ワーニャ主役スピンオフ短編、「タスの窓」
芸術の本懐とは何か?
チェーカーペンギンズがニコの村に来る前の、モスクワ勤務時代のお話
デザイナーのひとりが思想犯として捕まり連れてこられる
国の為に戦意高揚の絵を描かなければならないのに
描いたのは仲良く遊ぶ子どもたちの絵
反革命の思想犯は右手の骨砕いたあげく収容所行き確定しそうな空気の中、
取り調べた憲兵・ワーニャはなぜこれを描いた?
と画家に尋ねる
我が国は労働者の国だ、ならば労働者の為のポスターを自分は描くべきだと思った
ガキが遊んでる絵で生産があがるか?あ?
と言うと
わかってる。でも、これはタスの窓(窓ポスター)だから、
不安で俯いて見上げた自分の顔が写った街角の窓に眠れない夜の天窓に、この絵があったらいいな
って…
なら健康増進局に移れ
あんたの任されてる仕事はタスの窓、人民の安寧じゃなくて戦意高揚だろ?
……
男の絵が気に入ってしまった憲兵は男が助かる為にあれこれ提案をする
お前や俺が何を見たら「こうなりてぇ」と思うか、それを描いたらいい
戦争の英雄って一口に言ったって陸海空それぞれに英雄はいる
…私に英雄は描けるでしょうか?
はぁ?ソビエトの男は生まれた時からみんな革命英雄だ
私に描けるでしょうか?じゃねぇよ
お前が描くんだよ
時にはポージングのモデルすらやる始末
しかしイマイチ
憲兵、上司から勾留が長過ぎると言われ男が危うく連れて行かれそうになると
ボス……!!!思わず止めてしまう
誤魔化すように、
あー、大尉はエリートだ、俺なんざより御教養があるそりゃ、芸術方面ときたら御相当真贋明快な目をお持ちかと?
諭すように見つめられ、
見てくれ
男のスケッチブックを突き出す
2人であれこれアイデアを描き溜めたもの
パラパラとめくり
憲兵 俺が赤軍にゃいた頃はアコーディオン弾きかバイオリン弾きがどの隊にもいた
女のひとりだベーコンのひとかけは取り合ってそりゃ揉め事にゃなるが、
音楽とタバコは仲間皆で分け合ったもんだ
コイツはマンドリンを持てと言われてシュパーギン(機関銃)持たずにバラライカ(ギター)持って前線にやって来た、そんだけだ
…
俺たちゃ偉大なるソビエト人民だ
世界で最もデカい国のタフな男だ
弾が出るマンドリン持つ奴も音が出るマンドリン持つ奴も革命の為ならテメェなんざくたばってもいい覚悟を持って前線に立ってるそういう男の集まりだ
俺たちはチンケなナチスとは違う
これがナチス共ならそりゃ音楽は女子供やユダヤ人の悲鳴だろうが
俺たち不屈のルーシは砲撃音も楽器の音も一緒くたにして踊る豪快な男の集まりだ?
そうだろ?ボス?
戦意高揚の為のものを描け
これは最後通告だ
軍曹、コイツがこれ以上、下らんものを描いたら
コイツの右手はお前が潰せ
軍曹殿…
あのカストラート野郎、インテリだからな
物の良し悪しはわかる
あ?何泣いてやがる
さっさと描け
男はついに町を救う為にナチス大隊に燃え上がる戦闘機ごと突っ込んで行くヒーローのポスターを描く
友よ 私が永遠の愛であなたを守ろう
を
憲兵、険しい顔でポスターを見つめ、ペンを取る
友よ が、 偉大なるソビエトよ に上から"下手くそなカリグラフィー"で変えたものが採用される
釈放された男は変わらずポスターを描き続けている
工場の窓に貼られたポスターを見上げる
パンして街角、ポスター見上げたアレグに「あれ軍曹に似てません?」と言われ
憲兵
はぁ?何言ってんだ?行くぞ