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アイコンの馬のこと


このアイコンのお馬さん、競走馬名はありますがnetkeibaで検索しても出てきません。(競馬ブックSmartには収録ありました)

ゲート審査に合格できず運良く乗馬になった為、らしい、です。

勿論実際にゲート審査見た訳で無く一度そんな話を聞いただけなので真偽は不明ですが、非常に繊細で初めての場所を怖がる点や脚元も腫れやすかった点から、いずれにせよ競走馬になるのは難しかったんだろうな、と思います。


私が出会ったのは10歳過ぎ、去勢後でしたが気は荒く、前かきからの後ろ回し蹴り、噛み付き癖等々初心者には怖い馬でした。でも臆病で寂しがりな一面も。

小柄な馬体でしょっちゅうセン痛を起こして引き馬したり、練習後は脚を冷やしたり、なかなか手のかかる馬でしたが段々慣れてくると私に対しては馬房に入っても攻撃的にならず接してくれるようになりました。

後輩が馬房に入ると噛みつこうとしましたが、私が入ると歯軋りをしながら我慢、ストレスはあったのかもしれませんが・・・

接していて油断できず怖い馬でしたが可愛げもあって、馬装していると、この後運動するのが分かってか犬のように前脚を揃えてグーっと伸ばすしぐさをしたり、ちょっとした事でフレーメン、変顔もしょっちゅう。
ヤンチャな顔、怖がる顔、お腹痛い時の顔、喜怒哀楽が激しくて表情豊か。

そして綺麗好きでボロやおしっこは馬房の隅っこ、必ず決まった位置に。よって寝藁が凄く綺麗で馬房掃除がとてもしやすい、何だか振り返るとすごく人間味ある馬でした。

乗馬としてはバネがあって身体が凄く柔らかく、高い障害も練習では跳べて、ポテンシャルはかなりあったと思います。
前脚の跳ね上げが大きくて、速足はハミ受けが出来る人が乗ると綺麗に前脚がスパスパと伸びてトモも踏み込んで、良い歩様に。

初心者始め技量が足りないとハミをとらず上を向いたり動かなかったり突っ走ったり、と言う事聞かなかったので、ある程度経験と技術を重ねたライダー向けの馬だったかもしれません。

飛越も障害に触れるのが嫌な性格につき前脚を折り畳み、後ろ脚は捻らせ、時には身体も捻らせて高い障害でもクリアする、そんな才能を彼は持っていました。
障害レースに出走できていたら、竹柵や生垣の上を飛び越えるスタイルだったでしょうね。


そんな魅力あるお馬さんでしたが、ところが競技会場では不慣れな場所で興奮して落ち着きを欠いてしまい、それを鞍上(私)が全く制御できず何度挑戦しても成績を残せず。

中でも最も記憶に残っている、というか忘れられない試合は乗り始めて3年目の夏。

ハミ受けは相変わらずながらコンタクトが長手綱であれば取れるようになって、脚元や背中への負担が少なくなりコンディションを比較的安定させる事ができていた時期。

練習では120cmクラスの障害もミスなく跳べて、110〜120の経路練習も反抗なく安定、自分自身手応えを感じていました。

今まで誰が乗っても成績を残せず『何をやってるんだ』『扱えないなら入れ替えた方がいい』という関係者の声も耳に入っていたので、それをついに払拭できるチャンスだと静かに闘志は沸いていた、と思います。

当日も大会は外部の会場でしたがいつもよりもイレ込むことなく落ち着いていたはず。全ては順調に進んでいました。

ところが、競技前、本馬場に入る前に最終練習で飛越をするのですが、それが痛恨でした。

ある程度のレベルの馬ですと高い障害単体は跳べて当たり前。
サッと2、3回飛越して本番に臨むのですが、私もその馬の後ろについて飛越してしまったのです。
普段は低めの100cm障害を跳んで馬に自信を持たせて本馬場に入るのですが、その時は確か130cm程の高さだった記憶が。

高い障害でしたが完歩はバッチリ、ふわっと浮いて頑張って身体を捻らせて飛越。
これならきっと大丈夫、と思ったのですが、出番前直前に軽く跳ぼうと高さを下げた障害へ向かったところ、踏切時急停止で飛越拒否。
首にしがみつきながら、戸惑い慌ててもっと高さを下げて再度向かうもまたも拒否。そして出番。
最悪の状態で本番を迎える事に。

今振り返ると馬体に何かトラブルがあったのかもしれませんが、当時はそんな余裕無く競技開始。
もう溜めて収縮させて、とか言ってられず、とにかくスピード出して何とか跳べ!と無我夢中というかパニック状態、人がそんな状態では馬はもっとパニックだったに違いなく、早速最初の障害から逃避。
その後は動転して確か一つは障害無理やり飛ばすも、加速して向かった二つ目は急停止、背負い投げのような形です障害に叩き落とされました。

本来なら我を忘れて当時の事は全く覚えていません、なら良かったのに、なぜかはっきり当時の一挙手一投足を忘れる事が出来ず、頭の中に今も居座り続けています。

そしてもっと忘れたい事。引き上げる時に『昔はあんな馬じゃ無かった』『壊しちまったな』という言葉が耳に。

私は子供の頃から野球をしていましたが、中学も高校も夏の最後の大会で負けても泣く事無く、『ようやく終わった、良かった』と思うような少年だったのに、この時は厩舎の片隅でうなだれて、身体の水分なくなるんじゃ無いかと思う位の涙が出ました。
情けないというか、馬に対して申し訳ないというか、いろんな感情が混じっていたとは思いますが、とにかく悔しかったんだろうなあ。


