業の秘剣 第十五片 婚約者
「はは、その質問はたまに聞かれる。だが、そうではない。
生粋の機の大都の生まれ…と言いたいところだが、大都の生まれですらない。
西の果の帝国の海外領の生まれだ。」
俺は驚きを隠しきれないまま質問をぶつける。
「帝国の海外領?西の果の帝国が手中に収めた、新大陸のことか?」
通訳は微笑を加えつつ答えた。
「ふふ、お前は少しばかり教養があると見だぞ。
いまでは新大陸と言われてるが、元々住んでいる住人に取ってそこは新しいものではない。
私は大陸に元々住んでいた住人だった。
だが、200年前に西の果ての国で機械による革命が起こり、国の中枢は機械のすべてを司る都市に移った。
都市は「機の大都」といまでは呼ばれていて、世界で最も力を持ち繁栄していると言われている。
いまや西の果ての国は帝国と呼ばれるようになった。
私は新大陸の住人だったが、そこにも身分の格差がもちろんあった。
私の家系は先住していた民族の家系、後から支配者となった帝国の民に奴隷として仕えるしかなかった。
…
ちょっと話が長くなったな。
私が通訳を務めているのは、機の大都の…多くは語ることができないが、婚約者の男女だ。」
通訳は中の女、後の男、改め婚約者の男女に再び話しかけた。
男女は口元覆うローブの一部のみをめくりヘナ酒を口にした。
二人は気に入ったようで、談笑を始めながらゆっくりしたペースでヘナ酒を飲み始めた。
(いまはゆっくしたペースでも行き着く先には意識もおぼつかなかなってくるだろうがな、はは)
通訳に聞いた。
「なんでこんなところに来てまで婚約者の二人はヘナ酒を飲みに来たんだい?」
通訳の目の周りを闇が覆った。
「はっはっは…。その質問に答えると一気に真相に近づいてしまう。
ちょっと待て…。そうだな。私の家の話を再開しようじゃないか。
そう、家系が新大陸の奴隷の私は生まれも奴隷だった。
いまでも大差はないが…私は子供の頃に売られたんだ。この太陽の都に。
もっと正確に言うと太陽のと砂の国に駐在する西の果の国の一家のもとに売られた。
新大陸と太陽と砂の国の仲があまり良くないのは知っての通りだと思うが、奴隷の出入りは許されていなかった。
ただ私は新大陸で広く話されていた西の言葉を使えたのでな。
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