初心者の個人的競輪祭展望
今を遡ること70年ほど前に北九州は小倉で始まった公営ギャンブル、競輪。
その始まりを記念して毎年行われているG1レースが競輪祭だ。
競輪祭はG1の中でもダービー(日本選手権)と並んで選手の心意気が違う。
年に6つあるG1のトリを務めると同時に、年末の賞金王決定戦「グランプリ(GP)」出場選手を決定する重要な1戦でもあるからだ。競輪選手 2000人以上の人数に対しグランプリの椅子は9つ。G1優勝選手は無条件で確定。それらを除いた賞金上位者でしか出ることができない。
競輪はモータースポーツで例えればル・マンやNASCARのようなチーム戦の側面も持っている。最後の直線までに一緒に戦ってくれる仲間を作るべく、既にグランプリ出場が確定している者は仲間を一人でも増やすように先輩後輩友人をアシストすることもあり、一方10万20万で出場ボーダーを争っているものは死ぬ気で1走1走を戦う。11月の6日間でグランプリの勢力図が決まるのだ。
今回、幸運なことに現地観戦のチャンスが巡ってきたので、色々と準備をしつつ展望を語っていきたい。
現在グランプリが確定しているのは以下の選手。
郡司浩平(神奈川)→全日本選抜優勝
松浦悠士(広島)→日本選手権(ダービー)優勝
宿口陽一(埼玉)高松宮記念杯優勝
古性優作(大阪)→オールスター競輪優勝
平原康多(埼玉)→寛仁親王牌優勝
賞金ランキング上位で、順位変動がない場合出場確定なのが以下の4選手。清水裕友(山口) 8,100万
守澤太志(秋田) 7,500万
佐藤慎太郎(福島) 7,300万
山口拳矢(岐阜) 6,100万
更に競輪祭の結果次第では出場できそうなのは下の4人くらいだろうか。
吉田拓矢(茨城) 5,200万
浅井康太(三重) 5,000万
諸橋愛(新潟) 4,200万
和田健太郎(千葉) 3,900万
この辺りの選手が主な勝ち上がりの軸になってくるだろう。そしてそのためには同地区の若手や後輩の戦闘力が重要となってくる。
各地区概況と注目選手
・東北地方
新田祐大(福島)…東京オリンピック出場の協力選手。F1で例えるならメルセデス移籍前のハミルトンポジションであり、後述の脇本が出てくる前は最も強い競輪選手としてタイトルを量産していた。
先行もできるが最大の長所は重いギアでも軽く回し切る脚力の捲りを得意とし、レッグプレスは1tを上げる。逆に持久力の無さとレース運びの下手さでここ数年は後方に置いていかれ捲り不発のレースが多い。決勝までなら買い。
佐藤慎太郎(福島)…東北の総大将にして名マーカー。自力で戦う脚力はないが番手に置かせればかなり怖い。
捌きや横への持ち出しはお手の物、ゴール前勝負になれば狭いコースを見つけて突き抜けるレースの上手さでG1決勝にコンスタントに乗る強さがある。その御蔭で2年連続GP出場もしているし、2019GPでは最低人気から直線突き抜け優勝を飾った。車券を外したゲストの武豊を煽ったのもこの人。
近年、南関東との結束も深めているので、南関との番組の際は迷わず買いだ。無類の阪神ファン。
守澤太志(秋田)…去年のGPに初出場のマーカー。北日本では3番手を担当することが多いが、ちゃんと番手の仕事もするし脚力もある強いやつ。実力はブラフではなかったと証明しており、ここらでG1タイトルがほしいところ。
諸橋愛(新潟)…名前は「めぐむ」で男性。2017年GP出場者であり、今でもG1決勝には顔を出す実力者。地元の寛仁親王牌では決勝に残るも最後の直線で落車。競輪祭にピークを持ってこれるか。
・関東地方
平原康多(埼玉)…埼玉が誇るオールラウンダーで、ここ4年はG1を取らずにGP出場している実力者。F1で例えるならフェルナンド・アロンソであろう。
先行も番手もそつなくこなせ、24時間競輪のことを考えているというだけあって吸収力もすさまじい。現代では少ない競輪道の持ち主で義理堅い。少し前までは武田豊樹とタイトルをたらい回しにしていたが、武田の勢いがなくなった後はラインに貢献できる若手が少なく、関東を実質単騎で引っ張っていた。
最近は高松宮記念での宿口のG1制覇や、寛仁親王牌で自身も4年ぶりのG1を取ったように関東に勢いが戻りつつあるため今大会も優勝候補である。
唯一短所ともいえるのが転ぶこと。落車が多いため配当が荒れるケースもしばしば。
