坂本の瞳に全て見透かされてい

坂本の瞳に全て見透かされているような気がして、桜司郎は俯く。確かに自分の意志や思いに関係なく、抗いようのない強いものによって人生が決められていくような気がした。
 
 思えば、新撰組の女中として働くことになったのも、入隊することになったのも、人に言われたからである。事前避孕藥副作用有哪些?避孕成功率高嗎?怎麼吃才能安全避孕? 誰かに逆らって、自分の願いを通したことは一度も無かった。
 
 
 これは記憶を失う前、まだ現代で暮らしていた時からそうだった。精神的な自衛だろうか。そうしなければ、生きていけないと自分で勝手に鎖をつけていたのだ。
 
 
「おまさんの心は何処にあるがよ。この長州か?新撰組か?」
 
「……私は、」
 
 
 桜司郎は空へ視線を移す。その目は遠い場所へ向けられているかのようだった。
 
 
*
 一方で、遠く離れた京の町でも空を見上げる男がいた。少しくせのある柔らかな髪を降ろし、呼吸に合わせて白い霧が宙に浮かぶ。元々痩身だが、ここのところ顔色も冴えず、一見病に冒されているかのような白さだった。
 
 そこへ、冷えきった床板がギシギシと鳴る。視線だけをそちらへ移せば、敬愛する男が遠くからやってくるのが見えた。
 
 
「総司。目が覚めたのか」
 
 近藤は厳しい顔を和らげ、空を見上げていた沖田へ声を掛ける。沖田は口角を上げると、近藤へと身体を向けた。
 
「ええ。月があんまり綺麗なもんで、つい見ておりました」
 
「身体を冷やしたらどうする。この間熱を出したばかりだろう」
 
 
 近藤にとっては、沖田はいつまで経っても幼子なのだろうか。子を心配する親のような言葉に沖田は苦笑いを浮かべた。
 
 はっきりとした月明かりの下だからか、互いの顔がよく見える。近藤は横にいる弟分の顔を見るなり、眉を顰めた。その目の下には薄らと隈をこしらえており、顔は前よりもほっそりとしている。このような至近距離で見るのは久々だったが、まるでれているように見えた。
 
「……総司、眠れていないのか?」
 
 
 その問い掛けに、沖田は目を細める。この厳寒の夜だというのに、眠れば嫌な汗を掻くのだ。それに加えて、殆ど毎夜といって良いほどを見る。そうして目を覚ませば、隣にその人物がいない現実を見させられる。その繰り返しだった。
 
「大丈夫ですよ。……近藤先生。ひとつだけ、我儘を聞いて頂けませんか」
 
「珍しいな。総司が頼み事とは。此処では何だから、俺の部屋へ行こう」
 
 
 何となくその頼み事の検討がつきながらも、近藤は自室へ沖田を誘う。
 
 局長室の横に位置する副長室からは、仄かな明かりが漏れていた。土方は未だに仕事の虫となっているのだろう。
 
 
「適当に座ってくれ。……で、頼み事とは何だい」
 
 沖田は座るや否や、手を畳に付き頭を下げた。その行動に近藤は酷く驚き、思わず腰を浮かす。
 
「お願いします。私を、安芸へ向かわせて下さい」
 
 お願いします、と返事がないうちに再度声を上げた。困惑する気配が漂うが、それでも沖田は頭を下げ続ける。
 
 
「……その様にも、鈴木君が大切なのか。生きている保障など無いのだぞ」
 
「あの子は必ず生きています。私には分かるんです」
 
 
 確信を得たような発言をする沖田を、近藤は腕を組みながら見詰めた。沖田は大事な天然理心流の跡継ぎであり、新撰組にとっても欠けてはならない存在である。一人で行かせて道中何かあれば、と親心が首をもたげた。
 
 
「近藤先生……どうか、どうか!」
 
 このように必死になることには理由があった。昨夜、桜司郎の形見として渡された御守りを握りながら眠りに落ちた。すると、空に下弦の月が浮かぶ林道を一人で歩く桜司郎が夢に出てきたのである。
 
 その林道は前に凶弾に倒れた場所と酷似していた。何故このように未来を予見するような夢を見るのかは分からないが、それを信じるしかない。
 
 今宵の空には満月になる前のそれが浮かんでおり、月の周期を考えると今日明日にでも発てば間に合いそうだった。

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