ブルーボトルコーヒーがEC事業でなぜ売れたのかを分析
こんにちは。しまだです。
今日は「ブルーボトルコーヒー(以下ブルーボトル)はなぜEC事業で売れたのか」という問いをテーマにnoteを書いていこうと思います。ブルーボトルの成功事例を分解して抽象化し、お店の担当者様が自分のブランドに転用できることを目指します。
今回のnoteはこんな人に読んでもらいたいです。
ブランドがどうやって有名になっていくのかが知りたい
自分が担当しているECサイトを成功させたい
ブランドから知恵を盗んで自ブランドに転用させたい
ブルーボトルの事例は、ブランドを知ってもらい愛用してもらうためのヒントがたくさん秘められています。まずはブルーボトルがなぜ売れたのかを深ぼっていきたいと思います。
1、ブルーボトルについて考えてみたとき
ブルーボトルについて思い出してみると、明らかにほかのコーヒーショップとは違う印象を受けました。何が違うかを考えてみると、「ロゴの思い出しやすさ」で競合ブランドと一線を画しているなと。
ブルーボトルの競合にはスタバやドトール、上島コーヒー、サンマルクカフェがありますが、ロゴの詳細を思い出すことはできませんでした。なんとなくの色のイメージはできますが、スタバのロゴにいる人のような絵が何なのかはさっぱりわかりません。
ユニクロや三井物産のロゴを手がけた佐藤可士和さんはこんなことを言っていました。
つまり、誰でも思いつくような洗練されたデザインは一発で理解でき、頭に入るため記憶に残ります。
ブルーボトルのロゴも同じことが言えるのではないかと思いました。シンプルな青いボトルが描かれたロゴはブランド名ともリンクしていてわかりやすい。だから「想起」されやすい。
ただ、想起されやすいからといって売れるブランドになるとは限らない。競合と明確に異なるベネフィットや差別化のエッセンスがないと顧客は振り向いてくれないからです。
2、業界でのポジショニング
では、「異なる」というのは、どこに対して思ったか。思い返してみるとデザインが洗練されていておしゃれと思った記憶があります。
ということは、デザインが洗練されていておしゃれ ≒ 他のコーヒーショップはおしゃれと思ってない。ということです。
この気持ちと価格帯を軸に、これまでのコーヒー市場の移り変わりを考慮した主観でマッピングしてみました。
このポジショニングマップは、X軸を「ファッション性」、Y軸を「価格」に設定しています。また、缶コーヒーの登場や、各お店がオープンしたタイミングも表示されています。
1950年代に喫茶店が流行りだしてから、缶コーヒー、ドトール、スタバ、ブルーボトルの順にオープンしています。時間の経過と共に、より高価格でファッション性の高いコーヒーショップが登場している流れを読み取ったブルーボトルは右上のポジショニングで参入したと推察できます。
しかし、ポジションにいるだけでは売れません。そこに実際にニーズがあるかはわからないし、もしニーズがあったとしてもそこにいることを根気強く発信して、伝え続けるリソースが必要だからです。
では実際ブルーボトルの場合はどうだったのか?広がっていった理由に考察を加えてみます。
①洗練されたデザインにニーズはあったのか
結論、洗練されたデザインに対してのニーズはありました。
そのニーズの正体は「おしゃれな消費をしたい」というものです。
ブルーボトルが参入する以前は「おしゃれな消費をしたい層」をスタバが握っていました。新作フラペチーノを持ち歩いていることやMacbookを広げて作業していることをSNS上にアップしているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。
スタバとドトールのインスタグラムのハッシュタグ数を比較してみても、#スタバは870万件、#ドトールは25.1万件と、圧倒的にスタバの投稿が多く、インスタ映えな写真を取りたいがためにスタバに行く人がたくさんいるのは事実のようです。
しかしながら、これまでスタバに通うことこそがおしゃれであることを示す手段が一般化・大衆化されてしまったことから、「スタバの写真を載せること」はおしゃれを示す手段としては弱くなってしまった。ここで「おしゃれな消費をしたい層」が新しいブランドを新たに探しているタイミングでブルーボトルコーヒーが登場したというわけです。
