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日本的共創マネジメント034:「PMとシステム思考」~システムズアプローチ(No.1)~

「PMとシステム思考」~システムズアプローチ(No.1)~:

プロジェクトマネジメントの理論的バックボーンとしてシステム思考があります。システム思考は欧米文化の基本的な概念であり子供の教育でも中心的に扱われます。日本でのシステム概念については、言語の違いもあり、教育現場では余り注力されません。このようなところに彼我の文化の違いがあるのかも知れません。システム概念の整理として「PMとシステム思考」をシリーズで述べます。

はじめに
 PMにおけるシステム思考として、下記3視点から述べる。 
   1.システムズアプローチ(Systems Approach):接近法
   2.システムズエンジニアリング(Systems Engineering):実現法
   3.システムズマネジメント(Systems Management):管理法
 システムのとらえ方の視点として、システムは環境との関係に基づいて設定される。具体的には何をシステムの構成要素とし、どのようなことを関係と見なすか、何を環境側に位置づけるかを明らかにするアプローチをシステムズアプローチと呼ぶ。また、プロジェクトのターゲット(目標・課題)をシステムとしてとらえ記述し、各要素(部分)を関係づけながら成果物(システム)を実現し、それが期待どおりのものであるかを確認するプロセスをシステムズエンジニアリングと呼ぶ。さらに、適切なものの見方に基づいてプロジェクトに関わる諸要素をとらえ、関係づけて、全体システムとして矛盾や無駄のない構造に保ち管理するための活動をシステムズマネジメントと呼ぶ。

1.システムズアプローチ(Systems Approach)
 プロジェクトの計画や管理などの活動にあたって、物事が曖昧であったり、予想外の事態に遭遇したりすることがある。解決すべき問題があることがわかっていても、プロジェクトを形づくり、問題を解決する手がかりをつかめないケースも少なくない。また、プロジェクトが動き始めたあとで任務(ミッション)がわからなくなり、当初想定していたこととは異なる任務を抱え込んでいることに気づくことも多い。このような問題を可能なかぎり回避するための思考方法の一つとして、システムズアプローチ(Systems Approach)がある。
これは、システム概念に基づく問題解決手法であり、全体の枠組みを明らかにしたうえで、物事や対象をシステム「秩序をもつ要素(部分)の集合体」として捉え、その構成要素と要素間の関係を明らかにし、引き続いて要素の細部を具体的に考察する考え方である。プロジェクト活動だけでなく、プロジェクトが提供する成果物やサービスの仕組みを含めて、プロジェクトの課題と範囲を明らかにし、プロジェクト活動を計画し、管理することを可能にしようとするものである。

1.1. システムとは
 システムとは、システムの外側と内側の間に境界を設定し、内部(システム)に対して外部(環境)から境界を通して出入りする「投入」(入力またはインプット)と「産出」(出力またはアウトプット)のもとで、問題解決のための「プロセス(過程、手順)」が機能するものと考える。更に、投入、産出およびプロセスに加えて「制約(constraint)」及び「外乱(disturbance)」という側面を明示的に加えたものが「システム環境図式」として一般的になっている。

システム環境図式

システムの要件(requirements)という観点からは、システムとは、境界の存在、複数の要素の有機的結合、全体の目的と目標、環境とのやりとり、階層構造、適応性、を持つと定義される。

1.2. システムズアプローチとは
 システムズアプローチとは、ある問題を解決するのに、システム概念を用いながら体系的に接近する方法をいう。ある問題を特定・定義し、関連するすべての要素(element)を体系的に考慮しながら、全体として最適な案を導く思考方法である。従って、システムズアプローチとは、概念あるいは問題をとらえる考え方であり、不確実性の下で複雑な問題の意思決定を助けるための学際的な方法であると理解できる。

1.2.1. システムのとらえ方
 システム(系統)という言葉はわれわれの日常でしばしば目にするが、その使われ方は様々である。一般的にシステムズアプローチでは、システムを下記のようにとらえている。

