見出し画像

日本的共創マネジメント038:「PMとシステム思考」~システムズエンジニアリング(No.1)~

「PMとシステム思考」~システムズエンジニアリング~(No.1):

2. システムズエンジニアリング
プロジェクトは通常、成果物(プロダクト)を提供する活動と、プロジェクトを効率よく、効果的に行うマネジメント活動に分けて管理される。一般に成果物を提供する活動はシステムズエンジニアリングの手法が採用される。システムズエンジニアリングの最も著名な適用例が「アポロ計画」である。NASA のシステムズエンジニアリングでは、プロジェクトライフサイクルをフェーズに分けて、フェーズごとに要求仕様を完了させて次に進める手法が、プロジェクトを成功に導くキーファクターであると強調されている。これらの実績から一般に、プロジェクトの成果物を提供するプロセスもシステムズエンジニアリングに依存するところが大きい。

2.1. システムズエンジニアリングとは
世の中で解決を要する問題には、純粋に技術的な課題もあれば、価値観の食い違いや感情的対立によって発生する問題など、政治や人事など情念に基づくものもある。一般にはその中間に位置する、両方の解決策を必要とする問題が多いと思われる。
システムズエンジニアリングの目的は、曖昧模糊として、解決策だけでなく解決すべき課題さえも見えない状況において、問題像を明らかにし、解決すべき課題と、解決方法を導くことである。解決策に従って具体的な問題解決行動がとられ、最終的に問題が解決した時、システムズエンジニアリングの役割は終了する。
システムズエンジニアリングとは、システムズアプローチにより選択された案に基づき、システムの各構成要素がひとつの目的に向かって確実かつ能率的に作動するよう諸技術を創造的に組立てること、あるいはその技術と定義できる。したがって、主として「人工システム」を対象として、ある種の計画に基づいて特定の目的を達成するために、各種の要素を経済的かつ合理的に設計、構成するための科学的および技術的な方法ということができる。
日本ではシステムズエンジニアリングを「システム工学」と訳すが、これは文字通り工学であり、数学や物理学のような「サイエンス」ではない。純粋科学としてではなく応用科学としてとらえるべきものである。

システムズエンジニアリングは、次の手順に従って展開される。
① まず、システムの目的・目標を明確に定義することによって要求機能を明らかにする。これには、ライフサイクルを通してシステムに要求される機能、性能、安全性、信頼性、保全性などが含まれる。
② 次に、システムの要求を満足するような形式でサブシステム、モジュール、ユニットさらに最小管理単位にまで細かく展開する。そしてシステムの各構成要素のそれぞれのインターフェイスも明確に定義し、要求仕様書を作成する。
③ 定義された仕様は、マネジメント手順に従って承認された後、当該システムの技術上のベースラインとなる。
④ システムの構成要素は、複数の組織によって、設計、調達、製作、工事などの形で具現化される。
⑤ これらのそれぞれにおいて個別に作成される仕様書、図面あるいはデータが、システムの全体目的や目標値に合致するかどうかを確認し、かつそれらを調整し統合する。

2.2. システムズエンジニアリングの基礎概念
(1) システムと構造
システムとは要素の集まりであり、その要素間あるいは要素の属性間に相互関係が存在するものである。要素とはシステムの部分あるいは成分であり、その種類は無数にある。属性とは要素の性質のことである。相互関係とは、要素あるいはその属性を結合してシステムを構成するものである。どのような要素の集まりについても、何らかの相互関係は必ず存在する。与えられた要素の集まりについて何を相互関係とみなすかは、問題によって区別されなければならないし、重要かつ意味のある相互関係は考慮し、本質的でないものは除外しなければならい。どの相互関係を重要とし、どれを意味がないとするかは、問題に対処する人によって決定される。すなわち、重要性の度合はその人の興味の尺度に依存する。
(2) システムとサブシステム
システムの内部に、つながりが密接な要素群がある場合がある。それらをシステム内部のシステム、すなわち「サブシステム」として扱うことができる。サブシステムはシステムの構成要素の一つであると考えられる。サブシステムの内部に、さらに小さなサブサブシステムが存在し、システムは「階層構造」をもつと認識される。
(3) システムと環境
ある与えられたシステムについて、その環境とはシステムの外側にある要素すべての集まりである。環境の変化がシステムに影響を及ぼし、また、システムが環境に影響を及ぼす。システムの内部について、プロジェクトは構造を変える権限があるが、環境については変更する権限をもたない場合が多い。つまり、システムに対してそのまま制約条件となることが多い。
(4) システムのマクロ特性
システムはその外部環境との間で相互作用し、ある種の特性をもつ。使命(mission)、役割(role)、機能(function)、変換(transformation)などがその例である。
システムの内部構造も特性の一種である。分割可能なシステムとできないシステムがある。システムやその一部分ができあがった後で、逐次拡張・追加されるシステムと最初から確固とした全体枠をもつシステムがある。また、全体を制御する部分があり、周りがそれに従う「集中」化されたシステムと、各要素が自律性をもち独自の制御を行う「分散」システムがある。多くのシステムは集中と分散が混じった中間形態をとっている。
(5) フェーズとプロセス
システムズエンジニアリングをどのように定義するかは難しい問題であるが、「6つのフェーズ」と、その各フェーズの中で繰返されるサブシステムとしての「6つのプロセス」として認識することは有用である。
6つのフェーズとは、調査研究フェーズ、探求計画フェーズ、開発計画フェーズ、開発フェーズ、カレントエンジニアリングフェーズ、終結フェーズから構成される。一方、6つのプロセスとは、各フェーズの中で繰返されるサブシステムとして、問題の設定、目的の選定、システム合成、システム解析、最良システムの選択、行動計画の作成、の要素を含むプロセスである。

                  (2006年「P2M研究報告書」寄稿)

(次号に続く⇒)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?