さらに、この「おしゃれな消費をしたい層」はSNSでの発信を積極的に行うことから、ブルーボトルコーヒーの認知獲得に大きく貢献する存在であったと考えられます。
イノベーションに関して、新しい商品やサービスがどのように市場に浸透していくかを対象顧客の情報感度を軸に5つの層に分類する「イノベーター理論」では、商品やサービスが一過性で終わらずに市場に浸透するために、その普及率がイノベーターとアーリーアダプター合わせて16%を越えるかどうかが一つの分岐点になる。
イノベーター理論でのイノベーターとアーリーマジョリティは、情報感度が高く、SNSでの情報収拾・情報発信に優れているため、初期の購買層に最も多く含まれます。
「おしゃれな消費をしたい層」はイノベーター理論でいうイノベーターやアーリーマジョリティであり、彼らによるSNSの発信はクチコミとして拡散され、最も人数の多いアーリーマジョリティ・レイトマジョリティに対して影響を与えたと考えられます。
要点をまとめると、「スタバでは満足できなくなった、もっとおしゃれでワンランク上のSNS投稿をしたい層」が情報をキャッチ・利用・拡散することで広がっていった。ということになります。
②しっかりとした味わいで差別化
ここでもう一度ブルーボトルのテーマに立ち返ります。
2020年にブルーボトルコーヒージャパンの伊藤氏は『ブルーボトルコーヒーが公式オンラインストアを開設した理由とは?オンライン・オフラインを通じた多様な接点作りと、変わらない”美味しいコーヒー”体験』で次のように話されていました。
※スペシャルティコーヒーとは風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーのことです。
ブルーボトルはこのスペシャルティコーヒーを提供するということを徹底的にこだわり抜き、コーヒーの美味しさのピークを楽しむことについて焦点を当てたブランドです。
つまり、ブルーボトルは「コーヒーが好きな層」を狙う必要があります。なぜなら、継続した購入をしてもらうためにはブランドのテーマと合致した顧客と関係を構築する必要があるからです。
ここで、先ほどの洗練されたデザインを追求したことが功をなします。「スタバでは満足できなくなった、もっとおしゃれでワンランク上のSNS投稿をしたい層」が情報をキャッチ・利用・拡散したことは結果的に、「コーヒー好き」かつイノベーターやアーリーマジョリティである顧客がブルーボトルの認知をすることに貢献しました。コーヒーにこだわりの強い顧客がブルーボトルコーヒーを利用する。
「これは確かに美味しいコーヒーだ」と口コミが広がる。
初めは「おしゃれなコーヒー屋さん」でスタートしたのが、だんだんと「おしゃれかつコーヒーが美味しいコーヒー屋さん」に発展していったと推察できます。
まとめると、SNSで拡散されたことにより、「コーヒー好き」の顧客が認知・利用。だんだんとコーヒーも美味しいという評判が広がり、「おしゃれで美味しいコーヒー屋さん」という地位を確立することに成功。
僕自身も飲んでみたんですけど、爽やかな明るい酸味が印象的で雑味が全くなく、黒いコートを纏った英国紳士を思わせるような、優雅で大人っぽいコーヒーだなと感動しました。
3、ECサイトでより優良な顧客の育成に成功
さて、長い前置きはこれで終了です。
ここからはブルーボトルがECサイトをどのように運営しているかについて考察を加えていきたいと思います。というのも前述した通り、継続した購入をしてもらうためにはブランドのテーマと合致した顧客と関係を構築する必要があるからです。
ブランドのテーマと合致した顧客と関係を構築するにはどうしたらいいか。それは「ブランドのストーリーを知ってもらうこと」です。
ストーリーは統計データよりも記憶に残りやすく、人の考え方・価値観に共鳴し、行動を変える力が秘められています。
この観点から見ると、ECサイトの構築でもブルーボトルは賢いと思います。ECを「物を売る場所」だけではなく「ブランドについて知ってもらう(ブランディング)場所」とその意味を広げたからです。
