見出し画像

《5/19東京WS予告 アイルランド音楽講座》

今月19日(日)東京人形町のOde Inc.にて3時間のアイルランド音楽講座を開催します。この記事はその内容を紹介するものですが、講座に参加できない方にもきっと興味を持っていただける内容になっています。このnoteは講座終了と同時に非公開にしますので、ぜひ最後までお読みください。

どうグルーヴするか、それが問題だ。

先日公開したnote「アイルランド音楽のグルーヴ講座」は、多くの方にお読みいただきました。記事の中では、グルーヴを作る要素を5つに分解し、実際の演奏音源を聴きながら各奏者がどのようにそれぞれの要素を活用しているのかについて説明、4つのリズムでの具体的なグルーヴの作り方を解説しました。

記事の中にあったように、グルーヴには多くのスタイルがあり、例えばリールの跳ね方やアクセントについて、決まった方法や正解はありません。「あなたが」どうグルーヴしたいか次第なのです。そこで、今回の講座では演奏のヒントと、それを実現するための練習課題をお教えします。

その内容は大まかに以下の2点です。
(1)楽曲分析
(2)グルーヴ実践ワーク

アイルランド音楽の楽曲分析

⑴アクセント

次の楽譜を見て、どこにアクセントをつけたいか考えてみましょう。

The Sixpenny Money (Jig)

このリズムは「ジグ」ですね。「グルーヴ講座」のnoteにあった通り、一般的にジグのアクセントは表拍=足踏みをする拍につけます。しかし、「どんな曲でも、どんな場合でも」それは正しいのでしょうか?

もちろんそうではありません。もしそのように常に表拍にアクセントをつけていては、一本調子で、時には旋律に則していない不自然なアクセントになってしまいます。これは、リールやホーンパイプ、どんなリズムも同じことが言えます。

音型を見ると、1小節目のfAA fAAというパターンは第二オクターブのfが飛び抜けていて、続くAAは背景(バグパイプのドローンのようにメロディの後ろで鳴っている)を連想させます。旋律を構成する大事な音はfで、AAは後ろで刻んでいるような音なのです。(下図)

The Sixpenny Money (Jig)

ですから、fにアクセントをつけるのは理に適っています。それでは次は?

Going to the Well for Water (Jig)

これは迷いますね。先ほどの話で言えば、飛び出てるfが大事な音でAは背景なのだから、1拍の中の3つ目にあるfを強調するのが良いように思います。(下図)

Going to the Well for Water (Jig)

一方で「長い音は強い音」なのだから、1と2小節目の3拍がA、A、A、3と4小節目の3拍がB、B、Bと繰り返しているので、ここを強調するのが良いようにも思います。(下図)

Going to the Well for Water (Jig)

これは正解のない問いです。ですが、もしギターやバウロン奏者と一緒にアレンジを決める場合には、少なくともどこにアクセントをつけたいのかを統一しておかないと、ちぐはぐな演奏になってしまいます。このように、メロディを見ながらアクセントの場所を考えるアプローチについて学びましょう。

⑵スウィングと長短

アクセントの次はスウィングについて考えてみましょう。この曲を見て、どのようにスウィングをしたいでしょうか?

The Boyne Hunt (Single Reel)

「グルーヴ講座」では、リールのスウィングは二つの八分音符を均等な100:100ではなく120:80のような楽譜化できない微妙な揺れで演奏するものだと書きました。しかし、「どんな曲でも、どんな場合でも」それは正しいのでしょうか? 

もちろん、そうではありません。「リールだからスウィングする」のではなく、「強調している音が伸び、強調しない音が縮む」からスウィングするのです。では先ほどの例では、どの音が強調されるのでしょうか。

一般的にリールでは1拍を構成する4音のうち1と3つめの音が強調されます。このフレーズの音型を見ると1から3小節目はアルペジオ(分散和音、Broken Chord)になっており、4小節目はスケール(音階、Scale)的な音の動きになっています。

The Boyne Hunt (Single Reel)

この例のようにアイルランド音楽はアルペジオとスケールから成り立っており、バロック音楽の旋律と共通の特徴を持っています。以下はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲の演奏です。動画を再生してスコアを見てみてください。

また、このフレーズではアルペジオ的旋律である1、2、3小節目のうち、それぞれの拍の3つ目にF#が繰り返し現れていることに気が付きます。(下図)

The Boyne Hunt (Single Reel)

私であれば、この繰り返し現れるF#を強調するためにこれらの比率を大きめに(例えば130くらいに)、そして長めに(他の音よりも伸ばして)演奏するでしょう。一方で、このF#をより目立たせるために、強調すべきでない音はより比率を小さめに、そして短くするでしょう。

一方で4小節目の音階的な旋律では、あまり跳ねたりアクセントを強調するとせっかくの階段がガタガタになってしまいますから、1〜3小節目に比べると跳ねは少なめに、アクセント裏ではなく階段の頂上につけ、このフレーズはスタッカートではなくレガートに演奏したくなります。(下図)

The Boyne Hunt (Single Reel)

