帰宅
影法師が歩いていくと、一軒の家がありました。
トン、トン、トン。
鍵は開きました。
扉は開きました。
けれど、そこには誰もいません。薄暗い廊下が奥へと伸びているだけです。
影法師は首を傾げました。はて、これは誰の家だろう。
答えが見あたらなかったので、中へ入ってみることにしました。
滞った埃っぽい空気が、家人の不在を告げます。
誰も住んでいないようです。
ポッポゥ。
鳩が鳴きました。時計は動いているようです。
けれどこれが何周目なのか、数える術はありません。
花瓶が置いてありました。水は入っていませんが、花は生きているようです。
不思議に思って、影法師は花を手に取りました。
お帰りなさい、ふっと耳元で囁かれた気がして、影法師は振り向きました。
そこには、主が、手を広げて立っていました。
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