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2024年の猛暑予報について調べてみたら勉強になった


はじめに

今年の夏の季節予報について、ちょっと機会があって調べてみたら勉強になったので、自分自身の備忘録を兼ねてnoteにまとめました。もし理解が不十分なところがありましたら、優しくご教示いただきますと本人が喜びますので、どうぞよろしくお願いいたします。

なお2024年5月下旬に調べたことを、6月頭に執筆しております。ご覧いただいている時期にはもう古い情報になっているかもしれませんが、ご了承ください。

きっかけ

「今年の夏も猛暑になる!」といった季節予報は、すでにメディアによって報じられているため、広く周知されているものと思います。中には「昨年を上回る猛暑になる!」と豪語する記事も見かけます。

昨年、つまり2023年の夏は記録的な猛暑で、東京では猛暑日が22日と過去最高でした。日本だけでなく世界の気温も異常に高く、一般によく言われる地球温暖化だけでこの状況を説明できるの?って思うくらいの異常な状態でした。そんな2023年より暑くなる予想なんて、今年の夏もやばそうだな…と思っておりました。

世界の日平均気温の推移
引用元:Climate Reanalyzer

ところが、気象庁の季節予報(3ヶ月予報)を見る機会がありまして、「あれ?確かに平年より暑い予報だけど、昨年を上回る猛暑って感じの予報ではないような??」と思う内容でした。そう私は理解しました。

そこで2023年の夏の状況、2024年の夏の季節予報、また2023年を上回る猛暑との予想根拠について調べてみました。

なお後述の通り、2023年は地球温暖化+エルニーニョ現象で世界的に高温だったと言われていますが、それにしても異常に2023年だけ高いですよね。それを長期的な地球温暖化とエルニーニョだけで説明できるのかな?と、主観的ですが疑問を持ってます。
2022年のフンガ・トンガ噴火によって成層圏の水蒸気量が異常に増えたことが異常高温の要因とする仮説もあるようですが、今後の研究が待たれます。

2023年夏の気候場

まず昨年の猛暑について調べました。主に参照したのは気象庁の『気候変動監視レポート 2023』です。2023年の記録的な猛暑の要因について、おおよそ以下のように報告されています。

  • フィリピン付近で対流活動が活発で、日本付近では亜熱帯ジェットが北偏して太平洋高気圧が強く張り出していた(PJパターン)

  • ヨーロッパ・地中海方面でのジェット気流の蛇行の影響の可能性(シルクロードパターン)

  • 台風第6号・第7号による暖湿気流 + フェーン現象(日本海側の高温)

  • 長期的な地球温暖化傾向と、黒潮続流の北偏による北日本周辺の海面水温上昇

2023年7月下旬の顕著な高温をもたらした大規模な大気の流れに関する模式図
引用元:気候変動監視レポート 2023

【参考】
PJパターン
シルクロードパターン

興味深いのはフィリピン付近の活発な対流活動です。2023年春からエルニーニョ現象が発生していたため、典型的にはフィリピン付近の海面水温は平年より低く、対流不活発な傾向になることが多いです。このためエルニーニョ発生時は太平洋高気圧が強まらず、日本は不順な天候で冷夏傾向になることが多いと言われています。しかしながら2023年はそうはなりませんでした。

引用元:気象庁ウェブサイト

上記レポートでは、フィリピン付近の対流活動が活発だった要因として、インド洋の対流活動が不活発だったことを指摘しています。また通常のエルニーニョと異なり、太平洋熱帯域が全体的に海面水温が高い状態だったことも報告されています。JAMSTECはこの点について、直近までラニーニャ現象が3年くらい続いていたため、エルニーニョになってもすぐには海面水温が下がらなかった可能性を指摘しています。

通常とは異なるエルニーニョ状態で、フィリピン付近で対流活動が活発だったことが昨年の猛暑に繋がった、と考えられているようです。

2024年夏の気象庁予報

次に気象庁の季節予報を見てみます。5月21日発表の3か月予報では、全国的に平年より気温が高い予報となっています。その予報根拠として、おおよそ以下のように解説されています。

