『夜明けのすべて』

三宅唱監督作品。
全体を通してとても丁寧な積み上げがなされていく。

劇中に起きる事件の一つ一つは、大小はあれどそこまで大きな波は立たない。
だが、その波が揺れる度に少しずつ人物の描写がなされる。
その一つ一つの積み重なりが、やがては大きな感動の波となったように感じた。

冒頭を除いて、常に優しい空気感が漂う。
登場人物たちは皆何かを失った人々だった。
しかし劇中で描かれていたのは悲しんでる姿ではなく、悲しみながらも日々を生きていく姿だった。

最終的に主人公の藤沢さんと山添くんが辿り着く答えには心から賛同した。
中にはその答えの地点に立ってこの2人を見つめていた大人もいたのだろうと思う。


主が好きなシーンは、藤沢さんと山添くんが肉まん?を食べながら帰宅中、

山添くん「美味しいな。」
藤沢さん「山添くんって美味しいとか言うんだ。」

というような会話をするシーンだ。(正確な文言ではないです)
主は何気なくこのシーンを観ていたが、一呼吸置いてその意味に気がつき思わず声を上げそうになった。
これだけ何気ないシーンをこんなに素敵な場面に変えられるなんて…
それこそ丁寧な積み上げや繊細な描写があってこそなのだと思う。

ラストのお天気雨には優しく背中を押されたように感じた。
これからの藤沢さんや山添くんが、雨に濡れながらも晴れやかに日々を過ごしていけるような予感を感じさせるとても素敵な映画だった。

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