見出し画像

布袋寅泰氏の発明

バブルが弾けた1990年、私は中学2年生でBOOWYを解散して布袋がCOMPLEXというユニットで大ヒットを飛ばしている頃だったと思う。
最初に見たのは”CASE OF BOOWY”というライブビデオだった。
もう解散も間近で、改めてデビューから全盛期までのBOOWYの楽曲を4時間におよぶぶっ通しGIGとしておさめた内容だった。
確か4本組のVHSビデオだったと思う。
友人の家で拝見した時は衝撃的だったなぁ。
迷路のような模様のギターを腰までぶら下げて、ガリガリの体系で190cm近くある長身と、髪の毛をギンギンに逆立てたその異様な風貌と、変幻自在にギターを操って最強ボーカル氷室京介とGIGを牽引する様は、まるでピエロのように滑稽でカッコ良く、なんだこれっ!ていう衝撃だった。
まさにギターを弾くためだけに生まれてきたような人で、神はこれでもかというくらい彼にロックンロールの泉を与えまくっていたと言ったら大袈裟だろうか。

彼がロックの泉である所以、その発明をいくつか紹介したい。
もちろん作曲家としてのメロディーセンス(ストック)が抜群であることは言うまでもないのだが、ここではギタリストとしてのリフに着目してみる。

・BAD FEELINGのカッティングリフ
どうしても踊り出したくなる16ビートのカッティングで、ギターキッズがこぞってコピーするがなんか違うあのカッティングだ。
私は憂鬱だった朝のコールを、ラジカセからこれを流して目覚め、クソみたいな学校へ行く準備をしたのを良く覚えている。
後にその奏法を自ら解説しているが、肝は規則的な16ビートの空ピッキングと、6弦ルートを親指で押さえる点にあることを知ったが、まだできん。
日本人でも韓国人でもなく、ミュージシャンとして黒人よ。

・恋をとめないで / LIKE A CHILDの少女の声
バージンを失う年頃の少女の叫びのようで、高音弦20フレットあたりでせせこましく弾くペンタトニックのギターソロを、イントロとして曲のど頭に持ってきてしまう奇想天外なアイデア。
しのごの言わずに聴いてみろ、私が布袋寅泰のどれって聞かれたら真っ先にこれを推すね。

・季節が君だけを変える / CRY FOR LOVE
これも高音弦なのだがコードの話で、1、2、3弦でリズミカルに刻むイントロが一度聴いたら頭から離れなくなる。
彼はコードを知らないって公言しているが、コードを知らないのではなく、コードトーンの組み合わせをあらゆるポジションで創作することに長けていて、アカデミックなコードネームを知らないだけだと思う。
元来コードってそういうもので、彼は「C」というコードをギター上で無数に表現できる点において、音楽家の「耳」を持っていることは疑い様がない。

・BEAT SWEET / BLUE VACATIONの変則的リフ
一見ここにビートがあるだろうと思ったら、氷室が歌う頃には半拍ずれてることが判明する絶妙なリズムフェイク。
これがただのフォークのコード弾き語りだったら、どんなにつまらない歌だろう。

これをあの風貌で、踊りながらさらっとやってのけるハーメルン(の笛吹き)は、瞬く間に若者をそのギターのボディに施された迷路へと誘い取り込んでしまった。
おまけに裏声でコーラスを取ることもあり、その声が氷室の力強くパーカッシブな声とよく合ったという点も付け加えておきたい。
彼は後にBOOWYのサウンドは4人が試行錯誤しているうちにおのずとそうなったというようなことを語っている。
これら一つ一つの試行は普通のバンドであれば各々が空回りし、ただの目立ちたがり屋のギターオタクで終わるのが常だが、ハーメルンは氷室や吉川という当時の最先端を行くアバンギャルドな歌手をプロデュースの視点で取り込んで、東京ドームという日本一大きな空間であっても再現できるPAを手に入れた。
まさにロックの神様が与えた泉の中を泳いでいたとしか思えないのだ。

余談だが、いつか不倫が報じられ、「いやー火遊びでした」ですますあたりも、相手の女優の元旦那が記者会見まで開いて法的措置も辞さないと脅す空気の中ですら、あー彼がやったことならで一蹴するパワーが勝っていた。
これは万引きをしたウィノナライダーにも感じたことがあるのだが、タレントは罪を不問にする空気を醸成してしまうことがままある。
水物の芸能界で、客を迷路の奥深くまで取り込むことができる芸人って無敵だなと思えた瞬間でもあった。

それから月日が流れ、布袋氏も最高のボーカリストにはそうそう出会わないことを悟ったようでソロのアーティストとして歌うことが基本になり、私も大人になってだんだんと離れてしまっている。
考えてみると、BOOWYをやっていた時もCOMPLEXをやっていた時も、彼はもう20代後半のいい大人で、モラトリアムを延長するロック少年としての葛藤も感じていたのだろうか。
人間って、自分が感じる自分、移り変わる自分、ある一瞬だけを捉える他人から見られる自分、一体どれが本当なんだろうね。
少なくとも彼はロックの泉を泳いでいたし、私も迷路に迷い込んだ一人である訳で、冗長な会話なしにシンクロできるって素敵なことよね。
彼はギターという魔法の杖で、言葉とは別の伝達方法を発明したんだな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?