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なぜまたお笑いのネタが炎上してしまうのか

別に何も炎上してるタイミングじゃないけど、いつか読んでほしいと思って書いたので置いときます。

「これは素晴らしいネタだ!」と思ってテレビに送り出したネタが、こてんぱんに叩かれて封印されてしまうのは悲しい。
誰かを笑わせるために作ったはずなのに、誰かを傷付けてしまっているのは悲しい。

炎上が起こるのは文脈が共有されていないから

お笑いライブであんなにウケていたネタがテレビで炎上してしまうのは、見る人の前提知識によってネタの文脈が変わってしまうからである。

ゾフィー「母が出て行った」

キングオブコント2017の決勝で披露されたこのネタが炎上したときは衝撃だった。
ライブシーンでは「飯への執着すごすぎだろ!」と爆笑が起きていたネタが、テレビでは「母親を飯扱いするなんてひどい」という反応になってしまったのだ。
ネタを書いたゾフィーの上田さんは後にこう語っている。

「無知が炎上を生んでいる。「こんなヤツいるわけない」という前提で作ったネタだったけど、実際には「息子にメシ扱いされていて、コントでもメシ扱いされることに傷ついた」という人がたくさんいた。演技に熱が入りすぎて、コントのキャラクターではなく芸人本人の主張だと捉えられてしまった。「いない」ことが前提のネタなのに、「いる」のであれば印象が変わってしまう。社会にはそういう人もいると知らなかった自分たちが悪いから、傷つく人がいるならやってはいけない」

ちなみに2017年のK-PRO年忘れライブでは、このコントを「お母さん大好き!お母さんのつくったメシが大好き!」というフォローをこれでもかと入れて爆笑をとっていた。

お見送り芸人しんいち「Dear天海祐希さん」

2017年1月に「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 山-1グランプリ」でこのネタを披露したところ、天海祐希さんのファンから殺害予告を受けたとのこと。

ちゃんと聞いていると「天海祐希さんは素晴らしい人」とさんざん説明しているので「売れてない芸人(社会的に弱い人)が芸能界のスター(社会的に強い人)や多数派に噛みつく」「そもそも付き合えるはずないからアリ・ナシ言える立場じゃないのに、執拗にこだわる」構造だとわかる。

しかし、ちゃんと聞かない人にとっては「俺はなし」と言うフレーズだけが残るので男性(社会的に強い人)が女性(社会的に弱い人)を値踏みするというハラスメントになり、「女性をアリ・ナシでわけるのは失礼」という印象になってしまう。

ハリウッドザコシショウ「乞食ママのコジロック

元動画は削除されているので、なんとなく動画の雰囲気がわかるブログを貼っておく。(※ 元動画のキャプチャではなく、類似のまた別のネタの写真)

慎吾ママのおはロックの替え歌で「乞食ママ」の生態を身振り手振り交えながら歌う…みたいなネタだったのだが、「ホームレスや障がい者への差別を助長している」という指摘を受けて削除された。

これも「こんなヤツいねーよ!」という前提が共有できずに、「こういうヤツがいると思われるだろ!」という反応になってしまったパターン。

ハリウッドザコシショウさんの人柄や芸風、SMAでずっと下積みしてきた歴史を知っていれば「昔からやってた」「愛がある」という反応になる。

そもそも芸人の売れていないうちは貧乏生活を強いられることが多く、彼女と同棲していたところを追い出されて家を失ったりと、ギリギリのラインで生きている人も少なくない。

本人からすれば「自分に近い立場(社会のはしっこで生きる人)」を誇張しているつもりでも、知らない人からすれば「社会的成功者(テレビで見る芸人)が社会的弱者(ホームレス)をイジる」という構造に変わってしまったのである。

※ 本当の意図は本人にしかわからないので、あくまで自分の解釈であることはご承知いただきたい。

必要なのは適切なゾーニングと文脈を伝える努力

炎上したときに悲しいのは

「楽しんでる人がいるのにいちいち水差すな」
「わざわざ文句言ってくるヤツらめんどくさい」

というお笑いファンと

「これを笑えるヤツの神経疑う」
「もうこいつらのネタは一生見ない」

という一般視聴者との間でお互いに「あいつら頭おかしい」と叩きあうことである。

「誰」が悪いのかを考えるのは意味がない。

「何」が問題で「何」をすれば適切に伝わったのか、ということを考えることが1番大事ではないのか。

リスクを取らずにできる表現なんてない。

無料で公開されるテレビやインターネットは「わかる人にだけわかればいい」わけではない。
でも、炎上を恐れすぎて熱量の高いファンが集まったお笑いライブでまで表現をためらっていては意味がない。

一度の失敗で「もう一生許さない」という反応をする世の中はちょっと窮屈すぎないか。

お笑いライブに足繁く通う自分でも、「見る人が見たら本当にちゃんと炎上するんだろうなぁ」とライブで思うネタに出会うことはたまにある。
でも、別にお笑いライブでは見る人は見てないので思う存分にネタをしてもらって大丈夫である。

最後にAマッソ加納さんの言葉を引用して終わる。

「ぜひよければ、心に一畳だけ、無駄を受け入れるスペースを作って劇場に来てほしい。そうすればもっといろんなタイプの芸人を好きになってもらえると思う。」

引用元のエッセイも素晴らしいので是非↓


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