156.うみべの女の子(2021)
『ソラニン』といい,本作といい,浅野いにお原作漫画は想像したより実写化と相性が良いらしい(『おやすみプンプン』に関してはどうだろうか)。中学生である佐藤小梅を二十歳を過ぎた石川瑠華が演じているのは,強い性描写への配慮だろう(本作品で彼女は惜しげもなくヌードになる)。中学生という設定ながら,浅野らしく,なかなか過激な内容である。この映画は磯部恵介(青木柚)と佐藤の中学生の男女2人に焦点を当てて進んでいく。磯部は写真でしか見たことのない「うみべの女の子」という幻想を追いかけているが,たまたまセックスフレンドとなった小梅を手放せない。小梅は「気分転換」で磯部と寝るのだが,興味本位だった気持ちはだんだんと恋心へと傾いていく。情緒のコントロールが困難な中学生が,その流れで相手に恋心を抱くようになるのは当然のなりゆきだろう。関係を恋愛的にしたくなかったはずの小梅は,磯部のPC内に保存されていた「うみべの女の子」の写真を削除する形で,幻想を形而上的に殺し,彼と仲たがいしてしまう。男女関係において一番厄介な「嫉妬」という感情のやり切れなさが思春期の繊細な感受性と絡まってどうにも切ない。幻想が打ち砕かれた因果か,磯部は海辺で「幻想」とリアルな邂逅を果たすことになるが,彼女のもとへたどり着く前に磯部はカルマによって「挫折」してしまう。ファム・ファタルと呼ぶには幼い小梅ではあるが,磯部はその呪いにかかり,破滅するのである。女性に強い幻想を持った男性が破滅していく展開はいかにも浅野らしい。ファストシーンの小梅はなにかを探しながら海辺を歩いているが,ラストシーンの彼女はもう探し物をしていない。小梅は,1つの「物語」を通して,探し物を見つけたからである。探し物が手の中にあることに気づいたとき,少女は大人になった。たとえ最後に元いた場所へ戻ってくるとしても,成熟するためには他者と関係を切り結ぶ経験が必要だということをこの映画は教えてくれる。
監督*ウエダアツシ
主演*石川瑠華
2021年
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