「風俗業は不支給」撤回を休業補償 従事者の生存権守れ厚労相に支援団体要望赤旗.SWASH「AV 新法」の議論に関する共同声明CALL4 「セックスワークにも給付金を」訴訟#ジェンダー・セクシュアリティ#公正な手続



新型コロナウイルス感染症をめぐって厚生労働省が臨時休校に伴う保護者への助成・支援金の対象から風俗従事者を除外して批判が高まっている問題で、当事者支援団体は2日、「風俗で働く人々への差別」を助長するものだとして、不支給要件の撤回などを求める要望書を加藤勝信厚労相などに提出しました。

 厚労省は、臨時休校に伴って仕事を休まざるを得ない保護者向けに日額8440円の雇用助成金と、フリーランス向けに4100円の支援金を設けましたが、風俗業界で働く人は支給対象から除外されました。

 性風俗従事者の当事者支援団体の「SWASH」は加藤厚労相と厚労省雇用環境・均等局長あての要望書の中で、「風俗従事者とその子どもたちが、他の労働者とその子どもたちと同じように、生存権が守られることを望んでいる」と述べて、風俗業に従事しているか否かを支給の指標としないよう求めました。

 また風俗が「日払いで、今回のような事態によって収入が激減しやすい仕事」だと指摘し、「社会的排除を受けやすい、困難を抱える親たちの扶養の躓きや困窮を軽減するため」にも支給は「不可欠」だと主張。そのうえで今回の措置によって「風俗で働く人々への差別が助長されたことは否めません」と批判し、不支給要件の見直し・撤回を求めました。

 加藤厚労相は3日の会見で不支給要件について「取り扱いを変える考えはない」と述べました。

 小池百合子東京都知事は3月30日の記者会見で、感染拡大防止のため、バーやナイトクラブなど夜間の外出自粛を求めました。

2020年4月5日(日)

「風俗業は不支給」撤回を

休業補償 従事者の生存権守れ

厚労相に支援団体要望



5月に入り、AV 新法に関する議論の中で「誰が AV に出演契約できるのか」「どういった行為を法律で禁止すべきか」をめぐる意見が各所で発信されています。そのなかには一部の属性を持つ人(特に性暴力サバイバーや障害者)に対する差別や人権侵害にあたる意見、特定の性行為に対するスティグマを強化する意見も見られます。
AV 新法の制定に「反対の立場ではない」私たちから、AV をはじめとするセックスワークの現場にいる一人ひとりにとってより使いやすい法制度に向け必要なことは何かという観点から、声明を発表いたします。



共同声明
2022/05/15
Broken Rainbow – japan / SWASH(Sex Work And Sexual Health)/ Transgender Japan

「より安全に安心して働きたい」。性的な仕事をしてきた人たちの、この当たり前の思いや声は、「騙されやすい」「洗脳されやすい」「まともな判断能力がない」「救済されなければならない人々だ」等、無力化された当事者像の行き過ぎた一般化によって、常に否定され無視され続けてきました。

AV 新法に関する議論の中でも、同様の否定と無視が相変わらず繰り返されており、なかには性労働自体を否定する極端な意見も見られます。性的な仕事を全部「性暴力」と決めつけてしまうことは、その中で行なわれている働き方の違いを全部切り捨てることになり、かえって、そこで働く人々がより安全に働けなくなります。
性産業において、一般的な労働法制と権利の枠組みが普及することは、力関係やアクセスできる知識、情報格差の均等化を図り、より対等な契約関係にしていくために必要なことです。

また、働く人一人ひとりの被害者性や搾取性は、社会通念や性規範、女性観によって決まるのではなく、本来、労働者保護の考え方に沿って、労働実態に基づいて判断されるべきものです。
したがって、「性労働そのものが本質的に被害や搾取を伴う不適切な労働だ」との前提にもとづく議論は、今そこで働いている人々のための議論ではありません。

加えて、性行為映像作品出演被害の防止等に関する法律(AV 新法)骨子案に対する反対意見並びに要望の中には「犯罪フィクションのコンテンツを禁止する」ことが含まれ、具体例として口淫、肛門挿入、異物挿入などがあげられています。これは、特定の性行為を禁止して罰するソドミー法の考えと同じで、大変危険です。
同性間性交などで行われている行為を法律によって禁止することで、性的少数者を犯罪化してきた最低な歴史を繰り返す、人権を無視した意見や要望は決して看過できるものではなく、強く抗議します。

もちろん、「適正 AV」の業界として撮影環境・撮影項目における安全事項の設定など、自主的な取り組みは必要ですが、これらの映像コンテンツは必ずしも特定の教育や思想の流布のために制作されているわけではありません。そうしたコンテンツに安全な性交渉に関する啓蒙を組み込むことも可能です。私たちは、安全安心な性交渉は、法規制を通してではなく、性教育の充実を図り、セーファーセックスへの認知を深める活動を活発にすることで追及すべきだと考えます。

全ての人は、いかなる性別や性的指向、性表現(gender expression)や性的特徴であっても、障害の有無や人種、民族的差異によらず、それぞれに職業選択の自由を有しています。また、個々のアイデンティティや経験(例えば性暴力被害にあったという経験)は、個々人にとって重要な個人情報です。

したがって、障害や性被害経験を有するか否かなど、個々のアイデンティティや経験を就労の際の条件とすることは、人権侵害であり、決して許されません。個々人は自分の人生を自分で選択する権利を有しています。その権利が侵害され被害にあったり差別経験を持ったからといって、その力を、その権利を失ったわけではありません。

私たちはそれぞれの経験を生き抜き、ここに存在しています。
そして、自らの人生を自分で選ぶなかで人生の過程に危険が伴う時には、その危険から身を守るための権利を有しており、それを主張することが正当なことだと確信しています

「AV 新法」の議論に関する共同声明

2022/5/15




「性風俗産業は古くから産業として存在し、多くの人が働いています。バブル崩壊後の景気悪化につれて性風俗業界も厳しくなっていると聞いていましたが、今回の新型コロナ感染拡大で一気に危機的な状況になりました。
私の店を例に挙げると、今年3月から売上が減り始め、4月には緊急事態宣言に基づく休業要請を受けて休業したこともあり、売上は8割以上減りました。

休業の判断はとても迷いました。

これまで性風俗店は対象外だった雇用調整助成金が今回は対象になったり、小学校休業等対応助成金も対象になったので、持続化給付金も対象になるのではないかと考え、また、万が一、店のスタッフやお客さんに感染者を出してしまっては悔やんでも悔やみきれないと思い、断腸の思いで休業を決断しました。それだけに、持続化給付金については性風俗店は対象外と知ったときのショックは大きかったです。

対象外となった理由は、「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくい」とのことですが、なぜ「国民の理解が得られにくい」のか、これまでの国の取り扱いが本当に正しかったことなのか、わかりません。このような曖昧な説明では、国が性風俗業で働く人の尊厳を無視しているように感じます。

差別や偏見のない社会を目指すことは、国が率先して取り組むべきことだと思います。世間の偏見や差別感情、スティグマを国が助長させるようなことをしてはいけないと思います。これまで国が、性風俗業について曖昧な扱いをしてきたから説明ができないのだと想像します。きちんと向き合ってほしいです。
今回の訴訟で、この職業に対して偏見を持つ人が減ったり、職業差別についての意識が変わったりすると嬉しいです。そして、性風俗に関連する風営法などが、そこで働く人たちの安全を重視したものに変わる足掛かりになればとも願います。」

4 :この訴訟の社会的な意義
続けて、亀石弁護士がこの訴訟の社会的意義を語りました。

「コロナウイルスの感染拡大により、国民の生命を守るために、営業の自由や集会の自由、移動の自由など、今まで当たり前だと思っていた私たちの様々な権利・自由が制約を受けざるを得ないという状況になっています。一方で、社会の秩序や道徳というものを優先するがあまりに、憲法上の権利・自由が非常にたやすく制約・減縮されてしまうという状況も見られています。
今回、性風俗事業者が持続化給付金等の支給対象から除外されているということは、まさにこのコロナ禍が浮き彫りにした職業差別だと思います。国のいう、社会通念や道徳、国民感情といった、あいまいな理由で差別をしてよいのでしょうか?

司法は、このような差別を推認するのではなく、しっかりと向き合って答えを出してほしいと思いますし、こういうときだからこそ、憲法上の価値を守る・理念が実現されるべきだと思います。そして、この訴訟にはこのような社会的意義があるのだということを、ぜひ多くの方々に知ってほしいと思っています。」
5 :記者からの質問

Q 持続化給付金と家賃支援給付金について、原告は申請をしたが通らなかったということでしょうか?その理由は示されていますか?

