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紅白歌合戦 白組最年少司会者 中居正広

1997年12月31日。
中居正広は白組最年少司会者として紅白歌合戦の舞台に立っていた。

しかし、順調にその座についたかというと、そういうわけでもない。


『うたばん』MCとして

1996年4月。SMAP初のゴールデン冠番組『SMAP×SMAP』が始まる。
その中に、料理でお客様をもてなす『ビストロSMAP』というコーナーがあった。
中居は料理を作るのではなく、オーナーとしてお客様とトークをするという役割を担う。
初回の大原麗子をはじめとする、錚々たる女優が来店し、当時24歳の中居よりも大先輩の方々と、毎週トークをするという経験を積むことになった。


一方、その半年後の10月。『うたばん』が始まる。
毎週、数組のミュージシャンを迎え、歌よりもトーク中心の歌番組。
共にMCを務めたのが、トークのプロフェッショナル、石橋貴明。
そこでは『ビストロSMAP』とは、まるで勝手が違った。


1996.10.15
『うたばん』初回、初のゲスト華原朋美。
華原は石橋のことをカッコいいと思う、という話の流れから。

石橋:オジサンも自転車ぐらいなら買ってあげるよ。
中居:はははは(笑)
石橋:本当に。
華原:もう、今買ってもらったばっかりだから。
石橋:誰に買ってもらったの?
華原:買ってもらったんです。
石橋:誰に?
華原:ふふふ(笑)
石橋:これ(男)かい?
華原:うふふふ(笑)
中居:あの、全然話違うんですけど、一番最初に買ったレコードって覚えてる?
石橋:おい!ずいぶん話飛ぶな、おい!

突然、何の脈略も無い質問に、石橋からツッコミが入る。

中居:たぶんねえ、僕…
石橋:なんで、今の文脈がまるで無くなるやんか!
中居:たぶんね、ここら辺、僕、今使われてない気すんですよね。
石橋:俺の、TMネットワーク時代のキーボードに、俺がソフトボールを当てようって話はバッサリ切られてるわけ!?
中居:はははは(笑)
石橋:なんだよ、おいおい!1回目だから飛ばしてんだよ俺!
中居:(笑)

中居の読み通り、石橋が小室哲哉のキーボードにソフトボールを打ち込んだという『ザ・ベストテン』でのエピソードは、オンエアーではカットされていた。そこは中居が正しかったとも言える。

石橋:「結構、昔からこの音楽業界っていうのに興味があったわけ?」「じゃあ、初めて買ったレコードは何?」。こういうふうに入っていかないと!
中居:(笑)

どこが放送されるかというよりも、現場での会話の流れの方が重要だと石橋は言う。


ゲスト:小泉今日子(1996.11.5)
「結婚を実感した時は?」という質問に「銀行で名前を呼ばれるのを待ってる時」と、小泉が答えた話の流れから 。

小泉:(名前を呼ばれるのを)待ってる時に、「そうだ、永瀬って呼ばれるんだよね、永瀬って呼ばれるんだよね」って、こう間違えないようにする感じっていうか。
石橋:いいやあねえ。
中居:いいっすねえ。
石橋:俺たちのキョンキョンがねえ。
中居:あの、一番最初に買ったレコードは?
石橋:おいおい!いきなりだな、おい!中居ちゃん!

流れをぶった切った質問に、再び石橋のツッコミが入る。

中居:なんですか?
石橋:今までの流れから引きずってってくれよ!
中居:ああ、それ勉強したんですよね。
石橋:今ね、誰もまだ聞いてないことかもしれないよ?キョンキョンが初めて自分が奥さんなんだな、って思う時っていうのは。銀行で名前を呼ばれる時に「あ、名前間違えないようにしなきゃいけないな、って思った時です」「初めて買ったレコードは?」って、これ繋がるかい?

この回は他にも、

中居:(今まで出したCD)シングルって何枚ぐらいですか?
小泉:わかんな~い。数えてない。
石橋:次が35枚目ですよ。
中居:ウッソ。
小泉:ウソだよ(笑)本当?
石橋:(台本をめくりながら)本当ですよ。
小泉:書いてある?
石橋:35枚目って書いてありましたよ、さっきほら~。
小泉:あ、本当だ!
石橋:台本読めよ~!中居ちゃん!
中居:(苦笑)

石橋は、この番組での進行は中居に任せようとしていた。
だからこそ、MCとしておかしな方向にいったり、場が滞ったりすると、笑いを入れながら指摘していた。


そんな石橋・中居のやり取りに対して、ある婦人会・PTA一同から番組にお手紙が寄せられる。

石橋:(ハガキ)「楽しみにしている番組です。石橋さん、あんまり中居くんをイジメないでほしい。まだ24歳になったばっかりの純情な青年です。アイドルの中に、こんな人もいてもいいと思います。子どもに好かれ、年寄りまでも、中居くんファンが多いのです。大変だと思いますが、立派な大人の石橋さん、良きアドバイスをガードをお願いいたします」。なるほど。
中居:お願いします!
石橋:俺、そんなイジメてないけどな、中居くんのことな。
中居:ね。

本人たちに意識はなくても、”イジメ”と捉える視聴者も中にはいる、ということだ。

石橋:でも、ここで一行問題なのは、「アイドルの中に、こんな人もいてもいいと思います」。
中居:……
石橋:やっぱある種、何かをブレイクさせる人だよね、中居くんは。
中居:なんだ、なんかそれちょっとイヤですね。「こんな人」っていうのが。

今までのアイドルとは違う存在として認識されている、ということでもあるのだろう。


中居:さあ、次(のハガキ)いきましょう、なんですか次。
石橋:(4~5枚のハガキを見ながら)なるほど。ああ、あとは中居くんにはツラいハガキだな。読まない方がいいかもしんない。
中居:言ってごらんなさいよ!
石橋:え?だって読んだってカットされるぜ。
中居:なんですか?なんですか?
石橋:これ読むと傷つくから、他のにしようかな。
中居:なんで、いいですよ!そんな僕、傷つかないですよ!
石橋:え?
中居:傷つかないです!
石橋:本当かい?
中居:大丈夫です!

