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【ケアまち座談会 vol.4】「日常の風景からみるケア〜ランドスケープデザインを手がかりに〜」開催レポート

2020年8月26日、21:00〜22:20「ケアまち座談会 vol.4 日常の風景からみるケア」を開催しました。31名の方がご参加くださいました。

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当日のプログラム
21:00 イントロダクション:密山要用
21:10 チェックイン
21:15 登壇者ピッチ:吉田葵、稲田玲奈
21:30 ダイアローグセッション:吉田葵、稲田玲奈、密山要用、小原恵美(ガイド)、宇田川 孝浩(ガイド)
22:00 ブレイクアウトルーム
22:10 質疑応答
22:20 雑談会(ブレイクアウトルームで雑談)

登壇者紹介

吉田葵(アオイランドスケープデザイン代表 、登録ランドスケープアーキテクト)
横浜生まれ。横浜国立大学 地球環境課程 植物社会学専攻 卒業。東京大学大学院 都市工学専攻 環境デザイン研究室 修了。株式会社グラックに3年間勤め主に公共事業における基本計画から実施設計までの設計業務やワークショップの企画運営等に携わった後、アカデミー オブ アーキテクチャー アムステルダム(オランダ)のランドスケープデザインコースに1年間留学するとともに、H+N+S landscape architectsに勤務。2019年よりアオイランドスケープ デザイン始動。ランドスケープの視点を通して、リサーチからデザイン、まちづくり、設計に携わる。

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稲田玲奈
1994年香川生まれ。2015年から2020年まで慶應義塾大学SFC石川初研究室にてランドスケープ思考を学ぶ。農漁村から都市郊外、都心までを一続きの目線を持ってフィールドワークを行う。在学中は徳島県神山町ではおよそ40軒の民家の外部空間の実測やヒアリングを行い、『神山暮らしの風景図鑑』『神山道の風景図鑑』などを制作。新潟県越後水沢駅のガーデニングによる修景計画にも参与する。2018年から全国の民家の外部空間を観察・記録を始める。2020年-現在慶應義塾大学SFC研究所上席所員。同年8月7日よりフジワラテッペイアーキテクツラボ勤務。

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登壇者ピッチ

プロローグ:ランドスケープデザインとは?

日本ではまだ聞き慣れない、「ランドスケープデザイン」という言葉。

公園、ビルの外構設計など、屋外空間の設計をすることとして、分かりやすく捉えられることが多い。もちろんそういう面もあるが、ASLA(アメリカのランドスケープ協会)の定義では下記とされている。

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本座談会でも、ランドスケープデザインを、「その場所を深く理解し、その土地や、周囲の環境、歴史などを踏まえて、新しい関係性を築きながら、今後の空間を作っていくこと」と捉え、実例と合わせて共有をする。

広義な分野であるが、生態系、制度、デザインなど、様々な人が様々な角度から考察し、実践している。

「日常の風景とランドスケープデザイン」吉田葵

「日常の風景からみるケア」というテーマの中で、「日常の風景の見方」と「ランドスケープデザイン=つくること」に関しての共有。

リサーチから、デザインに連続してデザインしていくことを大事にしている。

「まちへのまなざし」について、今までの事例をベースに共有することで、今回のケアに関する対話のフックを検討したい。

スケールを横断する

赤い線の範囲が、今まで携わった案件で提案したデザインの範囲。スケールの違う案件をやっていくことは、ランドスケープデザインの特徴だと考えている。実際にどのようなスケールの異なる仕事をしているか、プロジェクトごとのプロセスを含め紹介する。

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事例1:Multi-species Community Garden Project

京都の敷地でデザイン提案を行った案件。人口減少、それに伴う空き地の増加が背景にある中で、空き地を核にして、人と人とのつながり、様々な生きものが楽しめる空間のデザインコンセプトを提案した。