宿口陽一(埼玉)…少し前まではG1に出るが、特段書き立てるようなレベルではないマーカーだったが、今年は確変している。G3優勝の経験もない中高松宮記念を優勝し初のG1タイトルを獲得、その後の前橋G3でも優勝を遂げた。名実共にタイトルホルダーに相応しい走りをしている。
眞杉匠(栃木)…113期の若手。G1にも何度か出場し京王閣ダービーでは決勝進出したが、やはり絶対的なG1の経験が少ないため郡司に上手く封じられてしまった。他にも平安賞G3で中途半端に脇本を切りに行き突っ張られるといった詰めの甘さは目立つが、力は確実に持っている選手。
大舞台の経験を積み適応できるかどうかでタイトル獲得や、関東の勢い如何
まで影響することだろう。
吉田拓矢(茨城)…師匠はアトランタオリンピック銅メダリストの十文字貴信。競輪道を継承する若き侍だ。
先輩のために必死に先行を貫いていたため、同期と比べて出世争いでは一歩置いていかれた感じがあったが、2020佐世保記念で自身初のG3優勝。
続いて久留米記念で2勝目を挙げた。G1では今年の高松宮記念杯、寛仁親王牌で決勝進出。見事に大化けした。
賞金ランキングは10位につけておりGP出場も狙える。
・南関東
郡司浩平(神奈川)…F1で例えるならマックス・フェルスタッペン。2世レーサーで、父親は超一流とはいかないがG1の常連選手であった。自身もデビュー後長く先輩たちの風よけとなって先行のレースを貫き、南関地区の勝利に貢献してきた。
2019年には賞金上位で悲願のGP出場。G1はあと一歩届かない状況が続いたが、2020の競輪祭において後輩のアシストから平原康多とのデッドヒートを経て初優勝。今年の2月には地元川崎で55年ぶり開催された全日本選抜も勝ち、自身2度めのG1優勝を成し遂げる。更に京王閣ダービーにおいては松浦悠士に微差で敗れるものの2位。
レーススタイルは強烈なダッシュを武器にする捲りが主体だが、先行でも強さは健在。その上位置取りも含めてレース運びが非常に上手い。総合力では最強クラスであろう。そのうえで自分だけでなく「ラインでの勝利」を考えて走る仁義の男。
だが、そのダッシュの強烈さ故に番手や3番手のマーカーがついていけずに離れてしまうこともある。郡司アタマで買うのであれば紐は吟味が必要か。
内藤秀久(神奈川)…東の暴れん坊。さながらモントーヤのような激しいヨコの動きが特徴であり、失格スレスレのブロックを得意とする激しいマーカー。彼を番手につけて先行すればかなり頼もしいことだろう。
2019オールスター準決勝やサマーナイト決勝のブロックは圧巻。
特別決勝も何度も経験しており、間違ってGPに出場してもおかしくない選手。
松井宏祐(神奈川)…オリンピック強化選手で、絶賛売出し中の先行選手。2020競輪祭では先輩である郡司のためにと先行力を活かした捨て身の先行でアシスト、G1優勝を影で支えた。
G1はオールスター以来の出場で、普段はオリンピックに向け専用トレーニングをしているため、脚力は申し分ないが性格が全く異なるカーボンフレームから合わせきれるか(競輪は鉄)の不安は残る。実家は寺。
深谷知広(静岡)…F1で例えるとキミ・ライコネン。デビューから負けなしの20連勝を達成してそのままトップへの階段を上がり、最速記録でG1を優勝。現在はオリンピック強化チームのエースとしてチームをまとめ上げる。
2020年からオリンピックを見据えて本拠地を愛知→静岡と変更。
南関地区との連携が多くなり、郡司のG1制覇にも大きく貢献した。
根っからの先行屋であり、例え後輩の郡司相手であっても「前を任せるつもりはない」というように、後輩すら後ろに従え先行勝負に出る漢。
競輪祭でも郡司との連携は破壊力抜群だ。
和田健太郎(千葉)…2020GP優勝者。賞金をコツコツ積み重ねて出場し、最低人気からコースを見つけ鋭く突き抜けて優勝を果たした。
優勝賞金1億円の使いみちを「家のローンを返して、余った分は妻と相談します」というように、華は少ないが堅実で玄人好みなレーサー。「車券を買ってくれた人に、車券に貢献できるように」の考えで1走1走を走っておりその走りは人の心を動かすなにかがある。今年は賞金王の重圧もあるのか低迷しているが、まだチャンスは残っている。
・中部
山口拳矢(岐阜)…とにかくやばい新人。チーム戦主体の競輪においてラインを全く考えない。レーススタイルは後方からの捲りだが、その破壊力は強烈そのもの。自分だけ1着取れればいいとでもいうようなその姿勢に非難も多いが、共同通信社杯G2で単騎から優勝。デビュー1年ちょっとの最速記録を樹立し、非難も実力で跳ね返す。
