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怪文書:多角視点パイのレシピ 〜感情経済とパラレルワールド〜

※与太

 なんと、ものごとはいろんな視点から見ることができます! 立つ位置を変えて、切り口を変えて、分解してみたり・音の反響を聞いてみたり・光を当ててみたり……。
 じゃあその「立ち位置」ってなんですか?

 俺は「利害関係」だと思っています。そして利害にもいろいろありますが、どうもこのままだと、お金とかの利害の話しか扱えないで終わってしまいそうです。
 そこでもう一つ前提を噛ませてみましょう!
 「感情」を資源のように考えます。今回は「感情の利害関係」を補助線にして料理してみましょう。がんばるぞ!


1.感情経済の話


 感情は資源のようなものです! そして好意には大抵価値があると信じられています(※1)。ここでもう勘の良い人は気付いたかも? そのとおり! 感情には通貨的な側面がありますし、感情経済における利害関係も、お仕事やらなんやらと同じく、ものごとを見るときの「立ち位置」を決める大きな要素になります。
 少し逸れますが、感情という資源が生み出すのが「この人のために何かをしてあげたい」という気持ち……つまりマンパワー、労働力です。ざっくり言うと、通貨経済というのは感情経済のルールを整備してデフォルメしたものなわけですね。キャッキャッ
 
 たとえば、AさんとBさんがいるとして、お互い一緒にいると良い気持ちになれるとします。HAPPY! AさんとBさんの感情の利害関係は一致しています。それ以外の場合──たとえばどちらかがどちらかを嫌いな場合──に関しては、とても悲しいお話なのでみなさん適宜お願いします(※2)。

※1:そうでないときもありますが脱線するので、大抵はそう、という流れで進めていきます。卵の白身と黄身を分けるみたいなことです。
※2:うそ。「3.パラレルワールドを作る」の段で使うので、捨てずに取っておいてください。


2.立ち位置と感情経済


 人は基本的に不愉快を避け、愉快なものに向かっていきます(※3)。この感情経済の利害関係に立脚して、その人の視点、「立ち位置」が決定します。
 「私はこう感じる、だからこうなのです」。その人の立ち位置においてそれは絶対的に正しいものです。すべての感情は真実です。そりゃあそうですよね。前述の通り感情は資源のようなもので、事実であり、誰がなんと言おうと“ある”ものです。水が存在する。鉄が存在する。星が存在する。難しくはありません。それくらいの粒度の話です。

 おいおい! じゃあ掲題の「多角視点」ってなんですか? 人が感情経済に絡め取られているというなら、自分以外の視点を持つことなんて不可能じゃないか!
 あせらない、あせらない。予熱中の、アツアツのオーブンに手を突っ込むのはやめましょう。


※3:一見不愉快なものに向かっていくこともありますが、たいていそれは不愉快さと同時に何らかの愉快さを得ているからです。

3.パラレルワールドを作る


 さてと、自分以外の視点を持つことはできないのは事実です。だけど、自分の視点の中で角度を変えることはできますし、その角度を拡げることはできます。それが「多角視点」です。
 嘘をつく必要はありません。仮定によって、小さなパラレルワールドを作ります。パラレルワールドを重ねて、伸ばして、重ねて、伸ばして……。
 「もしも私がBさんのことを嫌いじゃないのなら?」「もしも私かBさんのどちらかがいないとしたら? ……いやいやそれはひどい考えかも。じゃあ、もしも私とBさんが離れて住んでいたとしたら?」「逆に、もしも、Bさんが私のことを嫌いじゃないとしたら?」
 そう、前提を引き直してみましょう。自分の周りの感情経済が今のような形じゃなかったら、世界がどうなるかシミュレートするのです。

 パラレルワールドをシミュレートするときに違和感があったのではないでしょうか。「都合が良すぎる」という感覚です。そのとおり、そこが普段の自分の視点の限界で、ふつうはそれ以上立ち入らないのが賢明です。ですが今日はもうちょっと入ってみましょう。角度を拡げます。
 おっとその前に、基底現実によすがを残しておきます。何でも構いませんが、自分にとって快いものにしましょう。あったかいお布団、かわいい猫ちゃん、ステキなマグカップに入った美味しいコーヒーと、甘いチョコレート。

 準備ができたら、違和感に疑問を投げかけます。なぜ都合が良いと思ったのでしょうか? なぜそんなことはありえないと言えるのでしょうか?
 探索を進めます。逆に、「ありえる」のはどんな反応ですか? どうなれば「都合が良すぎない」と思いますか?
 自分の悲観あるいは楽観に光を当てます。大きな見落としはありませんか? あなたはむやみに自分を傷付けたがっていたり、他者を傷付けたがっていたりしませんか?
 以下、同じ過程を繰り返して探索を進めていきます。なぜ都合が良いと思いましたか? なぜありえないのでしょう? よりそれらしいのはどの道ですか? 誰かをむやみに傷付けたがっていませんか?

 こんなところでしょう。安全ロープを引っ張って、現実に戻ってきました。パラレルワールドが出来上がりましたね。凝ろうと思えばいくらでも凝れるので適当なところで止めます。ひとやすみ、ひとやすみ。
 じゃあ、次にもう一つのパラレルワールドを作ります。前提を変更して、同じ探索の過程を踏みます。ちなみに、パラレルワールドの赤ちゃんが見つからないときは、ブレインストーミングが有効です。こうしてどんどん作ります。できる限りたくさん! もっともっと!(※4)

※4:食いしんぼうの声。パラレルワールドが増えるほどカロリーが高くなっていくので、采配は皆さんにお任せします。俺は食いしんぼうなので、できる限りたくさんいかせてもらうデブよ〜!(語尾)

4.自分の視点を確認する


 自分の周りの感情経済の形を色々に変えた、もしもの世界ができました。ここでパラレルワールドを探索した後の自分の考えを点検してみましょう。予熱済みの、190℃のオーブンで20分……。現実は何も変わっていませんが、なんだか旅の前よりも視点が増えている気がします。これが多角視点です。やりましたね! 多角視点パイの完成です!

 早速味見してみましょう。うまくいっていれば、多層的な生地がサクサクとしてとってもデリシャス。新しい世界を垣間見て、予定を立てていきましょう。今よりも良いと感じた世界に辿り着くにはどうすればいいでしょうか。Bさんの気持ちの端を少し理解できたとして、私は明日どうしましょうか。
 うまくいかなくても大丈夫! あったかいお布団、かわいい猫ちゃん、ステキなマグカップに入った美味しいコーヒーと、甘いチョコレート。ここまで読み進めてくれたあなたは、そういうものを持っているはずです。


おさらい


 感情経済の形を少しずつ変えて、パラレルワールドを重ねて広げていきましょう。それをじっくり検討すれば、美味しい多角視点パイの出来上がり。やさしいバターの香りと軽やかな食感のおやつです! トッピングはご自由に。失敗してもめげないで、明日はもっと上手にできるはずです。



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