良い兆しを待ちながら


はとさんが企画してくれたアドベントカレンダーの16日目担当、せりです。アドベントカレンダーはこちらの第一弾こちらの第二弾があります。テーマは「私が動かされたもの」。

素敵な企画だなあと完全に外野から眺めるつもりでいた私の背中をグッド・オーメンズ配信までの記録なんてどう、と押してくれた主催の鳩さんありがとう。文章を書くのは苦手だけど記録を綴ることならできそう!と軽率に参加させていただきました。

そう、この2年間私を大いに揺さぶってきたもの、そして今も揺さぶっているもの、それは「グッド・オーメンズ」。

「グッド・オーメンズ」はニール・ゲイマンとテリー・プラチェットが90年代に共同執筆したファンタジー小説。ざっくり粗筋を説明するとこんな感じ。天国と地獄の最終決戦であるハルマゲドン。そのきっかけとなる<反キリスト>の赤ん坊が地上に遣わされた。だがエデンの園を離れて6000年、今やすっかり地上ライフを満喫している悪魔クロウリーと天使アジラフェルはこの暮らしを終わらせたくない。なんやかんやで気の合うふたりは来たる終末を阻止すべく手を組むことにする。ところが何の手違いか、<反キリスト>は別の赤ん坊とすり替わっていた!<反キリスト>はどこへ?そして今週土曜の夕飯前にやって来るハルマゲドンは果たして阻止できるのか―?

要は自分たちの愛する道楽を守りたい!本社は退屈だし戻りたくない!ずっと出向先にいたい!という思いを同じくするライバル企業の社員ふたりが手を組む英国テイスト終末釣りバカ日誌と言える。

2017年8月、大好きな俳優デイヴィッド・テナントが悪魔を演じると発表されたのが、私が「グッド・オーメンズ」を知るきっかけだった。

興奮のあめりすでに誤字っている。でも想像してみてほしい、推しが悪魔役=推しに羽が生えるかもしれないのだ。しかたない。

2017年9月、最初のキービジュアルを作者であるニール・ゲイマン先生がツイートに上げた。後で知ったのだけどパパラッチにすっぱ抜かれるくらいならと、いの一番にツイートしてくれたらしい。

やったーーーーーーーーこの首から垂れているものは何…?紐…?お洒落なクロウリーは何となく黒いスーツ風の装いなのだろうというイメージを払拭する何かが垂れている。紐タイは界隈でしばらく波紋を呼んだ。この時点ではまだ他のクロウリーファッション(そもそも彼が他のファッションをするのかすら)情報が無かったので。

2017年10月、ジョン・ハムがガブリエル役としてキャスティングされることが発表された。ジョン・ハムってあのジョン・ベイビードライバーで美しく狂暴な兄貴を演じていた・ハム!?

2017年12月、ゲイマン先生がビジュアルを解禁。

期待値ーーーーーーーーーーーー↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

なおガブリエルの出番がどれだけあるのか分からないが原作では「ガブリエルに知られたら厄介だ」と間接的に一行登場するのみだ。大変に想像の余地がある。

そうやって「グッド・オーメンズ」の情報を追いかけていくうちに次第に分かっていったことがある。

ニール・ゲイマンは2014年に他界した共著者テリー・プラチェットの「この作品を実写化できるのは君しかいない。私のために作ってくれ」という頼みを叶えるためだけに、本業である作家業の一切を投げうって、はるかに実入りの少ないドラマ制作に朝も夜もなく取り組んでいること。

そうやって並々ならぬ愛情をもって作っているドラマなのに、彼は「君のヘッドキャノン(脳内設定)は君だけのものだ。ドラマと違っても君の設定は変わらず現実で本物だ。」「ドラマはドラマの聖典だけど、原作の聖典ではないよ。」とファンに語ってくれた。二次創作は素敵なことだ、どんどん創作の羽を広げていいんだと、都度Tumblrやツイッターで背中を押してくれる。ファンのコスプレだって「イメージと違うと思ったことは一度もない」と大喜びでRTしてくれる。

そしてニール・ゲイマンは制作の進捗具合を逐一教えてくれた。隠し事があまり好きではないのかもしれない。というより苦手なのかも。ファンからの質問にどんどん答えてくれる彼に、「マイケル・シーンはまだブロンドみたいですがクランク・アップしていないんですか?」とメンションを飛ばしたことがある。すると「あと9日で彼のブロンドも終わりだ」とあっさり具体的なリプをくれた。それ言っていいのか。そして彼は同じ質問が何百回来ても怒らない。どんなに失礼で理不尽なメンションを飛ばされても、絶対に皮肉で返したりしない。そういう誠実さと丁寧さの滲む彼の文章を読むたび、私はいつも少し背筋が伸びる気持ちになる。

