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日記 ロールケーキと香水を愛する

残業が終わり、会社から帰宅したら、父親からメールが入ってた。「親戚からたくさんお菓子をもらったんだ。食べきれないから、もし帰宅していて都合がよければ、持ってくよ。ロールケーキ。」

私は実家からさほど遠くない場所に一人暮らしをしている。そのため、ときどき、家族が食べものなんかを持ってきてくれる。これはとてもありがたいことだ。家族には感謝している。
ほどなくして父親は、ケーキ屋さんの箱に入ったロールケーキを持ってきて、そそくさと帰っていった。これではまるで宅急便だ。

箱を開けると、ロールケーキは、ブッシュドノエルのように、長いまま、大きくそこに鎮座している。私はそれを何切れかに切り、食べきれない分は冷凍保存することにした。いちばん大きく切ったひとつを、今日のご褒美に頬張る。セブンでスイーツ買おうか迷ったけど、買わなくてよかった〜。中に栗が入ったロールケーキはふわふわだ。柔らかく、甘く、疲れからわたしを遠ざけるように、機能する。

そのあと、私は体がすごく疲れていたので、早めにお風呂に入った。お風呂に入ったあと、友達のインスタをみていたらふと、フランスに旅行したときのことを思い出した。社会人になる前の最後の春休み、私はヨーロッパにひとり旅にいった。フランスのパリは、その旅の最初の目的地だった。友達がたまたま住んでいたので、会いにいった。

そのときに友達は、香水のお店があるよ、と教えてくれた。せっかくのパリ、と思い、一緒に行くことにした。
私は強い匂いが苦手で、香水も何度か試そうとしても、頭痛がしてしまう。
友達が連れてきてくれたお店の香水はしかし、全く気持ち悪くならず、爽やかで素敵な匂いのものばかりだった。さすが、本場…と思いながら、買った香水。

それをやっと、棚の奥にしまっていたのを思い出し、ごそごそと取り出す。

風呂上がりに手首にそっとつけてみた。

花の香りが広がる。とても爽やかで心地が良くなる。同時に、シャルル・ド・ゴール空港の、あの湿度の低い乾燥した空気と、人々がつけているオーデコロンや香水の香りの混ざった匂い、そして聞き取れないフランス語が、よみがえる。

わたしは、ああ、生きている。いま、生き生きとしている。と感じた。初めての香りだけど、慣れない香りだけど、つけてみてよかった。旅をしてよかった。そう思う。

旅をするとき、わたしはいつも家族に対し、一抹の後ろめたさがあった。学生のころ、親に金銭的に援助してもらって、海外に行けるなんて、甘えている、と自分を責めながら、それでも親にやっぱり甘えていた。旅先や留学先で体調を壊したりしたこともなんどもあった。そのたびに、行かない方が家族のためだろうか、とか、お金の無駄だろうか、とか思った。家族は行けないのに、自分だけ良い思いをしたいのか、と脳内で、誰かの声が意地悪く響くこともあった。
しかし、働き始めた今もまだ、家族への後ろめたさが消えないのも事実だった。

わたしは、ロールケーキも香水も、必要なのだ、と思う。ロールケーキだけでも、嬉しい。けれども、香水の香りも、わたしが、心から生きていくためには、必要なのだ。わたしは贅沢で、わがままだ。けれど、ロールケーキも香水も、わたしは愛することができる。

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