月組「グレート・ギャツビー」感想
こんにちは carolです。
※今回かなり本編の内容をネタバレしているのでご注意ください。
全体について
内容について
小池マジックにかかったような気がしました。
そもそも原作は読んだことありません。ただ2013年版のレオナルドディカプリオ主演の映画は見に行きました。そうしてその時思ったんです。「どいつもこいつもロクでもねえな」と。1番「おいおい」と思ったのはヒロインのデイジー。もうフラフラしてて、危なっかしくて、見ていられない。あとはまぁ「はっきりしろや」とも思いましたよ、えぇ。そしてヒロインがそんななのでそんな女を求める主役の株が若干下がるんですよねぇ。「あの女のどこがそんなにいいんだ」とギャツビーとトムに頭の中で問い続けていたような記憶があります。
ただそれと同時にそんな困ったちゃんのデイジーが非常に愛らしく魅力的に見えたことや、クライマックスでギャツビーの正体を知って動揺を隠せないデイジーに対して未練がましく縋るギャツビーの何とも言えない切なさがやけに印象に残っている作品でもありました。
それから10年近い年月が流れ、私も大人になったのか(笑)大抵の物語を許容できるようになりました。「登場人物が全員ロクでもない人物だって、ヒロインが困ったちゃんだっていいじゃないか」という謎の開き直りもありましたし、このどうしようもない人々の物語のタイトルに「グレート」が付くのはやはり面白いなと感じるようにもなりました。
宝塚版も観たことはなかったのですが主題歌の「朝日の昇る前に」は聞いたことがありました。まあ華やかな舞台にはなるだろうし、月組の名役者たちがこのろくでもない人々をどう演じるのかは楽しみにしていました。
ところがいざ観てみたらそもそも作品から受ける印象が全く違ってびっくり。みんな全然ロクでもなくないじゃん‼︎あれ、もしかしてこの話結構いい話だったの⁉︎というのが終演後の素直な感想です。
これは小池先生の潤色の影響が大きいのではないかな。いまや日本ミュージカル界の巨匠と呼ばれていたりいなかったりする小池先生ですが、この先生ってやっぱり宝塚の演出家だなと思うんです。どこがって何でもかんでも「 ‟清く、正しく、美しい” 娯楽作品」にしてしまう所が。小池先生はこれまでも色々な漫画や映画の舞台化をしてきたけれど、先生の作品ってどれも原作しらなくても1回見ただけでストーリーは100パーセントわかるし、演出も飽きさせない仕掛けがたくさんあるから私は好きです。その反面、原作の持っている「仄暗さ」だったり「翳り」だったりという部分は消えちゃうんですよね。「ポー」の時は結構そういう面で怒っている感想を結構見かけた気がしますし、「ワンス」の時は「多分原作はこういう感じじゃないんだろうな」とうすうす感じながら観ていました。
ただこの「グレート・ギャツビー」に関しては先生のそういうところが良い方に働いたのでは?と思います。昔映画を観た時は「碌でもない」と感じていた人々が彼らなりに苦悩したり苦労したりして生きてきたんだなぁと感じることが出来て、最後の方少しウルッと来てしまいました。
セット、衣装
私が映画を見たときに1番印象に残っていたのって「灰の谷」の「神の眼」(眼科の広告)でした。あれがとにかく不気味で、不吉で華やかな世界観のこの作品で一際存在感を放っていた記憶があります。今回の舞台にももちろんその看板は登場するのだけれど、あまり印象に残らなかったような。結構灰の谷に溶け込んでいて「背景」といった印象を受けました。それが「神は見ている」のナンバーでいきなりグワっとセンターに来た時はやっぱり少しドキッとしました。
あとはやっぱり桟橋。セリとバックの映像だけで桟橋を表現する手腕だったり、向かい岸の光だったり、シンプルなんだけれどこれは外せない!
衣装はスーツ祭りだったなぁと。私男役さんのダブルのスーツが大好きなので、今回本当にありがとうございます‼︎と心の中で叫んでいました。ギャツビーの白スーツとトムのベージュのスーツが本当に好きです。ありがとうございます。
娘役さんたちは結構人によりけりだったような。この時代の服って(多分)切り替えが下の方にあるので、結構人を選ぶということが今回わかりました。海ちゃんとか結構大変そうだったなぁ…似合うの着せてあげてよ!と思っていました。少女時代は可愛かったけれども。
キャスト感想
ギャツビー(月城かなと)
まぁ格好いいよね。白のダブルのスーツだろうがピンクのシャツだろうが違和感のない、圧倒的美貌に乾杯!