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1-1.歩く、フィールドワーク

フィールドワークを通して、空き地の性質の違いや、周辺住民の空き地の活用状況が見えてくる。

左は長屋跡、細長く、周囲に住宅も密集している。右は郊外の空き地、開けていて、周囲には一戸建てが多い。このように、空き地と言っても、一つ一つ性質が違う。

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周辺の土地利用も見えてくる。下記風景からは、元々空き地だったが、札に名前がついており、皆で畑として利用している様子がうかがえる。

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1-2.俯瞰でまちの全体像をみる

「空き地」を核にしながら、各エリアの特徴を、実際に足を運び考察したり、俯瞰でみながら捉えていく、というまちの見方をしている。

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1-3.時間の流れとともに考える

時間の流れで、「空き地」がどう変化していくか。空き地を個人の庭として提案することで、人と人とのつながりが生まれるような空間をデザインしている。

また、生き物をテーマとしているので、生き物が入ってこられる空間を目指し、25年という時間を見据えて提案している。

事例2:石川県珠洲市蛸島町スローツーリズム

埋もれている資源や、新たな視点を発見することで、空き家を活用できる場所の特性を明確にしたり、景観デザインを行う。

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2-1.聞く、ワークショップ

地元の暮らしを、地元の方々と一緒にワークショップを開き、各要素を聞くことで、蓄積する。そこの暮らしと環境にどのようなつながりがあるのか考える。

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2-2.俯瞰でまちの全体像を見る。

「水」「地形」「緑・植生」「土地利用」「歴史」をみる。また、空間・形として、このまちにはどういう特徴があるのか、「まちの形」を発見しながらリサーチをして、「まち」「暮らし」「空間」の関係を考察することを行っている。

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まとめ

以上のように、様々なスケールを横断しながら、フィールドワークをしたり、時間の流れと共に考えたりすることを積み重ねながら、デザインを提案していくことを心掛けている。今回の座談会を通して、まちの見方の違いや、共通項などをお話できればと思う。

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「フィールドワークから思考する」稲田玲奈

ランドスケープデザインの設計でも、その他のプロジェクトでも、その場所の風景や、その場所がどういう場所かを解釈して、理解することを試みている。

媒体を作ったり、石積みをしたり、園芸をしたり、雑草を花瓶に入れたり、自分で手を動かすなど、様々な方法でその場所を理解しようとしている。

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フールドワークで考えることと調査方法

ただその場所に立って見えるものを見ているのではなく、その場所の地質、集落構造、民家や庭の配置、道具配置など、環境全体を見ることを試みている。

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コロナの影響で、人が生活空間をどんどん改変していく状況がある。

しかし、人の暮らし(庭空間)を観察していると、人は環境・社会の変化の都度、生活空間を改変しながら暮らしを順応させてきたことをみてきたので、その辺りについてお話したい。

研究テーマ:生きる庭

生活空間を、「動的に変化させながら、存続させていくもの」
「環境と人の生活の応答の痕跡」として読み取る。

個人の民家の外部空間を対象に、実測やヒアリングを行い、それらを図面になるべく網羅的に書き込み整理することで、その目前の生活空間がどのように形成されてきたかを分析する。

事例1:青森県漁師家 K家

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1-1.青森の漁師の柔軟に変化する生活空間に関する考察

元々家の前に海があり人が通れない状態だったが、地域の人たちが青函トンネル工事の際の土砂などを利用し、道路を広げ、結果的にそこに構造物が建っている。

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1-2.道具の置かれ方に関する考察

人がどういう風に動いて、どこの場所を使って、どういう風に道具を使っているか、を見ていった結果、一見散らかって見えた場所でも、合理的に道具が配置されていることが見えてきた。

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実例2:徳島県神山町プロジェクト/石川初研究室

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山間地域に民家の周辺を歩いていると、構造物に出会う。

例えば、この構造物は、上から水が流れてきて、気の桶が下がり、とたんの板を叩く仕組みになっている。目的は猿の獣害対策だ。

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2-1.FAB-G(ファブジー)について

こういった道具は、地域のおじさんが作っていることが多く、我々は「Fabrication Skilled Grandfather=FAB-G」と呼んでいる。自作の道具を作成するFAB-Gは地域中に存在する。

