異常に倹約家な母の話


明らかに他の人とは違う事https://note.com/cats_wine_snoopy/n/n5533162fd276

 これを書いててふと思い出した事がいくつかある。
うちの母はやはりかなりの倹約家だった気がする。

 母の倹約ぶりはうちの転校先でもいかんなく発揮され、娘である自分と妹にとっては大迷惑だった。
というのも、転校先の制服を買い揃えられるまでの間、以前通ってた小学校の制服のまま通える様にと、転校先の校長先生にお願いしたのだ。
どうせそんな母のことだから、たった1年しか通わなかった小学校の制服がまだ着れるのに、新しい制服を買うのが勿体ないと思ったに違いない。
ちなみに前の小学校は男女問わず紺色の半ズボン、上は白地に紺の縁取りの体操服。
転校先はあずき色の半ズボンに、上は白地にあずき色の縁取りの体操服。
紺色とあずき色、分かりやすく言えば赤と青。
これだけ真逆の色なのに、全校生徒200人のあずき色集団の中、たった二人で紺色で通え、と😑
うちは恥ずかしくて仕方がなかったし、その他校の制服のせいで内弁慶な妹がまたからかわれたりいじめられたりするのではないかと、姉としてそれが心配で仕方がなかったのに、そんな事はお構い無しな母のケチっぷりは腹立たしかった。
更に驚いたのが、制帽。
「新しい学校も黄色だから暫くはそのままでいいでしょ」と💦
同じ黄色ではあったが、最初の学校はぐるりと1周つばのある帽子、新しい学校は男女問わず前面だけつばのある野球帽の様な形。
形が違う時点で目立つのもイヤだったけど、何に驚くって、どちらの制帽にも校章が入ってるのに、前の学校の校章の入った黄色い制帽をかぶれと?いゃいゃ、無理やろ、って、小学2年生ながらに思ったけど、口に出して母には言えなかった。

 そんなに貧乏ではなかったと思うけど、そんなにお金持ちでもなかったし、母がかなりの倹約家というか、変なところで徹底してケチな部分があるのをなんとなく子供心に感じてたから。
 しかしこんなうちの母、遣う時は遣うのだ。
外食や旅行や誰かへのプレゼントや季節の行事でケチケチしてる姿は見た事が無い。
むしろめちゃくちゃ豪快に使うし、泊りがけの旅行に行くと、最初に部屋まで案内してくれた仲居さんの人数分のポチ袋をお財布から取り出し、お金を入れ、次に何かの用事で仲居さん達が来られた時に、部屋の入口や廊下でこっそり渡している姿をよく見掛けた。いくら入れてたのかは知らないけど、複数人に渡すので、そんなに凄い金額を入れてたわけでも無いと思う。
ただ、渡すタイミングが上手いというか、子供心に、「なるほど」と感じてた部分は大いにある。
仲居さん達が何かと物凄く良くしてくれるし、夜の宴会でカツラやコスプレグッズ等の色んな小道具を持ってきて盛り上げてくれたりもする。そして宴会の際に更に仲居さんが増えてたりすると、お手洗いに行くフリをして、またポチ袋を取り出し、新たに増えた仲居さん達にこっそり渡す。
日頃、ほんの少しでも電気を付けっぱなしにしたぐらいで口うるさく言う母が、初めて会う見ず知らずの人達にお金を気前よくバラ撒いているのだ。
そして翌朝旅館を出る際は、前日に盛り上げてくれた仲居さん達が入口にズラーーーっと勢揃いして、女将さん達と一緒に、うちの車が見えなくなるまで手を振ってくれる。
そしてとても楽しかったので、翌年もまた同じ旅館を予約する。すると女将さんや仲居さん達も覚えて下さってて、毎年その旅館の皆さんに会いに行きたくなる。我が家ではそんな行きつけ旅館が数軒あったし、両親は未だにその旅館へ行ってる様だ。
でもそれがチップのせいではなく、チップを渡さなくてもきっと充分に楽しく盛り上げて下さるとは思う。たぶん。

