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日本的共創マネジメント081:「サムライPM」〜宮本武蔵 『五輪書』 (その11)~

⑤ -2. 水之巻 : (その 7)

2.武道としての武士道 (016)
⑤ 宮本武蔵 『五輪書』 (1645) (その 11)
⑤ -2. 水之巻 : (その 7)
 今号では、下記の項目について述べる。
35 : 打ち合いの利  《打あひの利の事》
36 : 一つの打ち  《一つの打と云事》
37 : 直通の位  《直通の位と云事》
38 : 水之巻の後書  《水之巻 後書》

35 : 打ち合いの利  《打あひの利の事》
 打ち合いの利とは、兵法における、太刀を用いての勝利法《勝利(かつり)》をわきまえることである。ここで詳細を書き表せるものではない。よく稽古して《勝ちどころを》知るべきである。どれもだいたい、兵法の真実の道を体現する太刀である《大かた、兵法の実の道を顕す太刀也》。(口伝)
【解説】
 打ち合いの利ということで、太刀で勝つ方法をわきまえ、兵法の真実の道を体現するとするが、その具体的な記述がない。末尾に「口伝」とあることからも、武蔵の記述ではなく、「五輪書」を授かったといわれる寺尾孫之丞の段階で、後入れされた可能性がある。

36 : 一つの打ち  《一つの打と云事》
 一つの打ちという心をもって、確実に勝つところを把握することである。兵法をよく学ばないと、これは理解できない。一つの打ち《此儀》をよく鍛練すれば、兵法は自在《心のまま》になって、思うままに勝てるようになる道である。よくよく稽古すべし。
【解説】
 これも前条と同様、具体的な記述がない。「一つの打ち」の内容はよくわからない。これも武蔵自らの記述とは思えない。前条「打あひの利の事」と次条「直通の位と云事」と共に、これらは武蔵の口頭での言葉としてはあったかもしれないが、寺尾孫之丞の段階で、後入れされたものであろうと思われる。

37 : 直通の位  《直通の位と云事》
 直通(じきづう)の心《位》は、二刀一流の真実の道《實の道》を承けて伝えるところである《直通の心、二刀一流の實の道をうけて傳ゆる所也》。よくよく鍛練して、この兵法を体現する《身をなす》ことが肝要である。(口伝)
【解説】
 これも、末尾に「口伝」とある。前二条と同じく、具体的内容は記されていない。直通とは、武蔵流兵法の道を体現した個人によって、伝承されるという意である。「承けて伝える《うけて傳ゆる所也》」というのは、「授けて伝える」とは逆の意味であるので、授ける側の武蔵の言葉ではなく、承ける側の門弟の言葉であると思われる。これも寺尾孫之丞によって挿入されたものであろう。

38 : 水之巻の後書  《水之巻 後書》
 以上、我が流派の剣の使い方の大略を、この巻に記しておいた。
 兵法において、太刀を手に取って人に勝つところを覚えるには、まず五つの表(おもて)によって、《五方の構え》を知り、太刀の道を覚えること。そうして、全身が柔らかになり、心の働きがよくなり《心も利きが出て》、太刀の使い方の拍子《道の拍子》を知り、自然に《おのれと》太刀の使い方が冴えて、身も足も心のまま、ほどけたようになるにしたがって《ほどけたる時に随ひ》、一人に勝ち、二人に勝ち、兵法の善し悪しが分別できるようになる。
 この書の中にある教えを一ヶ条ずつ稽古して、敵と戦い、次第しだいに道の理《利》を得て、絶えずそれを心にかけて、性急な心にならず、機会があるごとに太刀に触れて、その効能《徳》を覚え、どんな人とも打ち合って、その心を知り、千里の道も一歩ずつ足を運ぶのである《千里の道も、ひと足宛はこぶ也》。焦らず気長に考えて《ゆる/\と思ひ》、この戦闘法を修行することは、武士の役目だと心得るべし。
 今日は昨日の自分に勝ち、明日は下手の者に勝ち、後には上手の者に勝つと思い《今日ハ昨日の我に勝、あすハ下手に勝、後ハ上手に勝と思ひ》、この書の通りにして、少しも脇道に気が行かないように心がけることである。たとえ、どのような敵に打ち勝っても、習ったことに背くようであれば、それは決して真実の道ではありえない。
 この理《利》が心に浮べば、一人で数十人にも勝てる心のわきまえができるのである。そうなれば、剣の技《剣術の智力》によって、戦闘の兵法《大分一分(だいぶんいちぶん)の兵法》をも得道すべし。 《千日の稽古を鍛(たん)とし、万日の稽古を練(れん)とする。》よくよく吟味あるべし。
【解説】
 水之巻を総括して語る後書きである。水之巻は、かなり初歩的な教えからはじまり、多敵の位まで進み、太刀の使い方のほぼ全容が語られる。《大分一分(だいぶんいちぶん)の兵法》というのは、大人数の戦闘《大分の兵法》と一対一の戦闘《一分の兵法》を区別なく、同列で論じる武蔵の兵法理論である。剣術(実技)がマスターできたら、次に、兵法(戦略)をマスターせよということである。
PM論に直すと、プロジェクト(実技)をマスターできたら、次に、プログラム(戦略)をマスターせよという教えと同じである。
 特に、
《千里の道も、ひと足宛はこぶ也》
《今日は昨日の我に勝、あすは下手に勝、後は上手に勝と思ひ》
《千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす》
という言葉は、武蔵の金言集にも算えられる格言であるが、PM論においても然りである。


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