(1) システムとは個々に認識されるものである
ある事象に対して、それをどのように認識するかは、個人によって異なる。同様に一つの事象について、それをどのようにシステムとして認識し、記述するかは各人各様である。この意味でシステムとは、われわれ個々に主観的な概念として生まれ存在するもの、詰まりは各人それぞれに認識されるものと言える。見る人の専門性や興味・信条によって異なったシステムとして見えるのである。

(2) システムは階層性と創発性を持つ
システムを階層(全体システムとサブシステム)から成っていると認識すると、システムを理解しやすくなる。このときシステム全体の性質は部分(要素)の和以上のように見える。つまり、全体は部分が持っていない性質を持っている。この「全体の性質」と「部分の性質の和」との差(違い)のことを「創発性」と呼ぶ。すなわち、階層性と創発性(hierarchy and emergence)とは、事象をシステムとして認識するうえでの対概念(pair concept)である。

(3) システムはコミュニケーションとコントロールを持つ
あるシステムがシステムとして存在を続けるには、何らかの形で全体システムがその要素(サブシステム)の挙動をコントロールしなければならない。各要素がまったく自由に行動したならば、システムは崩壊してしまう。このコントロールのためには、全体システムは各要素の状態や挙動に関する情報を得る必要がある。この意味で、コミュニケーションとコントロールは、システムを維持するのに必要な対概念である。

(4) システムは自己組織性を持つ
自己組織性(self-organization)とは、システムを維持するだけでなく、自らをより複雑なシステムに形成していくことである。これは、自己を複雑にするように特殊なコントロールをしているシステムと考えることができる。すなわち、コミュニケーションとコントロールの特殊なケースである。自己組織性ということもあくまでも認識上の概念である。

1.2.2. システムの分類
システムズアプローチではシステムを3種類に分類している。すべての種類に、階層性・創発性・コミュニケーション・コントロール・自己組織性などを見出すことができる。

(1) 自然システム(Natural System)
人間が介在せず自然に存在するもののなかでシステムと認識でき、システムとして認識したほうが取り扱いやすいものが多くある。例えば、粒子と原子との関係(物理学)、原子と分子の関係(化学)、生物の器官と個体との関係(生物学)、生物種同士の関係(生態学)、太陽と惑星の関係(天文学)、等々である。

(2) 人工システム(Artificial System)
人間が作成したもので、システムとして認識でき、システムとして認識したほうが取り扱いやすいものがある。例えば、自動車やコンピュータのプログラムだけでなく、法律や数学も人工システムである。物理的な人工システムは特定の意図を実現するために設計されている。

(3) 人間活動システム(Human Activities System)
人間が社会的状況のなかで活動するとき、状況(環境)によって影響を受けるとともに状況に何らかの影響を及ぼす。また、その活動の意味は中立ではありえず、活動する本人もそれを観察した人も、そこに何らかの意味づけを見出すことでシステムとして認識する。

1.2.3. プロジェクトの対象と可視化
 通常のプロジェクトマネジメント活動では、システムズアプローチについて特に意識されることはないが、近年はシステムとしてとらえにくいプロジェクト対象が増えてきたために、あらためて体系だったアプローチが求められるようになった。その事例を示す。

可視化・仕様化の難易度

横軸に可視化(モデリング)の難易度を示す。縦軸は科学系、技術系、経営系、社会系とあり、この中で社会系プロジェクト(PJ)の可視化が最も困難である。プラント系PJの成果物はハードという実態がある。地域開発PJはハードという実態ではなく、地域ステークホルダーがつくり上げた合意(コンセンサス)という約束事であり変化しやすい。しかしこれらのプロジェクトも可視化して業務を進める必要があり、新しいアプローチが模索されてきた。
プラント系のような実態のあるものに対する従来からの工学手法をハードアプローチ(Hard Approach)と表現するのに対し、システム化しにくい実体のないものに対するアプローチとしてソフトアプローチ(Soft Approach)という手法が提唱されている。

                                  (2006年「P2M研究報告書」寄稿)

(次号に続く⇒)





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