 自分は高校を出てバス会社に就職し、バスガイドになった。
 そしてあのお金入りポチ袋を、「お礼」や「謝礼」の様なタイミングで後に渡すのではなく、先に、「よろしくお願いします」の意味で渡すお金の事をチップという呼び方ではなく、「心付け(こころづけ)」という呼び方をする事を知った。自分はそれに「御(お)」を付けて、「御心付け」と呼ぶ立場のバスガイドになってみて、初めて気付いた事がある。
あれは媚を売るための物でも賄賂や袖の下でも謝礼でもなければ、やはりあれは「御心付け」なのだ。
バス旅行の最後にポチ袋やティッシュに包まれたお金を頂く事もあったが、それは明らかに謝礼やチップで、必ず「とても楽しかった。ありがとう」とか、新人の頃は「応援してます」とか、そんな言葉を添えられて頂戴してた。
でも「御心付け」は真逆で、旅行の朝一番の幹事さんとの打ち合わせ中、いや、なんなら打ち合わせより先の、朝のご挨拶をした時点で、幹事さんが他のお客様達に見えない様にこっそりと、バスガイドとドライバーと添乗員さんに手渡して下さる。
それは、幹事さんが「この旅行、お任せしたよ。みんな楽しみにきてるから、よろしくね」という、お客様のご期待を代表しての幹事さんからの御心付けなのだ。
自分が御心付けを頂こうが、頂くまいが、それが仕事に影響する事は無い。
御心付けをくれないからといって手を抜くなんて事は絶対にしないし、いつだってその時の一生懸命をやってた。
けど、ひとつ違うのは、御心付けを頂く立場として、その幹事さんに対する目線が変わる事。
御心付けは幹事さんのポケットマネーであったり、もしくはお客様から幹事さんが集めた旅費から出てるので、もしかしたら結果的にはお客様全員から頂いているという理屈になるのだが、「心付けを渡す」という行為自体が「粋(いき)」であり、「この幹事さんはこの旅行のリーダーとして、みんなを楽しませたいんだな」という気持ちがこちらに伝わってくるのだ。
しつこい様だが、うちはお心付けをくれない人に対して、仕事をおろそかにしたり、接客態度を変えたり、マイナスな行為をした事はないし、いつも一生懸命だった。
ただ、幹事さんがみんなを楽しませようという思いが伝わるので、こちらもそのお力添えをしよう、という気持ちが一層強くなるのだ。
母が仲居さん達に心付けを渡していたのは、うちら家族や、一緒に旅する仲良し家族や親類に楽しんで欲しいから「たくさん盛り上げてね、よろしくね😉」の意味で、関わって下さる仲居さん達全員に渡していたのだ。
常日頃、倹約を通り越したドケチっぷりを発揮してた母は、そんな日常とは違った特別な日のために、全てを倹約していたのだろう。
うちは母のそういう姿を見て、いつかあんな風にしたいと思いつつも、たいていひとり旅の素泊まりだし、旅行中はほとんど外で遊んだり飲み歩いてるので、まだそんな粋な事をしたことが無い。
いや、ひとり旅でも心付けを渡してもいいのだが、ポチ袋に入ってるとはいえ、料金以外の現金をそのまま渡す行為が、自分にはまだ似合わずに様(サマ)になってなくて、粋でもなく、生意気に見えるんじゃないかと思ってしまうのだ。
なので1度訪ねて顔見知りになった宿には、その宿の方々に合った手土産を持っていく事にしてる。
そしてもう2回目からは厚かましくも「ただいまーー!!」と田舎のおじいちゃんやおばあちゃんちに帰るノリでご挨拶してる。

これが異常に倹約家の母を見て学んだ人当たり術かもしれない。

浜松市天竜区水窪の新店和泉屋の屋根と外壁の補修工事に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します。