A→「現時点で、『申請したが却下された・通らなかった』ということはありません。
持続化給付金・家賃支援給付金のどちらとも、ウェブサイトから申請する仕組みになっています。申請をしようとすると、途中の画面で、不支給とされている者(宗教上の政治組織や政治団体など)でないことの確認があり、「あなたはこれらに該当しませんね」というチェックをつけなければ次の画面に進めないという仕組みです。そのため、原告はウェブサイト上で申請行為を完了できなかったことから、9月9日に事務局宛に郵送で申請を行いました。9月23日時点において、申請に対する応答や何らかの処分はなされていません。

また、そもそも規定において性風俗営業者が給付申請の対象外とされているということで、原告は今回の訴訟に踏み切ったということです。」(福田弁護士)

Q “性風俗事業は犯罪の温床になりうる場所だから、そのような事業者に給付金を出すのはどうなのか”といった否定的な意見についてどう捉えていますか?

A→「まず、事業者、お店という存在があるからこそ、働くキャストさんが怖い目に遭ったりするところから守ることができるという面があると理解しています。

1人10万円の定額給付金はキャストさんも給付の対象とされているからいいだろうという話ではありません。事業者が今回持続化給付金などをもらえないために潰れてしまって、キャストさんが個人で仕事をしなくてはならなくなった場合に、お客さんと接する中で怖い目にあったりとか、ストーカーの被害にあったりするといった危険にさらされやすくなるのです。

そして、国はこれまで、性風俗事業者というものを社会の、法的保護の外に置いてきました。社会のシステムとして、なにか問題が生じたときに、性風俗産業に関わる人たちが警察に相談したり、法的に守ってもらうということが難しくなっていると思います。そのために、怖いことがあっても相談できない、助けを求められない、という状況が起きていると思います。

キャストさんをそういったトラブル・危険から守るためにも事業者を守らなければならないし、ほかの業界の事業者と同じようにきちんと法的保護の中に入れるということが必要だと思います。」(亀石弁護士)

Q クラウドファンディングにどのような声が寄せられていますか?

A→「当初の目標金額は300万円でしたが、これは4日ほどで達成することができ、現在は次の目標である600万円に向けてご支援を募っています。

支援者以外からは、“税金を払ってないのだから給付金ももらえなくて当たり前だろう” 、“犯罪の温床になっている、反社会的勢力と繋がっている”、といった声もありました。違法行為をしている一部の事業者がいることから、性風俗事業者全体に悪いイメージがある人が多いのだと感じました。

一方で、同業者の方々からは、“今まで声をあげられなかったけど、こういうふうに社会から排除されているということがおかしいと思うし、勇気を出して訴訟を起こしてくれてありがとう”、という声もありました。
また、性風俗産業のサービスを利用する方々からのご支援の声もあります 。
それから、“性風俗事業者に対して自分の中に偏見があったことにも初めて気づいた、だけど差別をすることはおかしいんじゃないかと考えさせられて、今回支援をしました”という声も多くいただいています。

今回の訴訟・クラファンによって、初めてこの問題に気づき、考えるきっかけになったという方々が多いということは、この訴訟を提起した意義の一つとして重要だと感じます。」(亀石弁護士)
「CALLサイトの『支援者の声』というところに、何百名という方々の声が実際に載っていて(以下のリンクをご参照ください)、弁護団も一つ一つ読んでいます。この訴訟には、こういった“声なき声”のようなものを拾って司法の場で訴えていく、という側面もあると考えています。」(平弁護士)
Q 歴史的に見ても、性風俗事業者に対して給付金が支給されないという事例はこれまでもあったようですが、なぜ今回は提訴するということになったのでしょうか?


A→「性風俗事業者が給付金不支給となるということは起きていたはずですが、問題提起する弁護士や当事者がおらず、差別は仕方のないものだと諦める当事者が多かったということだと思います。」(平弁護士)

「今回の訴訟の特殊性は、コロナウイルスにあると思います。コロナウイルス感染対策に関しては、どの事業者も等しくダメージを受けており、性風俗事業者も例外ではありません。それでも、性風俗事業者だけが明確に排除されている点には差別を感じたのだと思います。
原告は、持続化給付金が業種にかかわりなく幅広い業種を支援しようということで作られたことを知り 、いざ活用しようと思って申請しようとしたら、自分たち性風俗関連特殊営業の事業者が対象外となっていると気づき、国に約束を裏切られたという思いを抱いた、この思いが今回の訴訟提起につながりました。」(福田弁護士)

(安倍晋三前首相は、令和2年4月14日に開かれた衆議院本会議にて、柚木道義議員からの質問に対し、「事業者への現金給付については、過去に例のない措置でありますが、今般の感染症により休業を余儀なくされた事業者のみならず、売上げが大きく減少した中堅企業、中小・小規模事業者を業種にかかわりなく幅広く対象とするものです。」と答弁していました。国会会議録より)

Q 今後、ほかの同業者を含めて集団訴訟となる可能性はありますか?

A→「私たち弁護団は、原告の株式会社1社からご依頼を受け、今回の訴訟を提起しております。現在はこちらの訴訟に集中しており、他の同業者を含めての集団訴訟を組織するということは予定しておりません。」(平弁護士)
6 :提訴会見を終えて

提訴会見の内容は以上となります。

今回、提出された訴状を読み、提訴にあたっての記者会見に足を運んでみて、原告が休業を決意した決め手の一つに、安倍前首相が「持続化給付金は“業種にかかわりなく幅広く”」という言葉があったこと、その意味する重大さに気づかされました。

緊急事態宣言が発令された4月初旬以降、“休業要請するなら補償を”という声が多くの業界から叫ばれ、休業や営業時間短縮等の要請に従った事業者には支援金が支給されました(多くの都道府県において、性風俗店もこの支援金の支援・支給の対象とされました)。

中小企業や個人事業主等を対象とした持続化給付金は、9月21日までに約336万件、額にして約4.4兆円の支給が完了しています(経済産業省「持続化給付金の給付についての現在の状況」)。

これらの“補償”は、多くの事業者にとって、倒産・廃業を避け、営業を続けていくための足がかりとなっていると思われます。

自身はこれらの支援金・給付金の対象ではありませんでしたが、4月中旬に、“1人につき10万円を支給する”という特別定額給付金事業が決定した際、一種の喜びを感じました。所得や居住地にかかわりなく、個人レベルで一律に給付されるという点に、多くの人は多少の差はあれ、安堵の感情を覚えたはずです。

もし仮に、自分の勤める企業や業種、また住んでいる地域を理由として、ピンポイントで「あなたたちには支給しませんよ」と意味なく決められてしまったら、「なんと理不尽な!」と呆れ、怒りがこみ上げてきます。また、「どのような基準でそう決まったの?」と聞きたくなると思います。

今回の訴訟の原告が「なぜ自分たち性風俗事業者が支給対象から外されているのか?」と主張するその中心には、このような怒り・素朴な疑問があると感じました。安倍前首相の“幅広い業種に”という言葉は一体なんだったのだろうと。

そもそも、国が特別の給付金を新設し、給付規程を定めることになった時、国には、誰に給付するか、あるいは誰に給付しないかなどの点について裁量権が認められます。

しかし、特定の組織や事業者を支給の対象から外す場合には、それらの者には経済的な不利益を被ることになるのですから、なぜ外すことに決めたのか、どのような要素・基準によって外すと判断したのかについて、国の決定には公正さが求められます。

性風俗事業者に支給しないことを決めた理由について、国が“社会通念”や“国民感情”などといった曖昧な事情をあげるのであれば、風営法などに則って適切に営業している性風俗事業者に対する職業差別を正当化することになるばかりか、社会的な「スティグマ」を助長することになってしまいます。

性風俗関連業者の中で、法律に違反して営業を行う事業者や、暴力団や反社会的勢力と繋がりのある組織が存在することを前提とするとしても、性風俗業者を一律に給付金の支給対象から外し、“排除”を行うことには合理性がないといえます。

このような、性風俗事業者に対する国からの不公正・違法な取扱いが解消されることが原告当事者・弁護団の主張です。

今回の「セックスワークに給付金を」訴訟は、持続化給付金の支給対象から外された性風俗事業者が法的な手段に出た、初めてのケースとなります。

被告である国がどのような応答・主張をし、裁判所がどのような判断をするのか、多くの人が注目するこの訴訟の審理を、CALL4としても今後も追って行きたいと思います。

なお、この訴訟は憲法訴訟ということもあり、長期戦が見込まれます。既にご支援いただいている方も多くいらっしゃると思いますが、この訴訟を知り原告の主張にご賛同いただける方は、ぜひ下記のクラウドファンディングページにてご支援いただければと思います。また、合わせてストーリーページもご覧ください。
⽂/鹿島 彩(CALL4)

