MLBの審判は本当にルーキーに厳しいのか

◆前置き

最近気になることをメモするようにしたら不思議と今まで以上に調べたいことが増え、次は調べたものをまとめる場所が欲しくなったので、twitter(現:X)のような文字数制限がなく後から見返すのも楽そうなnoteに手を出してみます。基本的には後から取り出せるゴミ箱のようなイメージで質の低い思考や分析を捨てていく予定です。

「MLBの審判はルーキーに厳しい」という言説をたまに目にします。MLBを見ていなかった時に自分もそのイメージを持っていました。特に野手のストライク・ボール判定でその風潮があるという個人的イメージに基づいて今回は野手を調べます。

◆ルーキーの誤審率

まずは単純にルーキー群と非ルーキー群の誤審率から。

ルーキーとルーキー以外の誤審率比較 誤審数/見逃し数

大きな差はありませんが、ルーキーが誤審を受けやすい傾向はありそうです。打者は500打席でおおよそ1000球見逃しますので、規定打席あたりルーキーは2~3球ほど誤審が多い傾向がある計算になります。

(誤審の有無によって打者にボール→ストライク、ストライク→ボール以上の影響があるのか、という点も気になりますがパソコンが得意になってから調べます。)

◆不利な誤審と有利な誤審

誤審の多さで判定の厳しさは語れないので、不利な誤審(ボールゾーンをストライク判定)と有利な誤審(ストライクゾーンをボール判定)に分類します。

不利な誤審と有利な誤審とその差のルーキー群と非ルーキー群の比較

有利な誤審は16年間で3年ほどルーキーの方が多いシーズンがありますが不利な誤審は全てのシーズンでルーキーの方が多くなりました。不利な誤審がより少なく有利な誤審がより多いことが打者にとって優しいことであると考えると、ルーキーへの判定がルーキー以外への判定より優しかったシーズンは2015のみということになります。

もう少し調べます。

◆誤審はどこで発生してるか

一旦MLB全体での誤審について深掘りします。
まず誤審はどのようなコースで発生しているかという話ですが、これはもちろんストライクゾーンの境界付近です。

Attack Zone

Attack ZoneでいうところのShadowですね。ストライクゾーン境界線の左右では内外8.4cm、高低では内外10.2cmがShadowです。境界線からボール1個~1個半といったあたり。

Attack Zoneごとの誤審率

PITCHf/xの登場でストライクゾーンを具体的に定め、具体的なフィードバックができるようになり、年々正規のストライクゾーンに基づいた判定が増えていますがShadowで誤審が発生しやすいというのは共通しています。

誤審の発生シェア

審判が正しいストライクゾーンを運用している近年は特に誤審の殆どがShadowで発生しているので、ここに着目します。Shadowでいかにストライクをとられるかどうかが判定の厳しさ・優しさの指標になるでしょう。

Catcher FramingのStrike RateもShadowの話です(シーガーは3年連続1位)

◆ルーキーのShadowのストライク率

ルーキーはルーキー以外より不利な誤審が多いのでやはりShadowのストライク判定率も高くなっています

見逃しShadowのストライク率

全てのシーズンでルーキーの方がストライク判定されやすいという結果になりました。500打席で400ほどの見逃しShadowがあるので規定打席あたり4球ほどShadowのストライク判定が多くなる計算です。

◆Shadow内の格差

ここからがやりたかったことですが、ボール2~3個ほどのShadowにおいてもストライク判定されやすいコース、カウント等があります。

Shadow-in,Shadow-outでのストライク判定率比較(MLB全体)

先ほど触れた通りShadowはストライクゾーン境界線の内外8.4~10.2cmの範囲ですが、境界の内側のストライクの範囲をShadow-in境界の外側のボールの範囲をShadow-outと表現します。当然といえば当然ですがShadow-inとShadow-outではストライク判定率が大きく違います。素晴らしいところはShadowという判定の難しいコースでも毎年判定の正確さが向上しているところです。審判も人間の限界に近づいているんです。

話が逸れましたがShadowでもストライクゾーンの内外でストライク率が違うということは、Shadow-in(ストライク)を打ちにいってShadow-out(ボール)を見逃す打者とShadow-in(ストライク)を見逃してShadow-out(ボール)を打ちにいく打者ではストライク判定率が大きく変わるということです。
この選球が凄いのがコーリー・シーガー。彼はShadowのストライク判定率が断トツで低い打者ですがこの要素が貢献している部分も大きいです。

◆カウント内の格差

次にストライク判定されやすいカウントです。これは体感でも十分感じられると思いますが3-0と0-2では同じようなコースでも圧倒的にストライク判定率が変わります

カウント別のストライク判定率(Shadow)

ただこれはShadow-in,Shadow-outで差別化していないのでそれも考慮してみます。

Shadow-inでのカウント別ストライク判定率

Shadow-inなのでストライク判定するべきコースですが0-2では近年でも60%強しかストライク判定されません。3-0では90%以上ストライク判定できていることを鑑みると大きな違いです。まとめると、近年ほど正確に判定はできているが近年においても打者有利カウントと投手有利カウントでは大きなバイアスが生じているというところでしょうか。

Shadow-outでのカウント別ストライク判定率

次はボール判定するべきShadow-outですが、0-2では90%以上をボール判定できても3-0では30%ほどはストライク判定してしまっています。Shadow-outでも同様に、近年ほど正確に判定できてはいるがカウントによるバイアスは抜けていないという結果です。

これらを考慮してルーキーの期待ストライク率を算出してみます。

Shadow-inのカウントごとの見逃し数
Shadow-out

カウントの組み合わせが12通り、inとoutで24通り、とりあえずこれらの24パターンそれぞれで平均的なストライク率を獲得した場合のルーキーのストライク判定率(Shadow)を計算して実際のそれと比較します。

◆期待ストライク率との差

全シーズン実際のストライク率が上回りました

カウントとコースを考慮しても全シーズンルーキーは想定より多くストライク判定を受けていました。正直無駄骨だったなと思いましたが、ルーキーが選球やカウントで特別ストライク判定を受けやすい状況になっているわけではない可能性が一つ高まりました。

◆現時点での結論

とりあえず「MLB審判がルーキーに厳しい」可能性は高そうです。ただ、「ルーキーだから審判に厳しくされている」可能性はまだまだ全然高くないです。例えばNPBと同じように打順(≒打者の打力?)によるバイアスが働いていた場合、基本的にwRC+90前後を記録するルーキー群はその被害に遭いますがその場合は『ルーキー』ではなく『打力』差別を受けているわけです。

また気が向いた時にMLB全体の判定バイアスの被害属性と『ルーキー』属性との共通点を探ろうと思いますがググったら有識者達がとっくに調べてそうですね。









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