エネチェンジ空売り小説

『会計の迷宮』

第1章

佐々木剛は、オフィスの窓から東京の夜景を見つめていた。39歳になる彼は、叩き上げの専業投資家として名を馳せていたが、今夜は珍しく落ち着かない様子だった。

「佐々木さん、資料の確認をお願いします」

声をかけてきたのは、秘書の山田だった。彼女が差し出した書類に目を通すと、佐々木の眉間にしわが寄った。

「これは...」

それは、エネチェンジ株式会社のIR資料だった。佐々木は数週間前から、この新興のエネルギー関連企業に注目していた。特に彼らが展開しようとしているEV充電事業に興味を持っていたのだ。

「山田さん、明日の朝一番でエネチェンジに連絡を。IR面談をお願いしたい」

「はい、わかりました」

山田が部屋を出て行った後、佐々木は再び窓の外を見た。街の明かりの中に、未来のエネルギービジネスの姿を見ているかのようだった。

翌日、佐々木はエネチェンジの本社ビルに足を踏み入れた。

「お待ちしておりました、佐々木様」

出迎えたのは、広報IR部門の中村美咲だった。28歳とはいえ、その眼差しには鋭さがあった。

「よろしくお願いします」

佐々木は丁寧に挨拶を返した。彼女の知性と美しさに、一瞬心を奪われそうになる。しかし、すぐに気を取り直した。今は投資家としての冷静な判断が必要な時だ。

会議室に案内された佐々木は、エネチェンジのEV充電事業について詳しく質問した。中村は的確に答えていく。

「御社のSPCスキームについて、もう少し詳しく教えていただけますか」

佐々木の質問に、中村は少し緊張した様子を見せた。

「はい。私どもは、SPCを通じてEV充電器の設置と運営を行っています。これにより、初期投資を抑えつつ、事業を拡大できると考えています」

佐々木は頷きながら、さらに踏み込んだ。

「そのSPCは、エネチェンジの連結対象にはならないのでしょうか」

中村は一瞬言葉に詰まったが、すぐに答えた。

「いいえ、連結対象外です。SPCの意思決定は出資者が行うため、私どもには実質的な支配力がないと判断しています」

佐々木は納得したふりをしたが、心の中では疑問が膨らんでいた。このスキームには、何か裏があるのではないか。

面談を終えて外に出ると、秋の涼しい風が頬をなでた。佐々木は深呼吸をして、頭を整理した。エネチェンジのビジネスモデルは魅力的だ。しかし、そこには大きなリスクも潜んでいるのではないか。

彼は山田に電話をかけた。

「調査を始めよう。エネチェンジの裏側を徹底的に掘り下げる」

こうして、佐々木のエネチェンジ調査が本格的に始まった。彼はまだ知らなかったが、この調査が彼の人生を大きく変えることになるのだった。

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