提訴会見レポート〜「セックスワークにも給付金を」訴訟〜


https://www.meti.go.jp/covid-19/jizokuka-info.html


015 柚木道義発言URLを表示
○柚木道義君 私は、共同会派、立憲民主・国民・社保・無所属フォーラムを代表して、ただいま議題となりました政府提出の年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案及び野党提出の年金積立金管理運用独立行政法人法等の一部を改正する法律案について質問いたします。(拍手)  まず、新型コロナウイルス対策を質問させていただきます。  緊急事態宣言からちょうど一週間。これからの一週間が、封じ込められるかどうかの文字どおりの正念場です。  もちろん、コロナ対策に与党も野党もありません。しかし、安倍政権の緊急事態宣言、緊急経済対策は、遅過ぎ、少な過ぎではありませんか。世論調査では、緊急経済対策に期待できないが七二%、三十万円の現金給付は一律給付にすべきと増額をすべきで合わせて七〇%、休業補償は国が行うべきが八二%です。  安倍総理も小池都知事も東京オリンピックに注力する一方で、政府・与党は二月下旬に野党が提案したコロナ対策予算を追加すべきとの組み替え動議に反対した結果、コロナ対策が後手に回り、今の深刻な感染拡大、コロナ不況に至っているのではないでしょうか。これでは、もはや人災です。  総理、対応がおくれた点は率直に国民におわびを述べるべきではないですか。また、マスクの全戸配送に四百六十六億円も国民の税金を使うより、医療、休業補償、現金給付に回すべきではありませんか。総理、お答えください。  私たち野党、そして海外からも批判をされてきたのが、検査件数の少なさです。人口当たりの検査件数が欧米先進国の数十分の一以下では、感染者数の正確な把握は不可能で、他国との比較もできず、海外メディアからは隠蔽とまで非難をされました。さらに、オリンピックの延期が決まるまで検査能力の二割程度しか検査してこなかったことが意図的隠蔽の印象を強めました。  厚生労働省は、検査件数が少ない理由を、検査の必要性の基準は医師の判断と説明。しかし、これは事実ではありません。帰国者・接触者相談センターの全相談者のうち、帰国者・接触者外来への紹介はわずか五%。つまり、九五%の方が、医師の判断ではなく、相談センターによる、国のつくった厳し過ぎる基準で、検査を受けられないのです。  また、メディアでは、医療崩壊を招かないためにもPCR検査を抑制してきたとの論調がありましたが、厚労省は、帰国者・接触者外来で受診能力を超えた事例は一つもなく、入院ベッドも三月の末時点では不足していないとの認識を示していました。  オリンピックの延期決定後から検査数が格段に増加していることからも、それまでの少なさの原因は、習近平中国国家主席の訪日やオリンピックを予定どおり行うための意図的抑制ではなかったのかと言わざるを得ません。結果、早期に拡大を防止できず、緊急事態宣言の発令と至りました。  改正基本的対処方針の蔓延防止策二十四項目の中にはPCR検査の文言は一つも見当たりませんが、感染経路不明者が五割を超える現状で、クラスター対策偏重路線は既に破綻しています。  今までの路線を改め、宣言期間内に、総理が確約をしている一日のPCR検査能力二万件を、大切なのは医師が必要とする検査をふやすことですから、その実検査数二万件を目標として、達成するように指示をいただきたい。また、どのような考えに基づいてその目標を達成するお考えかもお答えください。  緊急事態宣言の発令時期を、国民の八割が遅いと答えています。総理、宣言による経済への影響を危惧する気持ちはとてもよくわかりますが、国民の命がより大切であるとの認識を強く訴えたいと思います。  総理は、会見で、接触機会を最低七割、極力八割減少させれば二週間でピークアウトできると言われました。しかし、二週間様子を見ての対応で本当にいいのでしょうか。悠長過ぎませんか。  人と人の接触機会の減少割合は、ちょうど一週間、本日、この四月十四日時点で何割減少したんでしょうか。もしその数値が示せないのであれば、なぜ検証できない数字を示されたのか、総理の答弁を求めます。  専門家が、感染の拡大、縮小状況を判断する参考指標として、一人の感染者が平均何人に感染させるかを示す実効再生産数、新規感染者数、感染者に占める感染経路不明者数を挙げています。  そこで、緊急事態宣言を出す直前の国及び指定された七都府県の実効再生産数をお示しください。  また、二週間後のピークアウトを目指すからには、その時点での目安は縮小状況と判断される一・〇以下と考えるのか、国民に説明してください。  あわせて、宣言解除のための新規感染者の増加率と経路不明感染者率の目安をお示しください。  もし緊急事態宣言の期間を何度も延長するようなら、総理が宣言者としての政治責任を果たしているとは言えません。総理、改めて、この一カ月の発令期間内に新型コロナを終息させると国民に約束をしてください。答弁を求めます。  休業補償と緊急事態宣言はセットです。それでこそ、事業者も労働者も安心して休業できます。国民が総理に望んでいるのは、星野源さんとのツイッターで優雅に紅茶を飲んでいる姿より、自粛と補償をセットで実現するために全力投球している姿ではないでしょうか。  実際に、自粛要請を受けたお店や働く皆さんから、毎日悲鳴が寄せられています。ここは、欧米並みの賃金補償が不可欠です。欧米では、八割程度の国民にも行き届き、八割程度の賃金補償がなされています。そこで、補正予算の事業持続化給付金と現金給付が合計六兆円であるのを、欧米並みに大幅に積み増すべきです。答弁を求めます。  政府は、野党や世論の批判を受け、対象拡大を検討するそうですが、そもそも、八割もの国民が排除される一世帯三十万円の現金給付でなく、野党案の、一人当たり十万円以上、全員一律給付で後から課税をする方法であれば、国民全員に迅速かつ公平な支給ができます。総理、ぜひ、全国一律で個人単位での十万円以上の給付の採用を強く求めます。税金は、あなたのものではなく、国民のものです。今、国民を救うために使わずに、いつ使うのか。総理、ぜひお答えください。  事業者支援も、現状では遅過ぎ、少な過ぎで、家賃にもなるかどうかだというのが現場の声です。二兆円の事業持続化給付金を大幅に積み増すことを総理に強く求めます。御答弁ください。  東京都は感染拡大防止協力金を支給しますが、不十分です。自治体と国の補償をセットで実現するべきで、そのためには、現在一兆円の全国の自治体が柔軟に使える臨時交付金としての拡充を求めます。総理、御答弁ください。東京都と国も、対立ではなく協力をして、休業補償を拡大し、感染防止の加速をぜひよろしくお願いいたします。  子育て世帯への対応も不十分です。  家計調査によると、家族一人当たりの食費と光熱水道代だけでも月三万円程度かかります。シングルマザー家庭では、一日二食にするような家庭もあり、状況は切迫しています。児童手当一万円増額について、さらなる臨時的引上げを行うとともに、毎月支給とすること、対象年齢を十八歳まで引き上げることを強く求めます。総理、お答えください。  安倍総理、憲法を改正し、緊急事態条項を制定すれば、危機管理がうまくいくわけでは決してありません。今やるべきことは、目前のコロナ危機をどう乗り越えるかです。精神論やお願いではなく、補償なくして自粛なしです。一刻も早く、いかなる職業であっても排除されることなく、職を失ったり住みかをなくしたり、弱い立場の方々、より多くの皆様を救済できる対策を強く求めて、年金法案の質問に入ります。  年金は、まさに国民の老後生活を支える重要な柱であります。  昨年八月公表の財政検証結果を見ると、将来、年金は決して安心できません。経済前提六ケースのうち、三ケースで、将来、二、三十年後の所得代替率が五割を下回り、五〇%確保できる三ケースでも、所得代替率は約二割低下、国民年金、基礎年金は約三割も低下する見通しです。基礎年金、国民年金の給付水準の大幅な低下は、最大の課題です。  総理は、物価上昇率で割り引けば基礎年金額はおおむね横ばいと説明しますが、年金の給付水準は、賃金上昇率で割り戻した額、つまり所得代替率で見るべきです。給付水準が三割も低下する基礎年金、国民年金で、貯金も十分でない方々が増大する中で、果たして生活が成り立つのでしょうか。総理、お答えください。  今回の政府案は、小手先の改革です。本来、全ての労働者に被用者保険を適用するのが目指すべき姿であり、この認識は与野党共通のはずです。しかし、政府案では、企業規模要件の撤廃すら実現していません。保険料負担が増大する中小企業への配慮は当然必要ですが、その配慮は、適用しないことではなく、中小企業にも適用拡大した上で、経営していけるよう十分に支援することです。  今回、企業規模要件を撤廃する道筋がつかなかった理由、撤廃時期、さらなる適用拡大の見通しについて、総理に伺います。  GPIFの資産構成について、株式割合を五〇%にふやしてから、運用収益の振れ幅が大きくなり過ぎています。そのため、今回の新型コロナウイルス感染拡大に伴う株価の下落により、一―三月期は十七兆円前後という過去最大の積立金の損失見通しであります。  先日の資産構成割合の見直しでは、外国債券の割合を二五%に引き上げましたが、現在のように世界的に金融市場が動揺する中では外債のリスクも高くなります。