2024年春学期 研究書評


5/2

西剛広「法制度的枠組みとコーポレート・ガバナンス」(『商学研究論集』24、p129-148、2006-02-28)

「内容総括・選択理由」
前回に引き続き各国の法制度面からのコーポレートガバナンスに対する関わり方を参考にするため選択した。

「内容」
アメリカでは、21世紀に入り、アメリカでは大企業の粉飾決算などの不正経理などによる不祥事が多発し、大きな経済・社会問題となっている。2001年から2002年にかけて、不正会計問題などにより、エンロン社、ワールドコムなどの大企業が起こした不祥事がクローズ・アップされるようになってきた。エンロン社において、実体のない特別目的会社 (SPC) を複数設立し、資産などを売却して、見せかけ上の多額の利益を計上した。また、ワールドコムは、巨額の粉飾決算(総額 38億ドル)の発覚とCEOに対する相当額の不明朗な融資が発覚した。このような多発する企業不祥事に対して、2002年7月アメリカ議会は、企業の不正防止を目指す「企業改革法」をまとめ、サーベイズ・オクスレイ法 (Sarbanes-Oxley Act)が成立した。この法案は、法人としての企業の報告要件と説明責任を拡大し、株式公開企業の特定の行動を禁止し、取締役会の監査委員会の責任と権限を大幅に拡大することを狙いとする。
その内容は、監査法人への監視強化ならびに、企業経営者の罰則強化、取締役会の監視業務の強化から主に構成される。監視法人への監視強化については、独立確保のため、外部監査人の活動範囲の制限されることが目指される。すなわち、監査法人の経営コンサルタントなどの兼業禁止、監査法人を監督する独立監査機関の設置、アメリカ内で監査業務を行う海外監査法人も監督が含まれる。企業経営者への罰則強化に関しては、証券詐欺に対する禁固刑を最長25年CEO・CFOの署名が要求される財務報告書の違反は同20年証拠隠滅・改ざんは同20年などを設けておりまた、経営者の報告制度の拡充CEO, CFO は年次報告書及び四半期報告書に記載した諸点について保証する宣誓書の義務化などを目指している。
その他には、監査委員会の強化・拡充があげられる。公開会社には、監査法人を設置し、承認を受けることが義務付けられている。監査委員会がなければ、その業務は取締役会に任せられるとしている。その監査委員会には、監査委員会の構成を全て独立した社外取締役とすること。また、取締役会には、取締役が報酬以外当該会社から受け取らないことや、当該会社もしくはその子会社との関係がないことを求めている。つまり、取締役会(監査委員会)の経営者に対する監視業務の強化、取締役会の独立性を向上させることを狙いとしているのである。

「総括」
今回はコーポレートガバナンスが最初に提唱されたアメリカに着目した。当該論文ではイギリスについてもまとめられているため来週以降参照する。

4/25

・海野正「コーポレート・ガバナンスを巡る最近の動き」(『武蔵野大学経営研究所紀要』第5号,p.51-70, 2022-03)
「内容総括・選択理由」
ドイツの政策的なコーポレートガバナンスの関わり方を参照した際、日本の会社法による定義に課題があるのではと考察したため選択した。

