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最高の放射線技師


本日のカテについて。
治療を受けた患者さんがぜひ書いてくれと言ってくれたので書きます。

ある婦人科がんで、重粒子線治療を抗がん剤と併用して受けた、大阪からかなり遠方の患者さんです。

重粒子線=完治、というイメージが強い中、
正直、重粒子線治療後の再発は結構みてきました。
(放射線治療の先生方、すいません)

特に、重粒子線は手術に匹敵するといった風潮のなか、
手術ができるのに重粒子線を選択して後日再発、
さらにその再発から全身転移してた患者も何人も見てきました。

治療はパーフェクトではありません。

本日カテした患者さんは、重粒子線を用いた放射線化学療法という、完全に根治を狙った治療をされたのですが、残念ながら再発し、その後抗がん剤治療をされても制御できなくて、当科に相談に来た患者さんです。

今の僕の研究テーマは、放射線治療後の再発に対して動注療法をした場合の成績です。一般的に、重粒子線を含めた放射線治療をした同じ場所に再発した場合は、放射線系の治療を追加することはできません。でもそこしか再発していない場合、全身治療よりも何らかの局所治療をしたくなります。だって、再発しているところはそこだけだから。

多くの場合、こういうケースは全身治療をやってみるのですが、
残念ながら、局所の、一部の再発に対して
全身治療の効果は限局的で、かつ副作用もあり、
やはり局所治療後の再発に、局所治療で制御したい、って考えはあります。

僕は、放射線治療後の再発に対して、10年以上、動注療法を試みてきた症例をいままとめています。そこでわかったことはいくつかあり、大きな結果は、放射線治療後の再発でも、動注は、癌腫によりますが、さらなる局所制御を得られる可能性のある治療である、ということが、当科の成績で今後発表されると思います。
期待していてください。

さて、本日は放射線技師の話を書きたかったのですが、
これは患者さん、うちのスタッフ全員の了承を得て書いてますのであしからず。
(こういうことを書かないと、あとで色々と言われるご時世で、以前のように、僕のブログをみて気楽に患者さんが来院された時代と異なることに、矛盾と、結局病院という組織も集客しなければ生き残れない以上、現在のSNS時代、これを制限する考え方が、今の世の中に矛盾していると思えて悲しくなります)

本日の患者さんは、子宮に動注する必要がありました。
ただ、通常の放射線治療を受けた患者さんは、子宮動脈、その他骨盤の動脈からがんが栄養されていて、その血管をIVR-CTで見つけ出して動注してきました。

重粒子線の時代になって、以前の通常のX線を用いた放射線治療の時代と異なり、
栄養動脈が潰れているんです。
もしくは、初回の治療の時は栄養動脈が開いているんですが、1回動注するだけですぐに潰れてしまう。

こういうことを何回か経験してました。ただ、研究材料としてなかったので、実際に従来の放射線治療と比較し重粒子線治療後の動注が難しくなる可能性について、具体的な数字は出していませんでした。

秋口に、放射線治療の総会で発表させていただける機会をいただき、これを機会に当科の成績をまとめていますが、驚くほどに重粒子線治療後は、動注をしようと血管造影をすると、栄養動脈が潰れていたんです。
統計結果を出すほどの症例数はありませんが、客観的にみて、やはり重粒子線のよながんにつよい効果を出す放射線治療は、周囲の血管に対しても大ダメージを出すかもしれない、そう考え始めてます。
今後、同様の患者さんが増えてきたら、もっと成績をまとめたいと思います。

本日の患者さんは、抗がん剤併用の重粒子線治療を受け、再発し、さらにTCという標準的最強の全身治療を受けても制御できない婦人科がんでした。
(何度も言いますが、本人の許可、希望を得て書いてます)

この患者さんには、確か今回で6回目ですかね、動注したのは。

1回目の治療でマーカーが1/10くらいまで劇的に低下し、腫瘍が急激に縮小しました。これは僕は冷静に、僕の手技の腕ではなく、この患者さんがラッキーだったと考えました(でも腕もいいです)。
その後、2回目を実施。この時から、状況が変わります。
1回目の治療した血管が一発で潰れていました。
通常の放射線治療後ではありえないことです。
その時は、がんは生きているわけで、当初の血管が潰れても、別の血管が別ルートで腫瘍を栄養するので、その血管を見つけ出して治療しました。

