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肌色

ちゃがー。
こんばんは、ちゃがいもわんばです。

いよいよ寒い季節になってまいりました。
皆様方におかれましては屋根の下で寝起きをし、暖かい衣を身に纏い、温まる食事を腹くちくなるまで食べれていますでしょうか?

そうであって欲しいです。

かくいう私も来年はどうなるか…。

努々抜かりなき様、精進してまいりたいと思います。

さて、そんな努々精進している私ではありますが、私にだって皆さんと同じ様に子供の頃の夢があります。

聞いてください。

私の子供の頃の夢は「図工の時間に画用紙いっぱい黒く塗る」でした。

これは気持ちが病んでいたとか、心象風景が闇に溶けていたとかの類ではなく、小学校の同級生の皆川くんの影響でした。
皆川くんという人間は図工の課題をとにかく黒く塗る男でした。

どういう事かというと、校舎を描けと言われれば鉛筆で下書きをし、絵の具で黒く塗る。
風車を作れと言われれば、羽根を作り回ることを確認したら、インクで黒く塗る。
学級新聞を制作しろと言われれば、班で調べた学校の歴史を、墨で黒く塗る。

なんでも塗る。
とにかく塗る。

そんな男でありましたから、クラスの皆からはいつも煙たがられていたように記憶しています。
ですが、私はその皆川くんの所業をみて「世界はこんなにも自由なのか」と感じる様になっていったのです。

課題を無視した「自由」なのであったら、そんな事は思わなかったと思います。
テーマをあくまで逸脱せずに、ここまでの事ができるのかという衝撃でした。

皆川くんにとっては、黒一色だけど校舎であり
皆川くんにとっては、黒一色だけど風車であり
皆川くんにとっては、黒一色だけど学級新聞なのです。
コンセプトがこんなにも大切なのかという事を初めて学びました。

そんな私も、皆川くんと同じ様に自画像の課題を黒く塗ろうとした事がありました。

しかし、出来ない。

周りのクラスメイトにはどう思われるだろう、先生に怒られるかもしれない、そもそも皆川くんの真似をして自画像を黒に塗ったのなら、それこそ不自由という事ではないか。
あらゆる思いが頭を巡り、気づけば肌色と書かれた色鉛筆を手にしていました。

そんな私を差し置き、皆川くんの自画像の肌色はやはり黒でした。

私の選んだ優柔不断な肌色より、皆川くんの黒色のほうがよほど肌色に感じました。

自由には圧倒的な意思が必要で、勇気を持って挑まければいけないのだと私は知り、自分の不自由さを情けなく感じ、ある日思い切って皆川くんに聞いてみました。

「皆川くん、どうしてなんでも黒く塗るの?」

「…塗る色選ぶのめんどいから」

…特に考えはありませんでした。

そんな皆川くんではありますが、今は親の仕事を引き継いで鳶職の親方をしてると風の噂に聞きました。
小学生の頃とは違い、今はホワイト企業の社長として頑張っているんだと思います。

あんなにも夢みた「皆川くんの黒色」ではありましたが、ホワイト企業で働いているであろう皆川くんに今となっては憧れます。

そんな、私の三十年前の夢の話です。

古い話を聞いてくれてありがとうございました。

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