とりあえず読むよね

「違国日記」

タイトルだけ見ても、なんの話かよくわからない。
両親を事故で亡くした姪と一緒に暮らすことになって、お互いかけがいのない存在になっていく…
そんなあらすじを読んだところで、いまいちピンとこない。

映画化されると知って、原作を読むか、読まずに映画を観るか悩んだけれど、結局原作をポチることにした。
漫画なんて買うの何年ぶりだろう?
アプリで読んでたものが書籍化されたときに応援するくらいの気持ちで買ったのが学生のとき。
漫画を読む習慣がないので、実質初めてのようなものか。

結論から言うと、買ってよかった。出会えてよかった作品だった。
もう少し踏み込んだ言い方をすると、この漫画を読めたので映画化してくれてありがとう、くらいの気持ちである。(映画がそれほどピンとこなかった、というのもあるけれども。笑)

ただ、この作品についてどう説明したらいいんだろう?あまりそういうのは得意でないというのもあるが、決してハデなインパクトはない。
ただ、ひとの内面、それぞれの内面について、よく描写できている、と思う。
それぞれのひとの内面と、それぞれのひとたちの内面、関係性。それぞれにとって、それぞれがどういう存在か。

たとえば槙生は集団が苦手なタイプ。朝は逆にひとりが寂しいタイプ。ひとことで言うと真逆の性格だけど、ひとつ屋根の下で生きていくことになった。
「全っ然わかんない!」
朝が槙生に噛みつく。槙生は説明しようと言葉を並べるが、朝には解読できない。
ひとにはそれぞれ自分の世界があって、それは自分だけのもので、自分しか存在していない。
そして自分の世界の言葉でしか話すことができない。自分の世界は誰にも知られない。誰かの世界を知ることもできない。
誰かと関係をつくることは、違う言語でコミュニケーションをとるということ。何を伝えるか、どう伝えるか、どこまで伝えるか、それぞれ違う。

私としては槙生の言葉に共感できることが多かった。逆に、朝の言動には腹が立ったし、理解するのは難しいと思った。
仮に朝みたいなタイプと出会ったとしても友だちにはなりにくいだろうし、ましてや一緒に暮らすとなるとかなりのストレスを覚悟する。
経緯が経緯とはいえ、槙生が誠実に朝と言葉を交わしてコミュニケーションをとろうとするのは非常に感心した。私だったら諦める。可能なかぎり距離をおく選択肢をえらぶかもしれない。
朝が決して悪いキャラというわけではない。むしろ素直で良いひとである。ただ使う言語が違いすぎる。自分の世界が肯定できて、ほかのひとからも肯定されると信じている。
その世界の中で過ごしていろんなことが起こって、いろんな言語と出会って、変わっていく部分もあったとしても、根本の土台は、その世界自体は変わらない。その世界の中で、誰と関係を築くのか。言葉を交わすことができるか。

槙生と朝、だけでなくて、いろんなキャラと、それぞれいろんな関係がある。
家族とか友人とか仕事相手とか恋人とか、同じ言葉にしたってそれぞれ違う意味があるし、そもそも言葉に当てはまらない、ふたりの言語もあるし。
それぞれの世界が交錯する話?うーん、それもイマイチしっくりこないけれども。
誰かにオススメしたいというのとはちょっと違う、自分の中で大切にしたい世界観の作品でした。

面白かったです、ぜひ!(すすめるんかい)