教場・オブ・マッドネス(2)

 この都市はね、時間が止まってるんだと思う。
 時間が止まっているのに、こうして会話という、時間を用いたコミュニケーションができるのは変な感じがするでしょ。よく分からないか。まあそうだよね。
 君はここに来たばかりだけど、僕はそうではないから、この都市について理解する時間はたっぷりあった。いや、止まっているのに、あったというのはおかしいな。無限なんだ。無限というのは、あるとかないとかじゃない。ただ、無限だという状態にあるんだ。
 ごめんね。僕はここに来てから、こういうことばかり考えて生きてきたから、君みたいな、来たばかりの人を置いてけぼりにして、ついべラベラと喋ってしまう。でも仕方ないんだ。ここでは日本語を、どころか言語を使って考え、話すのは僕だけなんだから。今は僕と君か。
 君は僕を、現役の校長として知ってるんだよね。ということは、君は僕から見ると、過去から来たことになる。もちろん、既に来てしまっているのだから、過去とか未来とかというのは、あまり関係ないんだけどね。
 僕はここに来てから、歳をとっていない。そう思う。すごく長い時間、何十年とか、それくらいの単位の時間をここで過ごしてきたと思う。なのに、どこそこが痛むとか、弱ってきたというような実感を持ったことがない。第一、お腹が減ったと感じたことがない。だから、その点は君も安心していいと思うよ。ここで過ごすということは、ここで老いていくということじゃない。
 ただ、そのせいで僕は、一刻も早くここから出たい、という気持ちを失くしてしまった。歳をとらないのなら、今日帰るのも、明日帰るのも変わらない。そう思うようになっていったんだ。それがいいことなのか悪いことなのか、今となっては分からない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?