくしたい一心で闘ってきた。家事労働者が置かれた理不尽な状況を知ってほしい」と呼び掛けた。(池尾伸一)

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急死した家事代行の女性の労災認めて 3万5000人超の署名を提出 「労基法の例外」放置の国に怒りの声 

2022年11月9日 20時59分


長時間の家事代行労働の末に亡くなった女性=当時(68)が、労働基準法が適用されないために過労死を認められなかった問題を受け、厚生労働省は現場の働き手や識者から労働実態調査のためのヒアリングをする。同省は調査を始める方針を既に表明したが、労基法上の労働者ではないため長年調査をしておらず、ノウハウが乏しいためだ。

 加藤勝信厚労相が17日の参院厚労委員会で実態調査について「実際に働いている方々や専門家の方々の話を聞きながら内容を確定し、速やかに実施したい」と説明。立憲民主党の石橋通宏氏の質問に答えた。

 家事労働者は1947年に制定された労基法が適用されず、働いている人数も5年に1度の国勢調査でしか把握できない。家事代行へのニーズが増加する中、家政婦(夫)紹介所のあっせんで働く人のほか、家事代行業者に雇われ家庭に派遣される人、個人事業主で働く人など働き方も多様になっており、きめ細かい把握が必要になっている。

 今後実態調査をした上で家事労働者を労基法の適用対象にするかについては、政府は野党から出された質問主意書に対し「慎重な検討が必要」と回答するにとどめている。(池尾伸一)

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家事労働者の実態調査 働き手や識者にヒアリングし方法確定へ 厚労省 労基法対象外でノウハウ乏しく

2022年11月21日 19時32分


さいたま市議会は28日の本会議で、公設民営の高齢者複合施設「グリーンヒルうらわ」(緑区)の廃止に関する条例案を賛成多数で可決した。施設内の介護老人保健施設「きんもくせい」やデイサービスセンターなどは来年春、軽費老人ホーム(ケアハウス)「ぎんもくせい」は2030年春に廃止される見込みとなった。存続を求めて署名活動を展開していた関係者からは失望の声が聞かれた。

 採決前の討論では、反対した共産議員が「利用者に絶望感を与える施設廃止は許されない」と批判する一方、賛成した公明議員は修繕費の高さや赤字額を指摘して「総合的に判断して廃止はやむを得ない」と発言。採決では共産と無所属以外の多くが賛成に回った。また、保健福祉委員会から提出された、金銭面を含めた利用者の転所支援などを市に強く求める付帯決議も賛成多数で可決された。

 傍聴席で採決を見守った「『きんもくせい・ぎんもくせい』を守る有志の会」の関係者は「議論の中身を期待したが、市議会のチェック機能が働いていないと痛感した。市民に向き合う姿勢が感じられない」と落胆した様子で語った。

 同会の内藤正弘代表もコメントを発表。署名数が10195筆に達したことに感謝し、「保健福祉委員会で施設を称賛する発言が相次いだのに、共産以外の委員が廃止案に賛成したのは残念。これからは付帯決議の実行を見守りたい。跡地利用で高齢者福祉施設の建設を求める」などとした。(藤原哲也)

さいたま市議会、高齢施設の廃止案を可決 関係者からは失望の声

2024年6月29日 07時54分