さらに恥ずかしながら私の想像を遥かに超えてニール・ゲイマンは大変な人気作家であった。主演の二人も驚くほどの伝手と影響力があった。彼の送ったメール、彼のかけた電話に対し、俳優は二つ返事で出演を引き受けていき、キャスティングはどんどん豪華になっていった。

2017年12月、サー・デレク・ジャコビが「神の声」メタトロン役になる。

2018年2月、マーク・ゲイティスとスティーブ・ペンバートンがキャスト入り。

2018年7月、フランシス・マクドーマンドが神の声をあてることになる。

2019年2月、極めつけでベネディクト・カンバーバッチがサタン役の声を当てると発表。

正直怖い。豪華すぎないか。大丈夫かAmazonプライム。ちなみにサタンは原作には登場しません。

一方でアマゾンは番宣を重ねていった。

2018年10月、NYのコンベンション(NYCC)にてグッド・オーメンズのパネルの司会をウーピー・ゴールドバーグが努める。

このNYCCのパネルでは待望の本格的なトレイラーが初めて流され、直後にネットにも上げられた。

恐ろしい。何が恐ろしいってどのセリフもシーンも原作にあった記憶がほとんどない。原作者監修の原作者脚本なのに。どういうことなんだ。あと500回は見ないと脳が追いつきそうにない。ただものすごく期待していた、大事なものがこのトレイラーには無かった。そう、配信日だ。

キャストが発表されから1年が経ったのに、分かっているのは2019年に配信されることだけ。折に触れて「まだ配信されてなかったの?!(あれだけ毎日騒いでるから)てっきり…」と周囲に驚かれたのも無理はない。「2019年に配信」て。1年は12か月あるんですよーーーーどのあたりですかーーーーー。2018年11月にこれまたはとさん主宰の「ぽっぽガラ」で「グッド・オーメンズ」を紹介した際には「とにかく見てください!!!配信日は決まってないんですけど!!!」と叫んだ。配信日が無いと布教もままならない。

それはともかくこのNYCCでは初めて主演ふたりががっつり一緒に映り、がっつり一緒にインタビューを受け、がっつり一緒にフォトシュートも行うという長い間お預けをくらった後に推しと推しが突然同じ画面に映りまくる情報過多状態になったのも事実だ。言い忘れていたけどキャスト発表時には「『パッセンジャー』でAIを演じた人」程度の認識だったマイケル・シーンに私はこの頃すでにどっぷりハマっていて、「マイケル・シーンとデイヴィッド・テナントが同じ作品に出るだと…?」と定期的にろくろを回していた。

さて、年が明けて2019年1月。おめでとうございます、いよいよグッド・オーメンズが配信される年です。まだいつから分からないけどとにかく今年の上半期のどこかで配信されるのだという。この辺りからアマゾンという巨大スポンサーのパワーを徐々に実感し始める。

メディア向けノベルティ。「Sorry about the world ending.(世界が終わって申し訳ない)」というニール・ゲイマンの手紙が添えられ、チョコレートのくす玉を割ると中からお菓子や予言カードが出てくる。なんだこれは。買わせてくれ。こっちの手元にあるのは公式グッズのピンバッジだぞ。

2019年3月、テキサスのコンベンションで広い敷地にエデンの園をイメージしたセットが作られた。飲み物も食べ物もなんとすべて無料。

このコンベンションでは折り畳み傘も無料配布された。これは後に登場するポスターをイメージしていたのかもしれないし、そうでないかもしれない。

そうなのだ。「グッド・オーメンズ」は次から次へとお洒落なイメージポスターが作成されており、一つまた一つと出てくるたびに私は大喜びした。

オタクなら分かるだろう、上のデザインの「天使の好きなもの」「悪魔の好きなもの」の情報量の多さ。そしてどちらにも共通してさりげなく置いてあるワインのコルクにどれだけ沸いたか。

TVコンパニオンとスクリプトブックの正式な外見も発表されたがやっぱり泣けるほどデザインがいい。とっくの大昔に予約していたことをすっかり忘れてうっとりとボタンを押した私は後日凶器のように重いこのTVコンパニオンが2冊家に届いた。