ラインの決着は望みにくいのと、G2を勝ったことで周りの警戒も強くなっており決勝進出は苦労するかもしれない。
準決勝程度なら余裕で勝ち上がる力はあるし、現在は賞金でGP出場圏内にいるので目が離せない。
浅井康太(三重)…F1で例えるならハミルトン。汚い手も使うがとにかく強い。2018GP王者。ここ3年はタイトルから遠ざかっているが、GP出場を虎視眈々と狙っているだろう。山口との連携も注目。
・近畿
脇本雄太(福井)…F1で例えるなら全盛期のセバスチャン・ベッテル。競馬で言えば「踏めばシンクリ逃げればスズカ駆ける姿はアーモンド」といったところで、現在の競輪界最強の選手。
その武器はジャン(打鐘)前からのロング先行。斜面を利用して助走をつけ一気に先頭を叩き切り、後続を置き去りにする。あまりのロングスパートぶりに番手の選手がバテて離れてしまうことも。戦法は下げての先行が多いが、捲りを使っても無類の強さを誇る。
タイムを例にとれば、逃げて3ハロン32.8(2020寛仁親王牌理事長杯)を叩き出し、捲りに構えれば31.4(2019オールスター準決勝)と競走馬をも凌ぐタイムを出している。普通に行けばG1優勝はこいつで堅いのである。普通にいけば。
稲川翔(大阪)…東のモントーヤ(内藤秀久)と双璧を誇る、西の暴れん坊。マゼピンのような危険ムーブとは対照的に甘いマスクで女性ファンも多い。
脇本の番手につく脚力を持ち合わせており、2019高松宮では大ブロックで脇本の完全優勝に貢献した。決勝進出できれば展開次第では連に絡む実力を持ち合わせている。
古性優作(大阪)…BMX出身のレーサーで、その経験を活かしたトリッキーさが特徴。並の選手では落車してしまうような混戦でもスピードを落とさずに進路を変えたりといった「神業」を持つ選手。
なかなかタイトルに恵まれなかったが2020オールスターで脇本の番手から飛び出し悲願のG1初制覇。その後は楽調気味だがどこまで戻せているか。
・中四国
松浦悠士(広島)…1走1走を非常に紳士に取り組むイケメンレーサー。郡司に並ぶレースの強さを誇り、とにかく連を外さない(=勝ち上がる)。
昨年はG3以上のレースで決勝進出できなかったのは2つか3つ程である。シードレースの特選競走でさえ真面目に走るので好感が持てる。
山口の清水裕友とはその時々で前後を入れ替えて自由自在にラインを組み、G1タイトルをたらい回しにしていた。今年はダービー制覇後は少し調子を落としているので、二次予選までは様子見が無難か。
清水裕友(山口)…松浦のパートナーで、こちらも強い。
愛車はランボルギーニウラカン等。不調の際のぼやきは一種の名物。
・九州
北津留翼(福岡)…海外留学をしていた自転車エリートで、元オリンピック強化選手。30半ばに差し掛かっているが、ロケットのような捲りはナショナルチームも粉砕するほどの威力がある。単純に強い。
しかし、致命的にバカなため(電車の乗り換えが分からないなどエピソード多数)、展開が複雑になりがちなGグレードの競輪では波が激しい。
後ろに園田のような操縦できる選手がつけば、無類の強さ。F1で例えるとトゥルーリだろうか。
中川誠一郎(熊本)…F1で例えるとマンセル。こちらも元オリンピック強化選手で、獲得G1タイトルは2016ダービー、2019全日本選抜、2019高松宮記念杯。
特に全日本選抜は地元の九州勢が自分以外全滅する中、単騎で駆けての優勝。高松宮記念杯でも脇本の好位をうまく取り切り優勝。ドラマを生み出す男である。
弱点は並走恐怖症で、コーナーでの追い越しなどの展開になると途端に勢いが無くなる。鉄板オッズで車券を買って裏切られたファンも数しれず。
こいつだけは買わない。そう思っていると見事に大穴を開けてくれるので憎めないキャラである。穴を狙いたいなら買うがいい。
つまるところ誰が勝つ?
力だけで行くと脇本だが、明らかに脇本はナイターとの相性が悪い。
去年のサマーナイトでは決勝すら乗れず、競輪祭も初日に無理な仕掛けからの落車で一発退場。
更に今年は腰の爆弾を抱えているため、そうそう上に上がることはないだろう。二次予選までは様子を見たい。
そうなると、層の厚さで南関東か関東、中四国が決勝に上がると想定。
南関で郡司の連覇や深谷の戴冠もいいが、関東の優勝を、願わくば吉田拓矢の優勝を見たい。
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