政府は累積収益は改善していると説明しますが、マイナス幅が大きく出るということに対して国民は大きな不安を持っています。  積立金の運用は、被保険者の利益のために、安全かつ効率的に行うという法律の規定を考えれば、株式運用比率を倍増させたことで、コロナショックの影響を大きく受け、過去最大の十七兆円もの損失を出すなど、年金運用のリスクを高めたのではないでしょうか。総理、お答えください。  また、GPIFは、会計検査院から開示が求められたバリュー・アット・リスクやストレステストの結果といったリスクは開示しないままです。リスク情報がわからないままでは、安全かつ効率的な運用が行われているのか、十分確認できません。速やかに会計検査院が開示を求めているリスク情報を開示すべきです。総理の見解を求めます。  野党案では、GPIFの株式の構成割合の法定化、運用リスク情報の公表義務化を行うとしていますが、その趣旨、具体的な株式の割合について、提出者に伺います。  政府は、繰下げ受給により、年金額がふえ、より豊かな老後生活が可能になるとアピールしていますが、現行の七十歳までの繰下げの利用者は一%程度にとどまります。七十五歳まで繰下げ可能にしても、その間の生活資金が確保できなくては利用もできません。生活の資金に余裕のある人だけが恩恵を受け、年金の増額が必要な低所得者は繰下げ受給を利用したくてもできないのではないでしょうか。総理、お答えください。  年金生活者支援金は、保険料納付済み期間に応じて支給額が決まり、納付済み期間が短く年金額が低い人ほど支給額が低くなります。低所得者対策としては、納付済み期間にかかわらず、一律に給付すべきと考えますが、総理の御所見を伺います。  今回の野党提出法案では、年金生活者支援給付金を拡充し、一律に月六千円支給するとしております。提出者に、改めてその意義、必要性を伺います。  また、野党案では、子供が一歳になるまでの間の国民年金と国民健康保険の保険料の免除も盛り込まれており、大いに評価をいたしますが、その趣旨、意義について、提出者に伺います。  これまでの年金制度改革は、まさに新型コロナ対策と同様に後手後手に回ってきた、繰り返しでありますが、今まさにコロナ対策も年金対策も現実を見据えた具体的かつ早急な対策が必要であり、共同会派としても全力で取り組んでいくことを申し上げて、私の質問といたします。  ありがとうございました。(拍手)     〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕
016 安倍晋三発言URLを表示
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 柚木道義議員にお答えいたします。  新型コロナウイルス感染症対策についてお尋ねがありました。  新型コロナウイルス感染症対策については、何よりも国民の命と健康を守ることを最優先に、二月十三日に第一弾、三月十日に第二弾の緊急対応策を講じ、必要な対応を直ちに実行してきました。こうした対策の効果や国民の皆様の御協力により、経済社会活動を可能な限り維持しながら、今のところ、諸外国のような爆発的な感染拡大、いわゆるオーバーシュートは発生していない状況にあります。  こうしたこれまでの感染拡大の状況を客観的事実として評価する限りにおいて、諸外国と比しても我が国の対応が遅かったとの御指摘は当たらないものと考えております。  他方で、東京や大阪など都市部を中心に感染者が急増している等の状況を踏まえ、緊急事態宣言を行うとともに、今回の緊急経済対策では、医療提供体制の整備や事業者に対する資金繰り支援、家計や中小・小規模事業者に対する現金給付など、前例にとらわれることなく、思い切った措置を講じています。  また、布製マスクは、使い捨てではなく、再利用可能であることから、急激に拡大しているマスク需要に対応する上で非常に有効であり、また、サージカルマスク等を医療現場に優先して供給するためにも、家庭向け布マスクの配布を行うことは理にかなった方策と考えています。米国CDC等においても、布マスクの有用性が評価されているところであります。  PCR検査についてお尋ねがありました。  PCR検査については、四月十二日時点で、全国で一日当たり約一万二千件以上の検査能力を確保しています。  検査能力の分だけ実検査せよとの御指摘については、検査能力と実際に検査が必要な検査数は別のものと考えており、医師が必要と判断した方が確実に検査を受けられるようにすることが重要と考えております。  PCR検査の実施件数については、都市部を中心として感染者数の急増が見られる中で増加してきているとの認識ですが、全相談件数に占める検査実施の報告件数が低い都道府県もあることから、その背景や事情について現在フォローアップを行っているところです。  政府としては、引き続き、医師が必要と判断した患者が確実に検査を受けられるよう取り組むとともに、さらなる感染拡大に備え、緊急経済対策において、PCR検査体制の一日二万件への増加や、保健所の体制整備によるクラスター対策を抜本的に強化してまいります。  御指摘の、人と人との接触機会の減少割合は、必ずしもこれを直接的に示す数字ではありませんが、評価の一つの目安となるものとして、例えば、携帯電話の位置情報を活用した人口変動データを活用しています。このデータは、四月十二日時点で、昨年に比べ、渋谷で約七割、横浜や梅田で約八割減少するなど、一定程度減少している状況が見られます。接触機会の具体的な削減状況については、こうしたデータも参考にしつつ、感染拡大の状況についても日々分析した上で、専門家の意見も踏まえて判断していくこととしています。  また、実効再生産数については、感染日から発症日までに要する期間を考慮すると、二週間程度経過した後初めて算出可能となるため、御指摘の時点における実効再生産数をお示しすることは困難です。なお、専門家によると、早期収束のためには、その値を一より十分小さい状況を目指すことが必要と指摘されています。  御指摘の緊急事態宣言の解除については、専門家の評価をいただきながら総合的に判断していくこととなりますが、収束に向けて、国民の皆様のこれまで以上の御協力をお願いしつつ、感染拡大の防止等に政府としても全力を尽くしてまいります。  緊急経済対策についてお尋ねがありました。  世帯向けの現金給付については、リーマン・ショック時に全国民を対象に一人当たり一万二千円の給付を行った際、全戸に対する給付案内等の準備に三カ月もの時間を要したこと、高所得世帯を中心に多くが貯蓄に回ったことなどの経験を踏まえ、今回は、全世帯に一律の給付を行うのではなく、甚大な影響を受けて収入が減少し、生活に困難を来している御家庭に集中することで、スピーディーに、思い切った額である三十万円の給付を行うこととしたところであり、大変な状況にある方々に迅速かつ効果的な支援を行うものであります。  事業者への現金給付については、過去に例のない措置でありますが、今般の感染症により休業を余儀なくされた事業者のみならず、売上げが大きく減少した中堅企業、中小・小規模事業者を業種にかかわりなく幅広く対象とするものです。また、中堅・中小企業には二百万円、フリーランスを含む個人事業者には百万円を上限に給付を行うものであり、他の欧米諸国との比較において、対象範囲の広さでも、金額でも、遜色のない支援を行う施策であると認識しております。  自治体への交付金についても、今回の対策では、全額国費負担の事業が多い中にあって、リーマン・ショック時と同じ規模の金額を確保することにより、今般の感染症に係る自治体における対策に万全を期したところであります。  その上で、今般の緊急経済対策では、六兆円規模の現金給付のみならず、雇用調整助成金の拡充を通じた従業員の皆さんの雇用と収入の確保、事業者負担の軽減、税や社会保険料の猶予による手元資金の確保、実質無利子無担保、最大五年間元本返済不要の融資制度によって資金繰りに万全を期すなど、あらゆる手段を駆使して、困難に直面している事業者や御家庭の皆さんを支えることとしています。全体で事業規模百八兆円、GDPの二割に当たる対策規模は、世界的にも最大級であると考えております。  このための補正予算を来週にも国会に提出する予定であり、野党の皆様の御理解と御協力を得て早期の成立を図ることにより、対策を速やかに実行に移してまいります。  引き続き、内外における事態の収束までの期間と広がり、経済や国民生活の影響を注意深く見きわめながら、国民の命と暮らしを守るため、必要に応じて、時期を逸することなく、臨機応変かつ果断に対応してまいります。  子育て世帯への支援についてお尋ねがありました。  政府としては、今般の新型コロナウイルス感染症の経済への甚大な影響により困難に直面されている御家庭に対して、迅速かつ徹底的な下支えをする所存であります。  このため、甚大な影響を受けて収入が減少し、生活に困難を来している御家庭を中心に、集中的に三十万円の思い切った給付を行うとともに、お子さんのいる御家庭に対しては、これに加えて、可能な限り迅速にお支払いする観点から、児童手当の対象者に、そのお支払いにあわせて子供一人当たり一万円を一時金としてお支払いすることとしております。  