157.ミナリ(2022)
移民に光を当てた,静かで地味な映画である。「ミナリ」というのは韓国語で「セリ」を意味する単語だ。セリは再生力のある力強い植物であることから,母国以外の国に根を張る移民のメタファーとして作品内に登場する。アメリカは年間70万人を受け入れる移民国家であり,その文化的多様性が国力を支えている。カメラはそんなアメリカで移民として生活する家族を優しく見守る。三世代の家族が苦難を乗り越えていく過程を自然に描いており,その力強くも優しいメッセージが観客の胸を打つ。家族関係の「うまくいかなさ」を掬い取ったことで,作品にリアリティが浮かび上がっている。大げさなプロットも重厚な劇伴もない。そこには「生活」があるだけだ。それぞれの家族には固有の価値観や考え方があり,誰もがもがきながら光を見つけようとしている。カメラはその姿の中に「愛」を見つけた。これはその愛の記録である。
監督*リー・アイザック・チョン
主演*スティーヴン・ユァン
2022年
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