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「Green Book」のこと - 旅行ガイドブックと映画

はじめに

1960年代前後に必要な人だけが知り必要とされた旅行ガイドブック「Green Book」が、最近になって一般的にも史実として知られるようになってきた。そして、2018年、コメディ映画「グリーン ブック」の公開で誰もが知ることになる。日本では2019年3月1日に公開されたが、これから映画を見る、見た、噂を聞いた、という方にGreen Bookが誤解されないようにとの思いでこのnoteを書いた。

ロードトリップ

Joshua Treeが見たくて、2016年にカリフォルニアをロードトリップした。Mojave Desert、Yucca、サボテン、岩、地形がとても好きだ。ガラガラヘビと陸亀にはまだ会えていないか、野ロバとは遭遇した。
Route 66に憧れはないが、航空機デザイン、広いから気にしない車体サイズ、景気の良かった頃、悪くなっていった頃の装飾とその変化、どこをとってもアメリカの40〜70年代くらいまでのクルマのデザインが好きなことは、ついでにRoute 66を少し走る理由だった。

ぼくは10代から黒人の音楽が好きで、ほぼそういう音しか聞いてこなかったことから、この辺りを旅行する黒人のイメージは一切持っていなかったが、実際にそうなんだろうと肌で感じた。
Route 66。この大地が出来たときから変わっていないであろう景色はとても素晴らしく、作られた道は今も必要に応じて手入れがされ、栄えていた頃の面影・朽ちた建物や放置され錆びた古いクルマ、薄く読みづらくなったモーテルやカフェのヴィンテージサインもステキな光景だ。アメリカに憧れた世代としてはなんともカッコ良い。Lost Americaとは日本人には言われたくないであろうが、そういう場所なのだ。
人が住んでいる地域もあり、また、歴史保存のために努力をしている場所もある。
そこにある土産物屋は重要な稼ぎどころでその努力は素晴らしい。何故か目につくエルビス・プレスリーは景気の良かった時代のこの街道を象徴する音・人物だからなのだろうか。やはり目に付いたジョン・ウェインはどうなのだろう?スクリーン上のミスター・アメリカは、ステレオタイプなもっと古い時代のフロンティア精神、アメリカの強い男の象徴なのかもしれない。フロンティア精神に多くを奪われた側の人々、強い男たちの暴力の影は当然いまここにはない。
楽しい旅であったが、この最後の部分は気持ちの良くないところであったし、旅の前から予想していたところだ。そこに生きるネイティブがたくさんいたのに、どれだけ減ってしまい追い出されたのかという事実を忘れてはいけない。

Green Book(旅行本のはなし)

Green Bookは黒人が少しでも安全にクルマで旅をするための旅行ガイドブックだ。本は緑であるが、Victor Hugo Greenさんが編集し通販したもので、グリーンは苗字だ。(映画のクルマが緑なのは演出か?)
ジム・クロウ法、人種差別がひどかった時代、彼らもクルマを持てるようになり、遠方の家族や親戚に会いに行くためにクルマで旅行をし始めた。しかしそれは命がけの旅行だ。ガソリンを売ってもらえないかもしれない。食事を提供してもらえない、宿には泊めさせてもらえないかもしれない。想像して欲しい。当時、たとえばRoute 66 は栄えていた街道で、偏見を持つ白人警官もいただろうし、脇道で寝ようにも人の土地への不法侵入ならば撃たれる可能性もある。
Green Bookは彼らにガス、食事、宿を提供してくれる店・宿を教えてくれるものだった。グリーンさんは例えばEbonyなど黒人が好む雑誌に広告を載せひっそりと通販したていた。書店に並ぶような本ではないし、大きく宣伝すれば本の存在も危うくなったかもしれない。必要な人だけが知り必要とされた本だ。

この本を知ったのは、ぼくがCalifornia、ArizonaあたりのRoute66 を含むロードトリップから戻り、少し経った頃にFacebookのタイムラインにGreen Bookの文字が流れてきたからだ。LA Timesの投稿だった。

Los Angeles Times 2016年5月18日
The Green Book: The Negro travelers' guide

2分ほどのビデオを見て、すぐにWebで調べてみたが日本語でGreen Bookについての記事や解説は見当たらなかった。英語ではそんなに多くはないが探すことはでき、その結果が上に書いた内容だ。再度FacebookのLA Timesの記事に戻ると、とてつもない勢いでコメントが付いていた。その中には多くのその時代の実体験が含まれていた。生々しいコメントはスミソニアンに保存されるべきほどの内容だと思っている。ぜひ読んでみてほしい。正しい解説よりも数行のコメントにショックを受ける。
(今現在はGreen Bookについて、日本語でも多くの解説を探すことが出来る。しかし、検索上位は映画のことばかりになるのは仕方ないにしてもどうなのかと思う)

ぼくのように知る由もなかった人たちが知ったのはこの記事からなのではないかと思う。そして今、「Green Book」が世界にコメディ映画としてリリースされた。

THE NEW YORK PUBLIC LIBRARY  --- DIGITAL COLLECTIONS
ここでスキャンされたGreen Bookを見ることが出来る

Green Book(映画を見て)

映画は評論するほど見ていないし詳しくない。映画は面白ければ良いしつまらなければ自分の選択が微妙だっただけだ。そう、娯楽だ。

Green Bookはかなり面白かった。好きな映画だ。第91回アカデミー賞、助演男優賞、脚本賞、作品賞を受賞を取っただけのことはあるのだろう。
ただ、全てを娯楽として見ることが出来なかったぼくの意見としては、タイトルはやはり別にした方が良かったと思う。Green Bookではない。エピソードとしては重要としても。
そして、まったくコメディではない。もちろん面白い部分はあるが、コメディとして笑いに来ていた人たちは、笑えないセンシティブなところでも笑っていた。

ちなみに、2019年2月23日にスミソニアンチャンネルでGreen Bookのドキュメンタリー制作という記事がThe Atlanticに書かれている。

** The Atlantic Magazine 2019年2月23日
The Documentary Highlighting the Real Green Book**

Green Bookはこのようなドキュメントを見たい。日本語字幕で。

#green_book #greenbook #route66 #roadtrip


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