これはあくまで「私の解釈」であり、演奏者ごとに違ったアプローチがあるでしょう。大事なことは「どんな根拠でそのような演奏をしているのか」を考えてみることなのです。

今回のnoteではアクセントとスウィング、音の長短について述べましたが、講座では装飾音についての合理的な考え方や、変奏によってフレージングやアクセントを変える方法についても言及します。

このような音楽的アプローチはアイルランド人のレッスンで聞いたこともありませんし、私の知る限りあらゆる楽器のテキストにも書かれていないと思われます。そのため、読者はあまりに突飛で、また「クラシック音楽的」だと感じる人もいることでしょう。

しかし、先ほどのバロック音楽とアイルランド音楽とのつながりのように、これらの音楽は同じ根から生えた二つの幹のように私には感じられます。実際にMatt MolloyのフルートやKevin Burkeのフィドルの無伴奏ソロ演奏を聴くと、このような楽曲に即したアプローチに基づいてアクセントやスウィングを変化させてのびのびと演奏している様子がわかるでしょう。

「リールはこう弾くものだ。どんな曲も同じように弾けるのだ」という演奏では、何百曲のリールを弾いていても同じ印象を受けるでしょう。そして、ダンス音楽の役割がダンスの伴奏だけで良いのであれば、これほどたくさんの曲が存在する必要はないわけです。

演奏者が楽曲を丁寧に分析、独自に解釈し、その曲がもつフレーズ感、和音感、アクセントを引き出すことが演奏家の役割であり、この音楽を演奏する楽しみだと私は考えています。そして、これこそが何百曲ものレパートリーを持つ理由なのです。

講座では実際の楽曲を参加者と一緒に楽曲分析してその手法を学んでいただき、実演を交えながら一緒に練習をします。

グルーヴ実践ワーク

ダンス曲をたくさん練習した人であれば、「このフレーズは別の曲にあったな」とか、「このフレーズは別の曲のあの部分を移調しただけで同じ音型だな」「このフレーズは別のフレーズを1音ずらしただけだな」と気づくことがあるはずです。

例えば以下の曲はRolling in the Ryegrassという曲とThe Boy in the Boatという曲の出だしですが、まったく同じフレーズから始まります。

同じ出だしの曲

アイルランド音楽のダンス曲は細かなパーツ(パターン)の組み合わせから構成されています。例えるなら、レゴブロックのさまざまな形のパーツを自由に組み替えて作っているような音楽なのです。ダンス曲は最初の100曲程度までは覚えるが大変なのですが、その先はどんどん曲を覚えていけるのは、そのパーツを自分の中に取り込んだからです。

先ほど、演奏者が楽曲ごとに丁寧に分析、独自に解釈し、その曲がもつフレーズ感、和音感、アクセントを引き出すことが大事だと述べました。それを表現するためには、演奏者の都合は極力出さずに、音楽が要求するままに演奏することが理想です。

例えば「このフレーズの場合はどうしてもモタってしまう」、「アルペジオはノリが良いにスケールになるとノリが悪くなる」、「フレーズに関係なく特定の音に勝手にアクセントがついてしまう」、というのでは楽曲の都合ではなく演奏者の都合で演奏していることになります。

そこで、本講座では自由自在にグルーヴをコントロールするための実践ワークを紹介します。400曲を超えるリール、ジグ、ホーンパイプからパーツを抽出し、練習課題を楽譜としてお渡しします。

例えば、以下のようなリールの練習課題です。きっとどれも、何かの曲で演奏したことがあるフレーズなのではないでしょうか。

これらの課題を単にメトロノーム的に正確なタイミングで演奏するだけではなく、アクセントの位置を考えながら「リールとして意味があるように」演奏する練習をしましょう。

講座は3時間となっており、そのうち2時間が講習、残りの1時間は私のフルート・ソロのコンサートとなっております。定員10名で残りわずかとなっておりますので、ぜひ予約してお席を確保してください。楽器を演奏しない方やアイルランド音楽を演奏しない方のご参加も歓迎します。

【スウェーデン&アイルランドの笛1day講座】
会場:Ode Inc. (東京人形町)
日時:24年5月19日(日) 10時〜18時
参加費:各回5,000円(税込)
コンサートのみは2,000円
予約はメール hatao@irishflute.info まで
定員は各回10名まで

🌲スウェーデン音楽🌲 午前10時〜午後1時
【スウェーデンの笛音楽を練習しよう】
笛が盛んな中部ヤムトランドと南部スコーネのダンス音楽を学びましょう。オッフェルダールスピーパG管、アルト&ソプラノリコーダー、アイリッシュ&モダンフルートで受講できます。
ミニ・コンサートでは、ノルウェーとスウェーデンのたくさんの笛とバグパイプを実演します。

☘️アイルランド音楽☘️ 午後3時〜午後6時
【グルーヴ実践ワークショップ】
noteで大好評のダンス音楽のグルーヴ理論をご自身の楽器で実践します。200曲以上のジグとリールから音型を抽出したアイルランド音楽専用の練習課題に取り組みます。既存曲をサンプルにアクセント、強弱、スウィングの解釈について議論し、ダンス音楽をより魅力的にグルーヴさせる方法論を学びましょう。どんな楽器でも参加できます。
ミニコンサートでは、アイルランド、スコットランド、ウェールズ、ブルターニュ、ガリシアのフルート音楽を実演します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?