食を趣味に

ドイツに来てからもうすぐ3ヶ月になろうとしている。

渡独してすぐの頃は慣れたものを食べたくて、醤油やお味噌などを買い揃えた。お鍋でお米を炊けるようになると、毎日お味噌汁とご飯を食べた。炊きたてのお米の匂いは本当に素敵で、作りたてのお味噌汁は身体をあたためてくれた。

1ヶ月くらい経つと、やはりここはドイツ。スーパーのチーズやソーセージ売り場が気になってくる。ずっと和食をにこだわっていても仕方がないと余裕が出てくると、現地の食事を楽しむことが目標になった。黒いライ麦パンを買ってヤギの香草チーズを上に塗って食べる。2週間くらいハマる。最近の発見はコンテチーズ。臭みがなくておやつにパクリパクリ、サンドイッチやサラダにもぴったりしっくりくる。

ある日から、アボカドが食べたくなった。スーパーで見てみると€2.99。ん〜〜今日はやめとこう。それから2週間後、年も明けて思い切ったことがしたくなって、(EDEKAで€2.49くらいだったと思う、)アボカドを1つ買ってみた。

家に帰ってスッスッと包丁を入れる。半分に切って種をとる。種のくぼみに醤油を垂らして一口。完璧だった。鮮やかで艶やかな緑色と柔らかい食感。残りの半分は次の日に食べた。

日本でもアボカドで何度も美味しい思いをしたけれど、この感動はひとしおだった。毎日食べられるほど安かったら最高なのにと、この価格の理由が気になった。大衆スーパーREWEだとバナナは€2,49/kg つまり一房€2くらい。アボカド1つは€1,69、オレンジ1つは€1しない。なんかいまいちよく分からない例だけど、まあいいや。

ネットで調べると、アボカドは生産過程で大量の水を必要とするため土壌の水不足を招いていること、アボカド人気の上昇によって価格が高騰、その結果産地メキシコの地元住民が入手しづらくなってしまったことなど、課題の多い果実だと。アボカドの産地はほぼ中南米に固まっているから、輸送コストそしてそれに伴うCO2の排出も問題の1つにあると思う。

そうやって知っていくと、そこまでして食べたいかと自問する。そうでもない気がしてきた。というか、そこまでして食べなきゃいけないものなんてあるのだろうか。

私は最近海鮮をトンと食べていない。ここには薄切り肉はないからしゃぶしゃぶやすき焼きもしない。お米も日本のお米は高くて変えないからミルヒライスで代用している。土地には容易に食べられるものとそうでないものがある。そりゃそうだ。それを無理に克服しようとしてあらゆるコストを犠牲に遠くから輸送してくるとはどういうことなのか。旬に無頓着になって一年中林檎を食べられる今の状況はどういうことなのか。

アボカドを食べにメキシコへ旅行したり、和食に惚れ直して帰国したりすることを考えると、ああそれでいいんだよなと思う。


ドイツのスーパーの精肉売り場では、豚・鳥・牛のイラストがそれぞれに描かれたパックが売られている。ドイツ語が分からなくてもある程度買い物に支障がないようにとの配慮から、部位まで想像できるように描かれている。私はドイツ語が分からないのでその表示はありがたかったけれど、気持ちの上ではその直接的なイラストに正直困惑した。スーパーで買った鶏肉にはだいたい骨も皮も、時には羽や血もついている。何も考えないように一心不乱になって台所で肉を裁いても、もうすでに動物が精肉になるまでの過程を無視できなくなっている自分に気づいて、どうしても少し気持ちが引いてしまった。

それでももちろん調理して食べる。調理している時も食べている時もなんとなく意識が変わっただけで、決定的な違和感とか嫌悪感を覚えたわけではなかった。ドイツで売られている鶏もも肉はとても美味しいということを知った。


英語の勉強で流していたBBCニュースのYoutubeで、動物の細胞から人工的に培養される鶏肉のことを知った。これが市場に出回れば、動物愛護の倫理観からベジタリアンやヴィーガンになった人も肉食を選択できるようになると言っていた。なるほど。

日本ではそこまで親密でなかったと思うけれど、ドイツのレストランではヴィーガンオプションが多くあるし、ヴィーガンの人の数も多いと思う。肉を使わないレシピや食事が次々と登場しているらしい。


ここで私はアボカドも肉も食べないとかいう決意について何か言えるわけではないのだけれど、生活の基盤である食についてもう少し自分の考えを持ちたくなった。その意味で、食に生活にきちんと自覚を持っている人たちに憧れるようになった。今一人暮らしを始めて、何を買って何を食べるのかを自分で決められるようになったからこそ、こういった問題に一人の消費者として向き合いたくなった。


スーパーの売り場は本当に楽しい。お金の使い道が日々の買い物くらいしかないから、なおさら楽しい。

だけど1つだけ決めた。食をより楽しむ努力をする。

たとえばお肉が食べたいと強く思う時以外はお肉を食べない。栄養素として必要だからとか安売りしているからとかの理由での肉食は控えてみよう。旬のものを食べる。そしてちゃんとお腹が空いてから食べるようにする。そうしたらもっと美味しく食べられる気がする。無理せずに、無理させずに、美味しく食べる生活にしたい。



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