  • 地球温暖化と2023年からのエルニーニョ現象の影響で、世界的に気温が高い状態となっている

  • インド洋の海面水温が西部を中心に高く、インド洋の対流活動が活発となる一方で、フィリピン東方海上では不活発となる

  • このため、日本の南で太平洋高気圧が平年より西に張り出してくる

  • 太平洋高気圧の縁を流れる暖湿気流が日本付近に入りやすくなり、気温も平年より高くなる

予想される海洋と大気の特徴
(2024年5月21日発表)
引用元:気象庁・3ヶ月予報解説資料

ここで少し気になる点が2つあります。まずエルニーニョ監視速報では「エルニーニョが終息してラニーニャ現象が発生する可能性が高い」としていますが、3ヶ月予報の解説には言及がなく、ラニーニャ発生を予報に織り込んでなさそうに見える点です。

ラニーニャ発生時はエルニーニョとは逆で、フィリピン付近の対流が活発となり、太平洋高気圧の張り出しも強まって日本では猛暑になりやすい、と言われています。しかし、このような特徴は3ヶ月予報の解説からは読み取れません。このことから、3ヶ月予報ではラニーニャ発生を陽には取り入れていないと考えられます。

引用元:気象庁ウェブサイト

次にインド洋の海面水温が全体的に高いという予想になっている点です。気象庁のウェブサイトでは「夏季にインド洋熱帯域で海面水温が高いと、フィリピン付近の対流が不活発となって太平洋高気圧の北への張り出しが弱い傾向がある」と説明されていて、北日本を中心に不順な天候になりやすいとされています。

インド洋熱帯域の海洋変動の日本の夏季への影響
引用元:気象庁ウェブサイト

そこで改めて気象庁の3か月予報の解説図を見ると、太平洋高気圧が西に張り出す部分以外は、上記インド洋高温パターンと特徴が一致します。

最初に気象庁の解説を見た時に「地球温暖化と昨年からのエルニーニョで気温は平年より高い予想だけど、わりと天候不順な夏をイメージしてるんじゃないか?」と感じたのですが、初見の直感はけっこう当たってたのかもしれないです。少なくとも気象庁の予報からは、昨年を上回る猛暑になるなんて見解は全く読み取れない、と私は思います。

昨年を上回る猛暑予想の根拠

では世間に出回る『昨年以上の猛暑予想』はいったいどこから出てきたのか。詳しい方に聞いてみたところ、JAMSTECのコラムが出所ではないか、との情報をいただきました。要約すると下記の通りです。

  • ラニーニャ現象が発生する見込み

  • 正のインド洋ダイポールモード現象が発生する見込み

  • この2つが同時に発生した2007年は記録的な猛暑だった

ここで正のインド洋ダイポールモード現象とは、インド洋熱帯域の海面水温が南東部で平常より低く、西部で平常より高くなる現象です。気象庁ウェブサイトでは、北大西洋西部で対流活発となってチベット高気圧が北東に張り出すこと、またインド洋西部での活発な対流活動によりシルクロードパターンが発生すること、これらの要因により日本で猛暑になると解説されています。実は2023年も正のインド洋ダイポールモードが発生していました。

正のインド洋ダイポールモード現象が日本の天候に影響を及ぼすメカニズム
(盛夏期から初秋にかけて)
引用元:気象庁ウェブサイト

なるほど、これですね。ラニーニャ現象と正のインド洋ダイポールモード現象、このダブルパンチで昨年以上の猛暑って話が出てきたんですね。

一応はっきり書いておくと、JAMSTECは『昨年以上の猛暑になる』とは書いていません。JAMSTECの記事を読んだ人が、意図してか意図せずしてか(ラニーニャ+正のインド洋ダイポールモードで)昨年以上の猛暑になる、というセンセーショナルな内容で発信をした、ということでしょう。

ただ、気象庁の予報が上記のような内容なので「今年も暑い夏になりそう、ワンチャン昨年に匹敵する猛暑になる可能性もある」くらいの言い方が誠実なんじゃないかなー、と個人的には思います。

最後に

ということで、今年の猛暑予想を調べたところ、季節予報を考える上で重要な理論や現象のオンパレードという感じで、とても勉強になりました。

当初の調査目的にはこの知見を使うことがありませんでしたが、こうしてnoteにまとめて書くことができて良かったと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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