さらに、光熱水費等について支払いの猶予を求めるとともに、八十万円まで利用が可能な返済免除特約つきの緊急小口資金の活用等も可能としております。  政府としては、引き続き、御指摘のシングルマザーを始め大変な状況にある方々の実態をよく踏まえ、こうした方々に直接手が届く効果的な支援策を実施してまいります。  年金の給付水準についてお尋ねがありました。  将来の年金水準を見通す上では、現役期の賃金との比較である所得代替率と、年金受給者の購買力をあらわす、物価上昇分を割り戻した実質価格の双方を見ることが大切と考えています。  この点、昨年公表した財政検証の結果によれば、将来世代の給付確保のために行うマクロ経済スライドによる調整が終了した後の所得代替率については、当初、前回検証よりも悪化するのではないかとの臆測もあったところでありますが、こうした一部の臆測に反し、代表的なケースでは、前回検証時の五〇・六%に対し、五〇・八%と改善したところであります。  また、基礎年金額は、物価上昇分を割り戻した実質価格で見るとおおむね横ばいとなっており、年金受給者の購買力や実質的な生活水準が三割低下するわけではありません。  さらに、昨年、財政検証結果において、被用者保険の適用拡大は、厚生年金のみならず基礎年金の水準を確保する上でもプラスの効果を持つことが確認されたところであり、今般の法案では、このような内容も盛り込んでいるところです。  なお、低所得や無年金、低年金の高齢者の方には、年金受給資格期間の二十五年から十年への短縮、年金生活者支援給付金の支給、年金給付から天引きされる医療、介護の保険料軽減を実施してきており、今後とも、社会保障制度全体で総合的な対応を検討してまいります。  厚生年金の適用拡大についてお尋ねがありました。  被用者である方には、被用者保険である厚生年金を適用することが原則であり、その意味で、企業規模要件も最終的に撤廃すべきものであると考えています。  他方、厚生年金の適用拡大は、特に中小企業への影響も大きいことから、全世代型社会保障検討会議等の場で関係者の意見を丁寧にお伺いした上で、今回は、五十人超の中小企業まで段階的に適用範囲を拡大していくこととしたものです。  まずは、中小企業への生産性向上支援、社会保険手続の負担軽減も図りながら、五十人超の中小企業までの適用拡大を着実に進め、その上で、次期財政検証の結果も踏まえて適用範囲の検討を加えることとし、その旨、法案の附則にも規定したところです。  年金積立金の運用、リスク等情報の開示についてお尋ねがありました。  年金積立金の運用は、長期的な観点から行うこととされており、株式市場を含む市場の一時的な変動に過度にとらわれるべきではありません。  また、年金積立金の運用は、安全かつ効率的に行うことが重要です。このため、経済動向や運用環境などを踏まえて、株式や内外の債券を含めた分散投資により、ポートフォリオ全体としてのリスクを抑えつつ、年金財政上必要な利回りを確保していくことが必要であると考えております。  御指摘の年金積立金運用のリスク情報については、GPIFにおいて、会計検査院の指摘も踏まえて、御指摘のバリュー・アット・リスクについては平成三十年度の業務概況書において、また、ストレステストについては本年三月の基本ポートフォリオ変更に伴うプレスリリースにおいて、既に開示されているところです。  受給開始時期の選択肢の拡大についてお尋ねがありました。  全世代型社会保障の実現のため、人生百年時代の到来を見据えながら、年金制度においても、働き方の変化を中心に据えて改革を進めることが必要であると考えています。  このため、政府としては、高齢者が意欲を持って働ける環境整備を進めるとともに、そのための手段として、受給開始時期の選択肢を七十五歳まで広げ、受給額についても、年金財政中立の考え方のもと、八四%までの割増しを受けることを可能としております。  こうした改革により、支え手をふやし、年金制度全体の安定性を高めることで、低所得の方々を含めた将来の年金水準の確保にもつなげていくことが可能となります。  なお、低所得や無年金、低年金の高齢者の方には、年金受給資格期間の二十五年から十年への短縮、年金生活者支援給付金の支給、年金給付から天引きされる医療、介護の保険料軽減を実施してきており、今後とも、社会保障制度全体で総合的な対応を検討してまいります。  年金生活者支援給付金についてお尋ねがありました。  年金生活者支援給付金は、平成二十四年の社会保障と税の一体改革における三党合意において、定額給付は保険料納付のインセンティブを損なうため社会保険方式になじまないとの観点から、月額五千円を基準としつつ、保険料納付済み期間に比例した給付として、当時の民主党政権が法案化した経緯があり、こうした経緯は重いものと考えます。  また、どのような給付を行う場合も、それを支える安定財源がなければ持続可能な制度とならないものと考えます。(拍手)     〔尾辻かな子君登壇〕
017 尾辻かな子発言URLを表示
○尾辻かな子君 柚木道義議員の質問にお答え申し上げます。  年金積立金管理運用独立行政法人、GPIFが管理及び運用する年金積立金の株式の割合の法定化並びに年金積立金の運用に係る損失の危険に関する情報の公表の義務化についてお尋ねがありました。  年金積立金は、国民の貴重な財産であるとともに、将来の年金給付の財源として重要なものです。このため、年金積立金の資産の運用に当たっては、この価値を毀損することのないよう、安全かつ確実を基本とした運用が求められています。  安倍政権に入り、年金積立金の資産の額に占める国内外の株式の構成割合が五〇%に引き上げられて以来、リスクの高い株式の割合が高まった結果、損益の幅が非常に大きくなっています。これでは、今回の新型コロナウイルスの感染拡大のような危機的な事態が一たび生じれば、株価の下落によって国民の財産が大きく目減りすることになります。  このような年金積立金の運用を続けていくことは国民の不安や不信を招くだけであり、国民の年金制度に対する信頼は損なわれてしまいます。  そこで、年金積立金の資産の額に占める株式の構成割合について、年金積立金管理運用独立行政法人設立時の株式の構成割合を参考にし、おおむね二〇%を超えない範囲で定めるものとし、これを法律上に明記することとしています。  なお、株式の構成割合の変更については、市場その他民間活動に与える影響等を勘案して、公布の日から十年の経過措置を設けています。  また、資産運用が適切に行われていくかを判断するためには、会計検査院が指摘しているように、収益が減少するリスクについて、ストレステストの結果の公表等による中長期のリスクの継続的な情報開示が必要不可欠です。  このため、年金積立金の運用に係る損失の危険に関する情報を年金積立金管理運用独立行政法人の業務概要書の記載事項に追加することにより、定期的なリスク情報の公表を義務化することとしております。  年金生活者支援給付金の拡充についてお尋ねがありました。  現行の老齢年金生活者支援給付金は保険料納付済み期間に応じて支給額が決まるものであり、納付済み期間が少ない場合は、支給額は月額五千円から減額されることになってしまいます。  このため、保険料納付済み期間が少ない高齢者は、低年金の上、年金生活者支援給付金の支給額も低くなるため、低所得の高齢者の所得保障の観点からは不十分なものとなっています。  他方、民主党政権時の二〇一二年に審議された社会保障と税の一体改革関連法案の当初の政府原案では、年金制度の最低保障機能の強化を図る観点から、低所得の老齢基礎年金受給者に対し、一律に月額六千円の加算措置を行うこととしておりました。  これを踏まえ、本法案では、低所得の年金受給者への対応の充実を図るため、年金生活者支援給付金の給付基準額を六千円に引き上げるとともに、老齢年金生活者支援給付金は、保険料免除期間がない場合には、保険料納付済み期間にかかわらず、一律に月額六千円を支給することとしています。  国民年金及び国民健康保険の保険料の免除についてお尋ねがありました。  現行法では、厚生年金及び被用者健康保険については、産前産後休業期間及び育児休業期間の保険料の免除が認められています。これに対して、国民年金については、昨年四月一日に産前産後期間の保険料の免除がスタートしましたが、一歳に満たない子を養育するための育児期間については、保険料の免除がありません。さらに、国民健康保険については、産前産後期間及び育児期間ともに保険料免除の規定がありません。  しかしながら、産前産後期間や育児期間については、従前と同じ形で働き続けることが誰にとっても難しいと考えられる期間であり、加入している制度の違いによって年金保険料等の免除についてこのような差が生じることは不合理であり、社会保障の支え手である現役世代の負担が増加していく中、特に子育て世代については負担の軽減を図る必要があります。  そこで、本法案では、国民年金について、被保険者が一歳に満たない子を養育するための期間について、保険料を納付することを要しないものとし、その期間について基礎年金給付を保障することとしております。  また、国民健康保険については、国民健康保険法第七十七条の規定により、市町村及び組合が被保険者の産前産後期間及び一歳に満たない子を養育するための期間における保険料の免除を行った場合には、国は必要な財政上の援助を行うこととしております。(拍手)