FAB-Gの庭先をみると、このままでは何にも使えなさそうなものが、「収納」というより、いつでも利用できる「保留」の状態で置かれている。

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2-2.FAB-Gのものづくりのスキル

1.「標準品」と「固有の事情」との間に発揮される。
2.「緩い分類/保留」を可能にする、余裕のあるストックヤードの存在が、部材の脱意味化と再発見・利用を容易にする。
3.周囲の森林などの自然環境は「予め緩く分類されたストックヤード」に見えているようだ。
4.「緩い分類/保留」によって、既製の装置からの部品と、周囲の自然からの素材が交差する。

まとめ:2020年のFAB-Gたち

神山町のFAB-Gに限らず、そもそも人ってこういうものだよね、というケースが、コロナ禍において、マスクや、カウンターの仕切り板を自作したりする人が増えたことで、観察のしがいがある状況となっている。

これらの行為を通して、人の元気さや、その人が何ができるか、という情報が、風景に現れることで知ることができる。

ダイアローグセッション

ゲストの話、どんな風にきいていた?〜司会とガイドから

小原(ガイド)
いつもみている風景が違うものに見えてきました。保健師時代に担当していた多摩川沿いは過去に氾濫が多く、昭和49年頃に特にひどく、その頃建てられた家は土台が高くなっており、4〜5段の階段があることも。ケア側の視点だと、当時は必要な段差だったんだと思うけれど、年を重ねるとその階段が登りづらくなっている場合がありました。
何年先も見越して行われるランドスケープデザインは、いつ頃から実践されるように建築の手法なんですか?

吉田
明治神宮の森は、元々全国から木を運んできて人工的に植えられたものですが、森がデザインされる当初から、そういう思考で100年以上先を見据えていたと考えられます。造園や、ランドスケープの分野では少なくともその時期から実践されています。

宇田川(ガイド)
同じ風景をみていても、スケールや、視点(目の高さから見ているものだったり、鳥のように空の上から見ているものだったり)の違いがあるなと思いました。今の風景から、過去の時間を想像したり、これからの時間を予測する。今見えるものだけではなく、過去や未来を行ったり来たりする。そういう視点を持ちランドスケープデザインをするんですね。
稲田さんの事例にあった、散らかっている道具から一つのルールを見つ出す視点も面白かったです。ルールを見つけることは大変だと思うのですが、どうなんでしょうか?

稲田
道具はあふれているものだし、移り変わっていくもの。調査に行った一時的な情報に、人の動きを重ねてみていきます。道具だけみても分からない、様々な情報を重ねることで、道具が置かれている意味などを考えます。複数の情報を扱うので、そういう意味では一見大変そうにみえるかもしれませんが、人の生活に対する関心があるので、みていて飽きず、大変さの実感はありません。
複雑な情報を扱う分野でもあるので、なるべくグラフィックとして見やすくしたり、どのような情報を選び見せていくか、ということも意識的にしています。

密山
吉田さんの話で、時間・スケール・形という話がありましたが、時間とスケールについて、そんなに広角に見ていませんでした。特に形に関しては、道路の三角形、段差など、街をマクロから見たものは全く気にしていませんでした。
ケアのため訪問する機会は多いですが、ついつい目の前にいる人に注目してしまいます。これまで無意識に通り過ぎていた庭や道路といった導線にも、少し目線を引いて見てみるなどすると、今後に活かせそうだと思いました。
フィールドワークする上で「見る」ことだけでなく「聴く」ことも重要ですが、ランドスケープデザイナーの方々は、まちの人たちに何をどんなふうに聞くのでしょう?

