教場・アウト・オブ・スペース(1)

 あんな、隕石騒ぎがあったやろ、何年か前。うん。テレビも来た。あれ、どんなんやったか憶えてるか。うん。そう。教場のグラウンドに隕石が落ちました。それはニュースになったな。でも、その後のことは知らんやろ。あんなんニュースにしてもわけわからんからな。ほんで取材やなんや言うて色んなとこから人が来ててんけど、怖い、厭や、言うて、みんな引き上げてしもたからな。だから俺みたいな、その後もずっと教場にいたやつしか知らんねん。それ言うたら隕石騒ぎのあと、卒業までに辞めたやつおらんな。なんや適応? 順応? そんなんやろな。俺らみんな慣れてた。
 まず、隕石そのものはな、落ちた次の日には無くなってた。残ってたんはでっかい穴ボコだけ。誰かが持ち出したん違うかいうことで、職員も教官も一緒なってあっちこっち、隅々まで探しててな、俺の部屋も、そんなとこまで見られんの、いうとこまで見られたわ。結局、見つからんかってんけどな。
 それから何日かして、変な夢を見た言うやつが出てきた。夢の中で、食堂に行く廊下におってんて。おるというか、廊下からの目線で、食堂が見えてるという感じやな。夢ってあんまり自分がそこに居てるのか居てへんのか分からん時あるからな。で、食堂の入り口のドアはガラス張りやねんけど、その向こうが見えへんねん。なんか、あんまり見たことない色、紫っぽいようではあるけども、あんまり見たことない色で、塗りつぶされてるような。そんな風に、向こうが見えなくなってんねん。
 そのドアの隙間から、ちょっとずーつ何か染み出してることに気づく。この夢みんな見てん。一週間くらいの間に、同時ではないけども、みんな見た。
 ドアの向こうが見えんかったんは、塗りつぶされてたんやのうて、その変な色の水で満たされとってんな。食堂が。ほんで、その重みに耐えきれんと、ドアがこっちの方に押されてきて、隙間が開いて水が染み出してくる。だんだんドアの形が歪んできて、最後は決壊。決壊いう感じやった。そっからはもう、変な色の水がどおおおお言うて、こっちに流れてくんねん。ものすごい勢いで。そこであかん、逃げな、となって、いつの間にかその廊下に自分が立ってるいうことになっててんな。それで振り返って、走って逃げようとすんねんけど、そういう時ってよう走れへんやろ。足が速く動かない。息ばっか切れる。それでも走るしかないから、その廊下の突き当りを曲がったら階段があんねん。左右どっちも。俺は右に行ったかな。階段を降りて、中庭に出ようと。で、階段の手すりまで辿り着くねん。その間に水が追いついてこなかったんは不思議やけども、まあ夢やからな。ほんで階段の手すりを掴んで、急いでるから、一段一段、駆け下りたりせえへんねん。手すりの先の方、こう、進行方向の届くギリギリのところをグッと掴んで、体を引き寄せんねんな。そうすると階段の段を使わんで速いこと降りれんねん。夢の中ではな。そしたら最短距離で降りれるわな。あるやろ、そういう夢。
 あとはもう、逃げるばっかりやったな。どこを逃げてるとか、何から逃げてるとか、走ってんのか浮いてんのか、そんなんも分からんくなってたな。
 で、気づいたらグラウンドに立ってる。気づいたら振り返って、教場の方を見てる。でもそこに建ってんのは教場やないねん。それが何なのか、あとで皆で話したら、それぞれ見たのは別のものやった。共通してたんは紫色に、さっき言うた変な色のことな、変な色に光ってる。光ってるというか、暗いねんけど、その色であるということははっきり分かる。あれ不思議やったな。ほんで、一人ひとり違うものを見たということが分かって。俺の場合は、うーん、これあんまり思い出したないねんけどな、俺が見たんは、うーん。何ちゅうかな。えらい怖かってん。あれは、んー。変な色で、怖かったんは覚えてるわ。すまん。オチのない話になってもうたな。俺ちょっとトイレ行ってくるわ。

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