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120105254X01820200414&%3BspkNum=16&%3Bsingle
第201回国会 衆議院 本会議 第18号 令和2年4月14日



支援者、同業者、そしてクラファンの応援の声、すべてがすごい励ましだった

陳述書を提出するときから協力してくれていた支援団体の人たちの支えは大きかったし、クラウドファンディングの支援者の皆さんの声は、そのすべてがすごい励ましでした。自分も苦しいなか、こういうことにあまり声をあげない同業者が支援してくれたこともありがたかったし、逆に性風俗とまったく関わりのない方のことばを読んで、客観的に見ても、これはおかしなことなんだと励まされました。

SNSなどでも発信していますが、そこでの反応として見えるものには偏りがあるかもしれないので、CALL4さんの宣伝や報道などを通じて、興味を持ってくれる人の範囲が広がることは大事だと思っています。性風俗に対しては否定的な見方など、今もいろいろな声があるので、自分も揺れ動いているところはあります。応援してくれる人だけでなく、いろいろな意見を聞いて考え続けることは必要でしょう。

時間がかかるとわかった上で訴訟を起こしましたが、実際、応援してくれているラブホテルやストリップ劇場が厳しい状況にあり、潰れてしまった事業者もあるので、政治に働きかけて(給付の対象にしてもらえるよう)変えてもらうことができたら、もう少し救われる人もいたのではないか。コロナ禍が終息せず、苦しい状況が続くなかで、訴訟という選択が正しかったのかどうか、悩むこともあります。ただ、国がこの業界をずっと曖昧に扱ってきたことによる問題が、コロナによって明らかになったとも感じているので、ここでたたかわなかったら、たたかうタイミングはないかもしれないし、自分の性格的には司法のルールのなかで、きちんと判断してもらいたい気持ちがあります。

最初は外された雇用調整助成金が、その後、対象になり、でも、持続化給付金は認められないとか、そのときどき世間の声で曖昧に対応されるのは、やはり今後のことを考えると、よくないだろう、と。“司法は人権の最後の砦(とりで)”というのは本当にその通りで、社会に声をあげる手法はいろいろありますが、そのひとつである公共訴訟という手段は、今後もっと広がればよいと思います。

裁判を起こすことにはリスクもあるし、お金もかかるので、プラットフォームがあることはすごく大事なことです。CALL4さんの活動は素晴らしいと思うし、報酬が少なく、なり手が少ない訴訟を扱ってくれた弁護士さんには本当に感謝しています。個人的には、こうした公共訴訟を扱ってくれる弁護士さんに、もっと目を向けてほしいですね。
取材・⽂/塚田恭子(CALL4)

編集/丸山央里絵(CALL4)

性風俗に対する国の曖昧な扱いを、公共訴訟を通じて判断してほしい

[interview]FU-KEN(原告)


『セックスワークisワーク』をめぐる訴訟に至るまで(前編)

(後編:「性を扱う仕事とは何か?訴訟をきっかけに考えたい」

「これは性風俗業界に対する差別で、『スティグマからの解放訴訟』を起こすのだな」

原告の話を聞くまでは、そんな風に平面で考えていた。この訴訟は性風俗業界に対する「社会的スティグマ」を取り払おうとする訴訟なのだと。

スティグマとは特定の属性の個人・集団に対して付される差別や偏見の「烙印」のことだ。

「性風俗関連特殊営業」が、COVID-19の下での「持続化給付金」及び「家賃支援給付金」の対象から外された。

「COVID-19の影響を受けた中小企業等・個人事業者の事業継続を支える」という目的で給付が始まったはずの最大200万円の持続化のための支援も、家賃の支援も、「性風俗関連特殊営業」を行う中小企業は受けられなかった。

その理由を、参議院の答弁で国は「これまで公的な金融支援及び国の補助制度の対象外としてきたから」と答え、中小企業庁も「これまで給付金の対象から外してきたこととの整合性」と言った。つまりは「前例を踏襲」ということだった。

派遣型のファッションヘルスを経営する原告は、給付を受けられなかったこと(とその根拠である規程)が、憲法14条1項の「法の下の平等」に違反するとして、国を訴える。これは「職業選択の自由」(憲法22条1項)に深くかかわる問題でもある。
訴訟に向けた弁護団会議には、原告及び弁護団、支援団体が参加

経営者としてキャストや従業員を支える日々

性風俗産業(性風俗関連特殊営業)には幅広い業種がある。

中でも業界の多数を占めるのが、性交(「本番行為」)を伴わないファッションヘルスだ。無店舗型(派遣型)のいわゆる「デリバリーヘルス(デリヘル)」が最も多く、届出営業所数で見ると、店舗型のヘルスが780件に対し派遣型のヘルスは2万件以上ある(2017年)。

原告の事業も、無店舗型ファッションヘルスとして風営法上の届出をしている。性的サービスを提供する「キャスト」が事務所で待機し、予約が入ったら出かけるという一般的なデリヘルだ。業界では小規模なデリヘルだという。

「私がデリヘルの経営を始めて、しばらく経ちます」

訴訟に向けた弁護団会議に同席した。原告のほかに支援者も出席していた。原告は、丁寧に話し、丁寧に聞く人だった。

「私自身、もともとデリヘルで風俗嬢のキャストとして働いていました」

「最初に勤めたデリヘルが、キャスト出身の女性が経営するお店でした。同じようにキャスト出身で、女性で、経営を始めたという彼女の影響もあって、私も自分もお店をやろうかなと思うようになりました。しばらくキャストとして働いた後、独立のような形で、自分のデリヘル店を作りました」

「経営を続ける中でキャストも増えてきた。従業員も雇っている。簡単にやめられないし、キャストのことを考えてもやめたくないと思っています。お店があることでキャストが守られている部分もあると思っているので」
弁護団の亀石倫子弁護士



COVID-19 (新型コロナウィルス)がやってきて

「でも、コロナが来てからは本当に大変で、お店を続けていけるのか不安でした。今でも不安です」

原告はこの半年の状況を話す。

「お店は3月から徐々に売り上げが減り出して、4月は休業要請に応えて休業したので、売り上げは8割減まで落ち込みました。5月以降は7割減、6割減と推移し、やっと7月に3割減くらいにまで戻したところです」

「お客さんも来ないし、お店で働くキャストも来られなくなった。昼の仕事に移る人もいたし、兼業している人の中にはお休みする人も多かった。出稼ぎで遠方から来ていた人も、遠距離の移動が難しくなった。緊急事態宣言の前後は世間がピリピリしていて、『出勤したら叩かれるのでは』と不安になるキャストもいました」

キャストたちを束ねて営業する事業者の経営が厳しくなることで、働くキャストの側も厳しい状態になってきていると原告は言う。

COVID-19関連の助成金の中には、従業員の雇用を維持するための「雇用調整助成金」や、一斉休校の影響を受けた保護者を支援する「小学校休業等対応助成金」もあったが、これらの助成金も、当初は、性風俗業界を「公金を投じるのにふさわしくない」と支援から除外していた。

ところが要望を受けて4月に運用の見直しがなされ、性風俗業界も助成対象になった。

「追い詰められていたときだったので、見直しがあってとても助かりました。おかげで従業員に給料を払えたし、お店を閉めなくて済んだ。特に雇用調整助成金には、経営的にも精神的にもかなり救われました」

とはいえ、経営のためには人件費だけでなく、広告費や家賃、車代、交通費、遠方からの出稼ぎキャストの寮費などがかかる。雇用調整助成金だけではとうてい売り上げ減を埋められない。

「第一波は何とか、しのいだけれど、第二波、第三波を思うとどうなるか。今後の経営の判断がすごく厳しい。私はできるだけ長く、スタッフやキャストとの契約を切らずに続けたいと思っているけど、感染が出るのも怖い。自分で休業の決断をするのが辛いです」

「まわりでも何十件と閉店しました。グループ店の支店がなくなったところもあります。やっぱり一番大変なときに、まとまった金額が給付される持続化給付金と家賃の支援が受けられなかったことは大きかった」

全国で持続化給付金の給付対象外とされたのは、性風俗業界のほか、公共法人、政治団体、宗教団体のみだった。
訴訟に向けた弁護団会議の様子



「これは差別なのだろうか?」

「今回のことでまず思ったのは、もらえなかった理由が分からない、ということでした」

「国会などで言われているのは、反社会勢力とつながっていて、犯罪が多く起こっているとか。これまでの給付金との整合性とかです。でも私の店は反社会勢力ともつながってない」

性風俗業界の事業であることを理由に制限を受けたことは、今までもあったと原告はいう。

「たとえば、銀行の法人口座が作れないとか、審査に落ちるとか。ほかにも、電話応対を勉強したいなと思って電話応対のセミナーに申し込んだときに、『風俗業の人は参加できません』と断られたこともあった。そのときにはちょっとショックでしたが、企業側にも選ぶ自由はあるだろうと納得はしていました。うちの店だってお客さんを選びますし」

「でも、国がそういうことをするというのは話が違うよなと思いました。私は納税しているし、国民だし。適法に設立した法人だし」

「4月ごろは、世の中みんなが辛かった。そういう状況で、自分たちの業種だけは別ですと言われたのは、けっこうショックでした」

それでも、「はじめは『いつものことか』と思ったんです」と原告。

「それが差別であるとは、すぐには思わなかった。でも、小学校休業の助成金が性風俗業界に給付されなかったとき、風俗業界の支援団体が国に要望書を出してくれて、そこに『職業差別』という言葉があって、『あ、これは職業差別なのか』と気づいたんです」
支援団体も同席した



「スティグマ」という言葉に行き着くまで

「風俗業界で働くことに対しては、今までずっと、もやもやした感情がありました。この仕事はしてていいんだろうか、とか、この仕事してるのに恋愛したり結婚したりしていいんだろうか、とか。そんなことをずっと思っていました」

「でも、自分の中にある『仕事に対するもやもや』と、『国の決定』がつながるとは、考えていなかったんです。国の決定って、公平なものだと思っていたから。『いかがわしい』というような理由で何かを決定することはないと思っていたから」

