ささやくことしかできないけれど

今、久しぶりに大好きな作家さんの文章を読みました。上橋菜穂子さんの、『物語ること、生きること』。上橋さんの文章のリズムと軽やかさと優しさに包まれて、懐かしくて懐かしくて。それは、家を出たあと帰省して初めて実家の匂いがあることに気づいた時のような、自分でさえ知りえなかった懐かしさで、急に掘り起こされてしまって過剰に反応がでているのでしょうか。始めは鳥肌が立って、力強い比喩、いや、ファンタジーではないのでそれほど強いものはなかったのですが、巧みな表現に身震いする。でもその優しさに、うるっとする。そんなふうに、これがメンヘラってことなのかな、とふと思った深夜1時でございます。
この本は、上橋さんが「どうしたら作家になれますか」という質問に、自伝を書くことで答えてくださろうとしているものです。小さい子どもの頃のこと、自分が最初に小説を書こうとした時のこと、自分の読書経験など幅広く綴ったエッセイ集のようなものだったと思います。買ったのは、私が上橋さんにどっぷりとはまっていた中学2年生くらいのときだったでしょうか。当時出ていた作品は全部読んで、あとはこれだけ、という状態だったと思います。なぜかこれだけは図書館で借りるのではなく買ったのは、何か宿命だったのでしょうか。当時はさっぱりおもしろさがわからなかった記憶があります。とりあえず読みきったけれど、なんだかふわふわしていて。今はおもしろい、と断言するのはまだ早い、全体の1割も読んでいないタイミングなのですが、その予感はします。まずこの文体にくすぐられるだけで満足、そして自分でもちょっと物書き欲求が高まっているところだったので、なおさら。
一度読んでよくわからなかった本をおもしろく感じられるって、なんだか自分が成長したみたいでちょっと嬉しいですね。今日は疲れて眠いしなんだか気分が沈みがちの日でしたが、遅くまで粘って読んだ時間にはちゃんと価値があったんだ、と認めてあげられる、すがすがしい気持ちになりました。この本を買ってよかった、引っ越しで持ってきてよかった、そして今日上橋さんの話をしてくれて思い出させてくれた学校の子にも、ありがとうの気持ちをそっと。

2022/4/22

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