バッハ

そんな雑なnoteタイトルでどなたが読んでくれるんでしょう???笑

ブリュッセル王立音楽院のHIPP科では集中講義みたいなかたちで年に10回、一日(or二日)まるまる座学の日があって、「文献の探し方、読み方」とか「テンペラメント」とか「16世紀のコンソート音楽」「レトリックとアフェクト」とか、その年によって取り上げる内容はちょっとずつ変わるらしいのですが、ともかくとても実践的でハイレベルなことを超爆速英語で教えてくれる日があります。実際これらのラインナップ、タイトルだけで興味湧く系じゃないですか?
まあそれはともかく年度の最初に日程と内容が発表されるのですが、第7回の先日は「J. S. バッハの教会音楽-1723年を中心に-」という、ブッ刺さりませんか!刺さりますよね!!私は9月からこの回をめちゃめちゃ楽しみにしてきたので、ようやくこの日が来た!って感じでした。
ところでうちの学校のいわゆる古楽科の名称は、Early music科ではなくて、Historically informed performance practice科です。

1723年。今からちょうど300年前、バッハ先生がめでたくトーマスカントルに採用された年ですね、メモリアルイヤー。このトーマスカントル採用に関して、だいたい「すったもんだの末」とか「紆余曲折を経て」とか端折って書かれますが、今回の授業ではこの採用にあたっての“大人の事情”までかなり細かく踏み込んだ解説があって、バッハも大人の事情に巻き込まれて不本意なオーディション続きの人生だったか、と思うと、こちらも頑張らねばなあとか思わされます。
今年のライプツィヒではバッハのトーマスカントル就任300年記念イベがたくさん行われるそうですが、都合いいなあ、と正直思ったりしなくもないです。笑

いつぞやのnoteで、芸大在学中にバッハカンタータクラブに入って人生の方向転換が起こった、みたいなことを書きましたが、だから私はかなりバッハの教会カンタータは自分なりに勉強してきたほうですし、演奏経験にも相当恵まれましたし、コンティヌオを弾いただけでなく合唱を歌ったということも大きなアドバンテージですし、なによりとにかく何を差し置いてもバッハの教会カンタータというジャンルが大好きなのですが、芸大卒業とともに受難曲とロ短調ミサの演奏が多くなって逆にカンタータに触れる回数は急激に減り、カンタータについて話すことも減っていたので(そろそろ誰か番号トークしよ〜〜)、なんか一気に芸大時代の、自分の中で一番の青春の思い出みたいなものを思い出して、感情がぐっちゃぐちゃになりました。
授業で話題に上がるカンタータは、まあオタ向けとかではなくふつうの授業ですから、有名どころが多いので、つまり数回弾いたことあるようなカンタータばっかりで、「この○○ちゃんのソロは泣けたなあ〜」「あのときの●●くんの合いの手は天才だった」「これは蒸し暑い日光で雷雨の音にかき消されながら汗だくで弾いた」「☆☆さんがこれを選曲会議に出しててめっちゃ愛を語ってたな」「これ確か★★さんと飲みながら萌えポイントしゃべったわ」「一時期この和音進行に萌えすぎて一日中このコラール聴いてたな」とか、こういうのを走馬灯って言うんですかね(言わない)、一人で授業中めっちゃにやけてて気持ち悪かったと思います。

HIPP科といっても全員が全員バッハに興味あるわけじゃないので、ヨハネ受難曲を聴いたことがない、っていう学生が数人いて、あの強烈な出だしを聴いて「ファッッッ?」ってなってました。反応がおもしろかったです。私も記憶を消してもう一回「ファッッッ?」ってやりたい。

私はクリスチャンではないので、キリスト教について知っていることはすべて「経験」とか「信仰心から」ではなくて単に「知識」なのですが、それもカンタータとか受難曲とかを通じて必要になったときに学んできたものなので知識に偏りがあったりして、そんな程度のアレでバッハが生涯を捧げた“教会”カンタータという深い沼に手を出していいのだろうか、と自問自答することもあります。
クリスチャンでない私が聖金曜日に受難曲を弾く意味は?日曜日の礼拝の中で演奏されていたカンタータをいくつか取り出してコンサートホールで弾く意味は?その資格はあるのか?
好きだから、ただ演奏したいから、曲の素晴らしさを一人でも多くの人に知ってほしいから、そんなところでしょうかねえ。実際クリスチャンの人からしたらクリスチャンでない者がこういう感じで教会カンタータに触れることに対してなにか思ったりするんでしょうか。

ブリュッセルで仲良くしてくれている友人のひとりに、音楽院に来る前に司祭になるために神学部に通っていた子がいて、彼の話めちゃめちゃおもしろいです。合わせしてて、「キリスト教の概念として**ていうのがどういうことなのかよくわからなくて」「これってつまり何が起こったの?」っとか聞くとすっごく詳しく説明してくれます。ありがたいなーと思うと同時に、これだけ宗教音楽をやってきてまだ知らないことがこんなにあるんかと思うと、先は長いなーと思います😂

この授業シリーズ、英語ネイティブの友人たちですらも「複雑すぎて疲れた…」とか毎回言ってて、テンペラメントの回とかみんな頭沸騰してたので、我ながら必修じゃないのに毎度よくめげずに通っててえらいえらい。笑
次の回が「後期古典派および初期ロマン派」というまたブッ刺さりプログラムなので、気合い入れてまた学んできます。

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