役作りに関しても無理がなかったと思います。作品自体に抱いていたイメージが上記の通りだったので、ギャツビーってもう少し色悪役者の方がいいのでは?と上演発表時は思ったのですが、結果とても素敵なギャツビーになっていました。
個人的に月城かなと氏(以下れいこさん)って「受容の人」だと思うんですよ。自分の意思とは関係ないところで発生した問題を一手に引き受ける度量の広さと優しさを持つ役が似合う。ある意味一番貧乏くじ引かされる人の切なさや悲しみ、強さを魅力的に演じてくださる印象です。(「しゃあないのう」の一言で不平不満を全て飲み込み兄の望みを全部叶える正儀@桜嵐記だったり「決して触れてはならない」相手を「あなたがいい」と生涯の伴侶にする健司@ロマンス劇場だったり)
今回のギャツビーにしてもそんな面が印象的でした。回想シーンで本性がデイジーの母親にばれた後の「決してデイジーには言わないでくれ」と懇願するシーンやクライマックスである事故を起こしたデイジーに自分が罪をかぶることを告げるシーンはれいこさんの真骨頂だったのではないかと思っています。
全体的な印象として「理想に燃えて成り上がろうとした男」というよりは「人々の幻想であり続け、人々の罪を全て飲み込み散った男性」という感じのギャツビーでした。
デイジー(海乃美月)
衣装の点で苦戦してたかな…というのは上記の通りなのですが、魅力的なヒロインでした。私がデイジーという人物に感じていた危うさや不安定さよりも思い通りに生きられない悲しみが前面に押し出されていたような。この辺は小池先生&海ちゃんの手腕によるものなのか、単に私の記憶の中でデイジーがひどい人間になっているのか(笑)
印象的だったのは回想シーンで駆け落ち失敗したあと。崩れ落ちて妹にブローチを投げつけ「可愛いお馬鹿さんになってやる」と歌いあげる一連の流れは惹きつけられたなぁ。
あとは初登場シーン。ギャツビーの銀橋ソロが終わって本舞台にシルエットが浮かぶのだけれど、そのシルエットが美しくて、まさに「理想の女性」と言った風情だと思いました。それとその後のソロ。「瀕死の白鳥は死の間際、一番好きな人の名を呼ぶの」と歌う彼女の哀しさが印象的でした。
あとはラストシーン。「君は薔薇より美しい」と自分のことを称えていた男が眠る墓に、一輪薔薇を投げ込む時のあの表情。あの時が一番綺麗に見えたような気がします。
トム・ブキャナン(鳳月杏)
まぁ格好いいよね。まずとにかく足が長い。ゴルフのコンペの時の衣装がすごかった。ジョッキースタイルというんだろうか、ズボンの裾の上からハイソックスを被せるようなちょっと独特なファッションだったのだけれど、何故あれでダサく見えないのか。あとゴールドのスーツが似合うって何事。
ギャツビーとデイジーの障害となる存在、やな奴!→ いやいや、ギャツビーとデイジーは不倫関係だし。トム被害者だし。→ トムだってマートルいたじゃん!何なら他にも手出そうとしてたじゃん!→ いやいや… という堂々巡りの結果「どいつもこいつもロクでもねえな」という感想が生まれるわけですが(笑)何というかすべての言動に説得力があってそこまで嫌悪感がなかったなぁ。「この時代の上流階級のイケメンってこうよね(知らんけど)。」というよくわからん納得をさせられた。とにかく何をするにしてもスマートで「こんなの好きにならない方がおかしいよね」とマートルに言いたくなる。
世間から見たら「理想の旦那」で多少の女癖の悪さは見逃されるのでしょう。「アメリカの貴族」の威厳と狡さの造形が素晴らしかったです。
ニック・キャラウェイ(風間柚乃)
彼女は何をさせても上手いなぁ。正直しどころのない役というか、どこまで行っても部外者感が拭えない立場なのだけど「常識人」感というかニュートラルな存在ってやっぱり必要よね。あとはやっぱり「ジェイ・ギャツビー」という人の真実を知る人物という意味でも重要だったな。月城ギャツビーがまさしく「夢のような男」だったからなおさら。ニックのような普通の人がギャツビーの人となりに触れることで作品の厚みが増したように思います。
ジョーダン・ベイカー(彩みちる)
みちるちゃんも大人になって…!(何様)ジョーダンって難しいよね。ニックのことどう思っていたのかよく分からないし、デイジーのこともどう思ってるの?と聞きたい。ただ彼女もデイジーと同じようにこの時代にはよくいた女性なのかな、とも思います。デイジーとマートルのように男性に頼る人生を選んだ女性よりもジョーダンのように自分の力である程度の成功を掴んできた女性の方がこの時代立場が弱かったんだろうな…。彼女は失敗出来ない。だから交通事故もギャツビーの死も知らぬ存ぜぬを通すしかない。なんというかデイジーがギャツビーの手を取れなかったのと、ジョーダンがニックの元を去ったのって根本は同じなのでは?やっぱり彼女達は「特別な親友」だったのかもしれない。
終わりに
そもそも公演期間中にこの感想出そうと思っていたのだけれど、どういうことでしょう笑
とにかく本文中で何度か語っていますが、これまであまりいい印象を持っていなかったこの作品の新たな面に気がついた月組版「グレート・ギャツビー」でした。
…映画も観直してみようかな。
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