ECサイトをブランドについて知ってもらう場所と定義ることで、ブルーボトルにとっては2ついいことがありました。
①購買頻度の増加
1つ目は購買頻度の増加です。一人の顧客がブランドを利用し始めてから死ぬまでの間でどのくらいブランドに価値をもたらすかの指標を「LTV=ライフタイムバリュー」と言いますが、これを見たときに購買頻度を上げることは大切な視点です。
ECサイトは実店舗と比べて物理的な制約がないため、利便性が高く、顧客の購買頻度をあげやすい特徴があります。
コーヒー店でコーヒー豆を調達し、家で淹れる人がいないと議論にならないので、該当する方がどのくらいいるのかで調べてみると、304人中78の人が当てはまっていました。
つまり何が言いたいかというと、おうちコーヒーの需要は一定数あり、ブルーボトルが狙うべき「コーヒー好き顧客」の中には家でも気に入ったブランドのコーヒー豆でコーヒーを淹れて飲んでいる人がいるということです。
この「コーヒー好き顧客」がECサイトでコーヒー豆を購入し、おうちコーヒーを楽しむという流れになっていると考えられます。
②ブランド選好の向上
ブランド選好とは、心理的なロイヤルティと言い換えることができ、顧客が特定のブランドに強い思い入れを持ち、愛用している状態のことを指します。
要するに、次も購入したいブランドであるかという指標がブランド選好になります。
ブランドが生き残っていく上で大切なのは購買頻度を上げることに加えてブランド選好を向上させることです。
なぜ購入頻度だけでなく「次も購入したいブランド」であるかが大切なのかというと、顧客は他社ブランドや代替品の間を絶えず動き続けており、購買頻度を向上させるだけでは他のブランドに浮気されてしまうからです。
大切なのは、機能面に加えて情緒的な繋がりを持つということ。
例えば、顧客がブルーボトルを利用する理由が「美味しいコーヒーを飲める場所」というような機能面だけであるとしたら、もっと美味しいコーヒーを提供するコーヒー店Aが出てきた時に簡単に乗り換えられてしまいます。
これが、ブルーボトルについてはよく知っている。焙煎したてのフレッシュなコーヒー豆だけをお客様に販売し、フレーバーが最も美味しいピーク期間に提供している。
豆も最高品質で、最も美味しく責任をもって調達したものだけをいただくことができるのが「好き」と心理的な結びつきがあれば、コーヒー店Aがオープンしても「やっぱりブルーボトルが良い」となるはずです。ブランドはここを目指すべきです。
ではブランド選好を上げるためにはどうしたらいいか?それはブランドの世界観(ストーリー)に共感してもらうということです。ブルーボトルではそのプロセスにECを利用することで顧客との情緒的な結びつきを強化しています。
ブルーボトルではブランディングのためにECを構築し、見事に事業を軌道に乗せました。購入してもらった顧客に対してブランドのビジョンやストーリーを知ってもらうという位置にECを活用し、「コーヒー好き」をどんどんファンにしていったのです。
4、自社サイトをShopifyで構築したことがECを軌道に乗せた
では実際ブルーボトルのEC戦略はどのようなものがあったのか。それは「Shopify」で「自社EC」を構築することです。
Shopifyを選んだ理由として次のように語られています。
拡張性
内省化
デザインの自由度
以上がShopifyの強みであったと語られていますが、実際はどうなのでしょうか。
現在ECを立ち上げようと思った場合、「Shopify」「BASE」「STORES」など主流と言われていますが、Shopifyとこれら2つの最大の違いは以上の3つの利点を同時に補える点です。
Shopifyには「Shopify Apps」と呼ばれるアプリの仕組みがあり、足りない機能をアプリで簡単に拡張することができます。つまり、業種や事業形態に合わせたカスタマイズが可能であり幅広くも深いECサイトが作れます。
また、APIが公開されているため、比較的容易に独自の機能や追加開発が行えることから、デザインの幅も無限大です。
ECを全体的に見ても、未来を担うのは個人的にはShopifyではないかと思っています。
個人ブランドが多く立ち上がっていく中で自ブランドの特色を出すのはShopify以外だと難しいからです。