ただ、この患者さんの大変なのは、3回、4回とやると、その都度血管が潰れたり、バイパスを作ったりで、毎回治療する血管が変わるんです。
さらに、子宮の治療をしているのに、子宮動脈という、本来子宮を栄養する動脈が、そこにあるのに全く子宮を栄養しなくなっているんです。

毎回毎回、パズルです。

でも、そうやって、患者さんの腫瘍を毎回制御してきました。ただ、その都度変化する栄養動脈、もう予測さえできなくなってきました。
前回は、子宮動脈が完全に消失し、卵巣動脈から治療して、そこの部分のがんを消滅させることに成功したのですが、でも血流動態が変化するために、前回動注できなかった部分に今回も別の再発をきたしていました。

正直、もう、治療する血管、カテをいれる血管はないと考えました。
25年ほどこの治療をしてきて、その経験から限界を感じてました。

その時、うちのチームの放射線技師(虫が嫌いな方です)が、僕に言ってくれたんです。大腸の血管から栄養されている可能性はないでしょうかと。

一般的に、子宮は後腹膜臓器、大腸は腹腔内蔵機。
これが直接つながる可能性は極めてゼロに近い。
僕もありえないほどカテをしてきましたが、経験ない。

でも、人間の身体って、不思議なんです。
常識が通用しないことなど、今まで山ほど経験してきました。
この放射線技師の提案は、僕の中では、
ありえる、でも通常の医学ではありえない、でもこのチームの中の経験ではありえる。

つまり、彼の提案は、僕が医学の常識で排除しようとしたことを
彼の実直な、治療前の画像の読影で可能性を提案してくれたんです。
(ちなみに、こういうことには一切、一般の放射線読影医は関与していません。
 これは、僕らチームでdiscussionして検討していることですので
 普通の放射線診断医に相談しても、誰もわからない案件です)

結果、僕は、彼の提案を採用しました。

まず、カテをいれて、最初に実施したことは、
彼が疑った大腸の血管にカテを入れて、そこから造影剤を流しながら
IVR-CT(カテから動脈に直接造影剤を流しその間にCTを撮影できる装置)で子宮がどうなるか確認しました。

僕は驚きました。
子宮の大半が、大腸から栄養されていたことが、IVR-CTで証明されたんです。
僕の経験上、手術をしていない患者で、子宮が大腸から栄養されていた症例は初めてでした。

これは、いろんな意味で、歓喜でした。

治療がまだできる!

こんな事例もあることを知った!

そして、なにより、こんな稀な事象を医師に進言してくれるような優秀な放射線技師がうちにはいる!

すなわち、背中を完全に任せられるスタッフが、本日誕生したわけです。


僕は、がんカテセンターを立ち上げてからずっと
スタッフの教育と成長をなにより大切にしてきました。

やる気のないスタッフも半分以下ですがいました。
彼らは勝手に辞めていきました。

でも、僕と仕事をやりたい、この仕事が面白い、といってくれたスタッフが
予想以上に多かったことも事実です。

残念ながら、がんカテを志願しても、そのほかの事情で当院を辞めていったスタッフが多いのが当科の最大の問題です。

しかし、今の放射線技師2名、看護師2名は、僕のいたらないところを支え、患者さんを支え、素晴らしいチームになっています。

僕は、仲良しこよしの実のない医療チームは嫌いです。
ですが、お互いが自分の立場を、仲間の立場を理解し、
お互い助け合って、患者を救う、これがチームだと思っています。

ここにきて10年弱。最近も相当やられましたが、
結果的に、僕は今素晴らしいチームを手に入れて、
そして、本日、素晴らしい技師のアドバイスのもと、他の大学でも手に追えない患者さんの治療を無事完遂することができました。


嬉しい。

虫が大好きな女性技師、逆に虫が大嫌いなおちゃめな看護師。
いろんなタイプの仲間がいますが、

今のチームは最高です。


僕が弱っている中、彼ら彼女らの存在が、
このチームをさらに全国でも指折りのがんカテチームにしてくれるでしょう。

もし、がんカテを考えたいと思った患者さんはぜひ僕の外来にお越しください。

うちのセンターは、僕が治療方針を立てますが、
その裏では優秀な、知識のある、そして技量のあるスタッフが揃っています。

安心して、治療を任せてください。


なお、本日活躍した男性技師に、女性技師からささやかな贈り物があるようです。
虫好きの彼女が蝉の唐揚げを考えていると。

当センターでは、個性ある優秀なスタッフを重宝しています。

今日もありがとう。また次の患者さんの治療も一緒にがんばろう。

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