中居の強い要望によりハガキを読むことに。

石橋:(ハガキ)「中居くんに言いたいことがあります」。
中居:はい、言ってください。
石橋:「私、中居くんのことキライじゃないけど、SMAPでは吾郎ちゃんが好き」。
中居:……
石橋:「もう少し、タカさんの絶妙なおしゃべりについていけないものなのかしら。時々、見ててもイライラする時があります。中居くんのことキライじゃないけど、な~んかムカつくときがある。タカさんは今のままで、いつまでもカッコいいタカさんで突っ走ってて。中居くんのおしゃべりがタカさんについていけたら、もっと完璧な番組になると思うよ。それと中居くん、タカさんのおしゃべりを遮断するような、ゲストへの質問は控えた方がいいと思う。タイミングを大切にね、タイミングを」。
中居:……
石橋:まあまあ、しょうがないよ。しょうがない、これはね。しゃべりでほら、俺は生きてる人だから。おもしろいこと言うのは職業だから、中居くんの…これは。

大丈夫だと言いながら、しっかり傷つく中居。

石橋:まあ、いろいろたくさん、賛否両論あることが、それだけこの番組を観てくれているということだよ。
中居:なに、僕のことキライなのに観てんの?ムカついてんのに…


このような積み重ねがあり、『うたばん』が始まってから1年ちょっとが過ぎた頃、中居は紅白歌合戦の司会に抜擢される。25歳の時だ。


第48回 紅白歌合戦 白組最年少司会者誕生

中居:今だから言いますけどもね、タカさんに相談したんですよね。これ言っていいのかなあ?
石橋:「(司会)やれ、やれ」つったんだもんね。
中居:タカさんに、「紅白のね、司会のお話が来て、どうすればいいですかね?」つったら、「(石橋のマネで)やれよ、やれよ、お前!そんなのやっちゃっていいんだよ、中居よお!中居くん、今ノッてんだからよお、やって後悔なんかしねえぜ!」って。
石橋:それ何のマネなんだよ、それ!全然わかんないよ、それ。いや、でも良かったよ、本当。

紅白司会という大役を引き受ける際に、石橋に相談していたことを明かした。

石橋:良かったねえ。白組勝って、ものすごい喜んでたけど。
中居:本当に喜びました!

白組が見事勝利。ちなみに相手は、紅組司会3回目となる和田アキ子。

石橋:なんかエピソードは、なんかないのかい?
中居:いやあねえ、緊張しましたね。
石橋:ああ、そう。
中居:うん。あの紅白で一番最後ね、五木ひろしさん紹介すんの。で、一応、曲目とかは頭の中に入れてたんですよ。“千曲川(せんきょくがわ)”って書いて、“千曲川(ちくまがわ)”って読むんですよ。
石橋:”千曲川(せんきょくがわ)”……”ちくま”…、ええ。
中居:“千曲川(せんきょくがわ)”って書いて、“千曲川(ちくまがわ)”って読むんですよ。で、最後いろいろコメント言ったあと「それでは歌っていただきましょう、“千曲川(ちくまがわ)”。五木ひろしさんです」って紹介する所あったんですけども、僕はねえ、当日の前の日まで“ちくわがわ”って覚えてたの。
石橋:ほう。
中居:覚え方はどうすればいいのかな?んで、「“ちくまがわ”って覚えにくいなあ」と思って、どうしようかな?と思って、「あ、“ちくわ”って覚えとけばいいんだ」と思って。覚え方はそういうふうに覚えたんだけれども、頭の中にはずーっと「ちくわちくわちくわちくわ……」だったの。
石橋:うん。
中居:で、「ヤッベ、どうしよう!」と思って。リハーサルとかでも、“ちくまがわ”だけ、ずっと噛んでたのね。「まずいなあ…」と思って。で、前の日とか前々の日とか、やっぱり寝れないんですよ。
石橋:寝れない?
中居:寝れないの、緊張しちゃって!
石橋:ほうほうほうほう。
中居:でも寝てんだけども、寝てる途中でも最後「さあ、それでは最後を締めていただきましょう。今年最後を締めていただくのは“ちくわ…”。また“ちくわ”って言ってるよ!」と思って。「ヤベェヤベェヤベェヤベェ、どうしよう!」と思って。でも最後の最後、本番ではね、すっごいゆっくり「“千曲川(ちくまがわ)”」。
石橋:うん!
中居:その後、まさか“ごきひろし”とか言わないだろうな(笑)。「“千曲川(ちくまがわ)”。五木ひろしさん」。“ちくまがわ”で、僕の仕事は終わったんです。「五木ひろしさん」は、もう心から出るなと思って。ホッとしましたねえ。
石橋:そっかい。大変だったねえ。

当然のことながら、いきなり大きな仕事をして成功するわけではない。
周りの助言や自らの学びによって、史上最年少という紅白歌合戦の歴史に名を刻むこととなったのが、25歳の中居正広でした。


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