その後、日々自分なりに工夫するもハミ受けはなかなか改善せず、背中への負担の累積からか徐々に歩様も悪化。
3年半ほど経ったある日、コーチから退厩させて別の扱いやすい可能性の高い馬を入れようと打診されました。

そこで私はその打診を直ぐに受け入れてしまいました。

なぜすぐ受け入れたんだろう、と振り返ると、もうこの馬を良い方向に導く事は出来ない、と諦めてしまっていたから。本当に情け無いながらそう思い込んでしまっていたんだと思います。

競馬を引退し、そして乗馬も早々に引退する馬の生きる道は皆さんご存知の通りほぼ残されていません。

引き取り先を探したり、もう少し頑張ってみます、となぜ言えなかったのか。
OBやこの馬に携わった人に相談無しで判断してしまった当時の自分を今でも恥ずかしく思います。

その馬は当時確か12、3歳。別の乗馬クラブに受け入れてもらってプロの方に立て直してもらう、という選択肢もあったはず。

ペットでは無く馬術という競技に挑むパートナー、温情で置いておくわけにはいかない、という独りよがりな考え方になぜかその時は固執していたんでしょうね、振り返ると。


最後馬運車で運ばれて、別れる間際の馬の鳴き声と表情は今でも記憶に残っています。
夜遅い時間で着いた頃には真っ暗。
臆病な馬だったからきっと知らない場所で怖かったんだろうな。

どんなところだったか詳しくは分かりませんが、馬はぎゅうぎゅうに沢山いたような気配というか雰囲気というか、日中でも明るい場所では無かっただろうな、という記憶はあります。
言い方はとても悪いかとは思いますが、競走馬が最後に辿り着く、最期の場所だったんでしょうね。



10数年前の事ですが忘れようとしても忘れられない記憶。障害レース、引退馬の話題を見るとつい思い出してしまいます。

唐突にこんなツイートしてしまいましたが、ずっと誰にも言わず抱えてた事をアイコンをきっかけに表に出せて良かったです。

スペースで喋ろうとしても口下手でダメダメだと思うので文章にしました、、

思いつくままの乱筆ですみません、お読み頂いた方、ありがとうございました。

ちなみにYahooで競走馬名と乗馬名、どちらで検索しても情報無し、唯一出てきたのが競馬ブックSmartのデータでした。

この馬が生きた証が見つかった気がして、嬉しくなってブックさんありがとうと心から思った次第です。

そしてもう一度乗ってみたい、という絶対に叶わぬ願いは今も持ち続けてます。



あとがき

2年前にツイートしたのは会社の帰り道。
実家に残っていた唯一の写真を何気なくアイコンにした事がきっかけで、ふと思いつき一気に投稿。
結果、想像以上の多くの方に読んで頂けて、それ以来固定ツイートに残していました。

今回固定ツイートを変えようと思い、それならばこの内容をどこかに残しておきたいな、と。ならnoteにしようと思った次第です。

内容はそのままですが、文字数を気にしなくてもいいので少しだけ諸々追加した上で改めてしたためる事に。


ちなみにこのツイートをした後『そういう場合でも、もしかしたら別の場所に行って幸せにしてるかもしれませんよ』という旨コメントを頂きました。

確かに、もしかしたら縁あってどこかに引き取られもう少し長く生きていたのかも、と思いましたが、ただ一方私がした言動は変わらない訳で。


改めて振り返ると理想的な馬との接し方とは全くもって程遠かったです。
気性の荒い馬を力で抑え込むような、実際は馬力に歯が立つわけないのですが、本当に心が通じ合えるパートナーでは無かったんだと痛感してます。
だからいざという舞台で馬が鞍上を信頼できず、落ち着いて力を発揮できなかったんだと。

『馬と我慢強く向き合って、コミュニケーションをとって信頼関係を築く事が重要』と口で言うのは容易くても実践するのは難しく、私には出来ませんでした。

オリンピックでのメダル獲得で馬術が注目されていますが、本当に選手や関係者、トップライダーの方々はプロフェッショナルで凄いな、と思いながら観戦しています(馬術絡みのポストばかり、うるさくてすみません・・・)




という事でまとまりの無いあとがきになりましたが、この文章は極度の自分語りでもあり、私が最期の場所へと近づけてしまった一頭の馬に対する、永遠に伝わる事の無い謝罪というか懺悔の言葉。

今はたまに競馬場で観る程度ですが、いつかはまた馬に携わって、その時には今度こそ馬を幸せに最後迄見届けたいという夢、目標を密かに持っています。

未だ未だ当面は無理ですが、競馬を楽しんで馬券を買う事が今の私にできる事。
想いは心の奥に大事に抱いて、また今週末も色んな姿勢で障害をクリアして人馬一体でゴールを目指す、障害レースを中心に競馬を楽しみたいと思います。

ここまで長文、お付き合い頂いた方、ありがとうございました。

私はホースマンの片隅、までも至りませんでしたが、わずかな期間でも馬へ携わり向き合えばこういう経験をする事もある、と知って頂ければ幸いです。

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