「内容」
「企業の持続的成長と企業価値の向上」を目指した「コーポレート・ガバナンス改革」の背景を踏まえて、コーポレート・ガバナンスを巡る最近の動向に関して、会社法の改正に触れたい。2021年3月1日に施行された2019年の会社法の改正では、社外取締役の設置についての規定が充実した。これ以前にも、コーポレート・ガバナンスに関連する会社法の改正は行われており、株式会社の機関設計に関しては、例えば 2002 年の旧商法の改正 (2003年施行)の際に、現在の「指名委員会等設置会社」が「委員会等設置会社」として、2014年の会社法の改正 (2015年施行)では、「監査等委員会設置会社」が導入されている。今回の改正の対象である「社外取締役」は、取締役のうち会社の業務の執行を行わない、会社や経営陣からの一定の独立性を有する者をいう。コーポレート・ガバナンスの観点からは、経営陣から独立した立場で、会社の経営や業務の執行を監督することが期待される。つまり経営陣とのしがらみがないことにより、ステークホルダー(企業を取り巻く幅広い利害関係者、従業員や取引先、社会全体等)や世論、そして株主の意見を取締役会に反映することができ、ガバナンスの向上への貢献が期待できるのである。この2019年の会社法の改正により、「公開会社」かつ「大会社」である監査 役会設置会社でかつ、「金融商品取引法上の有価証券報告書の提出義務のある会社」は、社外取締役を最低1名置くことが義務付けられた。株式会社が「公開会社」かつ「大会社」の場合には、その機関設計は、「監査役会設置会社」・「指名委員会等設置会社」・「監査等委員会設置会社」の3種類の中から選ばなければならないこととされ、このうち、「指名委員会等設置会社」・ 「監査等委員会設置会社」では、既に最低2名の社外取締役を置くことが定められていたので、この改正により「公開会社」かつ「大会社」である株式会社は何れの機関設計の場合においても、社外取締役の設置が義務付けられたことになった。

「総括」
社外の立場の人材を主に重視しているのが日本の会社法の特徴として考えられることがわかった。被雇用者と消費者の立場の意見を吸収する組織体型になっているとは読み取れない。

4/18

・陳浩「ドイツのコーポレート・ガバナンスの変容と監査役会改革の課題」(『立命館国際研究 / 立命館大学国際関係学会 編』 24 (2), 547-574, 2011-10)

「内容総括、選択理由」
前回のドイツにおける、ステークホルダーの中でも労使関係を重視するガバナンスにおいて時代観による課題の変遷とその対処方法を分析するため選択した。

「内容」
ドイツのコーポレート・ガバナンスは、本来政府、金融機構、労働者からの代表によって構成され、構成員の多様化は企業の利害を多元化させていた。経営者は資本側からの圧力を受け、経営活動を行うと同時に、企業の長期的な発展や雇用の安定にも注意を支払わなくてはならなかった。さらに、ドイツ企業の主な株主である政府と大銀行も、短期的な配当より企業の長期的な存続と成長力、そして労働者の雇用安定と豊かな生活の保障を重視していた。資本市場が未発達の時期には、こうした株主、労働者、経営者が持続的で安定した同盟を形成することで、経営上の協力を行い、社会的安定にも貢献していた。しかし、1990年代に入ると、ドイツ企業を取り巻く国内外の経済環境が大きく変化する。公共企業の民営化、企業経営戦略の転換に伴い、ドイツのコーポレート・ガバナンスも変化してきた。企業は競争力を維持、また向上させるために、生産の再編を行いつつある。生産の再編は、工場の移転や労働者の解雇を発生させ、労使間の利害の対立を先鋭化させている。また、コーポレート・ガバナンスの違いによって企業収益の優先配分が異なる。アングロサクソン諸国の企業では、株主が利益配分で優位を占めている。それに対して、欧州大陸諸国における企業では、企業収益はかつて再生産投資や労働者報酬に優先に配分されていた。しかし、コーポレート・ガバナンスの変化により、ドイツでは収益の配分が株主に有利になりつつある(Höpner (2003), S.183-184)。さらに、経営者の経営意欲を高めるために、取締役の報酬額は業績・株式相場と連動するように設定される。こうした傾向は株主と経営者の所得を改善するが、労働者の賃金を低下させる。例えば、グローバルな金融危機に襲われた2008年に、フォルクスワーゲン社では、労働者の賃金は横這い状態であった一方で、同社の取締役 MartinWinterkorn の報酬額は前年より2.5倍増え、株主の配当金も9%伸びた(普通株主,優先株主は7%) (Volkswagen (2009), S.102&S.127)。ドイツでは、非中核部門の売却や取締役報酬の決定は、必ず監査役会で行われなければならないと法律で規定している。1976年共同決定法に従えば、監査役会は労働者の利益を十分に守り、非中核部門の売却や取締役報酬の高騰を阻止することができるはずである。にもかかわらず、1976年共同決定法の限界 や、フォルクスワーゲン社のような事例からも、監査役会は十分な機能を果たしていないことが示されている。

