1.卜

ひょんなことから卜占を生業とする人と話す機会を得たのは、丁度昨年の今頃の話であった。


その人は私の掌をじっと見つめこう言った。

「貴方は自死を選ばないから大丈夫。」


格別その人に私の胸中を明かした訳では無く、その時は「ああ、そんなものか。」と余り気にも留めていなかったが、今頃になってその言葉が胸を擽る。

何故何の脈絡も無く自死をしない、と断じたのか。
普通の人にー自死を考えもしない人間ーに、その様なことを言っても丸切り無意味なことでは無かろうか。

思うに、その人は私の胸中に在る何かしら昏いものを感じて、念を押す様に自死をしない、と口にしたのではないか。


実際、私は生に対し余り積極的では無かった。
如何にも私には躁鬱の気があるらしく、一年に数度は如何しようも無く気分が塞ぐことがあった。


普通の人ならば、生きることとは何を食うか、何処へ行くか、何をするか、と肯定的なものであろうが、私は生きることを、生きるか死ぬか、と言う大仰なものとしてしか捉えられなかった。


これは大層難儀な話で、今は未だ鳴りを潜めて居るが、死にたいと希う心が何時鎌首を擡げて来るか分かったものではない。


全体これでは私の生は頗る不健全で、その軌条を行く私と言う人間は堪ったものではない。


そんなことを逡巡した時に、何時もふと思い出すのは彼の易者の言葉なのである。


「貴方は自死を選ばない。」


矢張り卜とは、侮れないものなのかもしれない。

あなたのご好意が、私の餌代になります。