稲田
一緒にお茶を飲んだり雑談しながらしか聞き出せない情報もあります。
詳細に調べるときは、一つ一つ「何でここに置いたんですか」「なんでこれにしたんですか」など聞いていきます。環境の話として、「水はどこから引いているか」「どこに流してるんですか」「ここの畑にはなんで植えているのか」「お墓はどこに置いているのか」など、その人がなんでそこに住みながら、どういう風に生活を作っているのか、を把握するために、しつこく聞いています。今思うとだいぶ重い質問をしていると思います。

吉田
珠洲市のお仕事では、「これ何に使ってるんですか」とか色々聞きました。家の外の空間に、花壇だったり、水洗い場だったりが溢れ出していることがあります。そういった場所を観察すると、その人の暮らしのバロメーターが見え隠れしていることがあり、それをフックに話をすることがあります。

「日常の風景」読み解きドリル

ダイアローグセッションに続いて、「日常の風景」読み解きドリル、と題して、日常の風景を切り取った写真を見ながら、ゲストだけでなく参加者もチャットで参加できる形式で、それぞれの視点を交換し合う企画を行いました。
質問は「どこが気になりましたか?」「どんな風に読み解きましたか」の2つ。
まずはこちらAの写真。

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稲田
手前にチューリップがありますね。まずそれが造花か生花かを見ます。庭先に造花を置くケースも多いです。この人がどれだけ庭を管理しているかが分かります。
チューリップは毎年球根で植えている場合があるので、今年の春はお元気だったのかな?と思います。植物は生活の背景を教えてくれますよ。

密山
なるほど〜!そうなんですね。

小原(ガイド)
実は私と祖父の写真でした。私の視点だと、祖父がまだ屈めていた頃だった。洗濯物を干しているので元気な時だったな、と思います。植物の視点が私には無かったので、改めて祖父が庭を手入れしてくれていたんだな、と感慨深いです。

続いてBの写真。

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吉田
水路と道路の間のスペースって、この方の土地じゃない気がします。そこにお花を植えているから、まちへの想いが強いのかな。溢れ出る園芸への想いも感じます。

密山
これは私が島根県雲南市でのフィールドワークで撮影した写真です。実際は家の周り270度ぐらい、花壇がはみ出しています。家の外にはみ出している情熱、人の活力を感じ、家主さんにインタビューしました。「自分のためにやっている。自分の庭がいっぱいになったので、外にも拡げようと思った」とおっしゃっていましたが、街の風景にもなっていて、この人の生きている軌跡になっていますよね。毎回植えた花を書き留めていて、何冊にも及ぶ大学ノートも見せてくださいました。ケア、健康を感じる風景だと思いました。

稲田
こういう動きが生まれるには、道路の広さも環境として重要なのかもしれないですね。

座談会

いつもと違った視点で「日常と風景」をみる、暮らしをつくるというテーマ行われた登壇者ピッチ、ダイアローグセッションを通して感じたことを、下記2点を軸に参加者同士で共有しました。

1.これまでの話でどんな印象が残りましたか?
2.あなたのこれからの暮らし/しごと/まちでの活動にどんなふうに活かせそうですか?

参加者の感想

ランドスケープデザインには、計画する主体、体験する主体両方があると感じました。計画は「正しさ」ですが、体験は計画されたものとは違う意図となる場合もありますよね。その両方をいったりきたりすることは面白いな、と感じました。

Q.ランドスケープデザイナーが使う視点や言葉などを学ぶ上でおすすめの書籍を教えてください。

A.稲田さんから下記3冊をご紹介いただきました。

まとめ

ケアの視点、日常の視点、両方から見ること。自分の普段の視点と違った視点で日常を捉え直すということが、今回のイベントのテーマでした。

家にいることが多いので、家の中の風景、道具、庭、公園、まちを少し違う視点でみることが、暮らし、しごと、まちづくり活動に何か活かせるものになれば良いと嬉しいです。

次回のテーマは「公衆浴場」

次回は10/7(水)21:00〜22:20、「ケアまち座談会vol.5 ケアと公衆浴場~はだかで考えるコミュニティ~」を開催します。ゲストとして小杉湯三代目の平松佑介さん、サウナ文化研究家のこばやしあやなさんをお招きします。

公衆浴場という環境について、ケアの観点からみなさんとじっくりお話します。ぜひご参加ください。

※初回開催、「ケアまち座談会 vol.0 なぜ「ケアとまちづくり」は必要なのか」は下記からアーカイブ動画をご覧頂けます。

note
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facebook
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#ケアまち座談会

(執筆・編集:小林弘典)

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