「スティグマという言葉があるんだなと、最近知った」原告は、「風俗業という属性に対する差別や偏見の烙印(スティグマ)」について語る。

「今回の件を深堀りすると、スティグマという言葉に結びつくんだ、そういう言葉にできるんだなって思った」

「自分の中にもあったかもなと思います。自分の持っていたもやもやも、世間の感覚から植え付けられたものなのかもしれない、自分がもとから持っていたものなのかもしれない、でもその線引きがわからなかった。だからそれは、スティグマだったのかなと思いました」

性風俗業界は幅広く、そこで働く人たちの属性も、仕事を続ける理由も、彼ら彼女らが仕事をどう考えているかも、とても多様だ。どの職業だってそうだけれども、性風俗業界にもいろいろな人がいて、ひとくくりにはできない。

「プロとしてプライドを持って長く仕事しているワーカー」もいるし「やむを得ずその業界に入っている人」もいる。業界が労働者の権利の文脈で語られることもあるし、貧困の文脈で語られることもある。一面をとらえて語ることには慎重にならないといけない。

「業界のことを一般化はできない。でも、今回の給付金の扱いによってさらに性風俗業界へのスティグマが助長されていることは事実で、それを伝えるべきだと思いました」原告は言う。

原告がこれを差別だと分かるのに時間がかかったこと自体が、スティグマのあらわれなのだろう。
弁護団の井桁大介弁護士(左)と亀石倫子弁護士(右)



裁判を通じて「これは差別であること」をはっきりさせたい

「自分なりに『これは差別なのだろうか?根拠のあることなのかどうか?』と考えるようになってから、法律の本を読んだりしたけど、答えは分からなかった。でも、もしそこに合理的な根拠がないのだとしたら、納得できないと思った。除外された理由について、根拠があるなら欲しいと思った」

憲法14条1項の「法の下の平等」は、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止」する。

「法律のことを調べながら、どうすれば戦えるのかなと考えていた」と原告。

原告は、性風俗店・接待を伴う飲食店を守る活動をする「ナイト産業を守ろうの会」の一員でもあるが、6月には、「ナイト産業を守ろうの会」から中小企業庁に対して、陳情書と署名簿を提出した。

「でも、政治に対して働きかけるうちに、政治家だけじゃなく、世間に対して広く伝えていかなければいけないと思うようになりました」

「働きかけをしていたころに、憲法学者の木村草太先生が、学校のブラック校則問題の流れで、憲法訴訟のいいところは一人でも戦えるところだ、というようなことを言っているのを見た。それにハッとしました」

「私は、『この扱いは差別なのか』という個人的な疑問に答えがほしいと思っていた。でも、差別って、大多数が決めたのであれば許されるものではないんだな、一人でも戦っていいんだなと思った。私もそこに違和感を持っていたんだなと思った」

「声を上げていいのだと思った。『この扱いは許されない差別なのだ』ということを、裁判を通じてはっきりさせたいと思った。そして、『業界を合理的な根拠もなく差別しないでほしい』という思いに行き着きました」

この訴訟は「スティグマからの解放訴訟」である。しかし単に「性風俗業界に対するスティグマを取り払おうとする訴訟」というだけではない。その中には、「私たちの中にもあるスティグマを明らかにする訴訟」も含んでいる。
弁護団の三宅千晶弁護士

取材・文/原口侑子(Yuko Haraguchi)
撮影/安木崇(Takashi Yasuki)
編集/杜多真衣(Mai Toda)

(後編:「性を扱う仕事とは何か?訴訟をきっかけに考えたい」

「性風俗産業は国に差別されてもしょうがない?」



『セックスワークisワーク』をめぐる訴訟に至るまで(後編)

(前編:「性風俗産業は国に差別されてもしょうがない?」

「この訴訟を通じて、性を扱う仕事について自分自身もあらためて考えたいと思っている」、原告は言った。

原告は、無店舗型ファッションヘルスとして風営法上の届出をしている事業者だ。

性風俗関連特殊営業が、新型コロナウイルス の下での給付金(持続化給付金・家賃支援給付金)の対象から外されたこと(とその根拠である規程)が、「法の下の平等」(憲法14条1項)に違反するとして国を訴えている。

「私は経営をしながら、『お店のキャストの安全を守れているか』と、いつも考えています」

「やっぱり特殊な部分はある仕事で、店に在籍せずに一人だけで営業をすると危険なことも多いです。店が性的なサービスを提供する『キャスト』たちを守っている面がある。でも、コロナの影響で、お店が何十件と閉店している。それによって、風俗の仕事をしようとしてもできなくなったキャストもいる」

給付金の対象にはキャスト個人は含まれている。しかし原告のような事業者やラブホテルなどは対象外となっている。

性風俗業界が国の給付金から外されたという問題は、「法の下の平等」に違反すると同時に、憲法上の「職業選択の自由」(22条1項)にも深くかかわる。職業選択の自由は、「職業を選択する自由」のみならず、「営業の自由」や「職業活動の自由」も含むからだ。

提訴を目前にした日、弁護団会議では今後の方向性についての議論がされていた
支援団体SWASHのげいまきまきさん

「私たちは性的サービスを売っている」

性風俗業界では30万人が働いていると言われる。業種も多ければ働く人も多様で、「風俗嬢」と呼ばれる女性だけではなく、もちろん男性もいるし、そもそも女性/男性とひとくくりにはできない。本人の性自認を含めて実に性のあり方は多様であり、業界に入った理由もさまざまだ。

「性風俗業界の仕事を選ぶ理由のナンバーワンはお金なのですか?」、性を扱う仕事への「よくある質問」を整理する中で、弁護団の亀石弁護士が問うと、「選ぶ理由がお金という人が多いのは確かにそうですね」と原告は答える。

「でも続けている理由は人それぞれです。現役のキャストに聞いても、続けている理由として、『やりがいがあるから』とか『自分に向いているから』とか、『仕事のやり方がフレキシブルで働きやすいし、自由な時間を多く持てるから』という人も、結構いる。それってお金が必要という理由とも両立するんですよね」

「でも、お客さんとすごく近くで接する仕事ですから、向き不向きが大きい仕事だとは思います」

「性風俗業界の仕事は、始めた理由や辞めた理由ばかりが注目されるけど、続けた理由というものもある」と、支援団体SWASHのりりぃさんはキャスト時代の経験を話す。

「私は最初、ただニューハーフとして働ける場所を探して性風俗業界に入った。でも、働き始めると、同僚に悩みを相談できてホッとしたり、お客さんがサービスに満足してくれて嬉しくなったりして、それらが続ける理由になりました」

「あと、当時は自分がセックスワーカーであることを明かすと、説教されることもありました」と、りりぃさんは言う。「『身体を売るのはよくない』とか、『そんな仕事はやめなさい』とか」

「だけど、私たちセックスワーカーは、身も心も売っていない。私たちは、性的サービスを売っているんです」
セックスワークisワーク

「セックスワーク」という言葉は1980年代にアメリカで提唱された。

性的なサービスを提供して対価を得ることは「仕事」であるという「セックスワークisワーク」の運動も同時に1980年代に世界に広がり、各地で当事者団体やそれらをつなぐ国際団体ができた。日本でも1995年に当事者団体が作られた。

「労務を提供し、報酬を受け取る」。その構造はほかの労働と変わらないはずなのに、提供する「労務」が「性に関わる労務」になると、たとえそれが法に則っていても、正面から「仕事」として扱われず、労働者としての権利もあいまいになっているのではないか?―「セックスワークisワーク」運動はこうした問題提起でもある。

「2020年、性風俗業界が国の持続化給付金から外された」という事実はまさに、「セックスワークisワーク」運動が四半世紀にわたって対峙してきた事実だ。

「日本ではセックスワークという言葉や理念がまだまだ浸透していないように感じます。実際、キャスト自身も、業界内の人でも、ピンと来ていない人も多いかもしれないです」原告は言う。

「その人の意思で選んでやっているかどうかが重要だと私は思っていますが、もやもやしながら仕事している人だっていると思う。辞めたいけれどお金がなくてどうしようもないから助けてほしいと思っている人もいるかもしれない。前向きな気持ちで仕事しているというのはすべての人には当てはまらないかもしれない。」

「でも、今の仕事や生活に満足している人や、プライドを持って仕事をする人、他の仕事よりも風俗のほうが良いという人なども多くいます。すべてのキャストたちをひとくくりに『救済が必要な人』だと決めつけてはいけないと思うんです」

性風俗業界は、貧困や暴力とつなげられたり、「消費されるモノ」なのではという指摘を受けたりすることもある。

しかし業界の中でも、「自分の意思に基づいて仕事として選ぶ」「続ける」人は多い。

今回、給付金を受けていれば持ちこたえられたかもしれない店で、働けなくなったワーカーは、何人いるのだろうか。

憲法上、私たちは、「職業の選択」つまり「職業の開始、継続、廃止」について自由であるだけでなく、「選択した職業の遂行自体」つまり「職業活動の内容、態様」についても自由であるとされている、はずなのである。
東京レインボーパレードにて。赤い傘はセックスワーカーの権利を示す国際的なアイコン



