幕が上がる 望郷編

 デカい車に乗っている。デカい車で移動して、寝泊まりもしている。だからキャンピングカー?いやキャンピングカーにしては長い。デカ長い。このデカ長い車で毎日を過ごし、この古小さいノートパソコンでフライヤー?を作っている。それをネップリする。最初に「会員登録しないで印刷」を選択して、そのまま惰性でそれをずっと続け、つまり毎回パスワード?を設定?してセブンに行ってまた同じパスワード?を入力していたが、「馬鹿じゃないの?」と言われてその日に会員登録した。
「馬鹿じゃないの?」
「え? あ、セブンあった」
「どこ? 見えない」
「もーーー少し進んだらそこに看板ほらほらほらほら」
「反対車線じゃん」と運転手の鼻田佳子(びたよしこ)。

 車を運転できる人というのはありがたい反面、脳の3〜7割くらいが車を運転することに最適化されていて不気味だ。ネップリはおあずけとなった。

「停めっとこ無いよ」と運転手の鼻田佳子(びたよしこ)。
「でも、ここでやんでしょ」とオルガン弾きの伴三介(ばんさんすけ)。
「ここここ」と団長の安田。
 パーカッショニストの仁王(におう)がディヴィジョン・ベルを叩く。五月蝿い。この音で残りの団員たちがようやく起き出す。

 寝起きの悪い団員たちが顔を洗ったりなんだりしている間に、わたしはネップリしたフライヤー?をかかえて辺りに貼り出して良さそうな場所を見つけちゃ貼り、見つけちゃ貼る。アコーディオン弾きの平子笑瓶(ひらこしょうへい)、司会者の司会男(し かいお)がついてくる。二人はフライヤー?の内容をCMソング?のようなものに仕立てて歌ってまわる。二人と一定の距離をとりながら、わたしはネップリしたフライヤー?をかかえて辺りに貼り出して良さそうな場所を見つけちゃ貼り、見つけちゃ貼る。そうこうしているうちに元いた車に戻ってくる。車の中からは今晩やる演目を練習しているのが聴こえてくる。わたしはドアを少しだけ開けて体を滑り込ませ、素早く閉める。少し間をおいて、司会男と平子笑瓶が入ってくる。平子笑瓶が乱暴にドアを閉める音を最後に、すべての音が止む。

 幕の向こうからざわめきが聞こえる。定刻を告げるけたたましい目覚まし時計1ダース。それを順番に止めていく団長。時計の音が一つ一つ減っていき、それと入れ替わりに仁王がディヴィジョン・ベルを等間隔で叩く。伴三介はハーモニウムの低いとこを抑える。わたしはバスドラムを等間隔で踏む。団長がでっかい(サイズが)ギターを指でビロリビロリビロリビロリと鳴らす。幕が上がり、司会男と平子笑瓶が飛び出す。司会男がいつもの調子で叫ぶ。

「マリアガッテイキアッショ!」

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