シェイクスピアもびっくり!警告表示だらけの芸術祭
エジンバラで様々な芸術作品を楽しめるイベント、Edingbur Fringeが開幕しました。実験的で自由なエンタメに定評のある作品を楽しみにして集まった観客達が目にしたものは近年視聴者のトラウマ喚起防止策として普及したコンテンツ警告表示の嵐でした。
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◎”Trigger Happy”(乱発される警告表示)
事前警告、トリガー警告(①trigger warning)などと呼ばれる表示はドラマや映画でトラウマを換気する可能性のあるシーンの前に視聴者に警告を発する表示の事です。元々は性的暴力の被害者が映像作品を観ている際にトラウマを喚起して苦しむ事を防止する為に事前警告を訴えた事が起源と言われており、フェミニズムの文脈から来たものとされています。それが時代を経て流血や災害、性的暴力以外の暴力、アルコールの摂取などに対象を広げて実施されるようになっています。
その事前警告が自由で実験的な空気で定評のあるEdingbur Fringeで乱発されているというのが今回のお話です。Edingbur Fringeにはオーソドックスな演劇だけでなく日本の芸人やバンド、和太鼓など多種多様なパフォーマーが世界から集い街の至る所で興業を行います。そんな空気の中で、”本作品には架空の人物による横柄な(②domineering)態度が含まれます”みたいな表示がなされたら興醒めも良い所です。
念の為の訴訟対策で始まったものなのかもしれませんが、人間は保守的なものです。最も映像に対して耐性のない弱い人、最もアグレッシブに文句をつけてきそうな人を想定し乱発するようになるのは自然の流れであり、Edingbur Fringeのような場所では事前警告の嵐ということになります。確かにてんかんの発作(③epileptic fits)を引き起こす突然の発光への警告など必要性が明らかな事例もありますが、演劇で起きる展開にいちいち事前警告を発していては作品が台無しになるでしょう。
”ハムレット”の前に”本作品には自殺について考えるシーンが登場します”などと表示されたらネタバレもいい所ですし、”ウィンザーの陽気な女房”を見る前に”本作品には身体的な特徴を罵倒する表現が含まれます”などと言われたら身も蓋も無さに戸惑うしかありません。大事なのはこうした表示が本当に必要なタイミングはいつなのかを判断するバランス感覚であり、出しておけばとりあえず安心という思考停止には注意すべきです。
□本日のポイント■■■
①trigger warning/事前警告、トリガー警告
triggerは何かを引き起こすきっかけという意味で、過去のトラウマを喚起するような映像や音声に対する事前の警告をtrigger warningと言います。深刻なテーマではありますが、書き出しはユーモアから。この事前警告に対して懐疑的な内容なので、事前に言っておきますねという感じです。
🔳Before this article begins, the reader should be alerted that it contains thoughts sceptical of trigger warnings.
(試訳)この記事を読まれる前に読者のみなさまにご留意頂きたい事がございます。この記事には事前警告に対して懐疑的な考えを含みます。
② domineering/横柄な
子供を一方的にコントロールしようとする親だったり、部下の心情を顧みず支配する上司のような態度を指す言葉です。今は単独では使われないようですが、domineerは支配するという意味の言葉です。
最近言葉を調べるのに流行りのperplexityを使っているのですが、歴史上でdomineeringな人物を三名あげてくださいと指示をしてみました。結果はアレクサンダー大王、フィデルカストロ、アドルフヒトラーだそうです。イメージ湧いてきましたでしょうか。
🔳Some shows warn of “surprising entrances”, others of “fire alarms”, alcohol consumption or of “bullying” and “domineering” behaviour on the part of fictional characters.
(試訳)”驚きの登場シーン”や”火災報知器”、”アルコール摂取”、”いじめ”や”架空の人物による横柄な態度”に警告表示をしているものもある。
③epileptic fits/てんかんの発作
脳の電気信号が乱れる事で発作を起こすのがてんかんという病気です。強い発光はこの症状を引き起こす可能性があるとして、対象者に警告を発する必要があるという事を否定する人はいないでしょう。しかし、そうした理屈をあらゆる刺激的な表現に展開するのはやりすぎでバランス感覚、sense of proportionを欠くというのが今回の主張です。
ちなみにfitは発作の意味で人によって発作の種類は様々である為でしょうか複数形で使用されています。ぴったりくっつくという意味のfitとは語源が異なるそうです。
🔳A standard example is the use of flashing lights, which can induce epileptic fits.
(試訳)典型例としては点滅する光を使用する際の警告だ。これにはてんかんの発作を誘発する可能性がある。
◇一言コメント
Trigger happyは考えなしに銃を乱発する性格をディスる言葉です。銃の引き金であるtriggerと今回のトラウマを引き起こすtriggerをかけて、考えなしに事前警告表示を出す事を揶揄する表現としているようです。
文中にもあるように必要な事前警告が存在する事も事実です。だからといってとりあえず表示しておけば間違いないだろうという安易さこそが芸術の敵だという事でしょう。
最近調べ物に積極的に取り入れているperplexityさんですが、Trigger happyを”事前警告中毒”と訳してはどうか?と訳語に対する意見を求めてみました。するとhappyは考えなしに何かをしてしまうという意味だから、依存を指す中毒とはちょっと違うんだよね。。。という至極まともな意見を頂きました。何かを調べさせるという使い方だけでなく、一緒に何かを考えるとか冷静な意見を求めるという使い方もありですね。訳語の検討などにはこれ以上ない働きをしてくれそうです。これで無料なんだからすごい世の中になったものです。
エジンバラは文化の街であるわけですが、ウィスキーの街でもあります。ぜひ行ってみたいものです。
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