そんな中とうとう日本側でも動きがあった。2019年4月、KADOKAWAから絶版中だった「グッド・オーメンズ」が再販されることが決定したのだ。

KADOKAWAさんの公式ツイートが見当たらなかったため絶叫失礼します。嬉しい。原作を読んでみたいと言われるたび「お近くの図書館に行けば…意外と蔵書にあるんじゃないかと…」とボソボソ言う日々よさらば。発売10日前には表紙がKADOKAWAの公式ページにも掲載された。イラストを手掛けたのはサイトウユウスケ氏。素敵。嬉しい。すごく嬉しい。

ゲイマン先生も「すごーーーーくクーーーーールだ」とツイートしている。嬉しい。

そして2019年2月、とうとう待って待って待ちに待った配信日が発表された。

5月31日!!!5月31日!!!5月31日!!!5月31日!!!2019年上半期っていうかほぼ下半期だななんて言わない。ここまで待ったのだ、3か月後なんて余裕だ。明日配信されるようなものだ。アルマゲドンは5月31日。家のカレンダー3つにそれぞれ印をつけた。ここからは色んなものが目まぐるしかった。残り僅か3か月、もうラストスパートだ。

2019年3月、トレイラー第二弾が発表された。

正直もうこの大爆発トレイラーだけで配信日まで余裕で食い繋げたけど、アマゾン大会社様は宣伝キャンペーンの手を緩めない。当然のようにラッピングバスがロンドンを駆け抜ける。

個人的に好きだったキャンペーンが「聖ベラル喋喋(ちょうちょう)修道会の聖歌隊」。

朗らかに悪魔を崇拝する、まるで原作から飛び出てきたような修道女たちは、各コンベンションやイベントに出没してはサタンや反キリストを称える讃美歌を歌い、QUEENの曲を朗々と歌い上げた。「テリーがきっと大喜びしたことだろう」とゲイマン先生はこの修道女たちが大のお気に入りで、PVにも全く脈絡なく登場している。

そしてとうとうやってきた、2019年5月。グッド・オーメンズは今月配信される。アマゾン(の財力)がますます唸りをあげる。

メディア用ノベルティ第二弾。なんだ第二弾て。

例の予言書の中に例のワイン・例のココア・例のマグカップが入っている。頼むから売ってくれ。買わせてくれ。頼むから。

そして世界一の広告と言えばNYのタイムズ・スクエアだ。そこでは計5つものビルボードにクロウリーとアジラフェルが登場した。

ちょっと怖い。こういうのってハリウッド大作映画でやるものじゃないの?6話限りのAmazonプライム限定のドラマでやることなの?

一方、ホームグラウンドのロンドンであるウォータールー駅にはちょっとしたエデンの園ができた。一つ一つロゴが印字してある本物のリンゴをクロウリー風な悪魔の格好をしたスタッフが配り、本物のヘビと戯れることもできる。

ユーストン駅では「ようこそユーストン駅へ」が「ようこそ世紀末へ」とわざわざ書き換えられ、この駅限定の広告がひしめくように飾られた。

上記、お気づきだろうか。エスカレーターの下りは赤い地獄側、上りは青い天国側となっているのだ。まるでドラマ本編でクロウリーが下って地獄に行き、アジラフェルが上って天国に行くように。

そしてアマゾン・ザ・宅配ならではのこれ。

グッド・オーメンズの段ボール。フルカラーで。そう、アマゾンならね。

さらには僅か二日間の期間限定イベントとして、ロンドンのグリークストリートにある5階建ての建物をアジラフェルの本屋「A.Z.Fell & Co.」に変えてしまった。内部はドラマのプロップが所狭しと展示され、ちょっとした謎解きゲームもある。外にはベントレーが駐車され、天使と悪魔のスタッフがもてなしてくれる。これも無料。ここまでくるとだろうね…としか言えない。

しかも参加者(多分ほんの一部だけど)には秘密の小部屋で主演のふたりが待ち構えるというサプライズも用意されていた。

サプライズはさておきこの盛沢山の展示が二日間だけて!!!ここまでやって!!!二日で片付けちゃうって!!!アマゾンさーん!!!アマゾンさーーーん!!!!