性風俗の仕事の特殊性を理解した上で

「風俗の仕事にもいろいろな側面があります」と原告。

「まず仕事のやり方という意味では、風俗の仕事は出勤が自由な仕事。週7日働いても、月に1日でも、1日2時間でもいいし、当日欠勤も多い。それでも平均でだいたい3万円くらい稼げるという仕事は他にはあまりないと思います」

「一方で、キャストが危険にさらされる部分が昼の仕事より大きいというのはある。お客さんに傷つけられる危険、たとえば乱暴なプレイをされたり、強姦をされたりという危険がある。」

「ほかにも、性病にかかったり、盗撮されたりという被害に遭う可能性もあるし、身バレやネットの書き込みなどで困る可能性もある。そういったことによって傷付いてしまった人はいると思います」

「だからこそ、働く人にとっての安全を考えないといけない仕事でもあります。私はやっぱりこうしたことが起こりにくいように対策をするのが店の役割だと思います。いかにリスクを減らせるかを考えてやっていくしかないとは思います」

リスクを減らし、キャストを守ることに店舗が果たす役割は大きいと原告は言う。

「乱暴なプレイや強姦を避けるための対策としては、危険があればスタッフが駆けつけることは当然として、顧客情報の管理に気を遣い、丁寧な応対を通じて店の質を低く見られないように注意しています。危険を避けられるプレイスタイルをキャストと一緒に考えたり、警備会社のポータブル警報器を携帯してもらったりすることもあります」

原告の店では、危険な状況が起きた場合に備え、トラブル時の対処法を弁護士に相談してスタッフと共有しているという。

「身バレ対策やストーカー対策としては情報管理を徹底し、ネットの書き込みにも店から削除依頼を出すなど協力している。また、性病対策としても、キャストの性病検査を義務化し、その金銭的な負担が少なくなるような工夫をしている。婦人科の医師と連携して相談に乗ってもらうこともあります」

「お店の役割は、キャストの集客や、働きやすいようにフォローをすることなど、多くあります。でもその中でも、キャストが安全に働けるようにすることが何よりも重要だと私は考えています」

「心身の安全と健康を保ちながら経済的な対価を得たい」、それは、どの仕事をするワーカーでも考えることだ。「働く限りは安全に働き、やめるときも安全にやめる」ことも同様だ。

セックスワークが「仕事」として社会から認められることで、事業者側も働く側も、より「仕事」の安全確保を考えるようになったり、職場での事故を労災の枠組みで考えられるようになったりすることはないだろうか。
訴訟に向けた弁護団会議の様子



労働としての普遍性

「仕事って、いやになるときも、やったーってなるときもあるじゃないですか」自身もキャストとして働いた経験がある支援団体SWASHのげいまきまきさんが言う。

「それってどの職業でもそうなんじゃないかなって思う」

私たちは、自分が経験したことのない業界の仕事を、いったいどれほど知っているのだろう。ステレオタイプというものはきっとどの職業にもある。仕事をして実際に感じることや悩みは、自分の仕事以外は直接は経験できない。だからすぐにイメージで語られる。

性風俗業界に対するステレオタイプやイメージは、中でも大きい。それは、「性」がそれぞれの道徳観と密接に結びついていて、「性を扱うこと」「性を仕事として扱うこと」の感覚が人によってかなり異なるからだ。

「セックスワークは、お客さんからの人気がお金にも反映される仕事。サービスの内容にも、各々のワーカーの体力面や、性についての線引き・価値観といった、いろいろな要素が合わさって組み立てられていく。ワーカーごとの違いが反映された仕事だと思う」と、げいまきまきさんは語る。

弁護団は原告や支援団体にたくさんの質問をしていた。調べてから来るという前提はあるが、たくさん知ること、知ろうと思うことは大事だと思った。そしてそこでは、お互いの仕事をリスペクトを持って話すことがなにより重要だった。

「あの、『家庭での性的な行為は良くて、サービスとしての性的な行為はダメ』という価値観は、なぜあるのでしょうか?」インターンの学生が聞いていた。「同じ人が家でご飯を作るのと飲食店のスタッフとしてご飯を作るのは両立しますよね?性に関わる仕事だとNGという感覚があるのはなぜなのでしょうか?」

「それはやっぱり、『性的な行為は固定的な関係性の中で行われるべき』という『慣習的な価値観』が根強いからだと思います」げいまきまきさんが答えた。

「愛情や親愛についても、男女や家庭、一対一の安定的な関係性を築くことへの価値観が『好ましい』とされるし、それがまるで『正しい』価値観のように扱われている。そうした視点からは、性的な行為をサービスとしてやり取りすることは不安な驚きになるのかもしれません。

でも、そうした驚きの感情と、セックスワークを仕事として考え、安全な働き方を考えることは、別だし、別に考えてほしいなと思います」
道徳と「社会通念」

道徳観は作られる。どこまでが当たり前で、どこから不道徳か、なんて、本当のところは明確には分からない。

その時代時代に応じて、「正しいということが確からしいこと」が何かしら、流動的ながら、存在している。それを疑う人もいるし、疑わない人もいる。

でも、いま自分が身にまとっているその「道徳観」が知らず知らずのうちに、誰かを傷つけているという可能性―ひとつの既に存在する業界を「知らないもの」として自らの世界と別の場所に置き、「ちゃんとした仕事じゃないから」支援の枠外でも良いとしているという可能性―については、どうだろうか。

「道徳観と法律って、別の問題だと思っていたんですよね」原告が、提訴を決意したときのことを振り返る。

「でも、別の裁判の話なんですけど、この6月に名古屋の裁判で、『同性パートナーは事実婚と認められない』『だから犯罪被害者給付金を受け取れない』という判決が出ましたよね。あの判決の中で、同性カップルが事実婚にあたるか否かは『社会通念によって判断される』という言葉が使われていたのを見て」

「裁判の判決って、法律とか、もっとかたいもので判断されると思っていたのですが、そのときに、『社会通念』というものも判断に関係あるのかって、改めて不思議に思いました。社会通念とは何だろうかとも思いました。社会通念は道徳観から作られることもあるだろうし、その関係性も気になりました」

「社会通念が何なのか、私にはまだハッキリ分かりません。でも、この訴訟を通じてセックスワークとほかの仕事との『差別的取り扱い』が憲法違反と認められることで、『性を扱う仕事』も『社会通念』上、正面から『仕事』と認められるかもしれない。そうしたら、『仕事として』そこで働くキャストの安全にも目がいくようになるんじゃないかと思うんです」と原告。

「訴訟が、セックスワークやそれに関連する法律とは何かって考えるきっかけのひとつになれるかもしれない」
弁護団の井桁大介弁護士(左)と亀石倫子弁護士(右)



「性はこうあるべき」を裁判所はどう扱うか

「訴訟を通じて、今回明らかになった問題を広く知ってほしいと思っている。でもそれに、怖さもある。反対意見もあるのは分かっている。性風俗そのものに批判的な人もいるし、給付金なんて受けるべきじゃないという人もいるでしょう」

「それに、同業者には、給付金の問題で声を上げるより、自分の店の売上を確保したほうがいいのではとも言われて、それは確かにと思いました。潰れたら元も子もないですから」

「でも、それでも訴訟をやろうと思った、業界全体の話として問題提起することにした。それは、コロナの影響が大きいです。コロナがやってきてから、世の中のいろいろなことが明らかになってきて、自分自身のことや自分のいる業界のことも見えてきた。世の中を変えていこうという声が様々な業界で出てきているのを見て、この動きは私たちの職業でも当てはまるかもな、と思った」

「だから、今コロナで社会が動いているときにこそ、問題提起をしたいと思ったんです。業界全体のことになる責任は感じています」

原告はきっぱりと言う。ここに至るまでに原告自身の中でもたくさんの葛藤があり、不安があり、それでも立ち上がって、今も考え続けている原告が、まぶしく見える。

この訴訟では「国の不給付が差別にあたるか」が争われるが、同時に、性風俗業界の中での「職業選択の自由・職業活動の自由」を国がどう考えるかも問われている。

「性を扱う仕事って、いろいろな側面があると思っています」と原告は言う。

「それに、性に対する価値観や、性を扱う仕事に対する考え方って、人によってほんとに違う。違うから寛容になった方がいいだろうと思いますし、『こうあるべき』となると差別につながるんだと思います」

「では、『こうあるべき』という道徳観を、裁判所はどう扱うのだろうか。それを、訴訟を通じてこれから注視して行きたいと思います」
取材・文/原口侑子(Yuko Haraguchi)
撮影/安木崇(Takashi Yasuki)
編集/杜多真衣(Mai Toda)

(前編:「性風俗産業は国に差別されてもしょうがない?」

「性を扱う仕事とは何か?訴訟をきっかけに考えたい」