「総括」
労使関係上、下と表現される被雇用者が監査役員に含まれることでガバナンスの偏りが生まれないことが確認できた。ここに消費者の価値観を持った代表者の参画を法律上強制させることができれば全てのステークホルダーに対する平等な価値の提供を実現できるのではと言う新たな仮説を設定できた。

4/11

・海道ノブチカ「ドイツのコーポレート・ガバナンス改革」(『商学研究』133 1-15,2003年9月1日)

「内容総括、選択理由」
企業形態的に国内と似通っているドイツの法令的見解をもとに、コーポレートガバナンスコードの設定担当者などガバナンスの主導者に対する権力集中をどのような側面から解決を行なっているのか分析するため選択した。

「内容」
ドイツの株式会社の特徴は、周知のようにトップ・マネジメント組織が業務執行機関である取締役会 (Vorstand)と 統制機関である監査役会 (Aufsichtsrat)との二つに分かれており、重層構造になっている点にある。日本とは違いドイツでは株主総会においてまず監査役が選ばれ、そして監査役が取締役を選任する。このようにドイツのトップ・マネジメント組織は、機関の分化と権限の分配が法律上、厳密に規定されている。そして1976年の共同決定法によりこの監査役会に労働側代表が半数参加することになる。企業政策の決定に対し労働側はモニタリング機能を持つことになる。この労働者の共同決定を定めている法律には石炭・鉄鋼業に適用される1951年のモンタン共同決定法、1952年の経営体制法(1972年大幅改正) および1976年の共同決定法などがある。従業員2000人以上の資本会社にたいして適用される共同決定法においては、監査役会に労働側代表が半数参加することになる。それによって労働側は資本側と共に取締役の人事権や取締役の意思決定に対する同意権を留保することにより企業政策の決定に影響をおよぼす可能性を持っている。資本側監査役代表の中には、個人・法人の大株主以外にも寄託議決権制度にもとづく銀行の代表も参加している。株式所有の分散した公開株式会社の場合には寄託議決権制度にもとづき銀行が監査役会に役員を派遣し、場合によっては監査役議長のポストを占めることにより、産業企業に対して大きな影響力を行使することができる。したがってドイツでは、出資者、金融機関、労働組合、従業員といった各利害集団は、監査役会をとおして企業の政策決定、意思決定に影響をおよぼす可能性を持っているし、また企業を規制できる可能性を持っている。2002年2月26日に政府委員会より「ドイツ・コーポレート・ガバナンス規準」 (Deutscher Corporate Governance Kodex)が公表された。この規準の特徴は、つぎの3点にある。ます第1 は、企業経営の透明性を高めることによって内外の株主・投資家の権利の保護を拡充する点、さらに顧客、従業員、公共一般の信頼性を高めることにある。また第2は、監査役会の機能を拡充し明確化する点にある。さらに第3 は、監査役と決算監査人の独立性を確保する点にある。監査役会の機能の拡充と明確化についてみるとまず監査役の個人的資格要件として選任に際して専門知識、能力、経験、独立性確保に留意することが義務づけられ、年齢制限の設定が規定されている。監査役の機能の充実という面では、監査役会内に専門的知識を備えたメンバーから構成される委員会を設けるべきであると提言している。監査役の独立性の確保に関しては、取締役であった者は2名を超えて監査役として選任されてはならないという規定が設けられている。また重要な競合他社の役員に就任すること、あるいは顧問活動をおこなうことを禁止している。

「総括」
結果として起こり得る有権者への力の偏りに対する分析は行われておらず、未だ課題の解決は不透明なまま。いっそのこと会社法による規制を設けるのもありなのかと。

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