そんなこんなしていたら5月29日、とうとうプレミアの日がやってきてしまった。プレミアは当然ドラマや原作の舞台でもあるロンドンで行われた。ロンドンのレスター・スクエアで。

散々言って申し訳ないがこれ全6話のネット配信ドラマの規模じゃなくない?そもそもレスター・スクエアと言えばMARVEL作品やスターウォーズシリーズといったハリウッド大作がプレミアをするようなところだ。あとBAFTA(英国アカデミー賞)とか。

ここまで一環してエデンの園というコンプセトでプロモーションセットを組んできた、当然レッドカーペットも芝生仕様で決まりだ。これまで通り「GOOD OMENS」の文字を緑と花で埋め尽くした。これが最後とばかりに木を生やしここでも本物のリンゴをぶらさげた。どれも大変に目に優しい上に大変に映える。上手い。演出がとても上手い。

世界の終末を叫ぶプラカード、世界終末までのカウントダウン…とにかく凝っている。もちろんクロウリーの愛用しているベントレーだって待機する。

まだ配信すらされていないドラマが、こんな規模のプレミアをすることがあるのか…。アマゾンのあまりの力の入れように一抹よりやや大きめの不安が頭の隅をチラつくが、ネット中継で笑顔を見せるキャストたちの晴れ舞台を見てそれも吹き飛んだ。というかそれどこではなくなった。

劇場内の最前列には「予約済」と書かれた紙が貼られた席が二つ並んでいた。片方はニール・ゲイマン用。もう片方には帽子とマフラーが置かれた。生前テリー・プラチェットが愛用した品だ。

「テリーは『ポップコーンを食べながら見終えるまでは、実写化されたと信じないね』と言っていたんだ」と、ゲイマン先生が話したことがある。「『それでも、私はまだ信じないかもしれないな』って」。

2019年5月31日00時00分。 日付変更線に近い日本は、世界で最も早く「グッド・オーメンズ」を見ることができた。

これが「グッド・オーメンズ」が配信されるまでの大まかな流れだ。実際は毎日のように何かしら驚いたり喜んだり興奮したり不安になったり、でもなにぶんツイ廃ゆえに細かいサルベージは到底できそうにない。それでもいつかこそっとこの記事に付け加えるかもしれない。値段すら分からない完全受注品の限定豪華版の原作のこととか。

配信されてからは、the rest is history(後は皆さんもご存知の通り)だ。6月1日の朝、私のTLは時間を経るにつれてみるみるクロウリーやアジラフェルで溢れ返っていった。目の前で何かすごいことが起きている、そう思った。私はリアルタイムでSHERLOCKを見ていなかったけど、S1の第一話が放送された時はきっとこんな感じだったに違いない。一晩でネットが爆発した。

あまりに遠い未来だと感じていた配信日はちゃんとやってきて、こうやって思い返せば待ち焦がれ続ける日々も楽しかった。一人だったら本当にしんどかったかもしれないけど、まだかまだかと悶えては都度流れてくるちょっとした情報に飛びつき狂喜乱舞するのは私ひとりではなかったからだ。

遡るだけ遡ってスッキリして格好いい締めくくりの言葉がまったく思いつかないので、ここまで読んでくださった方に感謝して終わります。そして遡るきっかけをくれたはとさん本当にありがとう。


おまけ。この記事を書くにあたって調べていたら、プレミア時にまたしてもメディア向けノベルティが配布されていたことを知った。

天使と悪魔の片翼ケーキに!?「聖水」「地獄の業火(意訳)」のアルコールだと!?!アマゾンーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




追記。「グッド・オーメンズ」はAmazonプライムにて絶賛配信中です。Amazonプライムのお試し期間がいつの間にか過ぎていたことに気付いて舌打ちしながら解約しようとしている方、ちょっとこちらを見てからにしませんか…

グッド・オーメンズ (字幕版) https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07S64G4DB/ref=cm_sw_tw_r_pv_wb_YfvfeHNkTfodg

グッド・オーメンズ (吹替版) https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07S769RK1/ref=cm_sw_tw_r_pv_wb_CSpSNp0Z9o9kd

いきなり本編は腰が重いんだよな…という人は手前の味噌で申し訳ないのですが字幕付きのトレイラーをちらっと見てみてください。

あるいはいきなり円盤から入るのも手です。クリスマスにはなんと待望の日本語版の円盤が出ます!!やったーーーー!!発売一週間前の現時点でまだ具体的な情報が何も出ていないのでリンクは貼れません!!でも出るはずだ!!楽しみだ!!

私のグッド・オーメンズの日々はまだまだ続く。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?