長期的に愛されるブランドを作って行きたいのだとしたら月額費用こそかかるものの、Shopifyをおすすめします。
5、ブルーボトルから学ぶ、小さなEC事業者が意識するべきこと
これまでブルーボトルというブランドが売れてきた要因について議論してきましたが、ECをやっているが規模感がそこまで大きくない、これからECを始めようと思っている、具体的には年商1億円以下の事業規模の方に向けて解説していきます。
①短期的な売上や利益より長期的な関係性を構築する
D2Cの最大のメリットは顧客との関係性の構築しやすさだと思います。
短期的なプロモーションによって瞬間的にトランザクションを増やすのではなく、LTVを重視し、売上を積み重ねていく。
LTVを上げる要素として機能的価値だけではなく情緒的価値を理解してもらえる導線設計が必要になってくるわけです。
その情緒的な価値はブランドの世界観に共感してもらうこと。ブランドの世界感に共感してもらうためには、こだわりが「伝わるように」ECサイトを設計しなくてはいけない。伝えると伝わるは違います。色調や文体・フォントには細心の注意を払うべきです。
②こだわり作業に時間を割く
ブルーボトルというブランドはコーヒーに対して暑さを感じるほど強いこだわりが見えました。全てはスペシャルティコーヒーをブームから文化へ昇華するためであり、このこだわりに共感したユーザーがファンになっていることを説明しました。
しかし、EC運営は思ったより膨大な作業に追われることになるため、こだわりをさらに深めたり、ブラッシュアップする作業になかなか時間を取れないという事実があります。
これを可能にするのが「DX」という考え方。テクノロジーを駆使し「顧客が求める価値「顧客の姿」「ブランドの世界観」「世界をどうしていきたいのか」 を考え続けるための時間を確保しましょう。
仕組みさえ整えれば誰にでもできる作業をテクノロジーの力で自動化し、こだわるべきブランドのメッセージをアップデートすることに注力してください。
③それでもやっぱり人の温かみが必要
テクノロジーを駆使した簡便化・効率化の費用対効果は高く、仕組みに価値があると思いがちですが、それでも人との接触ポイントを設けることこそがファンを作り、ブランドを安定させる秘訣だと考えています。
ブルーボトルでは、店舗での感動体験で得られた信頼をECですくい上げることによってLTVの最大化を実現しました。
つまり、ECの成功には人や場所を通じた体験で得られる「心地よさ」「楽しさ」「嬉しさ」に裏付けられた信頼があり、その信頼を元にユーザーのブランドを使い続けるという好サイクルが生まれるのです。
EC界隈で注目を集めている「ミウラタクヤ商店」ではオンライン接客として顧客とLINEを使った一対一のコミュニケーションで距離を縮めているそうです。
こうした、人が介在していくサービスの価値はまだまだ健在しており、自社ECで事業を成長させていきたい担当者の方は対人のコミュニケーションでバリューを出していくと、他のブランドに浮気されない積極的で熱狂的な顧客を育成することができます。
まとめ
顧客の個性は時代を経て細分化し、よりパーソナルな世界に入り込むブランドでないと長く使ってもらえない時代に突入していると感じます。
顧客がどんなブランドを選択するのかについて再定義する必要がある方もいるかもしれません。だけど、それが楽しい。
みんな良いものが知りたい。良いものを作れば、良いものが見つかった。と声が届く。そんな瞬間を大切にしたいものです。
最後に少しだけ。僕はDMMチャットブーストというサービスのマーケティング責任者をやっています。Shopifyや店舗などの「お店」と「LINE」でファンをいい感じに増やすサービスです。
ちょっとでも気になると思ってもらえていたら光栄です。
ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました。8割の当たり前の中に2割の新発見があったなら嬉しいです。
ではまた次の記事でお会いできることを楽しみにしています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?