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せかいには、私ひとり

「今、ここに自分がいることを誰も知らない」

高知の深い山奥にある靴のワークショップから、一番近い宿泊場所が、このライダーズインである。

スタジオでの靴作りを終えたのが8時過ぎ。そこから、一緒にクラスを取っていた、丸亀からのお母さんと娘さんの車で、大栃のこの宿まで車で送ってもらう。

途中、例の車線のない谷底の上の道のカーブを曲がったところで、鹿に出くわす。私なら、この鹿と心中してたな。

宿に着くと、電話で問い合わせた時に言われた通り、管理人の携帯番号が書かれたメモがペタッと入り口のドアに張られていた。

その番号に電話して、10分、昔は、きっとイケイケだっただろうなあと思わせる女性がやってきて、受付をしてくれた。

なんだかんだと話していて、いつの間にか、この宿を市から委託され、経営していた彼女の旦那様の話になり、それを聞き入ること、約20分。聞きながら、もしかしたら、またこの宿に来ることになるなあと、頭の中で、勝手な妄想が始まる。

いかん。早く寝なきゃ。明日が早い。

話を聞きながら、予想していたことだが、多分、この管理人さんは、近くにある自宅に帰っていくであろう、そして、残された私は、おそらく、今日のただひとりの泊まり客であろう、そして、管理人さんが、「狸が来るから」とドアをキチンと閉めるように言ったように、山の中のお友達が現れる可能性もあるだろう、エトセトラ。

えーーーーー!ひとりーーー!

とパニクるほど、うぶではないが、心の中で、そう叫んでみたい衝動に駆られたことは明記しておこう。

こういう事態になると、一旦、驚いたフリして、思い切り笑いたくなる。

せかいに、私、ひとり。

草刈正雄の「復活の日」とか、人類が絶滅の危機に陥る映画を、こういう時に見たくなるが、何故か、リビングで魅入ってしまったのは、日本の野球中継であった。


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