プロ・ミュージシャンですか?

僕は大学生のころからお金をもらって演奏していたのですが、当時は自分のことをプロ・ミュージシャンと言ってもいいのか、とても気にしていました。

「プロ・ミュージシャンは何をもってプロと言っているのだろう?」と、その定義をあれこれと考えていたことがあります。

音楽で稼いでいる皆さんはプロとしての自覚はありますか?

お金が貰えられればプロなのか

学生のころ、ただ好きで笛を吹いていました。それでお金を貰おうなどと考えるのは自分の純粋な気持ちが汚れるような気がして、頑なにお金をもらうことを拒んでいた時期がありました。今思えば本当にウブですね……。
当時活動していた社会人バンドのメンバーが、「学生であっても1円でも音楽でお金をもらったらプロだ」と言っていたことも、大いに関係ありました。

しかし、自分から請求しなくても「おひねり」や「お餞別」でお金をいただく機会があります。それを拒否するのはあまりに頑固ですから、やがては素直に受け取ることになりました。ですが、ただお金を貰ったことをもってしてプロだというのは無理があります。

音楽大学を出たり検定試験に受かればプロなのか

音大を卒業しても演奏だけで生計を立てられる人は本当に一握りだそうです。オーケストラや音楽教室に就職せずにフリーランスになっても実際に演奏の依頼が来て収入にならなければ、生活できません。
また、講師の資格試験がありますが、試験を通っても生徒さんを集めないと生活できないわけで、その資格だけをもってプロになった、というのも無理があります。

演奏だけで生計が立てられればプロなのか

演奏収入だけで生計を立てられればプロの音楽家と言えるでしょうか?
しかし、親と同居していて生活費がほとんどかからないとか、主婦(主夫)だとか、不労所得があって働く必要がないとかいう場合もありますから、それだけでプロと言うのも無理があります。

人気があればプロなのか


「プロ」のライブでも集客が一桁なんてこともありますし、学園祭の学生ライブでもハコがパンパンになることもあります……。それに、人気が沸騰して「プロ」になったあとで、ブームが去ったらプロではなくなるというのであれば、ちょっと世知辛いですね。

演奏が上手ければプロなのか

人に音楽を聴かせるのですから演奏は上手いに越したことはないのですが、楽器がほとんど弾けないのに、歌が下手なのに、容姿や個性的な魅力で人気があって職業として成立している人もいます。技術だけで比較するなら、YouTubeで演奏を公開しているアマチュアや学生のほうが「プロ」よりも上手いときもあります。

職業人として意識が高ければプロなのか

プロとしての自覚とかプロらしい仕事だと自分で思っているだけならダメで、周囲の人が認めて初めて成立するものです。それに、「プロ意識」の絶対的基準などないのです。プロでも音楽や礼儀に対してめちゃくちゃ厳しい人もいれば、ゆるい人もいて色々です。

結局、言ったもん勝ちな世界

コネや権威や学歴で何かが決まるわけではない、我々民族音楽のようなジャンルにおいて、プロは「言ったもんがち」のところがあります。

「誰かれのところで何年修行して帰国しました、今日からプロ宣言します」と言えば周りもそれなりの目で見てくれるでしょう。
というか、それがどれほどすごいのか判断できないので、認めざるを得ないのです。でも、演奏に説得力がなければ「ただ自分で言っているだけ」になります。

だから語源に立ち返って定義する


このようにあれこれ考え始めると、あらゆる定義が相対化されてしまって、一体何をもって「プロ」と言えるのか、わからなくなってしまいます。

僕がたどり着いた結論を言うと、英語のprofession = 職業の意味どおり、主たる職業として演奏している人はプロであり、それ以上でも以下でもないと考えています。

職業には副業や兼業やアルバイトも含まれるので、そうではなく、収入面において専業として音楽をしている人がプロということになります。このように考えるとこぼれ落ちる思いがたくさんあるのですが、あれこれと考えて、僕はこの結論に至りました。

そして、その定義からすると残念ながら自分はプロではなくなってしまうのですが、そんなことにはこだわらなくなりました。

お客様がプロだと思えばプロでいいんじゃない

自分で自分のことをプロと呼ぶのは、とても恥ずかしいです。また、自分ではない何か(学歴とか有名演奏家とか師匠とか修行経験とか)の力を借りて自分のことをプロと呼ぶのは、自信のなさの現れです。

お客様が自分の音楽に価値を感じてお金を払ってくださり、自分のことをプロだと思ってくれるのなら、それで十分じゃないでしょうか。

お客様や依頼する人はあなたがプロかどうかなんて余り気にしていない

いくら自分でプロだと言っても、中身が伴わなければ説得力がなく、カッコ悪いだけです。僕も編曲や共演や対バンでお仕事を依頼してご一緒いただくことがありますが、相手がプロなのかどうかなんて、聞かないし気にもしません。音楽を聴くときも、その人がプロかどうかなんて、気にしません。
自分の期待するものをしっかりと提供していただけるかどうかがすべてです。

思い出すと、若くて自信のない頃ほど「趣味でやっているのではありません!」と言っていました(恥)。しかし、今となっては胸を張って「大好きな音楽をやっています!」と言えます。

自分がプロであるかどうかよりも、自分の理想の音楽が演奏できているか、自分の演奏を聴いてくださるお客様を喜ばせてあげられているかが大事だと考えるようになりました。

そして、自分を「プロだ」と言っていた頃は世の中に求められるものを提供したい、認められたい一心で自分の音楽性をしばりつけていたのに、「プロだ」と言わなくなった今のほうがよほど自由に音楽をやっています。皮肉なものですね。

いま僕が「プロなんですか?」と聞かれたなら、「演奏だけで生活しているわけではありませんが、僕の音楽に価値を感じてくださる人のおかげで音楽活動ができています」と答えるでしょう。

まとめ

プロかどうかは人が決める。そして、定義よりも自分にとって、お客さんにとって、よい音楽を演奏することのほうが、ずっと大切だ。

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